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Chapter1-3

「じゃぁ、入団試験やろう」

 エルナの一言に、空の円舞曲ワルツメンバー達が盛り上がる。入団試験をやるかどうかはエルナ次第だが、新しいメンバーが入る時は毎回開催されているため。もはや定例行事の様なものになっている。

「んじゃ、試験の説明するよ〜」

 周りの状況を無視してエルナが話を進める。ハルカも未だ状況が把握出来ずに混乱しているが、そんなこともお構いなしだ。

「まずはこれ」

 エルナにアイテムを渡される。それはNPCノンプレイヤーキャラクターの店で買える極々普通のポーションだった。それも最安値でランクも1の物だ。尤もハルカのレベルを考えれば回復アイテムにはこれで十分なのだが、数は1つ。流石に回復アイテムとして使うには心許ない数だ。エルナの意図が見えない。

「ルールは簡単。それを使って入れるランダムダンジョンをクリアすること。期限は一週間。あと、ギルドのメンバーを一人は連れて行くこと」

 手早く説明されるものの、始めたばかりのハルカにとって今ひとつ理解が追いつかない。

 ランダムダンジョン。通常のダンジョンとは異なり、アイテムを使用することで生成され、構造、階層、モンスターの種類及び数、レベルの全てをランダムで決定されるまさに文字通りのダンジョンだ。とはいえ、アイテムの種類やランクによってある程度の方向性はあるため、ゲーム性そのものが極端に破綻しなくはなっている。これもまた、このゲームの特徴的なシステムだ。

「でもさマスター、一人じゃ厳しくね?」

 ラシルがふと浮かんだ疑問を問いかける。いくらランク1のアイテムから生成されたダンジョンとは言え、モンスターの最高レベルは20〜30程度はあるだろう。それに数も規模もわからない。そんなダンジョンをクリア、しかもソロでとなればそれ以上のレベルが欲しいところだ。それも挑戦者が初心者なら尚更だろう。ラシルの疑問ももっともだ。

「うん。だからラシル、あんた手伝いな」

「は!!?」

 予想していなかった答えに驚く。と言うよりは、思考が止まる。

「そりゃ、あんたが連れてきたんだから当然でしょう」

「それはそうだけど・・・レベル合わねぇぞ?」

 ラシルはやはりもっともな意見を切り出す。ラシルのレベルは60。ハルカは始めた時期にもよるだろうが、どんなに高く見積もっても10には満たないだろう。いくら1週間の期限があるとは言え、この差が埋まるとは思えない。かと言って、このまま試験を開始したのでは、最早試験にすらならない。それでは受験者がラシルで監督がハルカと、完全に立場が逆転してしまう。それでは意味がない。

「ヤだな〜、ラシルくん。アレがあるじゃないかw」

 エルナがニヤッとする。とはいってもモニター上では確認出来ないのだが。あくまで樹の感覚だ。だが、普段は呼び捨てなのに、わざわざくん付けまでして、更に最後にwまで付けている。最早確信すら持てていた。

「でもアレ結構レアなんだけど・・・」

「どーせ大量に持ってんでしょ」

「いや、そんな大量ってほどじゃぁ・・・」

「男なら細かいこと気にしない」

「マジでやんの?」

「マジもマジ。大マジ」

 何度か反論を試みてみるが、見事なまでに全て玉砕する。2人の会話からも見て取れる通り、ラシルは確かにこの状況をなんとかする手段を持っていた。なので、そこを突かれると、どうしても立場が弱くなってしまう。その為、もう折れるしかないのだった。

「わかった。んじゃ準備してくるよ」

 そう言ってラシルは立ち上がり外へと出て行くのだった。

 ラシルが拠点の建物を出て数分。拠点では、雑談でも盛り上がっていた。とは言っても、その話の主なことといえば、ハルカに対する質問攻めだったのだが。その様子は、ある日急にクラスにやってきた転校生を思わせる。更に、まだログインしていなかった最後のメンバーの女ウィザードのリシュリーまでやってきて、質問攻めは更に盛り上がることになる。ハルカ自身、どうしたものかと困惑するものの、内心、急に押しかけて拒絶されるのではないかと心配していたのだが、彼女らの反応を見る限りその様子もなく、安堵するのだった。

