幻想入り
みんな、傷ついていく。嫌だ、力があっても守れないなんて嫌だ。忌み嫌われた我を認めてくれたのに、失いたくない。殺す。妖怪だから、危険だからというだけで殺されるならば、全て殺す。あの時の我みたいに失うしかない未来にはさせない。
あなたはこの世界に起こる不思議なことをどう捉えていただろうか。幼き頃には、妖怪や神様による悪戯だったり…。しかし、大人になると解る。妖怪や神様による悪戯ではない。科学、自然現象、物理などでどれも証明できることに。証明できる物事に対して、妖怪たちは非力である。その一方では、証明できると知って尚、解決することができない不思議を求める者達もいる。そのような者達がいるから、妖怪達は未だに存在できている。まだ、証明できないことがたくさんあったからだ。
たくさんあった証明できないことも、時が進み、科学技術の発展に伴って失われてきた。妖怪や神様なども力を失い、忘れられ、消えていった。
そんな忘れられた者の為に創られた場所があるらしい。そこは「幻想郷」と呼ばれ、妖や神、はたまたは絶滅したはずの動物達が人間達と一緒に存在しているそうだ。時代も科学の概念が殆どなかった頃で、不思議によって存在している妖怪たちには居心地の良い場所であろう。幻想郷の外側は「外の世界」と呼ばれている。
話は変わるが、外の世界から幻想郷へ行く方法を知っているだろうか。幻想郷への切符を手に入れる方法は二つある。
一つは、外の世界の人々のほとんどから忘れられることだ。忘れられた者達の為にあるのが幻想郷である。しかし、この方法で幻想郷へ行く人間は限りなく少ない。主に、妖怪が幻想郷へ行くための方法として意図されずに用いられる方法である。
人間が幻想郷に行く…否、連れ去られるのはもう一つの方法である。ずばり、神隠しだ。幻想郷に住む妖怪の中には、人を喰らう種類もいる。その妖怪たちの腹を満たすためだけに連れて来られる。そして、基本的には喰われて死ぬ。
外の世界から幻想郷に入ることを、幻想入りと呼ぶ。
史麗 未来
◆◇◆◇
月夜が綺麗だ。
目覚めた時、そんなことを考えてしまった。辺りは意識を失う前にいた家の中ではなく、深い森の中で、今にも獣が出そうだ。出たら殺すが。少し目を凝らせば、姉や、仲間達が横たわっている。傷などが少し見られるが、思ったより傷が浅くてほっとした。
「狸寝入りはやめて、起きたらどうじゃ?心姉。」
「…やっぱ気づかれていたかぁ。おはよう…という時間じゃなさそうだね。」
横たわっていた姉が身を起こすと、他の者達も起き始めた。心配していた我がバカみたいに思える。
「今、何を持っているか、能力を使えるかどうか最小に留めて直ちに確認するのじゃ。」
「 了解。」「わぁってる。」「分かった。」「理解した。」「終わってるけど。」「ちゃんと能力は使えるぞ。」
みんなが荷物の確認をしたので、我も所持品を確認した。持っているのは魔書に時計だけだった。能力は…大丈夫、十分に使える。少しばかり見たこともない術式の様子も見られるが、問題ない。
「ねぇ、ルナ。」
「なんじゃ、心姉」
「なんで私達、こんな場所にいるのかな?起きる前までは家にいたはずなのに。」
「我に聞くことか?いまいち把握しきれておらぬから、各自の状況を把握するように言ったつもりじゃが。」
「まぁ、知っているけどね。……ところでさ。」
「こんなところで、何してるのだ~?」
突然、仲間でもない誰かの声が聞こえた。そちらを見ると、金色の髪に赤いリボンと瞳を持った女の子が立っていた。しかし、その子の後ろは少し見づらく、闇を纏っているようだった。
「お前ら誰なのだ~?何処からきたのだ~?」
(どうする?)
近くにいた心姉が小さい声で聞いてきた。
(多分、妖怪だと思うの。下手な答えを出したら攻撃されそうじゃの。)
(そうだね。問題はどう応えるべきかなんだけど…)
「なんか家にいたのですが、気づいたらここにいたんです。近くの村まで案内してくれませんか?」
((輪廻ーーーーーーーー!?))
妖怪の問いに応えたのは、仲間内で唯一の人間。輪廻だ。代表で応えたのが人間なので、相手は全員が人間だと思ったらしく、
「じゃあみんな、私の食べ物になるのだ~♪」
と言った。瞬間、少女は闇を纏ってこちらに襲ってきた。本能的に、我らは逃げた.
「輪廻、何勝手に応えておるのじゃ!?」
「なんか、物凄い量の妖気を振りまいてこっちに来るぞ!?」
「人喰い妖怪なんて思わなかったのですよ~(泣)」
「取り敢えず、ルナと人形はここで留まれ。私達は森を抜けて待つから。」
「俺達置いて、逃げるということか!?」
「あんた達だったら、あの妖怪くらい倒せるでしょ!?」
「いや、あんないかにも強そうな奴に勝てるわけないじゃん。」
「安心して、あなたには伝達係という役割しかない。戦闘は主にルナで終わりだから。」
「ヒドイぞ!?」
「了解じゃ。」
「了解するの!?」
心姉の指示を聞いて、逃げる足を反対に向けた。そして、人形の手を引いて迫りくる妖怪に突っ込んだ。
「わざわざ逃げるのをやめて、こっちに来てくれるなんて助かるのだ~。楽に喰べてあげるね~。」
とまき散らしていた闇を更に放出して、辺りを黒一色に染めてきた。
「なるほど。こういう感じの能力か。これだったら、ルナは…。」
「のぉ、妖怪よ。」
闇のせいで見えなくなった相手に対して、言いたいことがある。心姉には少し、感謝したい。
「ん~?なんだ?」
「さっきは驚いて逃げてしまったが、よくよく考えれば我の仲間、姉上を喰おうとしたのじゃよな?」
「それがどうしたのだ~?」
「そうか、じゃあ…手加減は要らぬの。」
正体も探ろうとせず、我の大切なものを奪おうとした罪。
「四肢奪われても、文句は言わせないぞ。」
「今から、食べられる奴の戯言くらい許してあげるよ♪」
相手はこんな状況でも、我が人間だと思っているようで余裕らしい。ここまで言ってるのに、見逃してくれる様子はない。こっちもないが。
「そろそろお腹が空いてきたなぁ。いただきまぁすぁ♪」
「【上級術式 我と闇と三千年】。」
さて、どうやって時間稼ぎしようかな。
初めまして、名前が痛い中二病野郎です。
プロフィール見てもらったら分かりますが、元々ゆっくり茶番用に作ったシナリオを諸事情で作れなくなったので、このような形で投稿させてもらった次第です。
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