Chapter2-4
アルメリアダンジョン地下一層目。ソレルとハルカには、すっかりおなじみとなった場所だ。今回はラシルを伴っている為か、普段とは少し気分が違う。
目的地に着くと、まずはラシルが全員に支援魔法を掛ける。尤も、アルメリアからこの場所まで、さほど距離がある訳でもないので満足にSPが溜まるはずもなく、完全な支援は無理だ。その為、優先度の高い物を使用する。
「とりあえず、行くか」
ラシルがそう声を掛け、戦闘を歩く。ソレルとハルカもその後に続く。
少し進んだところで、目標のモンスター――アーマーソルジャーを発見する。まずモンスターに近付いたのはソレル。両手に斧を構え、モンスターへと切り掛かる。その後方からは、ハルカが矢を放つ。
一方、ラシルはというと――側で二人の戦闘の様子を窺うだけで、戦闘に参加する事は無かった。
先程ラシルが掛けた魔法は、一定時間対象のスピードをアップさせる『クイック』の魔法だ。これにより、ソレル、ハルカ共に今までよりも攻撃速度が上昇している。勿論、劇的な変化とは言えないが、今までに比べれば、戦闘が有利になる事には変わりない。
また、回避能力も上昇している為、モンスターからの攻撃を一身に浴びるソレルは、これまで以上に攻撃を回避しているのだった。
しばらくして、漸く戦闘が終了する。
結果は、目的のアイテムは毎度の如く、入手は叶わずだ。ソレルが受けたダメージもいつもと大差はない。支援魔法といっても、下位クラスで習得出来る支援魔法を、低レベルで使用したのだ。多少は有利に働くとは言え、所詮は付け焼刃程度の効果しか発揮しないのだった。一番の違いと言えば、戦闘終了後にラシルが即座に『ヒール』の魔法を掛け、ソレルのダメージは簡単に回復してしまった事ふらいだろう。
「アンタはなんで見てんのよ・・・!」
終始、戦闘を眺めていたラシルに対して、あからさまに怒りをぶつけるソレル。ラシルは二人の手伝いと言う事でこの場にいるのだ。それが、戦闘には参加せず、側で様子を眺めているだけとなれば、彼女がこの様な態度に出るのも無理はない。
「レベル上げと、お前らの腕を上げるのと、どっちを優先させようかと思ってな」
事も無げに、ソレルの怒りを受け流しながら、そう答えるラシル。
「そんなことより、アイテム出すのに協力してなさいよ!」
ラシルの言葉に更に反論するソレル。
そうなるのも無理はない。ソレルは現在、ギルドの入団試験中だ。クリア条件は指定されたアイテム――『ルーンソード』の入手。そして、ラシルが呼ばれたのは、このアイテムの入手を手伝う為だ。それを、来た目的がレベル上げなどと言われれば、ソレルが怒るのも当然だった。
この言葉を受け、ラシルは沈黙する。尤も、反省の為の沈黙ではない。自身の考えをどう伝えるか――言葉を捜しての沈黙だ。
「じゃあ一つ聞くが、お前ら二人で居るときってそんなに効率良く倒せるわけ?」
「それは・・・そんなにだけど・・・」
ラシル自身、意味も無くレベル上げなどと言っている訳ではない。
モンスターがアイテムを落とすのは、全て一定の確率の上に成り立っている。そこに例外はない。
そして、確立の低いアイテムを出す為には、運も必要だがそれよりも、大量のモンスターを倒す。これが重要だった。そして、早く手に入れようとするなら、効率よくモンスター達を倒す必要がある。
通常なら、それほど効率を気にする必要もないだろう。自身のペースで戦闘をした所で、誰に迷惑を掛ける訳でもない。だが、今回の様に、一定期間内にというならば話は変わってくる。
では、どうすれば効率よく戦えるのか?答えは簡単だ。キャラクターのレベルを上げ、モンスターを圧倒出来る程に強くなるか、プレイヤースキルを上達させ、上手く立ち回れる様になるかだ。
だが、言葉で言うほど簡単なものでもない。
前者は、時間的に厳しいものがある。ソレル達のレベルなら、まだ一日に一つから二つ程度ならレベルアップも望めるだろう。だが、それ以上となると厳しいものがある。慣れたプレイヤーならまだしも、初心者二人にそれを望むのは酷だ。
後者も後者で無理がある。そもそもプレイヤースキルは、日々の経験の下で培われるものだ。一朝一夕で身に付くものではない。だが、慣れた者が教えるなら、ただ戦うよりはずっとマシと言えるだろう。
ギルドのメンバーが手伝えるのは一日だけだ。メンバーの人数を考えれば試験期間のほぼ半分は、誰かに手伝ってもらえる事になる。だが、残りの半分は二人だけなのだ。運良く、メンバーが居るときにアイテムを入手出来ればいいのだが、確実性はない。なら、二人で居る間も、少しでも効率よくモンスターを倒していかねばならない。
現状では、プレイヤースキルを上げるのが確実だろうというのが、先ほどの戦闘を見ていたラシルの考えだった。
ラシルはこの事を伝え、こう付け加えるのだった。
「安心しろ、効率は落とさないから」
こうして、一行のダンジョン探索は再会されるのだった。
――一時間後。
「ご、ごめん、ちょっと休憩させて」
「私も・・・」
そう言って、ダンジョン内で座り込むソレルとハルカの姿があった。
「なんだ、もうか。しゃーねーな」
疲労困憊といった様子のソレルとハルカに比べ、悠々とした様子のラシル。傍から見れば、とても一緒に居た様には見えない。
一行が行動を再開してから、ラシルによる特訓が始まった。
ソレルには、攻撃を回避する方法を、ハルカには立ち回り方法を教えていたのだった。
二人とも、慣れない操作を要求され、毎回の戦闘がこれまでとは違った意味でいっぱいいっぱいとなっていた。
これまでに無い動き、これまでは気にもしていなかった事を気に掛け、今までにないペースで戦闘を続ける。慣れない事をしようと、神経を集中させている為、普段以上に疲れる。
だが、それ以上に戦闘スピードが今までは考えられない程に上がっていた。
元々、このダンジョンのモンスターは多めに配置されている。その為、戦闘をする機会も自然と多くなる。ソレルとハルカの二人も、HP回復の為に時間を割いていたが、それでも戦闘数はなかなかのものだった。そう思っていた。
だが、ラシルが加わった事で、回復の手間がなくなった事もあるが、それ以上に戦闘をする回数が増えていた。モンスターを倒すスピードが上がった事もあるが、なにより、ラシル自身がモンスターを連れてくるのだった。
これにより、戦闘の終わりが見える頃にはもう次の戦闘、といった様になり、終わりが見えることはなかなかないのだった。
