偵察と来訪者
夏休みが終わろうとして\(^o^)/オワタになっていました。
物語を書けなかったストレスで、今回は長めになってしまいました。原稿用紙10枚分ってお前…。
~霧の湖 昼~
「心姉無事じゃったかの?」
数時間前に抜けた森の方から、私を呼ぶ声が聞こえた。私をそう呼ぶのは、たった1人の妹であるルナハート、ただ一人だ。
「おかえり、ルナ。随分と時間がかかったね。」
たった1人の妖怪ごときにこんな時間をかけるのは珍しかった。この世界の妖怪のレベルが高いのかな…。妹の隣には、彼女の1つの感情と1人の魂が込められた人形が佇んでいる。
「心さん、ルナが遅れたのはあの妖怪で遊んでいたからだよ。」
突如、人形から言われたカミングアウトに私はルナの方を見てしまった。
「いや、遊んでいたわけではないぞ…。ただ少し、追ってこれないように四肢の関節を引き抜いて半分モギリ取ってきたのじゃ。いや、あと力を少しだけ消費したから血を少しもらってきたのじゃ♪」
「うっ・・・ぷ。」
妹の起こした惨状を想像しただけで、気持ち悪くなってしまった。しかも、妹の服からかなり強い鉄のにおいがするもので、それが余計私を気持ち悪くさせている。
「うぇーーっ…。だけどさ、結構臭いよ?その服。」
「ん?…ああ、結構返り血を浴びたからの。」
と、ルナは自分の着ている服を見下ろした。彼女の着ている服は、真っ黒なゴスロリに白いブラウス、腰にウエストポーチという仕様だ。言動はかなり物騒だけど、そのへんだけは少女らしい。
「ん~。かなり面倒じゃが、『再構築』。」
ルナがそう唱えると、臭いは綺麗になくなっていた。
「それで、次は何処へ向かうのじゃ?」
「ん、ああ。この湖に沿って歩いて行くと、とてつもない妖気を放っている場所があるんだ。さっき風音に下見に行ってもらったところ、あそこは館で、門番に妖怪が立っていたって。」
…風音の報告にあった、門番が居眠りしていたという話は伝えなくてもいいよね?
「…それ以外は分からぬのか?」
と、苦虫を嚙み潰したような顔で聞かれた。興味を持ってもらえて何よりだ。
「百聞は一見に如かず。これから凸りに行こうと思うんだ。勿論…」
「行くに決まっておるじゃろ。」
予想通りの返事が返ってきた。その眼は、好奇心で輝いているようにも見える。
「決まりだね。早速行こうか。」
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~紅魔館 黄昏~
「ほへ~。結構大きそうな館だね。」
あまりの大きさにそう言わずにはいられなかった。ふーむ、この大きい館から溢れ出す妖気、いや、それだけでない。
「ほう、魔力も溢れておるではないか。おおかた、魔法使いや上級の魔物が住み着いているといったところかの。」
妹も隣で私とほとんど同じ考察を述べていた。
「甘いな、妹よ。」
しかし、爪が甘い。
「ルナの考察じゃ、この館中に溢れる妖気の説明はどうするの?まさか、その門番1人の妖気とは言わないよね?そんな妖気を放つなら、門番なんかやってないよ。」
「……あ、考えておらぬかった。」
間抜けな声を漏らし、悔しそうな顔をされた。後ろの仲間たちも、ほとんど同じリアクションをしている。
ため息を吐き、
「このことから考えられることをまとめるよ。まず、館のどこかに必ず、魔法使い、魔物がいる。放っている量からして、上級のやつ。ここまで理解できなかったらヤバイよ?」
「知っとるぞ」「当たり前だ」「理解できない奴は終わってます」
煽るようにして、私は状況を整理させた。当たり前のように半ギレの声が上がったが、華麗にスルー。
「そして、妖気が感じられること。そのことから私は、妖怪も住んでいる。
…ここからは考察だけど、ルナ。あそこには、吸血鬼、それもかなり強いやつが住んでいると思う。」
「……なぜ、そう思うのじゃ?」
私の新しい考察は、感情を押し付けた声で返された。
「妖怪にはさ、種族異に妖気の形とか匂い、色とかがあるんだよ。陰陽道の『見極める』の一種だから、ルナには難しかったかな?」
「…そっちの授業は、種族柄、苦手だったのじゃよ。」
吐き捨てるように言い放ち、ようやくこっちを向いた。
「で?あの門番を倒せば館の主様は出てくるのかの?心姉は、そんなことをさせるために我らをここまで連れてきてくれたのかの?」
そんなつまらぬことではないのじゃろ、と怪しく目を光らせている。吸血鬼と戦って死なない自信があるのかと呆れそうになる。
そう、そんなことをさせたいわけではない。
「私達の目的は、“休憩”だよ。あそこを乗っ取ったところで、私達にメリットはない。むしろ、デメリットだらけ。新しい拠点を“創ってもらう”まで泊めてもらえるよう、交渉するだけだよ。」
だって、この世界の勝手も分からない私達がここを乗っ取ったところで、うまくいくはずもないし。だったら、勝手を教えてもらいながら生活した方が頭の良い泊まり方だろう。
「それは良いが、あの門番はどうやって片付ける?見知らぬ我らを通してくれるようではないだろう?」
ふっ、妹よ。まだ、甘いようだな。
「じゃあ、あそこの門番は立ってるように見えるかい?」
「あ?......寝ておる、じゃと。」
そう、あの門番はブラック企業に雇われた社員が上司の目を盗んで仮眠を取るがのごとく、寝ているのだ!
