新たな魔王に出会いました
「古代魔法発動」
「うぎゃー」
「大したことありませんでしたね」
「そんなことないからね? 其方がおかしいだけだからね?」
誰も寄り付かないような廃れた荒野。
川は干上がり、木々は枯れ果て、生命が芽吹くような環境ではありません。
こんな場所で復活した新たな魔王は先ほど消し炭になりました。
では魔再生を使用しましょう。
理由はわかりませんが、私はこうして復活させた魔王の力のほとんどを手に入れられるのです。
この力は――好都合ですね。
先ほど倒された新たな魔王が形を取り戻していきます。
身体にまったく合っていないだぼだぼのマントを身に付けた、誰もが目をひくよう美女。
「死んだかと思ったら生き返ったわ。貴方様が私を復活させたの?」
返答代わりに頷く。
新たな魔王は驚くこともなく、鮮やかな茶色の長髪を触りながらこちらを見ていました。
「そうですよ。ところで服従します? 死にます?」
「もちろん服従で」
「わーお、デジャヴ」
思ったよりあっさりと新たな魔王が部下になりました。
これで私は魔王二人を従えました。
勇者様に復讐するには十分すぎる力でしょう。
「ですが、二人とも魔王ですから呼び方に困りますね。貴方達名前はないのですか?」
「真名と言うやつならあるぞ。我輩はべリアルだ」
「私はビフロンスと申します。これから末永くお願いしますお姉さま。いえ、愛しの人」
ちょっと待ってください。
名前を聞いただけなのに変な言葉が聞こえました。
「ビフロンスですよね? 愛しき人とは?」
「もちろん、お姉さまに決まっています! 私、貴方様に一目ぼれしちゃったみたいで、そのお顔を見るだけで、体中が、火照ってきて…………きゃーッ!」
恍惚の表情を浮かべたビフロンスが身をよじりながら迫ってきます。怖い!
思わず古代魔法で消し炭にしてしまいました。
「はあ……はあ……ふぅ」
「其方がそこまで取り乱す姿初めて見たぞ……」
ビフロンスを復活させるのは止めましょう。
こちらの命が危ないので、彼女には永遠に眠っていてもらいます。
「これも! お姉さまの愛! ですね!」
「ひぃ!」
地面から無傷のビフロンスが生えてきました。
古代魔法は直撃したはずなのに。
「私は体の一部さえ残っていれば復活できるのですよお姉さま! さあ、目覚めの口づけを――」
「いい加減にせぬか」
ベリアルがビフロンスの背後からドロップキックをかまし、鈍い音が鳴り響きます。
ビフロンスは大地を二転三転転がった後、目を回しながら動かなくなりました。
「助かりました。それでは今から準備をしましょう」
「おお! ついに勇者と戦うのだな? 我輩がんばっちゃうぞー!」
「ええ、頑張ってください」
貴方にしかできないことなのですから。
◇
「何故……我輩が……こんなことを……」
息も絶え絶えで倒れ伏す魔王。
彼の頑張りのおかげで、荒野に立派な魔王城が建ちました。
形状も大きさも、破壊した魔王城とうり二つ。
「住む場所は確保しないといけませんからね。専門家に任せて正解でした」
「専門家じゃないよ! 城作るのめちゃくちゃ大変だからね?」
「うるさいわね。お前は大人しくお姉さまの言うことだけ聞いてればいいのよ」
私が城に入ろうとする前に、べリアルとビフロンスが楽しそうに殴り合いを始めました。
注意する気も起らず、入り口のドアを魔法で開けます。
以前と同じく階段を昇り、広間を抜け、王の部屋にたどり着きました。
この部屋で待ち構えていたべリアルを勇者様、ガルフォスおじ様、ミロクちゃんと倒しましたのです。
僅か一日しか経っていないのに、随分と昔のように思えました。
私は奥に置いてあった玉座に腰を下ろします。
座り心地は可もなく不可もなくと言ったところでしょうか。
――勇者様。
結局私は、貴方が好きなんです。
例え貴方に捨てられようと幸せになってほしい、傷付く姿は見たくありません。
ですから――