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Chapter1-4

 朝8時15分。樹は学校の自分の教室へと到着する。HRホームルームが8時30分からということを考えると、随分と余裕のある登校と言えるだろう。徒歩で登校出来る生徒の中では早い方だろう。実際、クラスメイト達もまだまばらで、この時間に教室に居るのは、人ごみを避け、1本早い電車に乗って登校する生徒や、部活の朝練に出ていた生徒がほとんどだ。勿論、早めに登校している者もいるが、全校単位で考えても極少数だろう。そんな光景も樹からすればいつものことなので、特に気にする様子もなく教室へと入っていく。自分の席へと向かう途中、見知った顔を見かける。昨日判明したハルカのプレイヤー、楠木 遥歌だ。

「おはよう・・・・楠木」

 前日の流れでうっかりハルカと呼びそうになり、変に間が空いてしまう。HNハンドルネームで呼んでも、彼女の場合本名をそのまま使っているので、問題はないのだが、流石に、本名と意識して呼ぶには気恥ずかしい。咄嗟に出てしまいそうになったその名をなんとか押さえ込む。

「あ、お、おはよう、神代君」

 返事が返ってくるものの、見る見る顔が紅潮し、そのまま俯いてしまう。恐らく前日のことをまだ引きずっているのだろう。ちょっとマズかっただろうか?内心苦笑するが、もう手遅れだ。

(まぁ、すぐに慣れるだろ)

 そう思い直すと、自分の席に向かうことにする。というよりは、この様な状態の遥歌の側にいては、あらぬ誤解を受けそうなので、とりあえず離れたかったというのが本音だった。

 それから10分もすると、見慣れた顔が続々とやってくる。湊斗ととりとめの無い話題で盛り上がり、咲希に突っ込まれ、そうしてまた樹の日常が始まるのだった。



 ―――昼休み。

 いつものように目の前には見慣れた友人、湊斗の顔があった。だが、視線を少し横にやると普段の食事時には見慣れない顔が2つ。咲希と遥歌だ。

「お前ら、なんでここにいる?」

 樹が呆れたように聞いてみる。

「まぁまぁ、たまにはいいじゃないの。あんたも両手に花で嬉しいでしょ?」

「両手に・・・ねぇ。一輪しかない気もするけどな」

「どういう意味かしらね・・・!?」

 予想通りまともな答えは返ってこなかったので、代わりに皮肉を返しておく。咲希は樹のセリフの意味を察し、怒気・・・というよりは殺気に近いものを樹に向けてみるが、このようなやり取りはよくあることだ。樹も全く意に介すこともなく咲希の視線を流している。

「で、本当に2人とも今日はどうしたの?」

 先ほどまで、咲希と遥歌が居ることにも全く気にしていない様子で、黙々と食事をしていた湊斗も聞いてくる。

 基本的に彼女らも2人で食事をしている。といっても、時折他のグループに混ざっていることもあるので、樹達のように常に2人でということもないのだが。とはいえ、男子のグループに入っていることなどまず無い。樹や湊斗とは交流があると言っても、そんなに頻繁に話すわけでもない。一見、全く気にしていないように見えた湊斗だが、彼なりに今回の状況は気にしていたようだ。