最早、ソレルとハルカには、一時間ずっと戦闘をしていた様にしか感じられないのだった。
「お前らが休憩してる間にもうちょい戦闘してくるわ」
ラシルはそう言うと、一人その場を離れるのだった。
「アイツ、どんだけ元気なのよ」
「ラシル君は慣れてるしね」
そんなラシルの様子に呆れたように呟くソレル。ハルカも苦笑するしかなかった。
壁際に沿い、座り込む二人。HPは減っていない為、わざわざこうして座る必要はないのだが、立ったままで居るとどうしてお休憩という感じがしない為、こうしている。
周囲にモンスターの気配はない。予想もしていなかったほどの戦闘の多さに、今までこうして座りながらゲームをしていたことが、どこか懐かしく感じられる。
「しかし、神代のヤツ。どんだけ強いのよ」
自身の経験値を見ながら、ソレルが呟く。
現在は三人でパーティーを組み、経験値は三等分となっている。若干レベルの足りないソレル達とはいえ、この状態では経験値が大きく入る事は無い。その状態にも関わらず、レベルアップまでの経験値の溜まり具合を示すゲージはゆっくりではあるが、着実に増えつつあった。
「神代君は随分やってるみたいだし」
ソレルがラシルを本名で呼んだことに釣られてか、ハルカも本名で答える。
初心者の二人から見ても、ラシルのプレイヤースキルの高さは十分に理解出来た。いや、初心者だからこそだろう。
相手にするモンスターが少なくなると、ラシルは新たにモンスターは連れて来る為に、戦闘から離れてしまう。だが、毎回連れて来る訳ではない。ソレル達の戦闘が速く終わり、ラシルに追いつく事もあった。
そんな時に目にしたのが、三体から四体ものモンスターを相手に立ち回り、互角以上に戦うラシルの姿だった。
決して広いとはいえない通路を隅々まで活用し、モンスターの攻撃範囲から逃れては、反撃を繰り返す。その様子は、ラシル一人が別のシステムで動いている――いや、別のゲームをしているのではないかと思わせるほどだった。
「お前ら、ネットで人のことを本名で呼ぶな」
そんな話をしていると、ラシルが呆れた口調で言う。ボイスチャットで話していた為、ラシルにも聞こえていたのだった。
「あはは、ごめんごめん」
「ついうっかりで・・・」
「ったく・・・。それより、そろそろ合流しないか?」
二人が休憩を始めてから、既に十五分が経過していた。知った仲とはいえ、これ以上ラシル一人に任せる訳にもいかない。それに、休憩には十分な時間だった。
「そうだね」
「じゃあ、そっちに向かうから」
二人はそう言って立ち上がると、マップに写るラシルを指すマーカーを目指して移動を開始する。
初めこそ、モンスターに会う事もなくなく順調に進んでいたが、そのまま合流出来るほど甘くもない。道程の中ほどでモンスターに遭遇する。
数は二体。しかも、どちらもアーマーソルジャーだ。
今までなら、かなりの苦戦を強いられる事になっていた。だが、今はラシルに鍛えられたプレイヤースキルがある。それなら、随分と楽に戦えるのではないか?ソレルはそう考えていた。
「ハルカ、行くよ!」
そう言って、モンスターへと駆ける。
「うん!」
ハルカもそれに答え、射程範囲内へと移動する。
一発、二発――ソレルの攻撃が命中する。それに合わせて後方からは、ハルカの矢が飛んでくる。
一方、アーマーソルジャーは、ダメージを受けながらも、ソレルに攻撃をしようと剣を振りかぶっている所だ。
まだいけるだろうか?
一瞬の迷い。だが、この一瞬が命取りとなる。ソレルの状態は既に、攻撃後の硬直状態となっていた。こうなってしまっては、最早どんな行動も受け付けない。
(――しまった!)
気付いた時には既に遅く、ボタンの連打も空しく、ハルカの攻撃を受けながらもアーマーソルジャーの振りかぶった剣が振り下ろされる。
二体のモンスターからの攻撃を受け、ソレルのHPは一気に消耗する。一旦距離を取り、アイテムで素早く回復をすると、再びモンスターへと迫る。
次は先程の様な事はしない。二度の攻撃の後、素早くバックステップで距離を取る。アーマーソルジャーの攻撃を回避したことを確認すると、更に三回の攻撃を叩き込む。これが現在のソレルの最大攻撃回数だ。
アーマーソルジャーはまだ攻撃態勢にも入っていない。
まだいける。
今度は迷わない。あと一撃。そう思いながら、攻撃ボタンを連打する。だが、思いのほか長い、攻撃後の硬直と、斧故の攻撃速度の遅さで、後手に回ってしまう。結果、攻撃は出来ずに、再び、ダメージを食らうこととなる。
結果、安全に行こうとすれば、思うようにダメージを与えられず――しかし、欲を出せばダメージを受ける。ラシルの動きを思い出し、真似をしようとすればするほど上手くいかず、戦闘が終わる頃には、いつもと変わらない程のダメージを受けていた。
「はぁ〜・・・。ホントに効率よく戦える様になるのかな・・・」
思わずそう呟く。
勿論、ラシルと同じ様に動けるなどと思ってはいない。一時間程度ではどうにもならないものだとも理解している。だが、全く進歩を感じられないのでは不安になってくるのだった。
その後も戦闘を重ねながら、無事ラシルと合流する。
「なんか、あんたの言うこと聞いてていいのか心配になってきたわ・・・」
「出会い頭の一言目がそれかよ」
突然の事になんの事かわからず、ただ呆れるしかないラシル。
「いや〜、全然上達しないなと」
探索を続けながら、先の戦闘のことを話す。
「まぁ、気持ちはわかるが・・・一時間程度で上手くなられたらオレ泣くぞ?」
冗談交じりにラシルが言う。
ラシルが教え込まれた当時、コツだけはその日の内に掴んだものの、なんとかサマになるまで三日。使いこなせる様になるまではなるまでなら、どれほどかかったかも分からないほどだ。
「まぁ、しっかり鍛えてやるよ」
そして、再びラシルによる特訓が再開されることとなった。
この日は、このまま夜まで続くこととなり、その甲斐あってか、ソレルもコツだけはなんとか掴めてきた様だった。尤も、主だった成果はその程度で、本命――ルーンソードは影も形も見せないのだった。
次の日。この日は休みの為、昼にはソレルとハルカの姿があった。昼食を取り、ソレルがハルカを誘ったのだった。
「私が誘っておいてなんだけど、ネットゲームってのもアレよね・・・」
今二人は、久しぶりに戻ってきた溜まり場で過ごしていた。
昨日、ラシルと別れた際に、彼のトランスゲートに一緒に乗ってしまった為に、ライラックへと戻る事になったのだった。
「まぁ・・・たまにはいいんじゃないかな?」