「しかし、アイツはどこほっつき歩いてるんだろうね?」

 ふとエルナが漏らす。先程出て行ったラシルのことだ。先程の会話の流れから、恐らく倉庫に預けたアイテムを取りに行ったのだろう。空の円舞曲の拠点となっているこの建物は、周囲に大抵の施設がある。その「大抵」の中には倉庫も含まれている。ラシルが出ていってもう10分は経つだろうか。「大抵」に含まれない、少し離れた施設を使ったとしても少し遅い。ギルドチャットで呼びかけたほうがいいだろうか。そう考えたころ。

「すまん、だれか300kほど貸してくれ」

 丁度、ギルドチャットでラシルからの呼びかけがあった。しかもいきなり金の催促だ。買い物でもしているのだろうか?だが、基本的に物には無頓着なラシルが、人から金を借りてまで買うとは思い難い。そんなに急ぎで欲しがっているアイテムもなかったはずだ。少なくともエルナは知らない。だが、どうやらそれはほかのメンバーも同じようだ。だれも即座に反応しない辺り、みんな頭に“?”が浮かんでいるのだろう。

 因みにラシルの言った300kとは300,000のことだ。“,”が付くたびにk、m、tと言った具合に一種の略字のような物が付けられていく。とはいえ、このゲーム上において、tと付けることはまずないだろうが。

「どうしたのさ、唐突に」

 誰も反応しきれていないのでいる中、エルナが返事をする。

「いや、ちょっとスキル関係でな」

 それを聞いて全員の頭に浮かんでいた?は解消されるのだった。

 スキルの習得。勿論なんらかのクラスにつけば、スキルを使うことも習得することも出来る。では、どう習得するのか?1つは使い込むことだ。これはアクションスキルに適用されている。アクションスキルにはそれぞれ0〜10のレベルが設定されており(但し上限が10以下のものも存在する)一定回数使用することにより、レベルが上昇する。そして0から1になることにより習得となり、他のクラスでも使用出来るようになるのだ。但し、他のクラスのスキルを使用してもカウントはされないので、レベルは上昇しない。

 そして、もう1つは特定の条件を満たすこと。こちらの条件はサポートスキルに適用されている。このゲームではギルドと呼ばれる施設がある。ここでは、他のクラスへの転職や、サポートスキルの習得といったことが出来る。ここでスキルごとに提示される条件をクリアすることが出来れば、習得となるのだ。因みに条件のほとんどがアイテムの収集や、一定の金銭の支払いとなっている。

 今回のラシルの場合は後者だ。準備のついで(一環かもしれないが)にスキルの習得に行ったが、お金が足りなくなったのだろう。

「じゃぁ、オレが貸すよ。その代わり、あとでなんか剣1本な」

 アルタスだ。彼は騎士系統の2ndクラスのロードなのだが、そのクラス故か、剣系統の武器に関しては蒐集癖しゅうしゅうへきのようなものを持っており、現状では使わない、あるいは使えない剣などでも平気で購入していたりするのだ。本人曰く後々のためだそうだが、実際のところは不明である。

「おっけー」

「うし、交渉成立w」

 ラシルが承認すると、アルタスは早速出て行くのだった。

「あ、そだ」

 何かを思い出したようにエルナが口を開く。

「ハルカ、あんた先にギルド入っちまいな」

「え・・・?まだ試験受けてませんよ」

 ハルカの困惑は当然だった。これから、このギルドに入るために試験を受けるのに、先に入れとはどういうことだろうか?それでは試験の意味がなくなってしまう。

「気にしない気にしない。ラシルもそうだったし」

「はぁ・・・そうなんですか」

 ハルカは要請を承諾し、そのまま空の円舞曲の一員となる。因みに、ラシルも当時、この場所に案内されてから、急に入団試験と言われて困惑していたのだった。エルナのこの突然の行動だが、ほかのメンバーは既にいつものことと、すっかり慣れている様子で、今回のことも特に驚いた様子もない。ラシルのときもそうだが、エルナの突然の行動は多々・・・というほどではないにしろ、実は結構ある。あるときはギルドメンバー全員で狩りに行き、またあるときはひたすらレアアイテムを探し、またまたあるときは高難度のダンジョンの制覇に挑んでみたり・・・等々。どれもギルドメンバー全員がログインした時に突然に始まるのだった。だが、基本的にメンバー達が不利益を被ることはなく、むしろ皆楽しんでいる。今回のこともまた同じだ。そのため、彼女を咎める者は誰も居なかった。