「どうも遥歌の様子がおかしくてねぇ。どうもこいつが原因っぽくて」

 今度は話を逸らすこともなく答える咲希。最後に樹を睨み付けることも忘れない。

「オレかよ・・・」

 勿論心当たりがないわけではない。だが、未だにあんな調子だったのは予想外だった。チラリと視線を送ってみると、ただただ苦笑しているのだった。

「そう、あんた。一体なにしたのよ、さっさと吐きなさい」

「いや、吐けっつわれてもな・・・」

 どうしたものかと考える。再度遥歌の方を見てみると、言わないでくれと言っているオーラが全身から出ていた。そんなのを見てしまうと、つい悪戯心に火がついてしまう。

「実は昨日・・・」

 深刻な事態になっている。そう思わせるような重々しい口調で話し始める。

「・・・・・・・・・・」

 だが、そのあとが続かない。湊斗と咲希は次の言葉を待っている。

「・・・・・・・・・・」

 やはり、樹の口が開くことはない。流石に2人もかなり怪しんでいる。そして、遥歌は、何を言われるのかと、ずっと落ち着かない様子だった。

「ねぇ、神代。実は何も考えてないでしょ?」

「おう!」

 実はその通りだった。正直に話してもよかったのだが、流石にそれも可哀想に思えたので、なにかくだらないことでも言って、場を誤魔化そうとするものの、いざとなると、結局のところ何も浮かんでこなかったのだ。湊斗はそんな様子をあっさりと看破する。

「あ・ん・た・ねぇ!!」

 咲希の殺気が、再び樹に向けられる。咲希自身、何が語られるのか期待していた部分もあっただけに、先ほどまでより、尚強いものになっている。少し冗談が過ぎただろうか?内心苦笑する樹だったが、咲希から怒気や殺気の類を向けられるのは今に始まったことではない。むしろ、2人のやり取りは大抵こんな感じなのだ。なので、今更気にしても仕方が無いので、今回も気にしないことにする。

「わりぃわりぃ。とりあえず、オレから言うことは無いよ。ってか本人目の前にいるんだから、こんな回りくどいことしないで直接聞けばいいだろうが」

「え!!?」

 突然話を振られ、心底驚く遥歌。そもそも、遥歌が話さないから、樹達のところに来たのに、それを遥歌に聞けというのは、無茶な話だ。樹もそれはわかっていた。実際自分が話してしまってもいいのではないかとも思ったのだが、この場に本人が居るのなら、本人が話したほうがいいだろう。そう思ってのことだ。

「昨日のことだろ?そんな隠すようなことでもないだろ」

 大したことではない。まるでそう言うかのように先を促す樹。確かに大したことではない。前日にあったことと言っても、オンラインゲームで偶然助けられたプレイヤーにギルドに誘われ、そのままパーティーを組んでみたら、偶然にもクラスメイトだったというだけの話だ。確かに、確立としてはすごいことだが、樹と湊斗はファンタジアナイツのことは勿論、自分達がプレイしているサーバーや、キャラクター名など気にせず話しているので、周囲には意外と知られているのだ。その為探そうと思えば、意外と容易に探し出せる。そう考えると、『偶然』という要素さえ除外すれば、オンラインゲーム上でクラスメイトと出会うことなど、取り立てて珍しいことではない。むしろ話の話題としては丁度いいぐらいのようにすら思える。そのため、樹にはそこまで隠したがる理由はわからなかった。

「そう・・・だね。じゃぁ、これ以上咲希が迷惑掛ける前にちゃんと話しとくね」

「ちょっと遥歌。迷惑ってなによ」

 遥歌にしては珍しい言い回しに、内心驚きながらもツッコミを入れる咲希。恐らく先ほどの樹と咲希のやりとりの影響だろう。

 遥歌は2日前のことから話し始めた。ファンタジアナイツを始めたこと、ダンジョンで偶然樹と出会い、ギルドに誘われたこと、パーティーを組んだこと、そして、それにより、お互いのプレイヤーのことが判明したこと。

 話を聞く限りでは、樹は先ほど思い出していたことと、なんら変わり無い。やはり、樹には、そこまで隠したがっていた理由がわからなかった。それは湊斗も同じようで、樹と同じように隠すほどのことには思えないという感じだ。しかし、咲希だけは少し反応が違っていた。

「そっかそっか。よかったね〜、遥歌」

 どうも一人だけ納得しているようだった。しかも何がよかったのだろうか?以前、咲希自身もやっていると言っていたので、彼女に出会ったならまだしも、樹に出会っていいことというのはあるのだろうか?考えても一向に答えは出ることはなく、樹と湊斗の頭には、ずっと“?”が浮かぶのだった。

