Chapter5-4
「オレ、ギルド抜けるわ」
突然のラシルの言葉に、その場に居た全員が言葉を詰まらせる。これまでそんな素振りは見せた事がないのだ。無理も無い。
そんな中、エルナだけは冷静に受け止めていた。ラシルの事情を知る数少ない人物なだけに、いつかこうなることは予想していたのだろう。
「おいおい、ラシル。その冗談はちょっと笑えないぞ?」
アルタスが冗談っぽく言ってみるが、その表情は少し引きつっている。やはり、すぐにいつも通りとはいかないようだ。
「せめて理由だけでも教えてほしいな」
「ああ、それは――」
そこまで言った時だった。一人のプレイヤーが建物内に入ってくる。突然の来訪者に会話は途切れてしまう。
現れたのは、♀タイプのゴッドハンド。偶然入り込んだという訳でもないようで、何かを探すように、周囲をキョロキョロと見回している。間もなくして、目的の人物は見つかったようで、駆け寄っていく。そして、
「マスターはっけ~ん。クラスが違うとなんか変な感じ」
ラシルにそう声を掛けるのだった。
「おま……なんでここに……?」
その人物は確かにラシルの知る人物だ。だが、その反応はありえないものを見た様なものだった。無理も無い。何せ、彼女は現在ファンタジアナイツ内にいるはずのない――かつて樹が立ち上げたギルドのメンバー、ミュシャなのだから。
樹自身が、復帰を告知した覚えはない。勿論、湊斗からもそんな連絡は来ていない。もしかして、見逃していたのだろうか?自身が使用している各種メールソフトから携帯電話に至るまで全てチェックしてみる。だが、やはりどこにもなにか書いている様子はなかった。
湊斗がなにかしたのだろうということはすぐに予想がついた。とりあえず文句でも言ってやろうと携帯電話を手に取った時だ。更に三人のプレイヤーが姿を現す。そこに現れたのも、やはりかつてのギルドのメンバー達だった。
「あ、ルシフィスさん。マスター発見しましたよ~」
周囲が唖然としている中、まるで何事もないかの様に、手を振るミュシャ。あまりの温度差にある程度の状況は簡単に察せてしまい、思わず溜息が出る。
「ウチのメンバーが突然すみません」
「ああ、構わないよ。それで、アンタ達が――?」
「ええ、そうです」
樹がラシルである理由を知るエルナには、この事態を察するにはこれだけのやりとりで十分だった。
ただし、他の空の円舞曲のメンバーには当然ながらさっぱり理解出来ない。頭の中には疑問符が浮かぶばかりである。
「ルシフィス。お前たちがここに居るなんて、聞いてないんだけど?」
「そりゃそうだよ。言ってないし」
普段、学校で接するかのようににこやかに答えるルシフィス。予想通りの返答だけに、ラシルは最早呆れるしかなかった。
「マスターをびっくりさせようってことになってさ。それで内緒にしてたって訳だよ」
ファティマが詳しく説明をする。
実を言うと、少し前からギルド再開の話題は出ていた。だからこそ、今回ラシルが脱退の話を切り出したのだ。
しかし、詳しくは未だ決まってはいなかった――はずなのだが、どうやら水面下で話は続けられ、それが今日となったようだった。
「そろそろ私達にも説明してほしいんだけど?」
ソレルの言葉で、まだ自身が何の説明もしていないことに気付く。
「ああ、悪い悪い。それじゃ、改めて――」
ここで一呼吸置いて、再度口を開く。
「オレが抜ける理由は簡単にいうとこいつらだ」
そう言ってルシフィス達を指差す。
「パーペ……チュアル……ノクターン?もしかしてここが――?」
「そう、昔オレが作ったギルド」
ギルド“perpetual nocturne”。これが、かつてファンタジアナイツ内を騒がせたギルドの名前だった。尤も、ハルカとソレルは気にした様子もない。
そもそも、件の騒ぎは彼女達がゲームを始めるよりも以前の話だ。それに加え、攻略や情報サイトの存在を知ったのもまだ最近のことだ。perpetual nocturneの名前を二人が知らないのも無理はないだろう。
