表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/23

Chapter4-4

「で、アンタはあの三大ギルドとかいうとこのマスターとどんな関係なわけ?」

 ここは、近所のバーガーショップのチェーン店。

 以前、ボスモンスターとの戦闘を終えたあと再戦することが決まり、再びレベル上げに励む事になった樹、遥歌、咲希の三人。

 それから数日、いい加減レベル上げに疲れと飽きが来た事もあり、以前の様にこうして集まっているのだった。少し違うのは、この日は湊斗もいることだろう。

 全員が注文を終え、席に着いたときに咲希が言ったのは冒頭のセリフだ。

「いや、どうって言われてもな……別に何ともないぞ?」

「あれだけ二人で話しててなんともないわけあるか!」

 煮え切らない様子の樹を一蹴する咲希。

「話しても問題ないんじゃない?」

「わざわざ話すようなことでもないと思うんだけどな……まぁ、いいか」

 樹は自身やその周囲のことを基本的に秘匿とする傾向がある。勿論これは、本来所属していたギルドの関係から、余計な問題を持ち込まないためでもある。だが、それを差し引いてもやはり、その傾向は強い。

 一方、湊斗はそれとはほぼ真逆といっていいぐらいだった。

 勿論、本当にいえない部分を漏らすことはないが――事実、遥歌や咲希は樹達のギルドのことは全く知らない――問題ないと判断すればあっさりと情報を公開する。

 そんな湊斗が問題ないというならば、樹はあっさりと折れることにする。

「言っとくけど、あまり面白い話でも無いぞ」

 一旦、そう前置きをおく樹。その言葉に遥歌と咲希は頷く。

 そんな二人の様子を確認すると、樹は静かに話し始めた。

「オレらがゲームを始めた頃に世話になった人がいたんだ。まぁ、師匠ってとこだな。で、その師匠の知り合いだったのが、あのトラデスって訳。その時の縁と当時はまだ荊棘ソニアフォーレストが今ほど大きくなかったこともあって多少の交流があったと、まぁ、そんだけのもんだ。」

