被害者
~博麗神社 朝~
「おい、霊夢!ちょっと来てくれ!」
まだ眠っていたかった私を叩き起こし、大声が私を起こそうとする。寝ぼけまなこで見ると案の定、魔理沙だ。
「そんな急ぐことじゃないでしょ…珍しいキノコを見つけたとか、弾幕勝負したいとかだったら、後にして。」
魔理沙が朝早く来たなら、どうせそのへんの用事だろう。また、昨日は珍しく妖怪退治の依頼がきて忙しかった。それなりに強かったので疲れているのだ。弾幕勝負をする相手はたくさんいるだろうに。
「珍しいキノコは見つけてないし、弾幕勝負をするわけでもない。いいから来てくれよ。」
と、懇願された。魔理沙の性格柄、誰かに懇願するのは珍しい。というより、ほとんどありえない。
「あんたがそこまで言うならよっぽどのことかしら。何があったの?」
眠い頭を起こそうと聞いてみた。かなり衝撃的なことを聞けば、もしかしたら目が覚めるかもしれないからだ。
「アリスの家の近くでルーミアが半殺しにされてた。四肢がほとんどちぎれそうな状態で。」
「…………っ!?」
なるほど。確かに衝撃的なこと聞いたわね。
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~魔法の森~
森の中を通ると迷子になる者もいるが、入る者のほとんどが妖怪や魔理沙みたいなやつなので、大体は空から森を渡ったりする。
「…で、なんでルーミアが殺されかけたのよ。」
「私にも分からない。ただ散歩してアリスの家の近くを通ったらルーミアがきに寄りかかっていてさ。話しかけようと思って触ったら、ヌルっとしたのが手についてさ、見たら血なんだよ。慌ててアリスのとこに行って、軽い治癒魔法をかけてもらってきたんだよ。」
「なるほどね。…にしても、一体誰がそんなことを…?」
森に住む人喰い妖怪であるルーミアは、人を食べる為に誰かを襲う。他愛もないお遊びなら、スペルカードを使うはずだから、返り討ちに会うはずがない。よっぽど強い人間が幻想入りしたのだろうか。
と、思考をまとめているうちにアリスの家に着いた。
「よぉ、アリス。ルーミアの容態はどうだ?」
「とりあえず止血はしたわ。ただ、失血が多いのか顔色が悪いの。」
「永遠亭に運んだらどう?あそこなら、正しく治療してくれるかもしれない。」
「分かってる。ところで、あなたは詳しい話を聞きにここまで来たんじゃないの?」
「そうだぜ、ルーミアをこうした奴を探そうぜ。」
…肝心のルーミアが人を襲おうとして返り討ちにあったなんて言えない。
「で、話せるかしら。ルーミア?」
目が覚めたはいいものを、空気状態の扱いになっていた張本人に話を聞いてみることにした。
「うーん、殺そうとしたところ以外あやふやだけどいいのか?」
「構わないわ。とにかく話してくれない?」
「分かったぞ―。」
そう言ってルーミアは、少しずつ話し始めた。
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その日はとってもお腹が空いていた。まもなくご飯の日が来るにしても辛い。お腹が空いて死にそうだ。ああ、せめて人がいると分かればそこまで行けるのに…。
「…くにんじゃ。」
ふと、遠くではない距離から声がした。幻想郷へ来たばかりの人間独特の空気がする。たぶん状況の確認をしているのだろう。方向さえ分かってしまえば、後は臭いで分かる。
「頑張れ、ご飯が待ってるのだぞ~。」
人間だと思って追いかけたはずなのに、どうして
「もう終わりかの?喰うとか言っといてつまらぬ奴じゃの。」
どうして私が追い込まれているのだ!?
なぜこうなったのだ?確か、あいつが何かを言って、私の闇に別のものが混じった後に妖術が見えた。それを躱して近づいた時、信じられないものを見た。コウモリのような大きな翼を広げ、大きな鎚を振るったのを。そこまでしか見えず、気づいたら左腕がなくなっていた。とんでもない激痛が走り、悲鳴が出そうになった。
なんでだ。人間の集団を相手にしたはずなのに。まさか、こいつ…
「気づくのが遅いの。相手はしっかり確認すればよかったのじゃよ。」
そこからの意識は全くない
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「なるほどね。あなたはとにかく永遠亭に行きなさい。ちゃんと治療すれば大丈夫のはずだから。」
「そんなこと分かっているのだ。」
と、ルーミアは頬を少し膨らませて怒ってみせた。大怪我してたはずなのに、余裕があるみたいだ。
「で、どうする霊夢?」
そう聞いてきた魔理沙を尻目に少し考えた。
ルーミアの見たことが本当なら、相手は妖怪の集団。活発になるのは夜だと思われる。
「帰るわ。そしてまた寝る。」
「ヒドイぜ、霊夢!?」
「相手は妖怪の集団でしょ?なら帰って寝だめをした方がこっちも活動できるじゃない。」
「あ、ああ…。」
「あなたもいくなら帰りなさい」
私達の勝負は夜になるらしい