しかし、他のメンバー達も同じ様にというわけにはいかない。あの騒ぎの中でゲームをプレイしていたのだ。真偽はともかく、様々な評価を聞いてきた身としては、どう反応していいのかわからないといった様だ。
「なあ、ラシル。perpetual nocturneってあのperpetual nocturneだよな?」
「ああ、そうだ」
今更隠すこともせず、答えるラシル。
ラシルの性格から、実は冗談や名前をわざと似せたギルドというのを期待したが――やはりそう都合のいい答えが返ってくるはずもなく、再び黙り込んでしまう。
「ねぇねぇ、なんでこんなに空気悪いのよ。アンタらなんかしたの?」
この状況を見かねて、ソレルがメッセンジャーで聞いてくる。
「説明するのも面倒だから自分で調べてくれ。ウチのギルド名で検索すればいいから」
今から説明をしても長くなるだけなので、そう答えておく。
納得がいかないのか、ソレルの文句が聞こえてくるが、相手にするのも面倒なので無視することにする。
「そういう訳でマスター。いきなりで悪いけど抜けるってことで――」
「ちょっと待った」
ラシルの言葉が突然遮られる。声の主は意外にもルシフィスだ。
友人の予想外の行動に、もしかして帰ってくるなとでも言うつもりではないだろうかと邪推してしまう。
「これからみんなで狩りに行こう」
実際に出てきたのは予想の斜め上をいくものだった。
この言葉にはラシルや、空の円舞曲の面々だけでなく、perpetual nocturneのメンバー達も呆気にとられている。
「この流れで一体なんでそうなるんです?」
いち早く我に返ったイーリスが問い掛ける。
「ウチは悪名高いからね。誤解を解く意味も兼ねて親睦を深めようかと思ってね」
「その理由は無茶苦茶すぎるだろ」
誰もが同じ事を考えたものの、それを口に出す者はいなかった――ラシルを除いては。付き合いが長いだけあり、言動に遠慮がないのは相変わらずだ。その様子にperpetual nocturneの面々は感心する。尤も、二人にしてみれば、ほぼ毎日――夏休み中の今でも最低週に一度は顔を合わせているのだ。ネット上で会うのは久々とはいっても、そんな感覚はほとんどない。
「まぁまぁ、細かい事は気にしないってことで」
恐らくなにを言っても無駄だろう。ラシルはそう悟ると、最早出てくるのは溜息だけだった。
「ってな訳みたいだけど、マスター、いいか?」
「ああ、こっちは構わないよ」
周りから文句の一つでも出るかもしれないと予想していたが、そんな様子もない。ルシフィスの提案は承諾される。
(それにしても、ここまでなにも何も無いってのは予想外だな)
ラシルは、自身がperpetual nocturneのマスターだと知られたとき、もっと騒ぎになるのではないかと考えていた。
あの騒ぎとはなんの関係もないことや、未だ混乱しているというのはあるのだろうが、その辺りを考慮しても、やはりこの状況は予想外と言わざるを得ない。それほどまでに、ラシル達の評価は、世間的には最悪なものなのだ。
(ま、なるようになるか)
必要以上に深く考えたところで、事態が好転するわけでもない。これ以上考える事を打ち切る。代わりに、
「そういや、レベル差はどうするんだ?流石にお前達とは組めないぞ?」
とりあえず、無茶な提案をする友人に付き合う事にする。
「みんな転生すれば大丈夫じゃない?宝珠も足りるはずだし」
ミュシャが入って間もない頃、ギルド全員で集めに行ったのを思い出す。ラシル自身が現在持っている分はその時に集めたものだ。他のメンバーにも当然ながらその時に振り分けられていたので、同等数か、それ以上の数は持っていたはずだ。
尤も、ラシルは現在、二つ使用しているため若干減っているが、それでもここにいるメンバー全員分を補うには十分だ。
「みんなもそれで大丈夫か?」
今更ではあるが、他のperpetual nocturneのメンバーにも聞いておく。彼らから“転生の宝珠”を提供してもらわなければ全員でパーティーを組んでの狩りは無理なので――経験値やダンジョンを気にしなければ話は別だが――確認ぐらいは取っておいたほうがいいだろう。