 そこに、外出していた2人がようやく戻ってくる。そこに居たのは先程出て行ったアルタスと、すっかり外観の変わったラシルだった。

「わ〜、転職したんだ」

「相変わらず転職速度速いわねぇ」

「もう転職したんだ」

 その姿にそれぞれが反応を示す。ラシルの姿は先程までの忍者ではなく、マジックナイトのクラスの姿へとなっていた。

「欲しいスキルは取ったからな」

 先程の300kのことだろう。ラシルにとって忍者のクラスは、そのクラスでのゲームのプレイというよりは、スキル習得のためのものだった。そのため、欲しいスキルさえ習得してしまえば、忍者のクラスになっている理由はなかった。まして、ラシルはずっとマジックナイトのクラスを目指しプレイしてきたので尚更だろう。

「それにしてもここまでかなり早かったねぇ」

 リシュリーが感嘆とも取れるセリフを漏らす。

 各種系統のクラスはそれぞれ3段段階存在する。そして、キャラクターとは別にクラスそのものにもレベルが設定されており、そのレベルを最大限に上げることによって上位のクラスが出現するようになっている。3段階目のクラスのレベルを最大限に上げたところで、その系統はマスターとなる。―――これには、スキルの習得は関係ない―――そして、先程までラシルがなっていた忍者や、現状のクラスのマジックナイトは複数のクラスをマスターしてなれる、4段階目とも言えるクラスだ。クラスのレベルは比較的上がりやすくはなっているものの、忍者、マジックナイトの2つの条件を満たすだけでも、結構な数のクラスをマスターせねばならない。わずか2ヶ月ほどでここまでとなると、かなりのスピードと言える。それも、ほとんどのスキルの習得を無視し、豊富な装備と持ち前のプレイヤースキルがあってこその芸当だろう。

「んじゃ、どっか行ってみるか?」

「え、でも・・・」

 ハルカを誘ってみるが、どうも乗り気ではないようだ。ギルドにも入ったばかりだし、もう少しここで話でもしていた方がいいだろうか?それとも、急にこんなことになって、慣れない事だらけで流石に疲れただろうか?

「明日ぐらいからにするか?」

「いや、そうじゃなくて、その、レベルが・・・」

 そう言われてやっと気付く。ハルカは2人のレベル差を気にしていたのだった。先程、準備に出かけたときにそのことも解決してきたのだが、ハルカからすれば、単にクラスチェンジしてきたようにしか見えないだろう。その辺りの事情は解決した。そう伝える意味も込めて、パーティーメニューを開き設定を変えてみる。

「あ・・・」

 どうやらハルカもそのことに気付いたようだ。

 『経験値の配分設定を変更しました』の文字。パーティーのリーダーとのレベルが誤差5以内なら、同じマップにいるパーティーメンバー全員で経験値を分配出来るようになる。これにより、極端な話、一切の戦闘に参加しなくても経験値が入るようになる。そして、この設定が有効になったということはラシルとハルカもこの条件を満たしたということになる。ハルカも、事前に読んでいた説明や、チュートリアルによりこの条件は知っていたので、レベル差の問題は解決されたということだけは理解出来た。

