魔王と王、仁義礼智信
「僕らの元へ集まれ。『五魔王召喚』キリング、ディシール、エクスティン、デスト、スイメツ」
「くっくっくっ。魔王に向かってくるならいざ知らず、魔王を呼びつけるとは常識の無いヤツめ」
ヘージの召喚魔法が発動し、祭壇の前に五人の魔王が現れた。その中の一人、50代に見える長年生きた貫禄を携えた男。スイメツが笑いながらヘージたちを見据えていた。
「あら?ルインじゃないの〜。貴方はどうしてソチラ側に居るの?」
ルインに気がついた、30代半ばに見える妖艶な女。ディシールがルインに問う。
「お久しぶりですね。ディシール、それに皆さん。私はもう魔王ではないのですよ。そこのヘージに自由を頂きましたのでね。そこで、皆さまも魔王から解放しようと呼んだわけです」
ザワッ! キーンッ
「...っ、そんな殺気を向けずに従ってくれたら助かるんだけど」
「内容次第だな。我らをこの世界に魔王として召喚した勇者を返り討ちにするのが我らの使命。そして、そこの女神を殺すのもな」
ヘージとサクラを睨みつけた屈強な男。キリングが目を瞑り、ヘージの回答を待つ。
「その使命なんだけど、もし勇者が消えたらどうなると思う?」
キリングは無言。思考している。己の使命は全て殺すこと。それが【殺戮】のキリングだ。しかし、殺す者が居なくなった場合はどうなるのだろうか。否、その思考自体が不要だ。なぜなら、その前に止めるのが勇者の仕事だ。だが、もし勇者がいなくなったら?
「君たちはこの世界が無くなるまで魔王として破壊の限りを尽くし、そして最後は自分さえも失う」
「なっ!...いや、筋は通っているのか」
20代前半に思える容姿端麗な男。エクスティンが声をあげるが納得する。
「それに、サクラはこの世界が管理者としてではなく、住人として好きなんだ。もし、この世界で大切なモノを失えば、それも世界の終わりを意味する。だから提案なんだが、魔王を辞めないか?」
長く感じる時が過ぎ、キリングが口を開く
「よかろう。だが、我らは我らの信ずるままに生きる。それが誰かを殺すことでも」
「ありがとう...。オレも誰かと生きたい...」
巨漢の大男。デストが搾るように願いを声にした。
「ルインの時は余裕がなくて僕が運命を召喚することで上書きしたけど、魔王としての運命の削除をサクラにしてもらう。この世界の神様が直接してくれるなら文句ないだろ?」
「ああ、頼む。後のことはお前に任せよう」
ヘージが頷きサクラへと目配せする。
サクラの髪色が桜色へと変色し、頭上には天輪が現れた。
「貴方の魔王としての運命を書き換えます。『運命終息』、...これで魔王としての運命は終わりです。そして、『仁義礼智信』」
言葉は力を帯びて神力となり、魔王たちに降り注ぐ
それは、祝福の光に見えた。
それは、五常の徳。
しかし、かの伊達政宗はこう説きました。
仁に過ぎれば、弱くなる
義に過ぎれば、固くなる
礼に過ぎれば、諂いとなる
智に過ぎれば、嘘をつく
信に過ぎれば、損をする
全ては行き過ぎてはいけない。
しかし、儒教の五徳であるこれらは、人の道を全うするためになくてはならないものである。
魔王の道から人の道へ
人の道とは極めればいいだけではない。その難しいバランスを含めて人の道なのだ。
「ありがとう。それが神の標される道であるなら、神道とし受け入れよう」
運命が生まれ変わったキリングがそれを受け入れる。
「人の道なんだけどね...」
元に戻ったサクラが小声で呟いたが彼らには聞こえない
すると、五人はなぜが整列した。
「【仁】の、ディシール」
「【義】の、エクスティン」
「【礼】の、デスト」
「【智】の、スイメツ」
「【信】の、キリング」
「「「「「今生の命ある限り、女神様の御使いとしてその運命、果たさせて頂きます」」」」」
一斉に傅いた。
そして、ヘージたちを改めて見てから思い出す。
「ところで彼らは一体何者なのです?」
キリングの疑問。女神の従者だけでは説明出来ない各人の距離感
「僕はヘージ、【王】だよ。こっちのサクラは【姫】。そして、皆は僕らを支えてくれる仲間だよ。よかったら君たちも支えてくれないかな」
その頼りない青年の言葉に、驚く
自らを王と。世界神であるサクラを姫と。つまり娘と呼んだことに。
ならば、彼は世界神より上の存在。キリングたちの想像も出来ない次元の存在なのではないだろうか。
それでも頼りない雰囲気が漂う青年がそんな高位な存在なのか。疑問が絶えないが...
「よろこんで。頼りない主人ほど支えがいがあるというものだ」
「あははは...。まあ、僕にも自分に力があるなんて思ってないよ。それでも、みんなは力を貸してくれる。僕らの理想のために」
ヘージが手を差し出す。
そして理解する。
(そうか。王とは、民がいなければ王でなく、家臣の支えなくても王ではないのだな)
魔王を名乗りながら、王になれなかった魔王たち
それは、力で従わせる独裁者であり。そんなものは主人と奴隷の関係を拡大させただけの関係であったと
ガシッと
キリングが代表として握手した。
「よかろう。我が王よ」
「私はアリアなのよね。私たちに上下関係はないのよね。ディシール、エクスティン、デスト、スイメツ、キリング。よろしくないのよねっ」
アリアの言葉の意味も分かる。それがこの王の在り方なのだ。
「これからよろしく頼む」
アリアたちにも聞こえるように返事を返した。