ここで拒否をしたところで無駄なだけであろうことは十分に予想出来るため、一応という程度だが。
「今更だしな。こっちはそれでいいよ」
ファティマが答える。
気にしている様子もなく、むしろこの状況も楽しんでいるようだ。この様子を見ていると、余計な心配だったように思えてくる。
「そっちも大丈夫か?」
同様に、空の円舞曲側にも確認しておく。
エルナの承諾もあり、不満があればすぐに口に出すメンバーばかりなので、あまり心配はしていのだが、状況が状況だけに、こちらも一応というぐらいだ。
「ああ、こっちもそれで問題ないよ」
エルナに続き、それぞれから返事が返ってくる。心配な三人――リシュリー、アルタス、ウィシュナ――からも返事があったので、ラシルの心配はほとんど杞憂といっていいだろう。
「それじゃ、準備してこようか」
ルシフィスの言葉を合図に、ラシルとperpetual nocturneの面々は一旦溜まり場を後にするのだった。
準備を終え、一行がやってきたのは、南に広がる砂漠。この広大な砂漠の一角にあるのが今回の目的地“スイカズラ洞窟”だ。
レベル1来るにはあまりにも早すぎるダンジョンではあるが、全員が転生しているということと、なにより大人数という理由からここが採用となった。
「えっと、ラシル君……でいいのかな?」
声を掛けてきたハルカだが、どうにも歯切れが悪い。だが、それも無理のないことだろう。
準備を終え戻ってきたラシルは、それまでの姿とは異なり本来使用していたキャラクター、ユグドの姿で戻ってきたのだった。その為、どっちの名で呼べばいいのか迷っているのだった。
「いいよ、どっちでも。それで?」
「うん。ここってどんなところなのかなって」
「そうだな――」
答えようとして、情報を思い出そうとするが何も出てこない。
よくよく考えてみれば、そもそもスイカズラ洞窟に来たことなどほんの数える程度だろう。どの街から遠く、モンスターもさほど強くないということで、自ら進んで来る事などほとんどないのだった。
どう答えたものかと考え込み、漸く出てきた答えが、
「ちょっとレベルが上がったら来るダンジョン……かな?」
この程度のものだった。
当然、まともな反応など返ってくるはずもなく、気まずい沈黙だけが二人の間に広がる。
「なんならまたソレルと二人で戦闘仕掛けてみるか?」
話題を逸らすためにそんなことを言ってみる。
「――えっと、遠慮しておくね」
苦笑しなが答えるハルカ。恐らく彼女の脳内には、以前のボスモンスター討伐の際に訪れたスノーフレークでのことを思い出されていたのだろう。
あまりいい結果にならないであろうことは容易に予想出来たため、ユグドの提案は却下された。
ハルカの予想通り、二人で戦うには厳しい場所ではあるが、十一人もの大人数で戦闘をするなら話は別だ。
いかにレベル1のプレイヤーが来るには厳しいダンジョンといえど、そこはやはり初心者向けのダンジョン。数人で攻撃を加えるだけで、簡単に撃破できてしまう。
勿論、この程度で満足出来るはずもなく、一行はそのまま地下二層目へと足を踏み入れた。
「レベル1が大人数で攻撃しまくって敵を倒すってのも凄い光景よね」
地下二層目に足を踏み入れて、早速戦闘となった。そんな戦闘の様子を見たソレルの感想がこれだった。
一層目ではこの人数故に、一切レベルが上がる事無くここまで来た。結果、魔法系のプレイヤーを除いた全員でしばらく攻撃を仕掛け、漸くモンスターを倒すことが出来るという状況となっていた。
しばらくとは言っても、相手になにかされる前に撃破は可能という状況は、一層目と変わりはない。よほどの事が無い限り、安全に戦闘が出来る。そのことが確認出来ると、早速このフロアの探索を始めるのだった。
一行のレベルが低い事と、比較的効率よく戦える事――そしてなにより、人が居ないということもあり、三十分も経った頃にはレベルも10を数えるほどになっていた。
また、この間に人間関係にも変化が現れる。