たまに――そう言いながらも、つい最近もこの様な状況だった事を思い出し、つい苦笑してしまうハルカ。
現在は試験中ということで、二人ともログインしたものの、昨日に長時間やり続けたこともあり、どちらも腰が重い。中々、アルメリアに行こうとは切り出せない。
そろそろ、ダンジョンに向かった方がいいだろう。互いにそう思いながらも、ついつい話しに花を咲かせてしまう二人だった。
そうしている内に、二人のキャラクターが姿を現す。エルナとリシュリーだ。
「あれ?二人とも珍しいね。もしかして、アイテムゲットした?」
最近は、すっかり姿を見なくなった二人を発見し、早速声を掛けるエルナ。
「いや〜、さっぱりですよ〜」
「全然見つからないです」
冗談交じりにソレルが答える。それに合わせる様に、ハルカも言う。
「あ、そうだ!もし良ければ、これから手伝ってもらえませんか?」
「ダメだよ、咲希!」
ソレルの提案に、ハルカが慌てて止める。本名なのは、今は二人だけでパーティーを組んでいるからだ。
「え、なんで?」
二人の事情を知らないソレルは、ハルカの慌て様に不思議に思いながら聞き返す。
エルナとリシュリーのプレイヤーは、現在高校三年生――つまりは、受験生だ。本来なら、こうしてゲームをしている間などほとんど無いのだが、二人が希望する大学なら、まだ成績に余裕がある為、こうしてログインしているのだった。
普段ならば、放課後に二人で勉強をし、それから帰宅となるのだが、今日の様な休みの日なら、こうしてログインしていながらも、ボイスチャットで連絡を取り合いながら勉強していることも珍しくない。
そんな事情を知っているメンバー達は、極力自身からの誘いは避け、エルナ達からの誘いを待ち共に行動することがほとんどだった。
「それじゃぁ、すぐに断った方がいいね」
二人の事情を聞き、早速チャットを撃ち始めるソレル。
「ああ、いいよ。リシュリーも大丈夫だよね?」
「しょうがないな〜。その代わり、夕方からはみっちりやるよ?」
だが、それも遅くエルナが了承する方が早かった。
「本当にいいんですか?」
「大丈夫だって。夕方までだけどね」
思わず聞き返すハルカ。無理に自分達に合わせているのではないかと思い、申し訳なくなってくる。
時間に制限が付いているので、本当に大丈夫なのだろうが、やはり邪魔をした様に思えてしまい、少し後ろめたい気持ちになる。
「すいません」
「気にしないの。私達もいい気分転換になるんだし」
リシュリーがフォローを入れる。尤も、これは本心でもある。だからこそだろう。この言葉で、ハルカの気持ちも随分と楽になるのだった。
「それじゃぁ、時間も勿体無いし、さっさと行こうか」
エルナの一言で、早速アルメリアへと向かうのだった。
アルメリアまではあっという間だった。再び徒歩移動を予想していたソレルとハルカは、いい意味で予想を裏切られた事となる。
「リシュリーさんもトランスゲートの魔法使えたんですね」
「これでも、元は僧侶系だしね」
感心するハルカに答えるリシュリー。
リシュリーは今でこそウィザードだが、本人も言う様に初めはは僧侶系統のクラスをしていたのだった。それもマスターし、今ではこうして魔術師系のクラスとなっている。
ラシルとは違い、スキルはしっかりと習得してからのクラスチェンジだった為、僧侶系が使う白魔法のスキルは、ほぼ全てを最高レベルで使用出来る状態となっている。
アルメリアへと着いた一行は、早速ダンジョンへと向かう。
「そうだ。パーティーどうしようか?」
目的地に着いた所で、エルナがパーティーを決めていなかった事に気付く。
ラシルの様にレベルが近ければ、アイテムの探索と同時にレベル上げが可能となるので、そのままパーティーを組んだ所で問題はない。
だが、今回の様にレベル差があれば、経験値の分配が出来なくなる為、簡単にパーティーを組むわけにもいかない。
「レベル差もあるし、このまま二パーティーでいいんじゃない?」
「でもこの子達の回復に困らない?」
エルナが危惧していたのは、経験値とは別の所にあった。
メンバーの関係上、回復はリシュリーの担当になる。そして、リシュリーの様に支援に慣れたプレイヤーなら、ある程度は仲間のHPを確認せずともしっかりと回復が出来る。だが、それは親しい者との場合だ。
ハルカやソレルはギルドに入って間もない。自身の環境からも、先にギルドに入っているハルカですら、一緒にどこかに行った事など、数回程度だ。そんな状態で、二人を守りきることは難しいだろう。
「それもそっか。しょうがない、今回は経験値はちょっと諦めてね」
リシュリーはそう言って、四人で組む為のパーティーを作成する。残りの三人にも呼びかけ、新たなパーティーで探索を開始するのだった。
一本道の通路を進み、モンスターを探す。休日だけに、プレイヤーが多いのか、この通路どころか、壁の向こう側にもモンスターの姿は見えない。
普段ならば、それほど気にしない状況だが、今回は、この状況がもどかしく感じるソレルだった。
そんなソレルの気持ちを察してか、丁度モンスターが姿を現す。
モンスター発見と同時に、まずはリシュリーが魔法の詠唱を開始する。そして、エルナがモンスターへと突っ込んで行く。
エルナはラシルの様に、回避に特化したキャラクターではない。防御に重点を置いたキャラクターだ。その為、避けるような事はせず、攻撃は全て受け止める。
ラシルの様にほとんどが「MISS」と表記される事はない。だが、ダメージの表記はほとんどが一桁だ。その為、モニターに写るエルナのHPゲージはほとんど減る事がない。モニターの表示だけを見れば、ダメージを受けている事すらわからないだろう。
そこに、詠唱を完了したリシュリーが『フレイムアロー』の魔法を発動させる。十本の炎の矢が、次々とモンスターに命中していく。そして、モンスターはそのまま撃破されるのだった。
ソレル達は、参戦する間もなく戦闘が終了してしまった。かなりのレベル差があるとはいえ、自分達が苦労してやっと倒せるモンスターを軽々と倒す所を見て、改めてレベルの差の大きさを思い知る。
「じゃぁ、ここからは別行動にしよっか」
一本道の通路が終わり、分かれ道となる。そこでエルナが提案する。
彼女のいう意味がわからず、沈黙するしかないソレルとハルカ。
「私とリシュリーが一緒に居ても効率下げるだけだからね」
エルナの言いたい事はこうだ。
