魔法戦 柱木氷華 V.S. パチュリー・ノーレッジ
定期テストにより、遅れました!
~紅魔館 大図書館~
「あなたが私の対戦相手かしら?」
「あっ、はい。私、柱木 氷華といいます。」
「パチュリー・ノーレッジよ。」
そう言い、パチュリーさんは私に手を差し出してきた。手を握ると、私の魔力が抜け、別の魔力が私に流れてきた。魔法使いが決闘やお遊びする際に行われる儀式みたいなもので、相手に魔力の一部を渡し、贈られた魔力を読み取って相手の力量を図る。そうすることで、相手の使う魔術、属性、強さなどが分かる。
ほんの少し、受け入れただけでも私の許容範囲を超えそうなほどの濃さ。私のものとは違う、長い年月を経て練り上げられた緻密さ。そして、多彩な魔力から織りなされる美しさ。
…あっ、詰んだわこれ。
「それでは第二回戦、始めようか。」
「それでは第二回戦、始めましょうか。」
互いのリーダーが第二回戦の開始を宣言した。場所が図書館なので、みんなはここにはいない。魔法戦なので、周りに被害が及ぶかもしれないからだ。
だからみんな、私とパチュリーの目を通してここを見ている。
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「それでは魔法戦。」
「柱木氷華 対 パチュリー・ノーレッジ 始めなさい。」
私達が声をかけると、氷華と相手は互いに距離を取った。
すぐには攻撃を仕掛けず、相手のでかたを伺う。とても良い戦い方だ。魔法使い同士の戦いでは、どちらかの魔力が尽きた場合、その時点で負けがほぼ確定してしまう。今回は氷華の方が魔力の器が小さいので、慎重な対応が求められる。
「それにしてもスゴイわね、あなた達。私達の目を通して戦況を見せ、脳に直接声を送るなんて。」
「実質、能力を重ね掛けできる奴がいるので…。私自体はとんでもない雑魚なんで、今回は辞退させてもらったんですよ。」
そう。今の状態の私では能力による強制力を駆使しても、それより強い力を持つ人に対してはあまり発揮できない。私を一番強い状態にするには…。
「のう、心姉。いい加減、こっちの制御も疲れてきたのじゃが…。」
後ろの方から、妹のつらそうな声が聞こえた。そらそうだろう。この場にいる7人にかかる能力全部を制御し、自我の崩壊も防ぐなんて無理ゲーにも程がある。
「あと何分くらい耐えられる~?」
「…十数分、っていったところかの?」
「オッケー。」
流石、我が妹。こんな無理ゲーを十数分もやってみせるとは…。
「あっ、パチュリー様が先攻をとるみたいですね。」
それはさておき、魔法戦も動きがあったようだな。
目を通して見える世界には、色とりどりの丸い魔力の塊が飛んできた。
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~紅魔館 大図書館~
「これが、魔力なの…?」
綺麗。
紙一重に避けるが、少しかすってしまった。私も100年以上生きているけど、ここまで美しい魔法は初めて見た。
赤、青、黄、緑、紫。
どれもこれも、五行説にちなんだ色を示している。ということはこいつ…。
「五行説コンプリートしてらっしゃるのかよ。つらいな、おい。」
「正確にはあと二つ、ね。」
「…!?」
彼女の声が聞こえたかの刹那、彼女の姿が発行した。
「グッ…目、が…。」
突然の発光に、目が潰される。何も見えない世界に対応出来ず、魔力の塊に当た…って?
「あれ?予想以上に痛くはない。」
いや、痛いことには痛い。火行の一種である雷属性を肩にくらったようで、左腕に痺れがある。しかし、私が感じた魔力はこの程度ではすまない力を持っているはずだ。なのに、何故?