「そういえばさ、昨日ずっと気になってたんだけど」

 考えても答えは出ないので、話題を振ることにする。因みに、樹の中で聞くという選択肢はない。と、いうよりはそこまでの興味もないと言った方が正しいだろう。

「なんで本名使ってんだ?」

 前日からの疑問。それは遥歌のHNハンドルネームだ。基本的にオンライン上では、個人情報の開示というのはまずしない。その為に使うのがHNだ。だからこそ、本名を使っても、みんなHNとしか思われないだろう。そういう意味では、確かに問題ないといえばそうかもしれないが、オンライン上で、易々と本名を名乗るべきではないと考える樹としては、彼女の行動は疑問だった。

「えっと、その・・・、思いつかなくて」

 照れるように遥歌が答える。どんな理由があるのか、実のところ内心楽しみにしていた樹だったが、やはり内容は普通だった。

(マンガなりドラマなりのキャラ名でも使えばいいのに)

 内心そう思う樹だったが、それを口に出すことはなかった。今更そんなことを言ってもどうしようもない。

「そーいえばさ―――」

 咲希が別の話題を振り、そのままその話で盛り上がる。そうしている内に、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴るのだった。




 それから1週間。ラシルとハルカは順調にレベルを上げていた。とは言っても、オンライゲームでの1週間だ。オフラインゲームと違い、基本的にレベルというのはそうそう上がる物では無い。序盤こそレベルは順当に上がってはいたものの、徐々にレベルが上がっていくにつれて、ハルカのプレイ時間があまり長くないことも合わさって、樹が当初立てていた目処ほどは上がっていなかった。数字にして、ラシルが27、ハルカが28。ランダムダンジョンの内容を考えると、もう少しレベルが欲しいところだが、今日がエルナの出した期限ギリギリだ。これ以上望むのは無理だろう。

 ここは、ランダムダンジョンの入り口。そこに空の円舞曲ワルツのメンバーが集合していた。

「これで全員集合したかな?」

 樹がボイスチャットで話しかける。ランダムダンジョンに入るためには同じパーティーに居ることが条件だ。その為、ギルドメンバー全員でパーティーを組んでいるのだった。

「おっけー」

「大丈夫」

「問題なし」

 等々。それぞれに答えが返ってくる。が、当然全員がボイスチャットなため、若干聞き辛さを覚えた樹だったが、特に否定意見がなかったことに加え、モニター上でも自分を含め6人いることから、問題なしと判断する。

(しかしみんな物好きだよな〜)

 エルナが出した条件は2つ。1つは彼女に渡されたアイテムを使用したランダムダンジョンを1週間以内にクリアすること。そしてもう1つは、ギルドのメンバーを最低1人は連れて行くことだ。つまりギルドメンバー全員を連れてくる必要はなかったのだが、溜まり場に居たメンバーに声を掛けたとき、その場に居たメンバーは全員付いて来ると言い、更にはまだログインしていないメンバーを待ってから出発ということになったのだった。樹自身がテストを受けたときも同じような状況だったので、こうなる事は予想していたのだが、改めて思い返すと、なんとも可笑しいのだった。

(まぁ、あんま人のことは言えないか)

 自分が同じような状況なら、間違いなく同じことをするだろう。そう思うと内心苦笑するしかなかった。

「じゃぁ、ハルカ、よろしく」

 ハルカの試験なので、移動は彼女に任せることにする。

 ここ1週間で、遥歌をHNで呼ぶのにも随分慣れた。それは遥歌も同じだった。最初は、樹が遥歌のHNを口にするたびに、お互い気恥ずかしさのようなものがあった。それ故に、苗字で呼んでいたぐらいだったのだが、流石にそれでは、他の者とパーティーを組んだときに困るので、結局お互いが慣れるしかなかったのだった。当初はぎこちない感があったものの、今ではそれもなくなり、むしろ学校の教室で会った時にうっかり名前で呼びかけてしまうほどだ。しかも、1週間前は本名と意識することで、言えなくなっていたのが、今となっては意識していても関係なく出かけてしまうので、余計に性質が悪い。