エルナとリシュリーの二人は、この場所をソロで活動は十分に出来る。だが、リシュリーは、魔法を使う関係上、どうして詠唱が存在する。だが、詠唱はダメージを受けると中断してしまう為、アクティブモンスターばかりが徘徊するこの場所では少しやり辛い。
そこで、ソレルとハルカにリシュリーの詠唱中、彼女を守りながら戦い、エルナはソロで戦闘をしていけば、効率は上がるだろうというのだった。
その事を説明し、話の見えなかった二人も漸く、エルナの意図を汲み取る事が出来た。
「マスターが構わないなら、私は賛成です」
「私も異議なし」
エルナの提案に、ハルカとソレルも賛成する。
「リシュリーは?」
「うん、いいと思うよ」
リシュリーも異議は無い様で、エルナの提案は可決となった。
「それじゃぁ、また後で」
エルナはそう言うと早速、一人ダンジョンを進んで行くのだった。
「私達も行こうか」
リシュリーの一言で、残ったメンバーも探索を再会する。
モンスターの数が少ない。そう思えたのは最初だけだった。エルナと別れて間もない内に、モンスターと遭遇する。
今度は見ている訳にはいかない。ソレルがまずモンスターへと向かう。それに会わせる様に、ハルカが矢を放つ。いつも通りの連携だ。
「ハルカちゃんは後ろにも注意してね」
リシュリーがそう言いながら、魔法の詠唱を開始する。
モンスターからの攻撃を引き付けるソレルは、昨日を思い出しながら、攻撃を回避していく。自身はエウナの様な防御型ではない為、彼女の様な戦法は取れない。
昨日、ずっとやっていたせいか、動きには随分と慣れてきた様子を見せる。だが、それ以上に、リシュリーと組んでいるということが、一番大きかった。
昨日の様に、ラシルと組んでいれば、回避と同時に攻撃もこなさなければならない為、どうしても操作ミスが出てしまう。だが、今回はリシュリーが魔法を発動するまでの間、時間を稼げばいいのだ。
魔法が発動すれば、確実に撃破――とまではいかなくても、それに近い状況にはなる。意識を攻撃にも向けなくても大丈夫という現状は、ソレルに余裕を与えるには十分だった。
攻撃と回避行動を数回繰り返したところで、リシュリーが『フレイムアロー』の魔法を発動させる。先程の様に、十本の炎の矢がモンスターへと迫り、そのまま撃破となる。
「すごいですね」
思わずそんな言葉が出てくるソレル。
「これでもレベル80台だからね」
少し照れたようにリシュリーが答える。
こうして、探索を続けること一時間。今のところ、目的の『ルーンソード』は出ない。別行動をしているエルナからも、そういった報告はされていない為、あちらも同じ状況なのだろう。
探索を続けている内に、偶然エルナの側まで来た一行。一旦合流する為に近付くが、彼女のマーカーが寄って来る様子はない。恐らく戦闘中なのだろう。
特に気にする事もなく近付いていくと、そこには、やはり戦闘中のエルナの姿があった。
モンスターの数は四体。昨日、ラシルから教わった戦闘方法で、随分と受けるダメージが減ったソレルとハルカだが、それでもこの状況は二人には十分厳しいものだろう。
だが、エルナは違う。モンスターの数など気にする様子も無く、そのまま突っ込んでいく。事実、モンスターの数など、気になる程ではない。四体ものモンスターから攻撃を受けているため、受ける攻撃の数こそ多いものの、どれも大したダメージではない。表示されているHPのゲージも全くという訳にはいかないが、ほとんど減った様子はない。
逆に、エルナからの攻撃は、モンスターには十分すぎるほどのダメージを与えている。一撃が重い。ソレルやハルカ、それにラシルと昨日に組んでいた、どのプレイヤーとも戦闘スタイルが違う。
通常攻撃からスキル、そして、更に追い討ちを掛け、一気にモンスターを倒してしまう。まるで、モンスターから攻撃を受けている事など気付いていないかの様にさえ見える。
一体倒すと次。それが終わると、また次と――見る見るうちに、四体のモンスターを倒しきってしまう。
「お疲れ様」
エルナの戦闘が終わるのを見計らって、リシュリーが『ヒール』の魔法を掛ける。
「ありがと。こっちは全然収穫無しだけど、そっちは?」
「こっちもです」
互いにパーティーを組んでいる為、行動は別とはいえボイスチャットによる会話は出来る。そして、会話の中にアイテムの話題は出てこなかったので、予想はしていたが、改めて本人の口から聞くと、どうしても少し気落ちしてしまう。
「まぁ、まだ時間はあるんだし、気長にいくしかないよ」
そんなソレルの気を察してか、エルナが明るくそう言うのだった。
そして、再びエルナと別れ、ダンジョンの探索を再開した。
ソレル達一行は、アルメリアへと戻っていた。
時刻は既に五時。夕方――というには少し早いが、そのまま終了となった。
結果は――やはりアイテムは入手出来ずに終わった。それ以外の収穫といえば、ソレルとハルカがそれぞれレベルを一つずつ上げた事ぐらいだろう。
「今日はありがとうございました」
「こっちも楽しかったよ」
二人の勉強の邪魔をしてしまい、少し後ろめたい気になっていたソレルだが、気にしていない様子を見て、少し安心する。
「それじゃあ、私達は戻るけど、二人はどうする?」
「私達はここでいいです」
「戻ると、また来辛くなりそうですし」
溜まり場に戻ってしまうと、今回の様になかなか動けなくなりかねない。そう考えた二人は、アルメリアに残ることにした。
二人の言葉を受け、エルナとリシュリーはトランスゲートの中へと消えていく。二人の状況を考えると、今日はこれ以上徹だってもらうことは出来ない。二人の手を借りられるのもここまでだ・
「これからどうしようか?」
「う〜ん、ちょっと疲れたし、今日はもうやめとこうか」
ソレルがハルカに答える。
昨日は、丸一日。そして、今日も半日とずっとゲームを続けていた二人。ソレルも、試験中とはいえ、これだけ続けては、流石にこれ以上続ける気は起きない様だった。
ハルカもそれは同様で、ソレルの言葉に、内心安心する。
そして、二人ともログアウトをして、この日は終了となった。
休日が終わり、再び平日が訪れる。学校がある為、ゲームをする時間は削られるが、それでも『ルーンソード』を求め、毎日ログインを繰り返すソレルとハルカ。
一日、また一日と成果の無い日が続く。初めのうちこそ、まだ余裕が見られたが、日が経つにつれ、それに比例するかの様に、焦りが出てくる。
どんなにモンスターを倒しても、手に入るのは目的の物以外のアイテムばかり。本当にアーマーナイトが落とすのだろうか?そもそも、他の方法を取った方が良かったのではないか?
