死神(仮)
今日はここまで
そういうと私の母は自身の初恋の話を終わらせた
その話はまるで御伽話の様な話だなのだ
暖かい陽気の午後
時間の流れとは隔離されているように感じる大きな木の下
木漏れ日の中で感じる微睡は私の一番好きな時間
母も同じようで二人で寄り添っている
私はいきなり鼻がかゆくなりクシャミをする
風は春の訪れだけでなく花粉まで運んできたみたいだ
それじゃあ家に戻りましょうか
母はそう言いながら立ち上がる
私も母に続き立ち上がる
話の内容を思い出しながら家へと向かう
————これは、母が体験した物語
今はもう過ぎた初恋の
母の初恋が遠くへ行ってしまう
絶望の中で生まれた、最後は希望で終わる物語————
何の変化もない日常
しいて言うなら今日は金曜日で明日から週末
そのせいか少し気分はいい感じだ
このくそ無駄な授業時間もあと五分で終わる
——帰ったら何をしようか
——週末はだらだら過ごしたい
——月曜計画休業とか最高だ
そんなくだらないことを考えていたら終業を知らせる
さて、帰ろうかと荷物をまとめ席を立つ
このタイミングでいつも通り後ろから声がかかる
「蒼馬くん、一緒に帰ろ」
幼馴染の唯だ
唯は家も近く割と昔から一緒に下校をする
ほんわかとした雰囲気は一日のストレスを忘れさせるほどの癒し効果がある
この後特に予定があるわけではないしいつも通り一緒に帰る
夕日でオレンジ色に染まった世界は
不思議と二人きりの空間を強調させる
他愛もない会話は今日も一日の終わりを痛感させる
二人の時間はあっという間に過ぎていった
団地の真ん中にある公園でいつも通り別れを告げる
さて、かえって漫画でも読むか
そう公園を後にしようとしたその時——
「あなたが速水蒼馬ね?」
知らない女が俺の前にいきなり出てきた
「うおぉ!?」
「間抜けな反応、みんなこんな反応するのよね」
目の前の女はあからさまにめんどくさそうな態度とため息をつき短く自己紹介をした
「私は美咲、死神よ」
あまりにも短く訳のわからない自己紹介だった
「お前・・頭大丈夫???」
「失礼な男ね、私は正真正銘の死神よ」
「いやいや失礼なのどう考えてもお前だかんね???」
明らかにこいつはおかしい
見た目も中身もやばいにおいがする
「さっきからお前お前って私自己紹介したんだから名前で呼んでくれないかしら?」
「・・・美咲さん、いろいろ質問いいですか??」
「ええ、いいわよ?スリーサイズ以外ならね」
「まず美咲は何者?」
「愚問ね、死神といったでしょ?」
「それを普通に受け入れる人間がいると思うの!?」
「あら?私は受け入れたわよ??」
「そりゃ、美咲は人間じゃないからな」
「――—。」
美咲は何か言おうとしてやめた。
その表情は何か悲しげだった。
「私が蒼馬に会いに来た理由を教えるわ」
再び話し出した美咲の表情は先ほどと打って変わって真剣なものだった
「私はあなたの魂を運びに来たの」
その口から出た言葉は予想はしていたが信じるには程遠いものだった
「そりゃ、死神ならそういうこったわな」
「笑い事じゃないわ蒼馬、あなたは三日後に死ぬ」
「・・・証拠見せてみろよ」
俺の口から出たのはあまりにも稚拙で意義のない言葉だった
だがその場を取り繕うには十分だった。
「いいわよ。ついてきて」
美咲は短くそういうと歩き出した
俺は何も言わずについていく
そうしなければならない
なぜかそう思った
「ついたわ」
美咲はそういうと交差点を指さした
「今からそこで人が死ぬわ」
「はぁ?わかってんなら阻止しなきゃだろ!」
「無駄よあなたは止められない」
「なんで断言できるんだよ!」
「この場でそれを知っているのはあなたしかいないから」
「そんなの————」
言いかけたところで交差点でスキール音が響いた
俺はとっさにそっちを向いた
目の前には横転したトラックと荷台の下にある赤い水たまりがあった
ようやく理解した
美咲は本当に人の死期がわかる死神なのだろう
そして俺は————
「・・・三日後に死ぬ?」
「ようやく理解してもらえたのね」
美咲は誇らしげな態度と寂しげな表情でこっちを見ていた
目の前の事故とともに俺の終末は始まった。