 数秒のロード画面のあと、ランダムダンジョンの画面に切り替わる。それと同時に他のメンバーもエフェクトと同時に姿を現す。全員ダンジョンに入ったのを確認すると、少し辺りを見回してみる。ランダムダンジョン内にはマップが存在しない。そのため、あちこち歩き回って次の階層へのワープポイントを探すしかない。どうやら現在地はダンジョンの端に位置するようだ。だが、ワープポイントは見当たらない。地道に探していくしか無いようだ。

「んじゃ行くか」

 樹の掛け声と共に皆動き出す。と、言っても樹と遥歌以外は見物なので、後ろを付いて来ているだけだが。

「ハルカ、予定通り一気にワープポイントを目指そう。敵は邪魔になるヤツ以外は全部無視で」

「はい」

 この試験において、敵を撃破する必要は無い。目的はあくまでダンジョンのクリアだ。なので、最下層にあるダンジョン脱出用のワープポイントにさえ入ればそれで問題ない。それを考えれば、まだ敵の弱い上層での戦闘ならまだしも、敵が強くなってくる下層での戦闘は、自分の首を絞めることになりかねない。自分達がやられてしまっては元も子もない。勿論、ラシルはその辺りのことも考えて、復活アイテム等も準備しているが、それとて無限にあるわけではない。ラシル自身が支援に回ることも出来るが、それも基本的にはソロプレイを考えてのスキル構成だ。他者復活用のスキルなど持ち合わせては居ない。ギルドのメンバーでは、プリーストのウィシュナが使用することが出来るが、彼女を含め、ラシルを除く空の円舞曲のメンバーは、あくまで見物人だ。彼女達が手を貸すことは無い。とは言っても、モンスターのターゲットは彼女達にも向くので、ラシル達の安全性は若干ながら上昇する。そういう意味でも、ラシルにとってみんなが着てくれたのはありがたかった。

 ワープポイントを探索している内に、何度か戦闘もこなす。基本的にモンスターは放置と言っても、進路上にいるモンスターや遠距離攻撃を仕掛けてくるモンスターは放置しておくと、逆にダメージが増えるためだ。とはいえ、安価なアイテムで来たランダムダンジョンの、しかも上層部だ。特に問題もなく、軽々と撃破していく。

 そうしている内に、10層目に到着する。

「一体どんだけあるんだ・・・」

 げんなりした様子で、樹がインカム越しに話しかける。

 基本的にランダムダンジョンは、通常のダンジョンに比べると、かなりの階層から成っている。通常ならどんなに多くても、5層程度だろう。それに比べ、ランダムダンジョンは今回使ったアイテムなら大体10〜20階層ぐらいだろう。と言っても、運が悪ければ1階層しかない、という状況にもなり得るので、絶対ではないが。因みに、ランクの高いアイテムだと50階層というとんでもない階層数も確認されている。

「愚痴らない、愚痴らない。あと半分ほどじゃないか」

 エルナはなだめるように、というよりはこの状況すら楽しむかのように、樹を諭す。探索、戦闘をこなす、ラシル、ハルカの2人と違い、基本的にこの2人に追従しているだけだ。それ以外では、ボイスチャットでメンバー同士盛り上がっている。この状況でどこか楽しげに聞こえるのは、楽しむというよりは、実際楽しいと言ったほうが正しいだろう。

 再び探索を開始する。やはり、先に発見するのは、ワープポイントではなくモンスターだ。ラシルは発見すると同時に攻撃を開始する。モンスターは放置と決めていても、意外と邪魔になるモンスターというのは多い。周囲を探索しながらということも手伝って、無視出来るモンスターというのは、むしろ少ないと言える。