「でもなんで・・・?」

 先程までかなりのレベル差があったのだ。それがものの数分程度でハルカとのレベル差が5以内になったのだ。疑問に思うのも当然だろう。

 『転生の宝珠』というアイテムがある。その名の通り使用することに転生し、レベルを1に戻すという効果がある。勿論、ただレベルを1に戻す訳ではない。若干ではあるが、ステータスにプラス修正がかかるのだ。そのため、通常のレベル1のキャラクターよりは少し強いキャラクターになる。先程、ラシルとエルナが言っていたアレとは、まさにこのアイテムのことだ。そして、ラシルが使用に関して若干渋っていたのにも理由がある。1つはこのアイテム自体がかなりレアなアイテムなこと。たしかに複数個所持はしているが、それもかなりの期間、以前のギルドのメンバーと集中的にドロップ(落とす)するモンスターを狩り続けての成果だ。そしてそのモンスターも強力なのは言うまでもない。現状での撃破はまず無理だろう。その為増やすことも無理だ。他のプレイヤーから買うという手段も無くはないが、値が張る上、そもそもあまり出回らないので、これもやはり無理だ。物が物だけに、増やせないという現状では、使用は慎重にしたかったのだ。そしてもう1つ。それは使用時のレベルだ。前述の通り、このアイテムは使用することにより、レベル1に戻るが、ステータスにプラス修正が付き、通常よりもパラメーターの高いキャラクターが完成する。尤も、これは1回や2回使ったぐらいでは、大差ないのだが。それはさておき、このパラメーターの修正だが、より高レベルで使用したほうが修正値も大きくなるのだ。その為、もう少しレベルが上がってからと考えていたラシルとしては、出来ることなら控えたかったのだ。

 因みに、エルナが―――と、言うよりはギルドのメンバー全員が、なのだが―――なぜラシルがそのようなアイテムを所持しているのを知っているかというと、実はラシルは以前にもこのアイテムを使用していたのだった。その時にその辺りの話をした為に、今回エルナに突っ込まれる原因となったのだ。レベル60というレベルで、複数のクラスをマスターしているのもそのためだ。

 ラシルはハルカに『転生の宝珠』のことを説明する。どうやらハルカも理解したようだった。

「それで、どうする?どっか行くか?」

「はい」

 改めて誘ってみる。今度は渋ることなく肯定の返事が返ってくるのだった。




 ライラックの街から南にいくつかのマップを越えた場所。そのフィールドの一角にラシル達の目的地はあった。滝の裏側に洞窟が見える。勿論中はダンジョンとなっている。フィールドにもモンスターはいるし、街周辺ならそんなに強いモンスターもいない。レベル1桁の2人にはそれでも十分なのだが、数が少ないことと、街の周りだけあって人も多いことからここに来たのだった。

「ここ・・・ですか」

 ハルカは若干躊躇い気味だった。前日のことを考えれば無理もないだろう。

「流石に昨日みたいなことはないから安心しろ」

 それを察してか、軽く諭してから中へと入っていく。ハルカもそれに続くのだった。

 滝裏のダンジョン。全体的に強力なモンスターは存在せず、数も多すぎず少なすぎずと、非常にプレイしやすいダンジョンだ。また、1層から3層はそれぞれ、1stクラス、2ndクラス、3rdクラスとクラスチェンジ出来るころに来ると敵の強さも丁度いいので、以前はラシルもよく利用していた。だが、転生してしまえば、あまり利用することもなくなる上、全体的に経験値はあまり稼げないことから、人はあまりいないのだった。尤も、1週間という期限の中で、少しでもレベルを上げておきたい2人にとっては人がいないのは、むしろ好都合なのだが。

 ラシルはハルカが入ってきたのを確認すると、支援魔法を使おうとする。が、

(その前に・・・)

 1つ確認を取るために、コントローラを離しタイピングを始める。

「インカムって持ってる?」

「ありますよ」

「それならそれならボイスで行きたいんだけど、大丈夫」

「はい、大丈夫です」

 チャットにはいくつかの種類がある。まずはオープン。一定範囲内にいるプレイヤー全員に聞こえるタイプで、通常はこれである。次にクローズ。簡易のチャットルームを作り、その中でのみ会話は可能なタイプだ。そして、先程から空の円舞曲の面々が使っていたギルド。その名の通り、ギルドのメンバー同士のやり取りが出来る。ラシルがハルカとの合流に使ったメッセンジャー。1対1での会話が可能だ。そして、最後がパーティー。これも名前の通り、パーティー内でのやり取りが可能となっている。そして、パーティー用のチャットには、通常のチャット以外にボイスチャットも用意されていた。これにより、意思伝達が素早く出来るため重宝されている。当然、インカムを用意しないと使用出来ない訳だが。ただ、自分の性別や、場合によっては性格等も相手に伝わってしまうため、その辺りのことを嫌うプレイヤーには敬遠されがちだが、樹は元よりその辺りのことは一切気にしない性格だし、どうやらハルカのプレイヤーもその辺りは大丈夫なようだ。コントローラを使うというゲームの性質上、タイピングでは面倒な上、状況次第ではタイピングすら不可能な場合もある。そのことを考えると、ボイスチャットを了承してくれたことは、ありがたかった。