そんな考えまでが浮かんでくる。
そして、ついには土曜となる。期限はこの日を入れてあと二日となっていた。
学校が終わり、昼食を取ってすぐにログインをしたソレル。ハルカの姿はまだない。恐らく、まだ昼食を取っているのだろう。
ハルカを待つ間に、先に準備だけ進めておく。一週間もの間、この町にいるせいかすっかり馴染みの町となっている。
準備を済ませ、ハルカを待つ事数分。アルタスがログインしてくる。
「お、ソレル発見!今って狩り中?」
ソレルがログイン中なのを確認すると、早速ギルドチャットで話しかけてくる。
「今はハルカ待ちですよ〜」
「丁度よかった。オレとウィシュナ連れて行かないか?」
アルタスから意外な提案が出される。
エルナ達に手伝ってもらった後、平日で長時間のゲームが出来ない事を理由に、ずっと二人でアイテムを探していた。その為、アルタスとウィシュナの二人は、未だこの試験に関わっていない状態だった。
予想外の申し入れに考え込むソレル。これまで、アイテムの探索ばかりに気を取られ、あと二人居るメンバーにどこで手伝ってもらうかは、考えていなかった。
とはいえ、残り二日。今日と明日で一人ずつ――というのが一番妥当だろう。だが、アルタスは二人でと提案している。それでは、どちらか片方だけというのも申し訳ない。
そうなれば、今効率を上げるか、明日の最終日に効率を上げるか。違いはそれだけだ。
「それじゃぁ、お願いします」
それが、ソレルの返答だった。と、言っても特に深い意味は無い。ただ、単純に、早いほうがいいだろうと思っての事だった。
「わかった。それじゃウィシュナが来たら合流するな」
――十分後。
全員が揃い、すっかり通い慣れた、いつもの場所へと向かうのだった。
目的地に着くと同時に、二体のモンスターに襲われる。先陣を切っていたソレルが、二体のモンスターの攻撃を早速浴びる事になる。
前方をモンスターに塞がれ、思うように動く事も出来ずに、ラシルと組む前の様な戦い方となってしまう。
だが、それも束の間だ。すぐに、残りのメンバーも姿を現す。こうなってからは、早かった。瞬く間にモンスターを仕留め、不意打ち気味で始まった戦闘は、ソレル達の圧勝となった。
戦闘終了後、ウィシュナの『ヒール』で、ソレルのHPは全快する。
以前に、ラシルやリシュリーと組んだ時も感じていたが、やはり支援魔法があると随分と楽になる。
ソレルとハルカは、クラスの関係上、自身や他者を回復するスキルというのは持ち合わせていない。その為、回復するとなると、アイテムか時間の経過による自然治癒しかない。だが、この二つは、前者なら数による制限が、後者なら時間が掛かるという欠点がある。
勿論、スキルの使用にも、SPによる制限と詠唱時間があるが、それでもSPさえあれば、無制限に使えるスキルは十分に魅力的だった。
そして、何より、ソレルはスキルを多用しない傾向にある事も大きい。
ソレルは商人だ。そのクラス故、スキルも攻撃に特化している訳ではない。その為、SPは余りがちとなっている。それなら、それで回復を――とどうしても思ってしまうのだった。
この試験が終わったら、回復系のスキルだけでも習得するのもいいかもしれない。これまで、ギルドのメンバーと組んで、ソレルはそう思うのだった。
モンスターを倒し、早速探索を開始する一行。
少し進んだ所で、再びモンスターと遭遇する。今回は幸先がいいように感じられる。
まずは、アルタスがモンスターへと向かう。そして、一撃。更に続け、攻撃の最大数まで出し切る。途中モンスターからの攻撃もあったが、気にはしない。
だが、エルナの様な、防御型のキャラクターと言うわけではない。事実、モンスターから受けるダメージは、ソレルの受けるダメージよりも低いものの、ダメージを抑えているとは言い難いものだった。
モンスターの攻撃が終わるのを見計らって、ソレルも攻撃に参加する。アルタスの攻撃と、ハルカが後ろから矢を放っていた事もあり、ソレルが攻撃に参加して間もなく、戦闘は終了となった。
「やっぱり、前衛が一人増えると全然違いますね〜」
今までよりも、格段に短い戦闘時間を体感し、ソレルがそう口を開く。これまでの様に、ソレルとハルカの二人では、まずありえない短さだ。
「ホントだねぇ。私も助かるよ」
ウィシュナが答える。若干含みのある答えだったが、戦闘時間が短いということは、それだけダメージも抑えられる。つまりは、プリーストであるウィシュナの仕事が減るという事だ。
そういう意味なのだろうと、ソレルもハルカも受け取っていた。だが、この時点で、ウィシュナの言った事の本当の意味を理解している者は居ないのだった。
探索が進み、次々とモンスターを倒していく一行。一度に現れる数が少ない為、戦闘に苦戦する事も無い。だが、逆に戦闘回数は多い為、モンスターを倒した数は中々のものとなっている。ソレル達にとっては、やりやすい環境となっていた。
相変わらず、『ルーンソード』は見つからない。だが、久しぶりにいつもと違う環境での探索のせいか、ハルカを待っている間に感じていた焦りは、今はどこかへと消えていた。
快調に進む事一時間。これまで、特に大きな問題もなく、目的のアイテムが出ない事を除けば、まさに順調といえた。
基本的に、幅の狭い通路で構成されているこのダンジョンだが、それだけではない。少しではあるが、広がりのある――部屋の様な場所も存在している。
丁度、一行はその内の一つへと来ていた。
部屋に入った所から、モンスターの姿が見える。だが、そこに居たのは一体や二体ではない。今見えているだけでも四体ものモンスターが固まっていた。
ソレルが一歩踏み出すと、更に二体のモンスターの姿を確認出来た。
このまま突っ込んでいいものか迷う。モンスターは最低でも六体。こちらの戦力は四人。内二人は、ソレルやハルカよりも高レベル。しかもその内の一人はプリーストだ。