…ここ大丈夫かなぁ?
「え?ということはじゃよ…普通に侵入できるのではないか?それで交渉はできるのか?」
安心しろ、妹よ。策は既に考えているよ!
「妹よ。ナイフは何のためにあると思う?」
「人に当てるためじゃ。」
うん、予想通りの答えでしたよ、はい。苦笑いしそうな頬を制し、
「ナイフを100本位作って、当ててくれない?」
私は、微笑みを浮かべた。
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「......何奴!?」
少し眠っていたら、急に空からナイフが飛んできた。私の上司かと思い、気を張り巡らせたが、どうやら来客の様です。
「用事があるのでしたら、姿を見せてくれませんか?いきなりナイフを投げられても対話はできませんよ。」
「......。」
私の言葉には、沈黙が返された。こちらの対話する意思があることを表すことで、相手と話すことができ
ヒュヒュッ、ヒュッ
「...どうやら、対話をする気はないみたいですね。」
ならば、こちらから会いにいくのみ。
そう感じたので、私は前を見据える。相手はナイフを私めがけて放つだけのようなら、対処だけは簡単です。生憎、相手はそこまでバカではないようで、ちゃんと広範囲に、人1人分抜けられないように複雑に、正確に放たれている。日頃から鍛えているおかげで、一本一本の姿が見える。全て避けるのは難しいので、手や足を駆使して裁くしかない。
「門番にしてはやるじゃねぇか。」
「…何!?」
ナイフの雨の後ろに1人の影が見えたが、気づいた時には隣りに立っていた。いつの間に移動したのだ?いや、私がナイフを全て撃ち落とした時だ。私がナイフを全て撃ち落としたことで、こいつの進路が開かれてしまったんだ。
「それに、私達はあんたらを倒したいわけではないぜ。リーダーが『居眠りしてるから、起こして通してもらうよう言ってきて。』と言いやがった。オレはナイフを正確に投げるなんて芸当は出来ねぇが、仲間が優秀だからなぁ。オレの道を作ってくれると予想していたぜ。」
…私の行動を予測されていた!?ありえない、私はさっきまで仮眠を取っていて、それ以外の行動は起こしていない。私が起きていた(8時間前)ときには、周囲に私の知らない気はなかった。それなのに、今、周囲には6人の知らない気が森の方からする。
「…あなた達の目的は何でしょうか?事と場合によっては、私が館を守ります。」
幻想郷にはいなかった存在。ナイフを的確に放つ正確さ。瞬時に迫る身体能力。そして、相手の行動をよむ力。
私をここまで圧倒した集団。興味を持たないはずがない。しかし、この紅魔館に災いをもたらすならば、話は別だ。
「この紅魔館に仇なす者ならば、私、紅 美鈴が死力を持ってして御相手させていただきます。」
バンッ、と拳と掌を合わせ相手を見据える。相手は少しこちらを見つめ、「…ブハッ。」と吹き出した。
「…何がおかしいんですか。」
吹き出したっきり笑い続けている相手を見て、不愉快な気持ちになった。相手はヒィヒィ苦しそうに笑い、目尻を拭って
「さっきも言っただろ?オレ達はここを通してほしいだけだ。襲った理由なんざ、侵入するよりは信頼を得られるというだけだ。」
相手の回答に、どうすればいいのか分からなくなる。
相手側は、門を通してほしいがために私を襲ったと言ってる。もし、それを信用して中に入れて、皆さんに迷惑がかかったらどうすればいいのか。
「何故、この館に来たんですか?」
「そんなの、今教える意味がないだろ?オレ達が信用ならねぇってんなら、紅 美鈴さん、だっけ?美鈴さんも一緒に来てもらっていいですよ。」
何故そこまで館に入りたい理由を隠したがるのだろう?はっきりいって怪しさ満点の彼女らを入れてはいけないのだろうが…。
「…あぁ!!もう、考えるの疲れた!」
「あ…えっと、大丈夫かい?」
…不覚にも、来客に心配されてしまったみたい。
それよりも、私にはやるべき仕事が目の前に残っている。
「あなた達御一行様をお嬢様の下に御案内致します。すぐに連れてきてください。」
「…なんか、門番も大変みたいだな。分かった、連れてくるぜ。」
次話からここに“現在公開可能な情報”を載せます。
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