「そこまで疑う必要はないでしょ?圧倒的な力でねじ伏せるのは簡単だけど、それじゃあつまらないじゃない。だから、あなたの持つ魔力に合わせているのよ。」
「…それで、あなたになんの得があるの?」
「外の世界から来たあなた達の力が理解できる。美鈴を3分で打破したあなた達が私達の敵になり得るか、ね。」
「…その余裕、腹立つな。」
事実、そうかもしれない。私は水、氷、光を操る魔法しかできない。その私が火行を修得し、雷属性を扱うことができればこの程度のダメージしか与えられない。
だが、あの魔法使いの余裕顔はムカつく。どうにかしてあいつの出鼻をくじいてやれないものか。
「…私があなたの全力を受けるに値すると思ったら、全力で来てくれる?」
「誰に向かって言ってるのかしら?あなたは私にかなり手加減されてるのよ。そんなあなたが私と同等になるなんてありえないわ?」
「そっか。」
なら、こっちは全力を出させてもらおう。
「後悔したって知らないよ?【擬似魔術 生成『H₂O』】…飽和!」
「…図書館を水の気質で覆いつくすのはやめてくれない?濡れちゃうわ。」
「安心してください。すぐになくなります。【準炎の術 空間暖房】…ぐぬぬ、溶けそう。早くしなきゃ…。【氷の術『気質変換 水↔魔力』】。」
「…なるほど。周りに水の気質を漂わせることで、それを魔力に変換するのね。でも、その程度で私に勝てるかしら?」
彼女の言う通り、魔力を補ったはいいものを魔法戦では私が勝つのは難しいかもしれない。しかし、魔力を常時使用する術式ならば、
「【氷の術 『氷剣 冷たい花』】。」
互角に戦えると思う。
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「な、剣を!?」
隣で咲夜が騒いでるのが分かる。私も正直驚いてるが、ルールにはどこまでを魔法と見なすかを定めてはいなかった。来客達は、それを利用し、今の状況に持ち込んだ。
「ここまで、全てがあなたの計画通りかしら?心。」
「違いますよ、レミリアさん。ここまでじゃなく、これからも計画通りにしますから。」
と、彼女はフフッと笑った。
やはり、彼女は底が知れない。
『運命を操る程度の能力』を持つ私にかかれば、この試合全てを勝利に導くこともできる。(美鈴のときはお腹が空いてたけれど)それをしないのは、余興として楽しみ、最後の試合で相手側を絶望の淵に突き落とすため。今までかてたのはあなた達の力ではない。全て、私の掌の上で転がされていたと言って。
「負けたらどうなるか分からないのよ?怖くないのかしら?」
「負けませんよ。あなた達と最後に戦うのは、うちの一番手ですから。」
「こっちが勝ったら血を搾り取ってやるわ。」
「それは嫌ですね。みんな死んじゃいますね。」
「仲間を失うのが怖くないの?」
「いえ、下手に仲間を傷つけたら、妹が暴走してしまうので。殺したりしたら、一つの町全て消さないと止まってくれませんから。」
「そう。こっちはもっと大変だったわ。」
私はかつて、最愛の家族を失った。なんとか手を尽くそうとした苦すぎる思い出があるから、彼女もそうかなと思った。
失った絶望。それが彼女の声からは窺えない。経験がないのか、はたまた、心が欠如しているのか。
「…考えすぎね。」
そんなはずがない。だって彼女はまだ15歳。多分、経験がないから浅い考えをするんだ。
「そろそろ終わりそうですね。」
「ええ、そうね。」
パチュリーの目には、今にも斬りかかる相手の姿が映った。
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「スペルカード発動! 土符『レイジィトリリトン』」
黄土色の弾幕を放つスペルを唱え、弾幕の雨を降らせる。相手は “氷の術”と言った。ならば、水克土に従い、土の属性を持つ『レイジィトリリトン』が有効でしょう。
ーパキン。
「…いくら水克土が有効と言われても、力でゴリ押しされたら元も子もないよね?弱すぎるんじゃないの?」
「…言ってくれるわね。スペルカード発動!土符『レイジィトリリトン上級』」
相手の挑発だとわかっているが、あまり生意気な態度を取られて勘違いされても困る。いい加減、現実を見てもらいたい。今まで手加減をしていたから簡単に相殺できたわけで、さっきよりも強めに魔力が込められている『上級』ならば…
ーパキン。
「だから、弱すぎるって。勘違いしてるのはそっちかもしれないんじゃないの?」
「はぁ?何を言ってるのかしら?七曜を操る私が属性魔法で負けるわけないじゃない。スペルカード発動!土符『トリリトンシェイク』」
私の持つ土属性スペル最強の『トリリトンシェイク』なら、少しは傷つけられるだろう。そろそろ全力を出して決着をつけないと…喘息の発作が出てしまうかも
ーパキキン。
「う…噓でしょ。私の土属性最強のスペルが…。」
「え?この程度の魔力で最強なの?笑えないわ。スペルカードとやらという名で縛られていると分かってても笑えないわ。」
噓だ。スペルカードの仕組みを3回の攻撃で把握しきるなんて。
キラキラと宙を漂う凍った魔力を彼女は自分の周りに集め、切っ先を私に向ける。
…まさか!
「あくまで私が把握できた範囲だけど、“弾幕となるものを作り上げ、それらを放つ”“弾幕の形をあらかじめつくっておき、一定の魔力等を放出することができる魔法、妖術などのことをスペルカードという”くらいかな?あとは、“弾幕などに被弾した場合に何かがある”という感じかな?私もそのルールに乗ってやるよ。」
と言い放った瞬間、氷の粒が私目掛けて飛んでくる。凍った魔力の塊ならば、弾幕としては十分機能するため、回避行動をとらなければならない。弾幕の密度自体は薄いが、速度が速すぎて対応できない。
ぎりぎり瞬間移動が間に合い、さっきまでいた場所を見れば、全ての粒がぶつかり合い粉々に砕け散った。氷となっても弾幕の色はそのままで、虹の欠片が降っているようだ。だが、何かがおかしい。私が飛んでいるのはさっきの真上で、見えるのは本棚、欠片、それから…。
「この剣も、氷の魔力で形成されているんだけどね。」
…!?