攻撃、回復共に問題無い様にも思える。だが、それでも、踏み出すには躊躇してしまう。流石に、一度に相手にするには、モンスターの数が多すぎる。
だが、そんなソレルの悩みはまるで関係ないと言わんがばかりに、アルタスが突っ込んでいく。
「え?ちょっ・・・アルタスさん!?」
思わず口を開くソレルだが、反応が帰ってくることは無い。勿論、止まる事も無い。そのまま戦闘へと突入する。
「はぁ、やっぱり」
「はは・・・相変わらずだねぇ」
そんなアルタスの行動に、ウィシュナは溜息を吐きながら呟き、ハルカは苦笑しながら、戦闘へと参加する為に、ソレルの脇を抜けて行くのだった。
予想外の行動に呆気に取られていたソレルだったが、二人の行動で我に返り、自身もまた、戦闘へと参加する。
モンスターは、全部で六体。入り口付近から確認出来た分で全部だった。そして、その六体のモンスターから、攻撃を一身に浴びるアルタス。
だが、そこに、回避というものは存在しない。ダメージを抑える訳ではなく――かといって、回避をする訳でもなく、ダメージを受けながら、攻撃を繰り出すアルタスの姿があった。
このダンジョンに来るには、十分過ぎるレベルと、ロードというクラスの特性上、HPは高い。その為、これ程の攻撃を浴びても、致命傷という訳ではない。だが、それでも、ゲージは随分と削られている。
戦い方こそエルナに似ているが、内容は全くの別物だった。
アルタスに追いついたウィシュナとハルカ。まずは、ウィシュナが『プロテクション』の魔法を詠唱する。それと同時に、ハルカが攻撃を開始する。
詠唱時間はごく僅かだ。ハルカが二本目の矢を放つ頃には、もう魔法が発動していた。
魔法により、防御力が増すアルタス。これで、ダメージは抑えられるが、それでも十分とはいえない。
次に、『ヒール』を唱え、アルタスのHPを回復する。そこで、漸くソレルが追いついてくる。
モンスターの隙を窺い、攻撃を繰り出すソレル。モンスターの数に機を取られ、回避のタイミングを見誤り、回避行動が遅れる。だが、なんとか紙一重で避ける。
「ソレルさんは、なんとかダメージを食らわない様にお願いします」
ウィシュナから、そう指示が出される。アルタスの支援で、ウィシュナも余裕があるとはいえない状況だ。
その事をとっさに理解し、ソレルは攻撃の手を緩める事にする。ラシルに教わった戦闘方法を練習し始めて一週間。いつも通りに攻撃を加えながら、ダメージを受けずに立ち回る事が出来るほどの腕は、ソレルにはまだなかった。
今までの通路とは違い、小部屋となっている為、スペースは広い。その為、これまでよりも自由に動ける様になっている。
ソレルは回避行動を繰り返しながら、周囲を動き回り側面から――あるいは後方からと、モンスターを攻撃していく。
ソレルが与えるダメージは決して高いとは言えない。その為、モンスターを倒すには、どうしても時間が掛かる。手数を抑えている現状では尚更だ。現状で、攻撃に期待出来るのは、アルタスと、ハルカだけだった。
これまでよりも、時間が掛かったものの、なんとか一体、また一体とモンスターを撃破していく。
モンスターを一体倒す度に、確実に戦闘が楽になるのを感じる事が出来た。
順調に数を減らし、ついには最後のモンスターも無事撃破する。
「ウィシュナちゃんが、最初に楽が出来るって言ってた意味が分かった気がするよ」
「同感・・・」
ハルカの言葉に、ソレルも同意する。
「アルくんってばいつもあんな感じで・・・」
溜息を吐きながら、どこか諦めた様子でそう言うウィシュナ。
今回のアルタスの、暴走とも取れる様な行動は、今に始まった事ではない。
敵を見つけると、とりあえず突っ込む。それがアルタスの戦闘スタイルだ。これは、かなり厄介なのだが、それ以上に厄介なのがパラメータだ。
アルタスは防御にはほとんど重点を置いておらず――装備品はそれなりに気にしているが――パラメータの重点を置いているのは力――つまりは攻撃力に重点を置いている。結果、先の戦闘の様に、避けられない、耐えられないという状況に陥っている。ただ、この状態は必ずしも悪いという訳では無い。
攻撃力が高い分、モンスターの殲滅が早いのも、また確かだ。ただ、攻撃を回避しようとしない為に、こうして、悪い部分ばかりが目立ってしまうのだった。
そんなアルタスと組んでいるウィシュナだが、回復、支援行動に関しては、かなりのプレイヤースキルを誇っている。
周囲からの評価も中々のもので、同期間プレイしている者の中でならトップクラスの腕前なのではと言われる程だ。
無茶をすると、周囲に迷惑の掛かるパーティープレイでは、どうしても動きが慎重になる。そして、そういった面々をサポートする事は、普段、暴走しがちなアルタスと常に組んでいるウィシュナには、随分と楽なものだった。
事前にサポート魔法を掛け予防線を張り、仲間が受けるダメージを確認しながら、HPゲージに合わせ、回復をしていく。更には、SPが尽きない様に、余裕のある時には、自身が攻撃をするのも忘れない。
ウィシュナにとっては、普段アルタスと組んでいる時にしている事を、そのままやっているだけなのだが、周囲が、彼女を称えるには十分過ぎる動きだった。
「でも、よくあそこまで支援しきれますねぇ」
感心した様に、ソレルが言う。ソレルがダメージを極力受けない様に立ち回ったとはいえ、少しでもミスがあれば危ない状況だっただろう。
「まぁ・・・慣れてるからあれぐらいは」
照れ笑いの様な――しかし、苦笑とも取れるような反応を見せながらそう答える。
そうした話題で盛り上がりながら、一行は探索を再会する。
その後は、特に苦戦する事も無く――とは行かず、時折ピンチに陥りながらも、なんとか切り抜けるのだった。
そして、気付けば、既に日付が変わろうとするぐらいの時間になっていた。
ほぼ、丸一日掛けたこの日も、結局成果はないまま終わってしまった。ついには、最終日を残すのみとなってしまったのだった。