 まず1撃。それから2発、3発と攻撃を叩き込み一旦距離を取る。敵の反撃に備えてだ。だが、そんなラシルの後ろから、今度はハルカの矢が飛んでくる。勿論、その矢がラシルに当たることは無い。ラシルをすり抜け、そのままモンスターに命中する。その後も、数発の矢が命中しそのままモンスターを撃破する。

 初めこそモンスターも大して強くもなく、転生し、装備も整ったラシルは勿論、まだ装備も十分とはいえない―――と言っても1stキャラクターなら十分と言える装備だが―――ハルカでも1撃で倒せるモンスターがほとんどだった。だが、2層前辺りから状況はかなり変わってくる。元々1層進む度に、敵が強くなっているのは感じていたのだが、8層目辺りからは、それまで以上にモンスターの強さが増している。そのため、樹はそろそろ最下層ではないかと予想していたのだが、その目論見も外れ、ますますげんなりとするのだった。

「ハルカ、大丈夫か?」

「う、うん」

 時間にするとそんなに時間は経ってはいないものの、ダンジョンの雰囲気も階層を進む速度も普段とは全然違うと言えるだろう。そんなことから、疲れを気にするが、どうやら大丈夫そうだ。

「お熱いことで」

「熱い熱い」

「羨ましいねぇ」

「ホントだねぇ」

「ちげぇよ!」

 そんな様子に、他のメンバーから冷やかしが入る。そしてその冷やかしに即座にツッコミを入れる樹。こんな光景ももはやお馴染みだ。

 いつものやり取りを繰り返しながら、順調に階層を下っていく一行。幸い、ここに来るまで自分達では対処出来ないような数や強力なモンスターに遭遇するといったことはなかった、樹はもう少し厳しくなると予想していただけに、この現状に安堵する。

 14階層目。次の階層へのワープポイントを発見するも、周囲にモンスターが湧いているため、なかなか次の階層へと進めないでいた。ラシル一人なら、多少強引にでも突っ切ることも可能だが、ハルカのことを考えればそれもマズイだろう。下手なことをして彼女がやられるという事態はなんとしても避けねばならない。

 ある程度のモンスターを撃破し、なんとかワープポイントへの道が開ける。

「ハルカ、突っ込むぞ」

 樹はボイスチャットで指示を出すと共に、ラシルをワープポイントに向けて移動させる。ハルカも無事に着いてきているのを確認すると、そのまま次の階層へと移動する。

 画面が暗転し、若干のロード画面のあと、ラシルが1人表示される。少しして、エフェクトと共にハルカ、そしてエルナ達も次々と姿を現す。無事全員辿り着けたようだ。

「ん?」

 まず初めに気付いたのはアルタス。そして、それに反応するかのように次々とある事に気付く。

「やっとか・・・」

 ようやく、といった感じでラシルが呟く。現在の階層は15階。そこは、今までと違うものが1つあった。ダンジョンにながれるBGMだ。

「何かあったんですか?」

 一人、現状がわからいという風のハルカが問いかける。

 今流れているBGMは通常、ボスモンスターとの戦闘フィールドで流れるものだ。だが、それ以外にも使われる場所がある。それは、ランダムダンジョンの最下層だ。つまり、今ラシル達の居るこの15階層目で終了ということになるのだ。

「ここが最下層なんだよ。がんばりな」

 一人置いてけぼり状態のハルカにエルナが答える。

 話が一段落したところで探索が再開される。だが、今回はラシルの様子が少し違う。先程までは探索がメインだったのが、戦闘メインになっている。

「あれ?ラシル君、ワープポイント目指さないの?」

「あ、そっか。知らないんだったな」

 ランダムダンジョン最下層には、通常のままではワープポイントは存在しない。代わりにボスモンスターとも言える通常より強力なモンスターが存在する。そして、そのモンスターを倒すことによってワープポイントが出現する。だが、見た目には通常モンスターと違いはなく、違いはモンスターの強さだけだ。そのため、見かけるモンスターを次々と倒していくしかない。