 遥歌と咲希の予想に反して、樹の話は非常に短いものだった。これは、単に樹が端的に語っただけなのだろうが。

 想像以上にあっさりとした話だったためか、呆然とする二人。

「それ……だけ?」

 そして、漸く出てきた言葉がこれだった。

「もうちょっと色々あるのかと思ってたよ」

「だから、面白くもなんともない話だって言ったろ?」

 苦笑交じりの遥歌に、樹が呆れた様に返す。

 樹の話は随分と端折ったものだ。だが、それを丁寧に語ったとしても、それはやはり樹が言うように、“面白い話ではない”ではない。

 彼らの間には、小説のような劇的な物語があるわけでもなければ、コミックのような怒涛の展開がある訳でもない。

 どれだけ親切丁寧に――そして、どれだけ大袈裟に話そうとも、結局は“師匠の知り合いで付き合いが出来た”という内容に集約される。それ以上にはなり得ない。

「で、トラデスがどうかしたのか?もしかして惚れたか?」

「え?咲希そうだったの?」

「個人的にはあまりおすすめしないよ」

 樹の冗談に、遥歌と湊斗が便乗する。

 少し前ならば、こうしたやり取りもほとんどなかったのだが、これもすっかり打ち解けている証拠だろう。

「違うわよ!大体、なんであんな腹立つヤツのいるギルドのマスターなんかを――」

 否定と同時に、ヨシノへの愚痴もこぼす咲希。

 先日のことは、当日こそ反感を持ったメンバーもいたものの、今では咲希だけが根に持っているのだった。

 いつの間にか彼女の弁はヨシノへの愚痴のみになってしまい、更にそれが収まる様子はない。

 周囲の意見を聞き入れる様子もなく、更には絡んでくる始末。最早、樹達はタチの悪い酔っ払いを相手にしている錯覚に陥るのだった。

 結局、彼女の愚痴は一時間もの間延々と続き、漸く収まりを見せたのだった。

 その後は他愛もない話で盛り上がり、解散となる夕方までバーガーショップの一画を占領し続けたのだった。


「ラシル、これから時間あるかい?」

 再びボスモンスターを討伐に行く日が目前にまで迫ったある日。

 ラシルはいつもの様に、レベル上げに行く前にアイテムの補充をしていた。丁度その時だった、エルナがギルドチャットで話しかけてきた。

「いつも通り、あいつらと狩りに行くつもりだけど」

「今みんなでどこか行こうって話になってるんだけど、アンタもどう?ハルカとソレルも行くって言ってるけど」

「それなら参加するよ。すぐ戻るわ」

 普段なら効率なども考えそうなものだが、そんな様子もなく参加を決めるラシル。勿論、効率なども考えてなのだろうが、それよりも、ここ数日は同じメンバーと同じ場所でずっと戦闘をしていたのだ。ラシルでなくとも飽きは来る。そんな中でのこの提案は、まさに助け舟といったところなのだった。

 手早く買い物を終わらせると、ラシルは溜まり場へと戻るのだった。

 溜まり場へと戻ると、ギルドのメンバー全員が揃っていた。全員準備は万端らしく、あとはラシルが来るのを待つのみといった様子だった。

「お待たせ。で、場所は決まってるの?」

「いや、丁度決めてたとこなんだけどね」

「なかなか決まらなくて」

 その言葉を聞き、丁度いいと言わんがばかりにニヤリとするラシル。

「だったら、いい物あるぞ」

 そう言って、エルナにアイテムを投げ渡す。

「――!ラシル、これって……!」

 アイテムを見たエルナが珍しく慌てている。それも無理はない。ラシルが渡したアイテムとは――

「これ、オリハルコンじゃないか!」

 このエルナの言葉にその場に居た全員が驚く。

 このオリハルコン、レアアイテムの中ではドロップ率が高いため、アイテムのランクとしては低いものの――あくまで他のレアアイテムと比べればだが――高値で取引され、このゲームに慣れたプレイヤーならだれもが欲しがる代物のだ。

 勿論、それには理由がある。

 最上位の武具を作ろうとした場合、どうしてもこのアイテムは必要となってくる。しかし、ドロップするモンスターは一部のボスモンスターのみと、非常に手に入りにくい物となっている。

「こんなもん、どこで手に入れたんだよ……?」

「こっちに戻ってくる時に安売りしててな。それで買ってきた」

 アルタスの問い掛けに、事も無げに答えるラシル。

 いくら安売りとはいえ、そうそう手の出せるものではない。そんなものを、衝動買いしてくる上に、簡単にギルドに差し出すラシルの感覚は最早、絶句するしかなかった。

「それなら、面白いダンジョンにいけるだろ?異議なしならそれで行こうか」

 全員が“勿体無い”と思いながらも、このままでも決まる気配はなく、結局ラシルの意見に賛同するのだった。


「ここに来るのも久しぶりだね」

 目的のダンジョンに無事辿り着き、ハルカがそんな感想を述べる。

「そーいや、ハルカの試験以来だっけか」

 ハルカのギルド入団試験で訪れて以来、この場所に来る事がなかったことを思い出す。

 尤も、アイテムを使用して訪れるダンジョンとはいえ、使用しているアイテムが全く違うのだから、厳密には同じとは言えないのだが。

 それはともかくとして。

 空の円舞曲ワルツの一行は、オリハルコンによって生成された、ランダムダンジョンに来ていた。

「それじゃ、パーティー分けようか。私とリシュリーで組むから、残りはラシルが面倒見てくれるかい?」

 レベル差は大丈夫なのだろうか?