湊斗という知り合いのいるハルカやソレル、ユグドのことを知っていたエルナは、出発したころから友好的だった。だが、リシュリー、アルタス、ウィシュナの三人はそうはいかなかった。それが今では、打ち解けているとまではいかないまでも、普通に会話をする程度にはなっていた。
(単純にウチのやつ達が無理矢理話しかけてるだけって風にもみえるけどな)
そう思うと、苦笑しか出てこない。そして、あまり深く考えるのをやめるのだった。
そんなことを考えながら、後ろから一行を眺めるユグドだったが、その時、一人ユグドの元へと寄ってくる。アルタスだ。
「なあ、ラシル達の噂って結局どこまで本当なんだ?」
ユグドの横を歩くアルタスからの突然の質問。これまでは、perpetual nocturneのマスターと、そして現在はメンバー全員と行動を共にしているのだ。気になるのは当然だろう。
「うーん、九割ぐらいはデマかな?」
「一割は本当なのかよっ!」
ユグドの言葉に大袈裟に驚くアルタス。
「まぁ、随分大袈裟に言われてるから、実際はそう大したことないよ。それともなにか?オレが噂で言われてるようなヤツに見えるか?」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら問い掛ける。これがリアルなら、ヘッドロックをかけて、頭に拳をグリグリと押し付けていただろう。
「とりあえず、お前等がいいヤツだってのはわかったよ」
「そうか。まぁ、もうしばらく付き合ってやってくれ」
ユグドの言葉に「わかったよ」とだけ答えると、アルタスは再び、集団の中心部へと戻っていく。
入れ替わるように、今度は二人――リシュリーとウィシュナだ。
この二人の組み合わせというのはなんとも珍しい。互いに相方と一緒に居る事が多い為、普段ではまず見かけることのないツーショットだ。強いて言えば。ギルドで出かけた際に、二人とも後衛を務めるため一緒にいるのを見かけるぐらいだろう。
「ウチの事なら他のヤツ等に聞いてくれよ」
何か聞かれる前に、そう言っておく。最後に「面倒だから」と付け加えて。
因みに、言いたくないからこう言っている訳ではない。あくまでそのままの意味――本心である。
「それならもう聞いたから大丈夫だよ」
「それよりも別の話」
アルタスに話したようなことをまた話さないといけないかと思っていたが、どうやらそれは杞憂だったようだ。案外、ユグドの反応を見透かされた上での反応かもしれないが、わざわざそれを確認しようとはせず、彼女達に先を促す。
「えっと、その……ごめんね」
とつぜん謝罪を始めるウィシュナ。
謝られるような事をされた覚えなど全くない。
「perpetual nocturneってあまりいい噂聞いたことないし、突然だったからなんて言っていいかわからなくて……」
「ああ、そのことか」
リシュリーの言葉で、二人の言いたいことが漸くわかった。
「気にすんな。それが普通の反応だ」
真偽はともかく、ロクな噂が流れていないのは確かだ。何も知らない第三者からすれば、たとえ嘘を大袈裟に言ったことでもそれは真実となり得る。嘘と見抜けたとしても、いい印象を与えないことは確かだ。
特にユグゴ達は弁明らしいことをしていなかったので、余計にその傾向は強いだろう。
そんなギルドのメンバーが突然現れたのだ。しかもその内の一人は同じギルドのメンバーというおまけつきだ。ユグドからすれば、今の状況ですら異様と思える。
「うん、ありがと」
「ねぇ、やっぱり抜けちゃうの?」
「まぁ、あいつらを放っとけないしな」
やれやれといった感じで答えるユグド。
そう話してるうちに、いつの間にか地下三層目への入り口に辿り着く。
レベルも上がり、ここでの戦闘も随分楽になっていた。だからといって「じゃあ、次の階層に」などとは誰も思ってはいなかった。流石にこれ以上は無茶というよりも無謀だ。
ここで一度引き返すのだろうと、誰もが思っていた。先頭を歩いていた約一名――ルシフィスを除いては。