「うう〜・・・どうしよう、ハルカ」
「どうするもなにも、一体でも多く倒して、少しでも確立を上げるしかないよ」
アルメリアの道具屋前。すっかり二人の溜まり場となったこの場所で、情け無い声を出すソレルと、それを宥めるハルカの姿があった。
ついに迎えた、試験最終日。これまで、どれだけソレルとハルカでがんばっても、ギルドのメンバーの協力があっても、一切『ルーンドード』は出なかった。その事が、ログインしたばかりにも関わらず、ソレルをすっかり意気消沈させているのだった。
「とにかく、こんなとこに居てもしょうがないし、とりあえず行こ?」
「うん、そうだね」
いつもはどこか頼りない感じのあるハルカだが、この日ばかりは頼もしかった。
ハルカの言葉に後押しされる形で、ダンジョンへと向かうのだった。
十日間通い続け、すっかり慣れた道を歩く。初めこそ、マップを見ながらでも迷っていたが、今では逆にマップを見なくても進む事が出来る。そして――同じく見慣れたいつもの場所へと辿り着く。アルメリアダンジョン地下一層。
「今日こそ出すわよ!」
「うん!」
わざと大きめの声を出し、不安を掻き消すソレル。それに会わせるかの様に、ハルカの返事も力強いものだった。
ダンジョンを奥へと進み、モンスターと遭遇する。まだまだ完璧とはいえないが、ラシルに教わった戦闘方法のおかげで、随分と自身が受けるダメージが減った。一体程度ならば、ダメージを受ける事が珍しい程だ。
初めの頃に、思うように戦えずすぐに引き返していた事が、今では懐かしかった。
手早くモンスターを倒すと、更に奥へと進んでいく。途中出会うモンスターを一体、また一体と、順調に倒していく。
十日間で、ずっと戦闘を繰り返していた事からレベルが上がった事もあるが、それ以上に、ソレルとハルカのプレイヤースキルの上達が大きい。
とはいえ、モンスターに集団で出てこられると、やはり、どうにもならない。
順調に――しかし、時にモンスターに囲まれ苦戦を強いられながらも、モンスターを倒していく二人。
それでも、目的のアイテムは出る事は無く、時間は刻一刻と過ぎていくのだった。
「全然出ないわね〜。確率ってどれぐらいなの?」
「0.1%って昨日ラシル君が言ってたよ」
アルメリアの道具屋前。ハルカの矢の補充に戻ってきた二人は、そんな会話をしていた。
「0.1%か〜・・・。ってことは千体倒せばいい訳ね」
「えっと・・・そんな単純なものじゃない気がするけど・・・」
ハルカの言う様に、そんな単純なものではない。千体のモンスターを倒して、0.1%の確立で手に入るアイテムが確実に手に入るなら、このゲームからレアアイテムという存在はなくなるだろう。
勿論、そんな事はソレルもわかっている。だが、そうでも考えないと、最早手に入る気はしないのだった。
「因みに、今何体ぐらい倒したの?」
「えっと・・・300体ぐらいじゃないかな?」
ハルカが手元にあるモンスターからのドロップアイテムから、大まかな討伐数を数える。
「うう〜・・・やっぱ無理な気がしてきた・・・」
現在、時刻は午後五時。昼から始めて、この数だ。残りの時間を考えると、千体のモンスター――それもアーマーナイトのみを倒すのは無理だろう。そう思うと、ますます意気消沈するソレルだった。
「もう〜、そんな事言ってるなら、とりあえず行った方がいいよ?」
「なんか、アンタのプレイスタイルが段々神代に似てきた気がするわ・・・」
「時間に余裕がないからだよ」
そう言って、ハルカが先に歩き出す。このまま口で言っても仕方ないと判断したためだ。
「あ、待ってよハルカ!」
ソレルも慌ててハルカの後を追うのだった。
探索を再開してからも、成果は相変わらずだった。一時間、二時間と過ぎても、一向に『ルーンソード』が出る気配は無い。
途中、夕食と風呂挟みながらも、それ以外はずっとダンジョンで過ごす。
気付けば、時刻は十一時半を過ぎていた。ここまでくると、アーマーナイト以外のモンスターと戦う事すら煩わしい。
「流石にもうダメな気がしてきた・・・」
慣れない長時間プレイに、疲れ果てた様子でソレルが口を開く。それはハルカも同じ様で、最早、ソレルをフォローする元気も無い様だ。
あと一体――アーマーナイトを倒す度に、そう思いながら、騙し騙しでゲームを続ける二人。
そして、ついに時刻は十一時五十分を指す。それと同時に、アーマーナイトが現れた。
「ハルカ、ちょっと賭けをしない?」
アーマーナイトを目の前にして、ソレルが口を開く。ハルカは、彼女の言いたい事がわからず、続きの言葉を待つ事にする。
「もう時間も無いし、コイツで出なかった試験はすっぱり諦める。どう?」
ソレルの言葉を否定しようとするハルカ。だが、言葉は出ない。
残り時間は十分。これだけあれば、あと一体か二体は倒せるだろう。だが、それで出るとも思えない。だからこそ、ソレルお提案を否定する言葉が出てこないのだ。
それに、これはソレルの試験だ。ハルカはあくまで手伝いでしかない。それなら、引き際は彼女にまかせよう。そう思ったのだった。
「うん、いいよ」
ハルカがそう答えると同時に、戦闘が開始される。
昼からずっと続け、すっかり疲れ果てたはずなのに、これで最後と決めると、不思議と今まで通りに動けた。いや、今までよりも調子がいいかもしれない。
攻撃を繰り出し、モンスターの攻撃を避け、更に攻撃に転ずる。ハルカも、モンスターの動きに合わせながら、上手く軸をずらし、確実に矢を当てていく。
難なく、戦闘は終了する。ソレルは早速、自身が獲得したアイテムを確認してみる。だが、何度見返しても、そこに『ルーンソード』の表記は無かった。
「やっぱ無理だったか・・・。ハルカは?」
念のためにハルカにも聞いてみる。勿論期待などしていない。
「あった。出たよ!」
「え・・・?」