 エルナの提案を聞いてラシルが真っ先に浮かべた疑問だった。ギルドの情報ウインドウを開き確認してみると、エルナの提案に問題がないことがすぐにわかった。

「いつの間にか追いついていたんだな」

 あくまでパーティーが組める程度にではあるが、ラシル達三人のレベルはアルタスとウィシュナのレベルに追いついていたのだった。

 五人で組む事に問題ないことを確認すると、ラシルはエルナの提案を了承し、一行は二手に分かれて探索を始めるのだった。

「ここでもう結構強いな」

 ラシル達は現在地下三階にまで来ていた。

 そこで戦闘を開始したのだが、アルタスの言う様に、モンスターは随分強力なものが出現するようになっていた。

「噂には聞いてたけど、ホント見た目で強さがわからないわね」

「だから楽しめるんだって。そうすりゃレベルアップまでの時間も気にならないだろ」

 ラシルはそう言いながら、モンスターに止めを刺す。倒すのに苦労しただけあり、五人でパーティーを組んでいるにも関わらず経験値はなかなかのものだ。

「経験値が随分入るね」

「こりゃ高い金出した甲斐があったな」

 そう言うラシルに「どうせならもっと別のことに」と言いたくなる面々だったが、それを口に出すものはいなかった。今更どう言ったところでアイテムが戻ってくる訳でもない。

 むしろ、折角のラシルの計らいを楽しもうと思うのだった。

 一方エルナ達は、ラシル達よりも更に下層の地下五階にまで来ていた。

「まだ五階だってのに、油断してると危ないね」

「エルナが無茶するからだよ」

 呆れたようにリシュリーが言いながらエルナを回復させる。だが、彼女がそう言うのも無理はない。

 この階層のモンスターは、エルナ達よりも少し強いぐらいだろう。戦闘時間が多少長くはなっても苦戦するほどのものではない。

 そのような状況にあったせいか、戦闘中に三匹ものモンスターに囲まれても構わず戦闘を続けた結果、回復が追いつかず、やられてしまう一歩手前までダメージを受けることになったのだった。

「危なくなったらちゃんと退かないと……私も援護しきれないよ?」

「ごめんごめん。ちゃんといけると思ったんだけどね」

「とにかく、あんな無茶はもうダメだからね」

 改めて釘を刺すリシュリーに「はいはい」と返事をしながら、探索を再開する。

 ――二時間ほどが過ぎて。

 エルナ達は地下一階まで戻っていた。一度小休止をということで、ここまで戻ってきていたのだった。

「多分この辺に……」

 何かを探しているのか、エルナは辺りを見回しながら歩いていく。

「あ、アレじゃない?」

 しばらく歩き、リシュリーはそれらしきものを発見する。どうやら間違いないらしく、二人は近付いていく。

「お、やっと来た」

 そこに居たのは、ラシル達とは別行動をしていたパーティーだった。

 小休止ということで、ラシル達とこうして待ち合わせをしていたのだった。ただ、別パーティーになっているため、表示されているマップにラシル達の情報が写ることもなく、合流に手間取っていたのだった。

「いや〜、探した探した。それで、そっちはどう?」

 エルナは悪びれた様子もなく、ラシル達の輪に加わってしまう。

「こっちは結構大変だったよ」

「割とお前のせいなんだけどな……」

 アルタスの言葉にラシルが突っ込む。後ろでハルカが苦笑しているのを見る限り、あながち間違いというわけでもないようだ。

「ラシル君がいなかったら2、3回は全滅してたよ」

 ウィシュナが呆れたようにいうのだった。わずか二時間でこれほど全滅の危機があったのなら、この反応も納得だ。

 全滅の危機の原因がアルタスが一人で突っ込み、そのままモンスターに囲まれてしまったであろうことは、エルナには容易に想像出来た。自身が当事者でないせいか、相変わらずな様子に、微笑ましくなってくる。