周囲にモンスターが居ないことを確認し、全員が引き返そうとした時、ルシフィスは迷う事無く次の階層へと進んで行った。流石にこれには全員が唖然とするしかなかった。
「おい、ルシフィス。どこに行ってんだ?」
「三階だけど?」
「無理だからさっさと戻って来い」
「まぁまぁ、折角だし」
なにが折角なのかよくわからない。思わず突っ込みそうになるのを堪える。
ルシフィスってこんなキャラだっけ?そんな考えが浮かんでくる。久しぶりのファンタジアナイツでテンションが上がっているのだろう。完全に悪ノリ状態だ。
そして、良くも悪くもノリのいいperpetual nocturneの面々は――
「それはそれで楽しそうだし行ってみるか」
と、ファティマの一言を皮切りに、
「じゃあ、ボクも」
ミュシャが続き、
「もう、しょうがないな」
そんな言葉とは裏腹に、明らかに楽しそうなイーリスも続くのだった。
結局その場には空の円舞曲の面々だけが残される。
「なんていうか……すごいのアンタ達のギルド」
「あー、うん。……すまん」
出てくるのは、そんな言葉だけだった。
「ユグド、来ないの?」
「……すぐ行くよ」
溜息混じりにそう答えると、空の円舞曲の面々もルシフィス達を追うのだった。
ファンタジアナイツのダンジョンは、大抵の場合は、階層を一つ登る――もしくは降りる――度にモンスターの強さは格段に上がる。それは初心者向けと言われるここ、スイカズラ洞窟も例外ではない。
二層目のモンスターですら、全員で攻撃を仕掛けて漸く撃破出来る状況の一行がこのような階層まで来るとどうなるのか。
「一瞬で半壊したな」
ユグドは、現在の惨状を見ながら呆れたように――しかし、どこか楽し気に言うのだった。
三層目に入って間もなくして、三体のモンスターとエンカウントした一行。早速攻撃を仕掛けるが、一瞬にして、半数以上の者がやられてしまったのだった。
後衛組みは全滅。残っているのは、ユグドにルシフィス。あとはミュシャとエルナといった、僅かな前衛組みだけだった。Perpetual nocturneの前衛組が全員残っているのは、ブランクはあれど流石のプレイヤースキルといったところだろう。
「とりあえず、一旦立て直すぞ」
ユグドの言葉に全員が頷く。
現状で回復が出来るのはユグドだけだ。残りの三人でモンスターを退き付け、ユグドが回復して回る。幸いモンスターを退き付けていた三人もやられることなく、なんとか全員を復活させることが出来た。これで戦闘は振り出しへと戻った。戻ったはずなのだが……
「なんでこうなった」
再び壊滅状態へと追い込まれていた。しかも今度は残ったのがユグドとルシフィスの二人だけという状況だ。
「ホントなんでだろうね?」
慌てる様子もなく、ルシフィスはいつもの調子を保ったままだ。そんな様子を見ると、最早反論する気も失せてしまう。
「しょうがない。とにかく二人でこいつら片付けるぞ」
仲間を復活させる余裕も、アイテムも、SPもない。更に言うならば、体制を立て直しても同じ結果になるのは目に見えている。
ユグドは目的を状況の建て直しから、モンスターの撃破に切り替える。
「こっちは久しぶりで、重いんだ。フォローは任せた」
守りに重点を置いたユグドと回避に重点を置いたラシル。樹の使用するキャラクターは全くの正反対の仕様となっている。その影響はパラメータだけでなく、操作にも現れる。
素早く軽快に動くラシルと違い、ユグドの動作は若干重く感じる。しかもついさっきまでラシルを使用していたのだ。半年近くラシルを使っていたことからも、すっかり軽快な動きになれてしまい、余計に重く感じるのだろう。
「こっちも久しぶりでそんな余裕ないよ」
「最悪の組み合わせだな」
口ではそういうユグドだが、表情はこの状況を楽しんでいることを物語っている。
周囲の無茶に呆れながらも結局は付き合うだけに――勿論逆の場合もあるが――今回のような無茶は決して嫌いではない。そして、その無茶の最たるもののような現状は楽しくないはずがなかった。
