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心配なのは勇者様だけではなかった

 あの後、俺たちは徹夜でエリスを探したのだが、見つけることはできなかった。

 故郷にも戻っておらず、旅で回った町全てに連絡を取ったのだが、エリスはいなかった。


「エリス……」

「気を落とすな。多分だけどよ、混乱して隠れているだけだと思うぜ? すぐに見つかるだろうよ」


 ガルフォスが俺の肩を優しく叩く。

 その顔は、昨日と比べて目に見えて元気がなかった。


「すまないガルフォス。ありがとう、もう大丈夫だ」

「そうか、なら頼むぜ大将。しっかり俺たちを引っ張ってくれよ」

「任せろ」


 ガルフォスは頷くと、荷物の準備をすると自室に戻って行った。

 俺も自室に戻ろうとしたが、ミロクのことが気になり、部屋に立ち寄ることにした。


 エリスを探すために一番必死だったのはミロクだ。

 王城内や町のあらゆる場所を駆け巡り、倒れ込んでしまうほどだ。

 そのため、魔王討伐の旅をしばらく見合わせることになったが、王にそのことを咎められることはなかった。


 寧ろ、今回の事態を招いた俺が怒られた。

 あれほど、怒った王を見たのは初めてだった。女王が仲裁してくれなければ、まだ怒られていたかもしれない。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、ミロクの部屋に着いた。

 木製のドアを軽く叩き、声を掛けるが返事はない。

 

 まだ、休んでいると思い立ち去ろうとするとドアが開いた。


 俺は再び、自身の軽率な行動を心から悔やんだ。

 髪も結ばず部屋から出てきたミロクの目は真っ赤で、顔には涙の痕が残っていた。


 

 俺たちがミロクと出会ったのは、王国から遠く離れた小さな町だった。

 あらゆる回復魔法を使いこなす少女がいるという噂を聞いて訪れたのだが、その町でミロクは道具のように扱われていた。

 町民たちは、いくら傷付いてもミロクが回復魔法で助けてくれると考え、各地で無謀と言える戦いを繰り返していたのだ。

 どれだけ嫌と叫ぼうが魔法を使わされていたミロクの体は痩せこけ、その瞳は生気を宿していなかった。


 俺たちは町民と戦い、説得することでミロクを旅に連れ出した。

 最初は警戒していたミロクも、旅の中で本来の自分を取り戻し、家族のように俺たちを慕うようになった。 


 ミロクは「三人と一緒にいられるだけで幸せ」とよく言っており、心からそう思っていると感じられた。


 ――それ故に、一人でも欠ければ砕けてしまうほど、ミロクの世界は狭かったのだ。


 以前は三人がいないと取り乱すこともあった。

 最近はそのようなこともなかったのだが、どうやらエリスがいなくなったことで再び元に戻ってしまったようだ。


「すまない……」


 自然と言葉が口から出ていた。  


「私、不安で、エリスがこのまま戻ってこなかったらって思ったら怖くて。また、あんたたちに迷惑かけて」

「全部俺のせいだ、俺がエリスにあんなことを言わなければ――」

「後悔するぐらいなら言わないでよ、馬鹿!」


 大声で近くの人たちがこちらに振り向く。

 ミロクは、すぐはっとした表情になると、俯いた。


「ごめん……八つ当たりだった」

「お前は怒るのも当然だ」



「ったく、おちおち支度もできやしねえ。お前ら何揉めてんだ?」


 部屋に戻っていたガルフォスが頭を掻きながら出てきた。

 めんどくさそうに鼻を鳴らし、俺たちを交互に見る。


「すまないガルフォス、全部俺が悪いんだ。俺が――」

「違うの、私が弱いから。私が――」


 言い終わる前にガルフォスが俺たちの頭を軽く叩く。 


「俺たちが今すべきことは何だ? エリスを見つけ出して、一緒に新たな魔王を倒すことだろうが。だったら、早く準備しないといけねえだろ?」


 ガルフォスはミロクの首根っこを掴み、部屋に放り投げる。


「泣く暇あるなら準備してさっさと出て来い! 準備ができたら、またエリスを探すぞ」

「ガルフォス、今は休ませて――」


「おまたせ!」


 ミロクがいつもの服装で飛び出してくる。

 先ほどまでが嘘のように、やる気で満ちた表情をしていた。


「ガルフォスの言う通りよ。くよくよするぐらいならエリスを探し出すわ」

「ミロク、身体は大丈夫なのか?」


 昨日も倒れており、また無茶なことをしそうで心配だった。


「私のことより、自分の心配をしなさい。ほら、さっさと準備してきなさいよ!」

「お、おい」


 ミロクの気迫に圧倒され、一歩下がる。


「早く見つけてやろうぜ。ここで足踏みしてる場合じゃねえだろう」


 ――そうだよな、ここで足踏みするぐらいなら前に進まないとな。


「わかったよ。王には俺が伝えておく。その後、すぐに行こう」

「頼むぜ大将」

「早くしなさいよ」


 待ってろエリス。

 必ず見つけ出すからな。


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