「それでマスター、これからどうするんですか?」

 ハルカが問い掛ける。

 ギルドのメンバー全員が集まってこうしてダンジョンに来ているのだ。このまま各自レベル上げだけで終わるはずはない。

 ハルカだけでなく、全員がそう思っていたことだった。だから、こうして合流したからにはなにかあるだろうとは全員が予想していた。

 時間も既に深夜に指しかかろうかという時間だ。一度解散して、後で再び集合ということはないだろう。

「それじゃぁ、最後にここのボスを倒しに行くとしますか」

 エルナの言葉に異議を唱える者はなく、一行は最下層を目指す事になった。

 ――そして地下十階。

 この辺りまで来ると、メンバー内では最高レベルのエルナでも相手にするのはかなり厳しいモンスターが出てくるようになっていた。

 それでも、人数の多さでなんとかモンスターを撃破し、ここまで到達できていたのだった。

「まだあるの……?」

「さすがレアアイテムで作ったダンジョンだけあるね」

「階層は結構ありそうだもんね」

 いつまで経っても終わりが見えないダンジョンの構造に、そんな言葉出てくるようになる。

 探索は次の階層に行くためのワープポイントを探すだけに留めているため、一階層辺りの滞在時間は少ないものの、既に十もの階層を進んできた事と、何より戦闘の難易度の高さから、実際の道のり以上に長く感じていたのだった。

「でもこれ以上の階層となるとちとキツイかもな……」

 ラシルの言葉は珍しく弱気なものだった。

 尤も、基本的に無茶な場所には行かないので――あくまでラシル個人の感覚のため、周囲から見れば十分無茶な場合も多々あるが――そういった言葉を聞く機会がないだけで、実際にはラシルの言葉は、周囲の状況を見て言う事がほとんどだ。

 今回の言葉も弱気や不安から来るものではなく、文字通りこのパーティーには厳しいと感じているだけなのだ。

 それでも、ここまで来たからには引き返す気にもなれず、先へと進むのだった。

 そして、地下十二階。

 僅か二階層降りただけで、モンスターの強さはそれまでとは全く違うものになっていた。いや、厳密には徐々に強くなっていたのだろう。ただ、モンスターに対抗出来るギリギリのラインを超えてしまっただけで……。

「ラシル君、SP残ってる?」

「こっちもカラだ。ウィシュナの方は……ないんだったな」

「うん。こっちもまだ回復してないよ……」

 先の戦闘で、なんとかモンスターは退けたものの、回復が追いつかず、回復魔法の使える三人のSPが尽きるという事態になっていた。

「今モンスター出たらやばいぞ」

「出ないことに期待しながら回復を待つしかないね」

 脱落者こそいないものの、各員のHPは随分と減ったままだった。

「ソレル、売り物用のアイテムとか持ってなかったっけ?」

「自分の分だけよ。それにドロップの装備品しか販売してないわよ」

 商品用に回復アイテムを持っていることを期待したハルカだったが、その望みも断たれてしまう。それぞれが持ってきていた回復アイテムも既に使い切ってしまい、自然に回復していくのを待つしかなかった。

 幸いモンスターの襲撃にあうことはなく、完全とはいえないまでも随分と回復していた。

「結構回復したね。SPは?」

「ダメだ。スキルじゃ全然回復しねぇ」

 ラシルの言葉に、リシュリーとウィシュナも頷く。

 本来。このゲームにおいてSPとは、戦闘によって蓄積されていくものだ。スキルによる自然回復はあくまで補助に過ぎない。その為、回復速度は随分と緩やかなものなのだ。

「多分、戦闘になったら支援しきれないと思うよ」

「それじゃ、もう少し休憩――」

 エルナはそこまで言って何かに気付く。

 僅かにではあるが、何かが聞こえる。徐々に大きくなるそれは、モンスターの足音だった。

 他のメンバーも気付いたのだろう。エルナが声を掛ける前に既に全員立ち上がっている。

 間もなくして、モンスターが姿を現す。どうやら、モンスターもエルナ達に気付いたようで、まっすぐに向かっていく。

(誰がターゲットにされてるんだ?)