構える二人に、容赦なくモンスターが近付いてくる。ジリジリと距離が詰まり、ある程度近付いてきたところで、二人同時に一気に距離を詰める。
数回攻撃をしたところでユグドはバックステップで後方へ、ルシフィスはモンスターをすり抜け背後へと回る。
「相変わらずお前のドラゴン邪魔だな。一緒に居ると見にくい」
「今更言われてもね。こればっかりはまた慣れてもらうしかないよ」
ルシフィスのクラスはロイヤルガードと呼ばれる特殊クラスだ。騎兵クラスと飛兵クラスをマスターした末になれるこのクラスもやはり、騎乗することを前提にしたクラスである。ただし、このクラスは騎兵の特性を持つ馬か、飛兵の特性を持つ飛竜のどちらかを選び騎乗することになる。
ユグドのセリフにもあるように、ルシフィスは飛竜を駆るロイヤルガードなのだ。
「ユグドのその文句もなつかしいね」
扱いやすさの面でこちらを選択したのだが、ドラゴンのグラフィックが大きく、周囲のプレイヤーが隠れてしまうという仕様のせいか、ユグドがよく文句を言っていたのを思い出す。
二人でヒットアンドアウェイで攻撃を繰り返し、ダメージを受ければすぐさまユグドが回復を行う。完全にパターンが出来上がり、機能する。このまま凌ぎきれるかとも思わせるが、いつまで経っても終わる気配はない。与えるダメージが低すぎるのだ。
時間が経つごとに集中も切れ、次第にミスが目立つようになる。ミスが増えれば当然回復も追いつかなくなり、十分ほど粘ったところで、二人ともついにやられてしまうのだった。
空の円舞曲を巻き込んでの、perpetual nocturne復活後第一回ギルド狩りは全滅という形で終えることとなった。
一行は空の円舞曲の溜まり場へと戻っていた。ダンジョンにいた時間もあまり長くはなく、アイテムもほとんど出ていないため、精算をすることもなくすっかり雑談ムードだ。
「ちょっといいかい?」
そんな中エルナから声がかかる。これまでリシュリーと共に特に反応がなかったため、裏で何かしていたであろうことは、全員簡単に予想出来た。
「オレ達は出ていようか?」
ギルドに関連することだろうと予想しての言葉だ。ギルド関連の話ならあまり部外者が居ないほうがいいだろう。そう考えてのユグドの提案だ。
「いや、むしろ居てもらったほうがありがたい」
だが、エルナからの返事は予想を裏切るものだった。
空の円舞曲に関連することで、尚且つperpetual nocturneが居たほうがいいような事など全く予想がつかない。ともかく、彼女の言葉を待つ事にする。
「さっき二人で話してたんだけど、ちょっと早いけどそろそろ休止することになったの」
「丁度、ラシルも抜けたことだしな」
リシュリーの説明に、エルナが付け加える。
「オレのせいみたいに言わんでくれ……」
「いや、お前のせいだ。だから責任取れ」
無茶苦茶だ。余りにも無茶苦茶すぎて、反論する気も失せてきた。ユグドには、何を反論しても無茶苦茶な反論を返される様子しか思い浮かばないのだった。まるで、酔っ払いの相手をしているような気分になってくる。
それなら、大人しく彼女の言う事を聞いておいたほうがいいだろう。
「で、何すりゃいいんだ?」
「ウチのメンバーの面倒を見ろ」
「はあ?ここのギルドどうすんだよ?」
「解散するから気にするな」
あまりにもさらっと――まるで何事も無いかのように言ったものだから、全員が聞き流しそうになる。
改めて思い出し、そして理解するまで数秒。
「「「「えええええええーーーーー!?」」」」
まるで、あらかじめ台本でも準備されていたかのように、空の円舞曲のメンバー全員が同じタイミングで、同じ言葉を発していた。
聞いていない。なぜ?……等等。
各々が疑問をエルナにぶつけるが、流石に対応が出来そうにない。
「お前ら落ち着けって。マスターもちゃんと理由ぐらいは言ってやれ」
一人冷静だった――勿論、予想外ではあったが――ユグドがなだめる。
「ラシル、アンタなら理由はわかるんじゃないかい?」
「マスターのいないギルドは自然消滅する――だっけ?」
「そういうこと」