あまりにも予想とは違う反応が返ってきた為、ハルカの言っている事が一瞬理解出来ないソレル。
すると、不意に取引要請が出される。それを承諾し、ハルカの出すアイテムを見てみると、そこには確かにルーンソードがあった。
「ほら、咲希。早く受け取って。急いで溜まり場に戻らないと!」
ハルカの言葉で、漸くアイテムを受け取らないといけない事に気付き、早速『ルーンソード』を受け取る。あとは、溜まり場に戻って、手に入れた証拠としてメンバーに見せれば試験は官僚だ。
「目的のアイテム、やっと出ました!」
大急ぎで帰路に着きながら、ハルカがギルドチャットで報告する。
「もう十分ないよ。急いで戻ってきな」
それにエルナが答える。
溜まり場には全員が揃っていた。試験の最終日ということで、ソレルがアイテムを持ってくるのを皆が待っていたのだ。
「ちょっと時間が微妙かも・・・」
「これでアウトはシャレにならないよな」
そんな事を言いながら、ソレルとハルカの帰りを待つ。だが、少し変化が起きていた。皆がソレルとハルカに注目している為、誰も気付いていなかったが、確かな変化があった。
「はぁ〜、過保護なことで・・・」
それに気付いたエルナが、一人そう呟いた。
ソレルとハルカがダンジョンから出た頃には、残り時間は五分を切っていた。だが、まだ道のりは長い。森を抜け、アルメリアのギルドに行き、ライラックに転送されてから漸く溜まり場を目指せるのだ。時間がギリギリ――いや、足りないぐらいだ。
森の中を、アルメリアに向かい進んでいく。途中に出会うモンスターは全て無視だ。戦闘をしている余裕などない。
道のりの半分位まで来たところで、見知ったキャラクターを発見する。
「ラシル!アンタなんでこんなとこに?」
そこに居たのは、先ほどまで溜まり場に居たはずのラシルだった。
「ちょっとアルメリアに用事があってな」
そう言いながら、魔法の詠唱を開始する。『トランスゲート』の魔法だ。
「帰るついでにお前らも送ってやるよ」
「でも・・・いいの?」
『トランスゲート』を前にして、ハルカは少し戸惑い気味だった。ラシルの手伝いは既に終了している。なのに、溜まり場へと戻る事に協力してもらっていいのか、判断がつかないのだった。
「言っとくけど、手伝いじゃないぞ。たまたま見つけたからついでに奥ってやるんだからな!」
ハルカの意図を汲み取り、そう答えるラシル。あくまで手伝いではなくついでということを強調していた。
「早くしろって。消えるから」
二人の後を押す様に言うラシル。そして、意を決した様に、ソレルとハルカは『トランスゲート』へと飛び込むのだった。
二人が出た場所は、ライラックの街の北側の通路だった。溜まり場まで、それ程距離もない。街中を一気に駆け抜ける。
溜まり場に戻ると、挨拶もそこそこに、エルナへと駆け寄る。そして、取引要請。
エルナが承諾すると同時に、試験の課題であった『ルーンソード』を差し出す。
「これでいいですか?」
「うん・・・合格!」
これで無事、試験はクリアとなった。同時に、ソレルは正式に『空の円舞曲』の一員となる。
「最後のラシルの反則がちょっと気になったけどね」
「さぁて、なんのことやら」
エルナの冗談交じりの言葉に、いつの間にか戻ったラシルが惚けてみせる。だが、エルナはそれ以上追求してくる事は無かった。ラシルもそれが分かっているのか、必要以上に惚ける気も無いようだ。
こうして、十日に及ぶソレルの入団試験は,無事幕を閉じるのだった。
ラシル(以下ラ)「ども〜、お久しぶりです」
ハルカ(以下ハ)「すっかり遅くなっちゃってごめんなさい」
ラ「予想以上に時間がかかったよ・・・」
ハ「ワードのページ数がいつもの倍ですもんねぇ」
ラ「おかげで、今月あと2話アップする予定だったのが無理になったな」
ハ「でも今年最後に2話が終了でキリがいいじゃないですか」
ラ「まぁ、そう考えれば確かにいいかもな」
ハ「作者みたいに基本後ろ向きじゃダメですよ」
ラ「それもそうだな。それじゃぁ、今日はゲストも居ないしまったりするか」
リシュリー(以下リ)「ってゲストを無視しないの!しかもそれまでの会話と繋がってないし」
ラ「ちっ・・・やっぱ今回も居たか」(ボソ
リ「聞こえてるわよ」(汗
ハ「そんな訳で今回のゲストはリシュリーさんです」
リ「空の円舞曲のサブマスターのリシュリーで〜す」
ラ「例によって性格は変わりまくりです」
リ「細かい事は気にしない!」
ハ「それじゃぁ、毎度の如く本編を振り返ってみましょうか」
リ「やっとまともな出番なのに、私の出番は少ないわよねぇ・・・」
ラ「いや、アルタスとウィシュナに比べたらまだマシだろ?」
ハ「私なんか毎回居るのに完全に空気ですよ」(泣
ラ&リ「・・・・・・・・」(汗
リ「ほ、本編って言えば、今回は随分手抜きよね?ダンジョンに居るシーンしかないし、文章もアレだし」
ラ「それは、長くなりすぎるからカットした結果と、同じ様なシーンで作者がダレた結果らしい」
ハ「因みに、まともに書くと、これの倍ぐらいは余裕でいけるらしいですよ」
リ「ちゃんと計画して書かないから・・・」(汗
ラ「完全に読み間違いだな」
ハ「しかも今回のテーマは私達メイン以外のキャラの戦闘シーンの露出らしいので、ダンジョンのシーンを抜く訳にもいきませんしね」
ラ「あと、毎回4話縛りにしてるのも原因だな」
リ「これからも絶対に予想外に長くなるよね・・・」(汗
ハ「あ、でも今月は結構忙しかったのもあるみたいですし、多少長くなっても、意外と今までぐらいのペースでアップ出切るかも・・・」
ラ「忙しい理由も忘年会だしな」
リ「休みに一気に書くってスタイルをどうにかすれば大丈夫かもね」
ハ(フォローできない)(汗
ラ「そんな訳で、次回以降もかなり遅れたりする可能性大な訳だけど」
リ「気長に待ってやってくださいませ。ではまた次回に」
ハ「私のセリフ残ってない!」(泣