 ラシルはモンスターの動きを窺うが、メンバーが固まっているため、その動きから察することは出来ない。

(とりあえず、突っ込んで一旦オレに無理矢理ターゲットを向けさせるか……?)

 後衛にモンスターを向かわせるわけにはいかない。そう考えて、自身の動きを考えるラシル。だが、どうやらそんな暇もないようだった。

 ラシルが動きを考える一方で、徐々にモンスターは迫ってくる。下手にモンスターに突っ込んだところで返り討ちに合うのが関の山だ。その為、全員が様子見をしていたのだが、ついに耐え切れなくなったアルタスがモンスターへと向かう。

 それを合図とするかのように、エルナとソレルも向かっていく。戦闘開始だ。一歩遅れて、ラシルも戦列に加わる。

 だが、格上の相手に戦線を長時間維持できるはずもなく、戦闘開始から間もなくして崩れ始める。

 受けるダメージが大きすぎるため、まずはアルタスが下がる。レベルの高さから、なんとか耐え抜いていたエルナも限界に近付き一旦下がる。これで、前衛はソレルとラシルの二人となる。

「こういう時、一撃の重さがないのは痛いな」

 ラシルは自身のキャラクターのパラメータの割り振りを少し後悔する。

 前衛二人とハルカ。現在、モンスターにダメージを与えているのはこの三人だ。だが、どれも数値は芳しくない。

 ラシルは武器こそ相応の物を持っているが、力のパラメータは決して高いとは言えず、ハルカとソレルは純粋にレベルや武器がこの場所では分不相応だ。

「ソレル、ちょっとの間足止め頼む!」

 ラシルはそう言って一旦後方へと下がると、魔法の詠唱を開始する。

「いきなりそんなこと言われても……!」

 突然の事に慌てるソレル。その言葉と同時に敵の攻撃を回避する。だが、動きが大きくなりすぎる。結果、モンスターとの距離が開いてしまう。

 どうやら、モンスターはラシルをターゲットとしたようで、ソレルには目もくれずにラシルへと向かう。ソレルと、モンスターの動きに気付いたエルナとアルタスも向かうが、間に合う距離ではなかった。

 既に詠唱に入り、無防備となったラシルにモンスターの攻撃が容赦なく降り注ぐ。

 一瞬、誰の目にもラシルのHPを示すバーが全てなくなったかの様に見えた。だが、ラシルはまだ立っている。どうやら、残りごく僅かだが、HPが残ったようだ。

「危ねぇ……おい、ソレル!」

「アンタがいきなり言うからでしょ!」

 そんないつものやり取りをしながらも、ラシルは自身を回復する。同時に、エルナとアルタスも回復させ、三人は戦線へと復帰する。

「アレ?ラシル、魔法は?」

 他の三人と共に、前衛として攻撃に加わるラシルに問い掛けるアルタス。

「お前らの回復したらSPなくなったんだよ」

 ラシルは溜息混じりに答える。どうやら、戦闘によって蓄積されたSPの量はギリギリだったらしい。

 改めて、戦闘は振り出しへと戻るが、事態が好転することはない。ダメージはなんとか与えているものの、常に押されているのはラシル達だ。それでも今はなんとか均衡を保ててはいるが、少しでも綻びが出来れば、そのまま一気に崩壊してしまうであろうことは誰もが感じていた。

 そして、その綻びがいとも簡単にやってきた。

 ギリギリのHPで粘っていたアルタスがやられてしまったのだ。続いてソレルも回避行動のミスからやられてしまう。

 これで残るメンバーは五人。

 エルナとラシルは戦線を維持し、ハルカが後方から矢を放つ。ウィシュナとリシュリーは支援と、それぞれの役割は依然そのままだ。皮肉にも、前衛が二人減ったことにより、支援の負担が減り、一旦パーティーの崩壊は止まる。だが、安心出来る事態ではないことに変わりはない。