 そのことをラシルは説明する。

 探索を始めて10分ほど。戦闘を中心に進んでいるため、思うように進まない。この辺りまで来ると、すんなりと倒せるモンスターも少ない、と言うよりは居ないと言ってもいいだろう。ペースが落ちてしまうのも仕方なのないことだった。

 更に10分。依然として目標のモンスターは見つからない。尤も、そんなに多くのモンスターを倒している訳でも無いので、仕方が無いと言えば仕方がないのだが。

「いねぇな〜・・・」

 樹が呟く。樹からすれば、これほどまでに見つからないということはまずなかった。そもそも、基本的にソロプレイヤーな樹がランダムダンジョンに入ることは滅多にないのだが、それでもギルドでの狩りなどで、来ることはある。そして、その時にはもっとあっさりと見つかっていたのだった。尤も、メンバーが全然違うので、効率は遥かにいいせいもあるのだが。また、前回の自分の試験の時も見つけるのにそんなに苦労した覚えもない。その為、簡単に見つかると踏んでいた樹には、これほどてこずるのは少し堪えていた。

 少し飲み物でも取ってきて休憩を挟もうか?そう考えた時、近くに数匹のモンスターが固まっているのが見えた。

(とりあえずアレを潰してからでいいか)

 そう判断すると、手前のモンスターに攻撃し、来た道を少し戻る。後ろのモンスター達のターゲットにされないためだ。

 モンスターを引き寄せ、相手の攻撃をかわしてから反撃に移る。ハルカの弓での支援もあり、難なくこれを撃破する。そして2体目と行きたかったが、モンスター達は固まって、周囲に広がる様子は無い。数は4匹。出来ることなら同時には相手にしたくはない。とは言え、ここで倒しておきたいというのもまた本音だ。どうしたものかと考える。

「どうする?やめとく?」

 そんな樹の様子を察してか、ハルカが問いかける。

「・・・・いや、行こう」

 少し間を置き答える。どうやら腹をくくったようだ。

 まず、目標としたのは最も手前に居たゲル状のモンスターだ。ラシルが近付くと、モンスター達もそれに気付き、ラシルをターゲットに定め一斉に向かってくる。まず、ラシルが先制で1撃攻撃を加える。そして、そのまま距離を取る。周囲のモンスターのことを考えてだ。ラシルが距離を取ると同時に4匹のモンスターの攻撃が先程までラシルが居た位置に降り注ぐ。そんな様子などお構いなしと言うかの用にハルカが弓を放つ。2発、3発と矢を打ち込み、最後にスキルでの2連射。その全てが命中する。だが、未だ倒すには至らない。

 その場に居た全員が異変に気付く。倒せないこと自体は不思議ではない。モンスターのレベルの詳細は不明だが、ラシルやハルカとほぼ同等と言ってもいいだろう。それなら、あれぐらいの攻撃で倒せるモンスターは少ない。なにより、ゲル系統のモンスターは通常攻撃が効き辛く設定されている。倒せないとしても仕方が無い。それではおかしな部分とは何か?それはダメージだった。先ほどまで、悠々と3桁のダメージを出していた、ラシルの攻撃が、わずか30ほど。ハルカに至っては1桁だ。最後に放ったスキルでようやく10の文字が見えた程度だった。先にも述べた通り、ゲル系統のモンスターには通常攻撃は効き辛い。だが、ここまでダメージが下がるということはない。考えられるとすれば、それは、このモンスターのレベルがラシル達より高いということだろう。それはつまり、このモンスターこそが、このダンジョンのボスモンスターであことの証でもあった。