「聞こえる?」

「はい、大丈夫です」

 一応確認をしておく。相手は初心者だ。しゃべる余裕がないということもあるだろうが、ボイスチャットに慣れていなくて、自然と無口に、ということになっても不思議ではない。普段ならそれでも構わないが、いざというときに実は通じていなかったでは意味がない。尤も、このダンジョンで意思疎通が出来なくて全滅などということはまずないだろうが。

(どこかで聞いたような・・・)

 先程のやり取りで、一言声を聞いただけだが、どうも聞いたことのあるような声だった。ハルカの声を聞くのは初めてだ。それに、ヘッドフォンから聞こえてくる彼女の声は少しくぐもって聞こえる。恐らく気のせいだろう。そう思うのだが、どうにも気になってしまう。一瞬、何かのゲームで聞いた声優の声だろうかとも思うが―――ここでアイドルや、芸人などの考えが浮かんでこないのはなんとも樹らしい―――その考えもあっさりと否定する。流石に職業上あまり周囲に感付かれる様な事はしないだろう。バレればちょっとした騒ぎになりかねない。そうならないためにも、ボイスチャットには応えないだろう。

「あの、どうかしましたか?」

「あ、すまん、なんでもない」

 どうやら、考え事に集中しすぎて不自然に黙ってしまったようだ。

(ま、気にしても仕方ないか)

 樹はこの疑問を頭の隅へと追いやるのだった。

 素早くラシルとハルカの2人に最低限の支援魔法を掛ける。スキルの習得をほとんど無視していたラシルも、支援魔法は極力使うようにして、なんとかレベルを上げはしたものの、やはりそんなにレベルは高くはない。だが、現状ではこれでも十分な効果を発揮するのだった。

「あれ・・・?」

「ん?どうかした?」

 呟くように聞こえるハルカの声。独り言だっただろうか。それなら反応しないほうがよかったかもしれない。だが、そんな考えもすぐに杞憂に変わる。

「いえ、そのスキルが・・・」

 先程ラシルが使ったスキルのことだろう。なにかおかしなことでもしただろうか。少なくとも、自分に掛かった支援のアイコンを見る限りでは、特におかしなことにはなっていない。同じようにハルカにもスキルを使ったはずなので、彼女もおかしな部分はないはずだ。意外と抜けている部分のあるラシルと言えど、流石にそこまでは抜けていない。

「戦闘ってしてなかったですよね?」

「ああ、そういうことか」

 ハルカのその一言でようやく、ラシルの疑問が解決する。彼女はスキルよりも、スキルを使ったことそのものに疑問があったのだ。

「魔法使い系のクラスやるとSPが勝手に溜まるスキルを覚えられるんだ」

 基本的に、スキルを使用しようとすると、SPスキルポイントを消費することになる。だが、そのSPは本来戦闘をしないと増えることはない。攻撃を当てる、もしくは攻撃を食らうことによって、SPが徐々に上昇していくのだ。その最大値は100で固定されおり、1stクラスで3本、2ndクラスで6本、3rdクラスで9本のSPをストック出来るようになっている。因みにラシルのような最上位クラスは、ストック数は3rdクラスと同じ9本だが、ストック9本プラス、通常のSPゲージがマックスの場合のみ、クラスにより違いはあるがステータスにプラス修正が与えられる。

 ラシル達はここに来るまで、一切の戦闘行為をしていなかった。その為、本来ならばお互いまだスキルの使用など不可能のはずだ。街に入るとSPはリセットされてしまうので、事前に溜めておくということも不可能だ。それでもラシルがスキルを使用していたことへの疑問だったのだ。魔法使い系の職業は直接戦闘には向かないため、攻撃をする機会というのはあまりない。逆に、攻撃を食らうとなればSPゲージが溜まる前にやられるだろう。その救済処置とも言えるのが、現在ラシルが装備しているスキルだ。徐々にではあるが、時間の経過でSPが溜められるため、戦闘を行わなくてもSPを溜めることが可能だ。とは言っても、相手を攻撃したほうが早いのは言うまでもない。その為ラシル自身も今回のように、移動距離が長い場合以外はまず使っていない。