 モンスターの攻撃を二人揃って避ける。そこにハルカの矢が命中する。

 前衛二人とモンスターとの距離が開いたその時だった、僅かに詠唱をしたかと思うと、ハルカに魔法が降り注ぐ。近くに居たウィシュナとリシュリーも巻き添えにされる形でダメージを受ける。

 魔法職の二人は、さほど大きなダメージを受けることもなかったが、ハルカはそうもいかず、ここで脱落となる。

「こいつ、魔法もあるのかよ……」

 これまで使う素振りもなかったため、誰もが失念していたのだった。

 負担は減っても、大きいことには変わりない。次第に回復も追いつかなくなり、ついにはラシルとエルナもやられてしまう。

 残るはリシュリーとウィシュナの魔法職の二人。勿論、この二人に対抗出来るはずもなく、呆気なく全滅となり、この日の探索は終了となるのだった。

 そして、再びボスモンスター討伐の日がやってくる。

「それじゃみんな、準備はいい?」

 空の円舞曲の溜まり場に集まったメンバーに、エルナが問い掛ける。その言葉に全員が頷き、一行は再びスノーフレーク――通称リナリアダンジョンへと赴くのだった。

 レベルが上がった事も有り、一週間前に訪れたときよりも進むのが随分楽に感じられた。実際、楽になっているのは確かだった。

 特にレベルが低かったラシル達は、随分と無茶をして――しかし、それに見合うだけの見返り、即ち経験値とレベルを手に入れていた。

 勿論、他のメンバーもこの時ばかりは、ずっとレベル上げに励んでいたのだ。

 以前は随分遠く感じられた道のりも、今回は随分短く感じる。そして、間もなくして最下層の中央――通称ボス部屋と呼ばれる場所の前へと辿り着いた。

「相変わらず、結構人がいるな」

 部屋の開放を待ち、近くに集まるプレイヤー達を見て、ラシルが呟く。

「相変わらずっていうか、また同じ人たちみたいだよ」

 ハルカの言葉を受け、よく見てみると確かにギルド“荊棘ソニアフォーレスト”の一行がここに集まっているのだった。

 尤も、同じギルドではあるが、同じ人物とは限らないのだが。

 今更、相手のことを気にする事もなく、前回と同じ様に一画を陣取り、同じ様に部屋の開放を待つ一行。そこに、一人のプレイヤーが近付いてきた。

「よう、またアンタらか」

 以前もこうして声を掛けてきたヨシノだった。もっとも、以前のような憎まれ口ではなかったが。

「あ、あんたこの前の……!」

「ま、今回もせいぜいがんばりな」

 過剰に反応するソレルを余所に、ヨシノはそれだけ言うと立ち去ってしまった。

「なんだったんだ?」

「なにか心境の変化でもあったんじゃないかい?」

「いや、あれは絶対になにか裏があるに違いないわ」

 ソレルが未だ根に持っているのは相変わらずだった。

 入れ替わるように、更に別のプレイヤーが訪れる。他のプレイヤーよりも一回りは大きいその姿は――やはり見覚えのあるものだった。

「よう、アンタらもまた来たのかい」

 巨体のプレイヤー――トラデスからは友好的な雰囲気が見て取れる。

 三大ギルドの一角を担うギルドのマスターという肩書きのせいか、トラデスの様子とは裏腹に、必要以上に緊張してしまう。ただ一人を除いては。

「お前らもかよ。大方先週からずっといるんだろうけど、よく飽きないな」

 ラシルだ。付き合いの長さもあるからだろうか、なれた様子で応対する。

 三大ギルドの一つのマスターをお前呼ばわり出来るものなど、そうはいないだろう。知らない者が見れば、ラシルは何も知らないただのバカか――あるいは命知らずなプレイヤーに見えるだろう。