解散と言われて、一人冷静でいられたのもこの知識があったからだ。
尤も、正確には消滅というより衰退と言ったほうが正しいのだろう。マスター自身はギルドに残るのだから。
どちらにせよ、これはよく聞く話ではある。ネットではよく語られており、ユグド自身もなんどかこの様な書き込みを見た事はある。
因みに理由も真っ当なもので、マスターがいないギルドはメンバーのモチベーションが段々と下がっていき、そのまま離反して行くというものだ。言われてみれば確かに納得のいくものだ。ただ、これまでそんな場面に居合わせた事もなければ、直接話を聞いた事も無い。結局、ユグドにとっては説得力のある噂程度でしかなかった。
「たかが噂だろ?そこまで気にする事もないんじゃねぇの?」
これは本心だ。
どんなに説得力があろうが、所詮は噂。そこまで気にする必要はないように思える。それに、空の円舞曲の面々を見ていると、余計な心配に過ぎないとも思える。エルナとリシュリーが戻ってくる事は確かなのだから、余計にそう思える。
「そうでもないさ。まあ、保険程度に考えてくれればいいよ」
どうやらエルナの意思は変わりそうにない。それなら、ユグドの方からこれ以上口を出すつもりも無い。
「そこまでいうならいいけど、結局あいつら次第だろ」
そう言ってハルカ達を指差す。
二人で何を言おうが結局どうするかは本人達次第だ。ただ、ユグドは誰か入るだろうとは主ってはいなかった。
空の円舞曲の面々には誤解は解けているが、やはり他のプレイヤーからすれば、あまりいい印象のあるギルドではない。厄介ごとに巻き込まれる可能性もある。そんなギルドに好んで入りたがる者など、まずは居ないだろうと考えていた。
「それなら――マスター達も入るって条件ならいいですよ」
「ああ、構わないよ」
だが、ユグドの予想とは逆の提案がウィシュナから出される。しかも、エルナもそれをあっさりと承諾する。
「おいおい、お前らそれでいいのか?」
「なんか問題あるか?」
「みんな一緒で丸く収まる方法だと思うけど?」
気付いていないのか、それとも気付いた上で言っているのか――アルタスとソレルが答える。
「ウチに入ると、割と高い確率で厄介ごとが付いて来るぞ」
念のために一応言ってみる。
「そういえば……」
「ラシル君達のギルド色々言われてるんだったね」
件の騒ぎを知らないハルカやソレルはともかくとして――アルタスやウィシュナはすっかり忘れていたようだった。
予想はしていたが、余りにも予想通りすぎて思わず溜息を吐く。
「まぁ、ウチは来るもの拒まずだ。好きにしろ」
色々と言いはしたものの、ギルドに入るというのなら拒みはしない。それがperpetual nocturneのスタイルなのだ。
ハルカ達も先ほどの忠告は余り聞く気はないらしい。話が纏まったと思うとギルドを解散させ、perpetual nocturneの方へと移ってきたのだった。
夏休みの終わりを目前に控えたある日。
長らく休止していたギルドが復活し、同時に――奇しくも一つのギルドが消滅することとなった。
ラシル(以下ラ)「お待たせしましたやっと五話も終了です~」
ハルカ(以下ハ)「五話が終わりって……これって最終輪じゃないんですか?なんで私達がまだあとがきを任されてるんですか?」
ラ「一応まだエピローグもあるからだろ」
ハ「結局エピローグはやるんですね」
ラ「前半、はページ数が結構少なかったからな。そのシワ寄せが……」
ハ「ホント行き当たりばったりですねぇ」
ラ「さて、話は変わってお知らせです」
ハ「いままで散々言われてきた誤字ですが、修正してきました」
ラ「報告していただいたみなさん、物凄く助かりました。どうもありがとうございます」
ハ「でもあの作者ですし、見落としとか大丈夫ですかね?」
ラ「多分大丈夫じゃないな……」
ハ「ダメだあの作者。早くなんとかしないと」
ラ「さて、報告も終わったし今回はこんなもんかな?」
ハ「随分短いですね」
ラ「ギルド紹介も終わって書くことないんだよ」
ハ「ああ、なるほど」
ラ「では、また次回もよろしく~