勇者様は心配だった
「エリスがいなくなった?」
「転移魔法でな」
パーティ会場で座っていた俺は、ガルフォスとミロクに王城の一室に連れ込まれた。
ガルフォスは腕を組みながらこちらを見下ろし、ミロクも睨みつけるように見上げてくる。
「エリスから聞いたよ。お前から旅に連れて行かないって言われたってな」
「そのことか、確かにエリスにはそう伝えた」
二人はやってしまったと言わんばかりに顔を抑える。
俺はまた何かしてしまったのだろうか?
「エリスはお前に見捨てられたって言ってたぞ」
「そんはずないだろう! 俺はあいつのことが心配だったんだ!」
「ちゃんとそう言ったのか?」
「旅に連れて行かないことと故郷に帰るよう言っただけだ」
「馬鹿野郎が! お前はいつも一言足りてねえんだよ!」
俺はガルフォスに殴り飛ばされる。
口の中が鉄の味で満たされ、殴られた箇所が痛む。
「何でちゃんと言わねえんだ。お前の言葉はあいつを傷つけたぞ」
「そんな……」
俺の言葉がエリスを傷つけてしまったなんて――
「どうしよう……エリスがこのまま見つからなかったら……」
「手分けして探すしかねえだろ。片っ端から知り合いに声を掛けてくる」
「――俺も探す」
椅子を支えにしながらゆっくり立ち上がる。
こうなったのは全部俺のせいだ。
魔法使いの里でエリスと初めて出会ったとき、今までにない衝撃を受けた。
黒いローブを纏った、黒長髪の美女。
その姿からか周囲からは死神と罵られていたが、俺の心は一瞬でエリスの虜になった。
初対面の時、恥ずかしさからつい顔を逸らしてしまい、失敗したとベッドで一日落ち込んだのを覚えている。
俺は周りからの反対を押し切り、エリスを仲間に誘った。
彼女は自身を、魔法使いでありながら魔法を使いこなすことができない落ちこぼれだと言っていたが、最初は誰でもそうだ。俺も飲み込みは早かったかもしれないが、最初からできたことなんて一つもなかった。
エリスはこれから成長していく。そんな確信が俺の中にあった。
何度も断られたが、繰り返し説得することで仲間になることを了承してくれた。
その時、嬉しさの余りエリスに抱き着いてしまったのだが、彼女は顔を真っ赤にして倒れてしまい、大騒ぎになった。
しばらくして、やっと目を覚ましたと思ったら、抱き着いたことはきれいさっぱり忘れていた。助かったような、悲しいような。
やがて、エリスは魔法もどんどん使えるようになって、欠かせない存在になっていた。
その分彼女が傷付くことも多く。死にかけやことも一度や二度じゃない。
その姿を見て、胸が張り裂けそうになった。
やっと、全てが終わったと思ったら新たな魔王が出現。
俺はもうエリスを傷つけたくなかった。
だから、待っていてもらおうと思ったのだが、それでエリスを傷つけてしまうなんて。
――謝ろう。
そして、今度こそはこの想いをエリスに伝える。
俺の雰囲気が変わったのを感じ取ったのか、ガルフォスは大きくため息をつき、ミロクは頷きながら桃色のツインテールを揺らしている。
「こうなったのはお前の責任だ。だが、あいつの勘違いもある。絶対に見つけ出すぞ」
「わかっている」
「まったく、さっさと好きって言えばいいのよ」
ミロクにそう言われた瞬間、俺の頬が熱くなった。