「そう言うな。狙ってるアイテムがなかなか出ないんだ」

 日頃から二人のやり取りはこのようなものなのだろう。トラデスは特に気にすることもなく会話を続ける。

「そっちもがんばってくれ。頼りにしてるぞ」

 最後にトラデスはそういい残すと、自身のギルドの集まる方へと戻っていった。

 そして、それを合図とするかのように、閉ざされていた扉が開くのだった。


「二回目ともなると、流石に楽ね」

「そんなこと言って、死んでもしらないよ?」

 戦闘が始まって数分。

 二回目ということもあり、少し余裕を見せるソレル。その言葉を聞いて、ハルカは苦笑する。だが、その余裕も納得出来るぐらいに、ソレルの動きは非常にいいものだった。

「最近、どっかの誰に合わせて無茶してたからね。それに比べればかなり楽よ」

 ソレルの言うように、ここ一週間は非常に厳しいものだった。はるかに格上のモンスターを相手に――それも時には数体に囲まれて相手にしていたのだ。

 一撃こそ大きいものの、基本的に動きの遅いこのボスモンスター――ポセイドンの攻撃を避ける事は、これまでの事に比べると随分楽なものだった。

「余裕みせるのもいいけど、ミスしないようにしなよ。下手すると終わるまで寝たきりになるよ」

 エルナがそう嗜め、一行は再び戦闘に集中する。

 何度もやられながらも、うまく復活させていき、戦闘が終盤に差し掛かった今も、脱落者は出ていなかった。

 一方、荊棘の森のメンバーも戦闘を続けていた。空の円舞曲のメンバーがここまで戦えているのも、彼らが共に戦闘をしているからに他ならない。

 そんなメンバー達を指揮するのはヨシノ。彼はメンバーの指揮をする一方で、空の円舞曲――いや、ラシルの動きを見ていた。

 以前、彼らと共に戦った後、トラデスが言ってた言葉を思い出す。

“ラシルは一度も死んでいないかもしれない”

 ありえないと思いつつも、確かめてみたい。そんな気持ちからだ。

(ありえねぇ。なんなんだよ、アイツは……!?)

 ヨシノは驚愕していた。そう思えるほど、ラシルの動きは秀逸なものだった。

 ラシルはこれまでに二回やられていた。一回はランダムに降ってくるレーザーを受けて、そしてもう一回は動きが切り替わった直後。突然の変化に対応しきれなくて攻撃を回避しきれなかったのだ。

 その様子から見て取れるように、ラシルは一回か――よくて二回攻撃を受けるとやられてしまうほどのHPしかない。

 そして、ダメージを受けた状況はランダム性の強いものと、動きの切り替わり時の非常に避けにくい状況ばかりだ。それ以外は一切のダメージを受けていないのだ。ヨシノが驚くのも無理はない。

「ヨシノ、お前から見てどうだ、ラシルは?」

 ヨシノがラシルの方を気にしていたのはわかっていたのだろう。トラデスが問い掛けてくる。

「どうもなにも、どう見てもチートにしか思えないですよ」

「そりゃそうだ。オレの知る限りこの世界ゲームで最高の腕を誇ったプレイヤーの弟子だからな」

 ラシルの動きは当たり前と言わんがばかりにトラデスが言う。

 そう話している内に、ついにポセイドンを討伐する。しばらくの間、ずっと戦っていたこともあり、荊棘の森のメンバーに感慨のようなものはなかった。そこにあったのは、やっと作業が終わったと、その程度のものだった。

 一方、空の円舞曲のメンバーも、誰も欠けることなくこの瞬間を迎えていた。

「やっっっっっと終わったー!!」

「みんなお疲れ」

 荊棘の森とは逆に、戦闘終了と同時に盛り上がる空の円舞曲。前回のほぼ全滅という状況に納得がいかず、こうして再戦を挑んだだけに、この結果はメンバーにとってうれしいものだった。