「見つけた!こいつだ」

 そのことに、樹が気付く。それと同時に後ろの見物組みも気付いたようだ。

「厄介なのになったね」

「でもラシルは魔法いけただろ?問題ないんじゃないか?」

 エルナとアルタスだ。

 確かにゲル系統のモンスターは通常攻撃だけでは倒し辛い。その傾向は高レベルになればなるほど、より顕著になっていく。だが、逆に魔法には弱いという性質も持ち合わせている。その為、アルタスには、魔法が使えるラシルがいる分、楽に戦えると思えるようだ。

「でも詠唱間に合うかな?」

「ちょっと支援してあげたほうがよくない?」

 こちらは、ウィシュナとリシュリー。2人とも魔法を主とするジョブだけに、懸念材料があることを素早く見抜く。

 相手がゲル1匹だけなら問題はない。ラシルほどのプレイヤースキルがあれば、あっさりと撃破出来るだろう。だが、現状は他にも3匹のモンスターも同時に相手にしなければならない。これが問題だった。他のモンスターに比べ、少し足の遅いゲルだけなら、少し距離を取れば魔法の詠唱も間に合うだろう。だが、他にもいるのでは、そうもいかない。恐らく、詠唱が完了するまえに追いつかれ、そのままキャンセルされるのがオチだろう。

「大丈夫。まぁ、見てなって」

 2人の心配をよそにラシルが答える。インカムから聞こえてくる、ラシルの声は、全く問題ないとでも言うかの様に聞こえる。

 まずラシルは4匹のモンスターから距離を取る。少し距離が開けばモンスターを待ち、近付いてくれば、また離れる。この動作を数回繰り返す。これにより、ゲルが少しではあるが、集団から離れ、孤立した状態になる。それを確認すると、今度は残りの3匹に向かって攻撃を仕掛ける。こちらには、通常通りダメージが与えられる。それを確認した、ラシルとハルカは確実に、1匹ずつ仕留めていく。周囲のモンスターを倒すのに、そんなに時間はかからなかった。

 他に新たなモンスターが出現していないのを確認すると、ゲルと対峙する。とはいえ、このままでは対処の仕様が無い。

「ハルカ、あいつの相手頼む」

 ラシルは、そう言うと同時に、後ろに下がる。

「え?え?」

 ラシルの意図が読めず混乱するハルカ。だが、こちらに迫るゲルを確認すると、距離を取りながら攻撃をしていく。ダメージは相変わらずだが、何もしないよりはいいだろうと判断してのことだ。ゲルもターゲットをラシルからハルカへと変更し、そのままハルカを追いかける。

 一方ラシルは、少し距離を置き、スキルを入れ替える。スキルスロットに設置していた白魔法を黒魔法に置き換え、新たにショートカットに黒魔法を登録する。これで準備は完了だ。ラシルはハルカのほういる方へ戻り、モンスターを確認する。そしてそのまま呪文の詠唱を開始する。教会の地下でも使用していた『ファイアーボール』だ。詠唱が終了し、魔法が炸裂する。先程までとは打って変わって、今度はまともなダメージを与えられる。SPスキルポイントがなくなるまで魔法を打ち込み、それからは、通常攻撃、SPが溜まればまた魔法と繰り返し、ようやくゲルの撃破に成功する。幸いなことに、近くにワープポイントも出現し、そのまま、ダンジョンをあとにするのだった。


「お疲れ〜」

 溜まり場に戻り、皆が一斉に互いの苦労を労う。ハルカのギルド入団試験も無事終了となった。

「これでハルカも晴れて正式にウチの団員となったわけだ。ってな訳で一言挨拶!」

「え?あ、挨拶ですか?」

 エルナの突然の一言に戸惑うハルカ。誰か止めてくれないかと、一瞬期待するものの、すぐにそれはないということに気付く。そして、予想通り、誰もそんな様子はない。

 挨拶と言われても、どう言っていいかわからない。どうしたものかと考え、しばらく沈黙してしまう。だが、他のメンバー達は、そんな様子を気にすることもなくただハルカの言葉を待ち続ける。そして、意を決するように口を開くのだった。

