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人でなしの想い

まさに一瞬の戦いと言うべきか、瞬きすらも許されぬ試合の勝利者は仲間内で唯一人の人間枠、輪廻だった。いや、たとえ一瞬の戦いで相手がそこまで弱かったとしてもだ。この戦いだけはなんとしても勝ってもらわねば困るのだ。氷華敗れた今、私たちに残された運命の先には()()()()()()

そうだ、氷華が負けさえしなければ私たちの勝利は確定していた。地下にいるのが如何なる化け物であったとしても、私たちは勝てた。屋敷の地下辺りから漏れ出ていた魔力は封印術式を以ってしても絶大で、こちら側の戦力ではルナで漸く互角、といったところか。

加えて、あの紅魔館(レミリア・)の主(スカーレット)とかいう吸血鬼も相当な実力を持っている。これまでの戦いを顧みるに、この屋敷の住人は全員が能力を持っているはずだ。相手の能力は闘いが始まるまで分からない。今までは相手の言動やルールによってこちらの有利に持ち込んできたが、今回はまた別だ。

今回は、相手が降参するまで何をやってもいい。

相手が降参しないならば、壊してもいい。

正直な話、詰み、だ。

相手の能力が分からない以上、人形とルナのどちらをぶつけてもこちらは勝てない。やはり、不確定要素があっても地下の化け物にルナを相手取らせるべきか。

あれこれ戦略を組み立ては崩している中、背後から無機質ながらも感情の伴った声をかけられる。


「なあ、心。俺に地下の妖怪の相手をさせてくれないか。」

「…は?」


地下の妖怪というと、どちらをぶつけるか悩んでるあれか?


「勝ち目はあるの?こっちだって迂闊に仲間を失わせるわけにはいかないんだけど。」

「勝ち目はない。」


やっぱりか。期待した私がバカみたいだ。

人形(こいつ)もそこらの雑魚よりは遥かに強いが、それは(人形)の方の性能面が大きい。肝心の中身()の方が扱う術などは氷華には及ばない。

比べて、相手は膨大な魔力を常に漂わせる化け物だ。もし、相手が魔法や妖術のゴリ押しで攻めてくる、もしくは未だ不明の能力を使われてしまったら…。いくらルナが作った人形といってもヒビの一つや二つ入るだろう。ヒビの入った人形など、壊すのはあまりにも容易い。

それに、私たちは一つ約束を交わしている。

()()()()()()()()()()()()()

それほど、今回の相手は危険だ。人形の破壊を防ぐためにもやはりルナに化け物の相手をしてもらう他ないのだろう。


「奴の魔力を感じないのか。漏れ出てる量から鑑みてもルナとほぼ互角。そんな相手にお前をぶつけるわけにはいかない。」

「心は、俺が壊れるのを心配してくれてるんだろ。」


どこか悟った風に、私を見つめるそいつは微笑んでいた。


「大丈夫だ。俺には化け物(あいつ)の能力も対処法、多分名前も知っている。…なぜか、なんて無粋な質問なんざしてくれるなよ?」


これから死にに行きます、と吹き出しにセリフが似合いそうな笑みを浮かべてはいるが、目だけは確固たる自信を訴えている。私には相手の能力も名前も知りはしないが、こいつにここまでの顔をさせる人物ということは…。


「…マジかぁ。」

「?どうした、心。」

「ああ、分かったよ、分かった。化け物の相手は任せる。だから、」


ガシッと、人形の程よく肉のついた肩に手を置き、しっかりと目を合わせて、


「命令だ。絶対に死ぬんじゃない。」

「おうよ。」


リーダーとしての命令を出した。

必然的にルナの相手はあのレミリアという吸血鬼なのだが、まあ負けはしないだろう。

それにしてもなんという偶然だろうか。存在の近い者同士が紅魔館(この場)に集い、殺し合う。

そう、今回は殺し合いなのだ。

殺し合いではルナは絶対に負けない。それは相手にも言えること。負けることはできないし、勝つこともできない。

故に、人形に賭けるしかない。どこまで耐久戦に持ち込めるかが鍵になるだろう。


「まったく、あの神にはしてやられたな。」


私の声は既に戦へ向かった者たちの部屋に虚しく吸い込まれていった。

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