自称裏切り者の最後
「なあヘージ、少しいいか?」
先ほどまで空気のようになっていたシェイブだが、実はこの祠に入った時から継続して空気固定化魔法を発動していたのである。マリンが作ったこの祠は一種の時間遮断空間で空気もあるが、湖の底という事で念のために空気保持の魔法を使っていた。
「うん?どうかした?」
「この祠の空気に触れて分かったんだが、奥に別の結界空間があるみたいだ。どうする?」
一定範囲の空気中での把握能力、それに接する外の空気に対する感知能力。それが空気固定化魔法の真価でもあった。
ただし、シェイブの理解出来る範囲による。
ソアとルインの高速戦闘などは何が起こっているのか理解出来ない。状況を知る速度より、状況が変わる速度の方が早いからだ。
そして、変化しないモノに対しては感知できた。
「それは元勇者ね。正確に言うと八神平次の肉体とでも言えばいいかしら。...何をそんなに驚いて...あー、私ね。マリンが遠い前世だったみたい。だから、役目を果たしたマリンと本来の魂として一つになったの」
マリーがシェイブに説明した。確かにシェイブだけが話についていけてなかった。他のみんなは神に元魔王、アリアも二人の魂の繋がりを感じ何が起こったかなど既に理解していたから
「マリー...、それはお前がマリンということか?」
「シェイブ、それは違うの。私はマリーよ。だから安心して」
そう言われて、それ以上はシェイブもわかった気がした。
「で、ヘージはどうしたい?昔の自分に会いたい?」
「僕はここにいる。だけど始まりは僕だから。いこう、僕らの未来へ進むために」
ルインは頷く。その封印された勇者がルインたち魔王の悲劇の元凶、倒すべき敵だったのだから。
過去の思い出に浸る気はない。その先の全ては止まった時の先で編まれた大切なモノだから
八神平次、様々な想いと共に眠っている彼の元へ
...そこは、肌寒さを感じるような世界だった。その原因が時の止まった時の気温なのか、その者から発せられる悪寒なのか、はてまた皆の複雑化した感情によるものなのか...
「これが八神平次...なのよね?」
アリアが時の結晶に閉じ込めらたソレを見て呟いた。...無理もない、だってソレは・・・
「やっぱりお兄ちゃんに似てるね...、お父さん...、」
由美との再会で記憶の封印が解かれていたサクラには、ソレが実の父親であることがわかった。
「ヘージ、私は封印を守りながらずっと思っていた。...あなたの魂がいつかこの体に戻るんじゃないかって。けどね、勇者の魂が何処かへ消えた時になんとなくわかったの。平次は別の人生を歩いているんだって...。だけど、私にはコレしかなかった...、新しいあなたの元へ行くにはマリンの時間は古すぎた。けど、マリーもあなたの時間を、あなたのそばで過ごしていた事に気づいて嬉しかった。
だからっ!もう私に守る価値はないの、あなたの好きにしていいわ」
マリーの言葉、マリンの生きる意味だったモノに対してルインも呼応する。
「私も平次、君を殺す事を生きる意味としてきた。次に、サクラを殺す事を強いられた。だけどそれは叶わなかった。ヘージ、君のおかげでね。
だから、私ももう勇者などに用はないっ!後は任せた」
救われた者がいた。救われなかった者もいた。そして喪った者もいた。
それでも未来へ、過去に
囚われたままの自由など自由ではない!
あの時は確かにソレがルインの存在理由だった。しかし、奪われた者も存在していたのだ。それを奪ったのはルインだ。なら自分も奪われて当然。たが、ヘージは存在理由を奪いながらも自由をくれた。
ならあの時、殺す必要もなかったのではないか?魔王として殺すという事を行ったのは自分自身だ。そんな後悔も覚えたが、、、
懺悔は相手に直接言えばいい。
もう魔王ではない。囚われた価値観も捨てた。後はその時々で己の意思次第だ。
過去との決別、ルインの中では完全に終わった。後は任せよう。ヘージに
「サクラ...いいか?」
「お父さんは頑張ったもん。だからね。お兄ちゃんが泣く必要はないんだよ?」
時の結晶を砕くことをサクラに確認したはずが、、、
「...ぁれ?.........なんでっ」
無意識に涙が溢れていた。
サクラが両手で手を握り、ヘージに語りかける。
「誰だって自分の過去に別れを告げるのは怖いよ。わたしは、もの心つく前のことだから、平次お父さんと由美お母さんと暮らしていたことは思い出せないけど、お兄ちゃんにとってのこの体はその思い出、他にもマリンさんやランロットさんたちとの思い出もあるから...」
内側から声が聞こえた。
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己の精神世界で久しく聞いていなかった声、八神平次と対面していた。
(気にすんな。八神平次としての人生はとっくに終わってるんだ)
(それでも...、お前が由美に会いたかったんだろっ!お前は僕だ。だから...)
(どうしてヘージはこうも優しくなっちまったのかね)
ジューダスは由美に会いたい一心で動いていた。それは過ちを過ちで正し、正解などない道をひたすら歩いた。その最後の過ち。八神平次を捨て、皆を裏切った。
けれど、ランロットは八神平次との約束を守りきり平和な国を築き上げた。マリンも八神平次を信じて待ち続けた。
ヘージには無理だった...。ジューダスの築いた物語が重すぎた。
(どのみち由美の体は既に失われているんだ。だがな、由美の魂はまだこの世界にあることを教えてくれたのはお前だろ。オレも同じ状態になる。それだけだよ)
二年前、マリーに憑依した由美の魂。それに出会えたのはヘージのおかげだ。
去年も、今年も由美とたわいない話をした。数時間だけだが幸せだった。
ヘージの中にジューダスとしてこの魂の意識ぐあるのは恐らくは肉体がまだ存在していたからだとも今は分かる。
(...わかった。僕がお前の意思を引き継ぐ。だから安らかに眠っていてくれ)
だから...、ジューダスと話すのもコレが最後。
(眠っていてくれ、か。あとは頼んだぞ。...サクラのことも)
(わかってる、親子三人で暮らせる未来を必ず作ってやるよ)
八神平次は笑った。
ヘージも笑った。
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「...さよなら、お父さん」
サクラからの別れの言葉を魂に刻み、ヘージは八神平次を打ち砕いた。
それは一つの終わり。
一人の男の肉体は粉々になり地に舞った。