「みなさん、改めてよろしくお願いします」

 こうして、正式に空の円舞曲に新たなメンバーが加わるのだった。


ラシル(以下ラ)「ファンタジアナイツなんでもQ&A!!」

ハルカ(以下ハ)「相変わらず続くこのコーナー。今回も無駄に長いです」

ラ「いらねぇよって人はすっ飛ばしてくださいね〜。じゃぁ今回もいってみよ〜」

ハ「じゃぁ、まず最初の質問。レベルの上がり方がおかしくないですか?特にジョブ関係」

ラ「作者がその辺ちゃんと考えて無いのでおかしいです。はい、次」

ハ「え!?ここはもうちょっと広げましょうよ」

ラ「めんd・・・ゲフゲフ。まぁ、真面目に答えると、ジョブは高レベルになればなるほどあげやすくなるからとでも思ってください」

ハ「キャラクターのレベルは?今回の話を見る限り、2ヶ月で転生してレベル60まで上げたラシル君とは思えないペースだけど」

ラ「そっちは単純にハルカに合わせてたからってことで」

ハ「めずらくまともな返答がもらえた所で次です。○○の影が薄いです。あ、○○の中には影が薄いと思えるキャラ名を入れてください」

ラ「仕様ですってことで。気をつけてはいるらしいけどな・・・」

ハ「今回私の試験のはずなのに、私の影が薄いのも仕様ですか?」(泣

ラ「うん、仕様。もしくは作者の力不足」

ハ「じゃぁ、次の質問・・・」(沈んだ声で

ラ「頼むから露骨にヘコまんでくれ」(汗

ハ「ラシル君って廃ですか?・・・・廃です」

ラ「ちょっと待て!!」

ハ「え?違うんですか?」

ラ「違う!断じて違う!!」

ハ「でも装備と言い、プレイ時間と言い、プレイヤースキルと言い、どこに出しても恥ずかしくない廃だと思うんですが・・・」

ラ「単純にやってる期間が長いからだ。プレイ時間も睡眠時間削ってまでやってないし」

ハ「・・・・じゃぁ、そーゆーことにしときます。次の質問です」

ラ「納得されてないし」

ハ「ランダムダンジョンの階層がありえなくないですか?」

ラ「フィクションだから細かいことは気にしない」

ハ「いいのかな〜・・・?じゃぁ、次の質問です。あとがきのゲームメーカーネタはいつまで引っ張るんですか?」

ラ「アレは前回で終了」

ハ「そうだったんですか。そういえば今回は出てきてませんねぇ」

ラ「たまたま続いただけだしな。しかもネタもないし」

ハ「それでは次です。ゲル状のモンスターの表記が途中からゲルだけになってたのはなぜですか?」

ラ「それ作者の怠慢。予想以上にゲル状のモンスターって表記が出てくるもんだから、毎回毎回そう書くのもめんどくさくなって表記はゲルだけにしたらしい」

ハ「でもゲルじゃないですよね?」

ラ「一応設定上はゲルってモンスターの亜種だね」

ハ「作者さんはなんで名前付けて無いんですか?」(汗

ラ「なんも浮かばなかったからだ」

ハ「相変わらず適当な人なんですね・・・」

ラ「一応フォローしておくと、名前を決めるのが滅茶苦茶苦手ってのもあるんだがな」

ハ「じゃぁ、最後の質問です。1話目っていつ終わるんですか?」

ラ「今回で1話目は終了だ」

ハ「やっとですか。でも4って半端ですねぇ」

ラ「1話目のエピローグってことで5を入れてもよかったんだけど、これ以上ひっぱるのもなんだし、なによりかなり短くなりそうだったしな」

ハ「意外とまともな理由ですね」

ラ「そんなわけで今回も無事終了」

ハ「相変わらずのアップはまったりペースですが、まだまだ続くので、お付き合いよろしくお願いします」

ラ&ハ「それではまた次回〜」

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