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遂に決着か…というところで、視界がぶっつりと途切れた。いつまで経っても暗いままだから、ゆっくり目を開く。部屋にいるほとんどが似たような行動を起こし、何事かと辺りを見渡す。そして、皆同じ結論にたどり着く。
「バッテリー、切れ…じゃ…。」
「なるほど、ルナが空腹になって俺らにかかる能力を維持できなくなったんだな。」
…いや、ちょっと待て。
ルナが空腹になって能力を維持できなくなったという事実より重大なことが聞こえた気がするぞ?いや、そんなはずはない。だが、確認せずにはいられない!
「蘭丸よ、お前、変な物食べてないよね?」
「あ!?ひどいぞ心!?」
「え、でも…よく言えば体育会系、悪く言えば脳筋の蘭丸にそんなことを察せるわけが…。」
「バカって言うな!分かってるけどよ。」
珍しく冴えわたる蘭丸。こんなの彼女らしくない。この程度のことも分からないのが、霞火蘭丸だ!
「心、そろそろやめないと…蘭丸がメンタルブレイクされる…。」
ハッとして蘭丸を見ると、床に蹲ってエグエグしている。流石に言い過ぎたかと思い、声をかけようかと思うと、
「茶番はそろそろやめてもらえないかしら?」
どうやら紅魔館の主様は退屈のようだ。椅子に背を預け、クァーっと欠伸をした。
「試合の映像が途切れた以上、二人が来るまで待たなきゃいけないし。雑談くらいしかできないですし。」
時計を見ながら言うと、ちょうど13分だった。地下大図書館から5分くらいかかるから、その間にルナの魔力、妖力を回復させないと…。
「ただいま戻ったのだ~。」
…タイミング悪いなぁ、ホント。(ちょうどいいとも言うが)
「氷華おかえり…。結果、どうだった?」
風音が傍に駆けて行って皆が気になっていることを尋ねる。後ろには対戦相手のパチュリーさんが佇み、若干膨れっ面気味になっている。
「はぁ…」
遂に!
結果が明らかに!
「負けちゃった。ごめん、風音。」
想定通り、氷華の負けだった。
うん、なんとなくそんな気はしていた。
第一、大魔法使いたる相手と氷の魔法少女たる氷華では、魔力の許容範囲が違いすぎる。魔法戦を設定した意図は、単に相手にも勝利を与えないとつまらないだけ。私からしたら、あそこまで接戦を繰り広げただけでもよくやったと思う。
まぁ、それはそれとして。
「氷華、お疲れ。」
労いの言葉を送らない理由にはならないだろう。
「ごめん、心。最後の最後に油断しちゃった。」
「おい。」
これで一勝一敗。あと3戦も残っているのに、ここまで面白いと最終戦はどのようなものかと期待してしまう。
いや、そんなことより…
「氷華。」
「何?心。」
「ルナに余ってる魔力与えてくれない?」
「え…あ…。(察し)」
氷華が目を向けた先には、人間と変わらない魔力しか持たぬルナが倒れていた。
【キャラクター紹介】
柱木氷華
クリーム色の長い髪に、銀色の瞳の少女。
魔法使いと雪女の血族の魔法少女。
5/3生まれ 雪山の小屋で雪女一族の次女と魔法使いの青年の間に生まれ、育った。
40歳のときに妖怪退治の集団に両親を失い、人間を強く憎み、山に入ってきた人間という人間を殺し、実験台にして恨みを晴らしていた。
暢気に山に入ってきた輪廻を殺そうとするところを人形に見つかり、七人に半殺しにされた。だが、心にう許されて、以来皆と行動を共にする。心曰く、「憎しみの感情故に行動していたことだから許すだけ。本当に壊していたら、タダじゃ置かなかった。」とのこと。
しかし、人間を憎む理由はそれだけじゃないらしい。
一応、人間を殺すようなことはしないようになったものの、あまり好感は得ないらしい。
心とルナハートの持つ力と同じようなものがあるが、現在、力の半分しか出せない。
得意な魔法は氷、水、風。他の属性は準までしか使えない。戦闘時においては、斬ったものを凍らせる魔剣を作り、戦うこともある。
年齢は106歳。
能力 万物を凍らせる程度の能力
“??”状態 心を凍らせる程度の能力
“??”の姿 相手に対する感情を具現化する程度の能力