「謎も解けたところで行くとするか」

 謎というほどのものでもないのだが、そんなことは気にせずダンジョン中を歩いていく。しばらく来ていなかったこともあり、ちょっとした懐かしさのような物を感じる。懐かしさついでに、改めて、要注意のモンスターなどがいないか自分の記憶で確認しておく。

「じゃぁ、オレが前で引き付けるから、後ろから撃ってくれ。あ、それと自分の方に来る敵優先な」

 特に、注意することが無いのを確認し、ハルカに指示を出しておく。

 少し歩くと早速モンスターが現れる。ラシルが近付いていくと、モンスターも気付いたのか、ラシルへと向かってくる。そして、1撃。その1撃はあっさりとモンスターを撃破する。なんともあっけなかった。昨日まで、自分のレベルでは厳しいようなダンジョンに居たせいもあるのだろうが、なにより、ラシルの武器はレベルの制限により、攻撃力の低い武器を装備しているものの、それでも現状は十分強力だ。

「・・・・・・」

 思わず立ち尽くしてしまう。予想はしていたが、なんとも物足りない。この際、2層に行ってみるか?などと思い浮かべるが、結果が見えているので却下する。流石に無茶すぎる。そこにハルカが寄って来る。

「どうかしましたか?」

「あー、すまん。ちとスキルの変更をな」

 勿論なにもしていないのだが、とりあえずそう言って誤魔化しておく。まさか、もっと敵の強い所に行くことを考えていたなどと言う訳にもいくまい。

「でも、私あまり役に立てそうにないですね」

 寂しそうに呟く。先程の戦闘の状況を見れば、誰でもそう思うだろう。

「いや、もっと湧いてくればそうでもないさ」

「そうなんですか?」

「そうなんだ」

 モンスターの数はそこそこにいるが、固まっていることは滅多にない。それはラシルもわかっているのだが、ここはこう言っておくことにする。それで彼女が楽しめるなら、十分だろうと思ったからだ。それに、稀ではあるが、結構な数が固まっていることもなくはない。あながち嘘という訳でもないのだ。

 それからも順当に狩りを続け、一時間ほどが経過した。

 2人ともいくつかレベルをあげて、今は休憩を取っていた。

「あのさ・・・」

 樹が口を開く。先程から考えていた疑問だ。頭の隅にやりはしたものの、彼女の声を聞く度に、自分でもわからないがどうしても気になってしまう。そして、1人の人物がふと思い浮かぶ。ハルカと同じ名前をしたクラスメイト。そんなはずはないと思いつつ、どうも色々とイメージが被ってしまい、やはり同一人物ではないかと思えてきてしまったのだ。そんな自分に呆れながらも、ここまで来るとどうしても気になってしまうので、思い切って聞いてみることにしたのだ。勿論「あんた、楠木 遥歌?」などと聞くわけにもいかないので、遠まわしにだ。

「星想学園って知ってる?」

 だが、いざ聞いてみるとなると、なにも浮かんでこない。そもそも、遠まわしと言ってもどう聞いたものか?住所を聞くわけにもいかない、というか聞いてもわからない。かと言って遥歌と親しい訳でもないので、どんなことを聞いても決定打に欠ける。そこで、思いついたのが学園のことだった。これなら知っていればそれはそれで話題を広げられるし、知らなければ他人の空似ということがわかる。尤も、相手が正直に話してくれているという前提の元でだが。

「知ってますよ。私そこの2年なんです」

 自分からこんな話題振っておいてなんだが、こんなにペラペラと自分のことを喋っていいのだろうか。樹はかなり不安になってくる。勿論、樹自身ハルカの個人情報をどうこうしようというつもりはないが、あまりにも無防備すぎる。信用されていると思えば、悪い気はしないが、それ以上に他人事ながら心配で仕方なかった。

 それよりも、気になったのは、2年という言葉だ。星想学園自体はそんなに大きな学校という訳ではない。それでも1学年辺り250人近くはいる。男子や、数少ない女子の知り合いを除けば半数ぐらいにまで下がるが、それでも100人以上いるのだ。普通に考えれば、確率はかなり低いのだが、もはや確信に変わっていた。なので、更に突っ込んだことを聞いてみる。

「もしかしてB組・・・とか?」

「そうなんです、よくわかりましたね〜」

 どうやらハルカは一切気付いていないようだ。

(もしかして、結構天然か?)

