魔王に再会しました
「着きましたか」
私を包んでいた光が消えると、禍々しい雰囲気の廃城が姿を現しました。
魔族の根城、魔王城です。っと言っても今は誰もいませんが。
何故ここに来たかと言うと、一人になりたかったのです。ここなら、誰も寄り付かないでしょう。
入り口を開け、果てしなく長い階段を昇ると、見晴らしのいい広間に着きました。
四人で来たときは大量の魔族が襲ってきましたが、もう何もいません。
主を失ってもこの城だけはあり続けているのです。
遠くに王城の光が見えました。皆がパーティを楽しんでいるのでしょう。
先ほどまであそこにいたのに、今では遠い場所のように感じます。
「このような場所で何をしている?」
私は声がした方向に杖を向けました。
しかし、そこには城の景色があるだけ。
気のせい、ではないでしょう。
「其方は、あの時の魔法使いか」
再び声が響き、辺りを見渡しますが、やはり何もいません。
しかし、この声は忘れもしません。
こちらの心臓を鷲掴みにするような低く、不快な魔王の声です。
「生きていたのですか魔王! 姿を現しなさい!」
「そう言われても、今の我輩は魂だけの存在だ。この城を漂う残りかすに過ぎぬよ」
くくくと笑う魔王ですが、私は内心焦っていました。
勇者様の力があっても魔王を完全に倒すことができていなかった。
このままでは勇者様が危ない。
「この状況でも勇者の身を案じるか。なんと健気な娘よ」
魔王はこちらの考えを見透かすように話し――
「其方は勇者にとって都合のいい道具に過ぎなかったのにな」
聞き捨てならない言葉を吐きました。
「そんなことはありません! 取り消しなさい!」
「くくく、我輩は其方の心を見た。勇者は其方を必要としていなかったようだな」
その瞬間、ひどい嘔気に襲われました。
汗が吹き出し、身体の震えが止まりません。
「勇者様は私を必要としてくれました!」
「ならば、なぜ勇者は其方を連れて行かぬのだ? 新たな魔王が復活したのだ、必要ならば其方を誘うであろう?」
「それは――」
本当に、私は必要ではなくなってしまったのでしょうか?
認めたくない。勇者様がそのように思っていたと。
だけど、勇者様は故郷に帰るよう言いました。
「この旅で痛感したのだろう。落ちこぼれ其方より別のものを連れて行った方がましだとな」
確かに私は故郷では落ちこぼれで、両親以外から冷たく扱われていました。
それなのに何故私が選ばれたのか、ずっと疑問に思っていました。
「簡単なことよ。いざというときは其方を囮にする気だったのだ。役立たずが何人死のうが、世界を救えればそれでよかったのだよ」
――自分でもわからなくなってきました。
私は勇者様にとってその程度の存在だったのでしょうか?
今まで優しくしてくれたのは、私を使いやすくするため?
たまたま囮にする時がなかっただけ?
「いくら嘆いても事実は変わらぬ。勇者にとって、其方は不要になったのだ」
その瞬間、私の中で何かが砕け散りました。
それが何なのかはわかりませんし、わかりたくもありません。
今の私に残っているのは――
「勇者の仲間、と言う称号を失い其方は価値を失った。だが、我輩が其方に価値を与えよう。手始めに我輩を復活させるため、この魔法を使うのだ」
私は杖を握りしめ、魔王に教えられた魔法を使用しました。
魔再生。
魔族限定の死者蘇生ともいうべき古代魔法の一つ。
初めて使うはずのその魔法は、恐ろしいほど体に馴染みました。
やがて、広間の中央に光が集まりはじめ、姿をかたどっていきます。
刺々しい紫色の髪。鋭い牙と、尖った耳。
漆黒のマントをはためかせる、人を見下したような目つきの青年。
倒すべきだった存在。
魔王が復活しました。
「くくく、ハハハ‼ よくやったぞ! これで世界は我輩の物――痛ッ!」
大はしゃぎしてうるさいので、杖で殴ってしまいました。
魔王は頭を押さえながら、こちらを睨み付けてきます。
「其方、何をする!?」
「貴方を私の部下にしましょう」
「ふざけるな! 何故、我輩が其方に従わねば――」
「うるさいですよ」
杖を軽く振り下ろすと、私たちのいた広場以外が砕け散りました。
魔王城は思っていた以上に柔らかかったようです。
「え、嘘でしょ? この城、我輩が全力出してやっと壊せるぐらい強固なんだよ? 何あっさり壊しちゃってるの? ええ?」
どうやら、魔王の威厳も一緒に砕け散ったようです。
尻餅を着き、まるで化け物を見るように後ずさりますが、すぐに止まりました。
山ほどあるこの高さから落ちれば、魔王と言えど命はないでしょう。
といってもさっきまで死んでいたんですけどね。
「何でいきなりそんなに強くなってるの? おかしいよね?」
「私にもわかりません。ですが先ほどの魔法を使うとき、私の中で何かが目覚めた気がします。おかげで貴方の力をほとんど頂くことができました」
「馬鹿な。例え我輩の力を奪ってもこれほどにはならぬは――ッツ!」
あまり時間をかけたくないので、首元に杖を突きつけてやりました。
「従うか、ここで死ぬか。選んでください」
「ぐぐッ…………わかった、其方に従おう」
私は項垂れる魔王から杖を離し、転移魔法の準備を始めます。
目的地は――
「其方は、何をする気だ?」
「決まっています。復讐ですよ」
しぼりだしたような魔王の問いかけに対し、笑みを浮かべながら答えると、魔王の顔から血の気が失せていきます。
私、そんなに怖い顔をしていたのでしょうか?
「ワガハイハソナタノチュウジツナルシモベデス」
魔王は死人のような表情で立ち上がり、こちらの言葉を待つように動きません。
よくわかりませんが忠実になってくれてよかったです。
「では、行きましょうか。まずは新たに復活した魔王を討伐しに行きましょう」
「え⁉ あ、いや……了解した!」
私たちは転移の魔法を使い、目的の地へ移動しました。
待っていてください勇者様。
必ず復讐してあげます。