 大抵はここまで来ると、クラスメイトからよく似た声の人間を探しそうなものだが、そんな様子は一切ない。このまま黙っているのも面白そうではあったが、彼女の友人―――咲希のことだ―――にバレたとき、何をされるかわかったものではないので素直に白状することにする。

「そりゃ、同じクラスだからな。楠木だろ?」

「え、えっと・・・はい」

 少し戸惑いながらも、観念したように応える。まさか本当に本名でやってたとは・・・。今更キャラを消して来いなどとも言えないので、そこには触れないことにする。本名だと言わなければ、HNハンドルネームとしか思わないだろう。

 ハルカの方は、未だにラシルがだれかわかっていないようだった。やはり黙っておこうかと改めて思ってしまうが、やめておく。流石に可愛そうだ。

「神代だよ。神代 樹」

「え・・・ええええーーーー!!!」

 全く想像していなかったようだ。普段の大人しい印象のある―――というか、実際大人しいのだが―――彼女からは想像出来ないような叫び声が聞こえる。そんな様子を見ながら、というか聞きながら樹はハルカの慌てっぷりを楽しんでいたのだった。

 その後、またしばらく2人でダンジョンの探索をする2人だったが、最後までハルカのぎこちなさは取れることなく、そして、樹はそんな様子を楽しみながらそのまま解散するのだった。


ラシル(以下ラ)「ファンタジアナイツなんでもQ&A!!」

ハルカ(以下ハ)「またやるんですね、このコーナー」(汗

ラ「やるみたいだねぇ」

ハ「意外にも好評だったとか?」

ラ「いや、全然」

ハ「即答で全然って・・・」

ラ「そんなことは置いといて、早速質問いってみよう」

ハ「前回無駄に長いって言ってたこのこのあとがき、そうでもなかったように感じるのは気のせいですか?」

ラ「アレは作者もびっくりしてた。スクロールせずに画面内に収まったのは予想外だったらしい。だから今回はもっと長くするとか」

ハ「相変わらず行き当たりばったりですねぇ。しかもなんか迷惑宣言してるし」

ラ「それが作者。はい次」

ハ「昔の話はいつやるんですか?」

ラ「予定は未定。まぁ、その内書くんじゃね?」

ハ「かなり適当ですね・・・。まさか実は考えてないとかですか?」(汗

ラ「一応、オレがゲームを始めてからプロローグまでのことは大まかには考えてあるらしいけどな」

ハ「微妙に安心できませんね」

ラ「無駄に話を広げるの好きだからな〜・・・」(汗

ハ「それでは次です。クラスはどれぐらいあるんですか?」

ラ「いっぱい」

ハ「ちょ・・・それ答えになってませんよ」

ラ「いや、作者曰く、クラスの設定はある程度決まってるけど、全貌を出すと後々変更加えたい時に困るから出さない、だとか」

ハ「なんで変更を加えるのを前提なんですか」(汗

ラ「適当だからな〜・・・」

ハ「じゃぁ、次行きますね。今回出てきたランダムダンジョンってでぃs・・・」

ラ「それ以上は言っちゃダメ!」

ハ「へ・・・?」

ラ「○○一ソフトウェアさんに怒られる」

ハ「ラシル君の方が危なすぎる気が・・・」

ラ「作者冒険しすぎ!はい次」

ハ「これで最後です。このゲームの設定関係で参考にしたゲームとかってありますか?」

ラ「あるねぇ。スキルなんかほぼパクリになってるし」(汗

ハ「某有名RPGのシミュレーション版ですね」

ラ「今回は結構長々とやったな」

ハ「ですねぇ。最後まで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます」

ラ「こっちもまた続くと思うので、本編同様次回もまた見てやってください」

ハ「それでは、また次回でお会いしましょう」

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