 それは、これまでに何度もボスモンスターを倒してきたはずのラシルも同じ様で、態度にこそ出ていないものの、その顔には確かに笑みが零れていた。

「それじゃ、そろそろ戻ろうか」

 一通り騒いだ後、エルナの言葉でウィシュナがトランスゲートの魔法を唱える。

 次々と溜まり場へと戻っていくが、ラシルは何かを考え込むようにしてその場にとどまる。そして、ついにはラシルと魔法を唱えたウィシュナだけが残る。

「……?ラシル君、帰らないの?」

「ん、ああ、悪い。先行っててくれ」

 ラシルの態度を不思議に思いながらも、彼の言葉どおりウィシュナは一足先に戻る。

 ウィシュナを見送ると、振り返り荊棘の森の方へと近付いていく。

「トラデス!」

 そして、トラデスの名を呼ぶ。二人の関係を知らない、他のメンバーからどよめきが起こるが気に留める様子はない。

 ラシルの声に気付き、声の方向を見ると、何かが飛んでくる。慌ててそれをキャッチすると、それを確認し戸惑うのだった。

「お、おい、これ……!」

「やる。ウチには過ぎた報酬だ」

 ラシルはそう言って背を向けると、トランスゲートの魔法を唱えそのまま消えてしまうのだった。


「おかえり。なにしてたのさ?」

 溜まり場に戻ったラシルを迎えたのは、エルナのそんな言葉だった。

「いや、大したことじゃないよ」

 短くそう答えると、そのまま座り込む。

「ところでさ、ラシルはアイテムなにが出た?」

「オレか?あ〜……何も出なかったぞ」

「……ホントに?」

 ソレルに疑問の眼差しを向けられる。更には、ソレルの態度から他のメンバーにも不振がられてしまう。

「な、何だよ、お前らまで。ホントだって」

 慌てて弁解するが、疑問が消える様子はない。

 尤も、確かにラシルの言葉には確かに嘘はあった。帰り際にトラデスに渡したアイテム――それこそがまさにラシルが手に入れたアイテムだった。

 だが、ラシルが手に入れる事が出来たのは、トラデス達荊棘の森もメンバーがいたからこそだ。だからこそ“過ぎた報酬”と言ったのだ。

 このことは言ってもややこしくなることは、容易に想像出来たため、ラシルはこうして黙っているのだった。

「はいはい、そこまで。それより、ミーティング始めるよ」

 エルナがそういうと、全員が揃っているのを確認し、話し始める。

「みんな、おつかれ。最後の最後まで引っ張りまわして回して悪かったね。お陰で休止前にいい思い出来たよ。ミーティングって言ってもこっちからは何もなし。みんなはなにかある?」

 エルナはそう言うが、誰も何も言わない。そして再び、エルナが口を開く。

「それじゃ――」

「マスター」

 ラシルが言葉を遮る。だが、すぐには続かない。

 しばらく沈黙が続く。だが、誰もこの静寂を崩すような事はしない。ただ、ラシルの言葉を待つ。そして、ラシルは静かに――しかし、確かに言うのだった。

「オレ、ギルド抜けるわ」


ラシル(以下ラ)「第四話終了です〜」

ハルカ(以下ハ)「随分遅くなった上に長くなってしまいました」(汗

ラ「ギルド狩り引っ張りすぎだな」

ハ「作者にはもっと文章を纏める能力をつけてほしいですね。でも今回は随分半端に終わりますね」

ラ「そこはそういう演出ってことで」

ハ「雑誌に連載されているコミック向けの演出じゃ……」

ラ「細かいことは気にしない!それでは、今回はこの辺で」

ハ「早!」

ラ「ネタがないそうだ。それではまた次回〜」

ハ「次回もよろしくです〜」


9/3追記

ラ「ただいま、誤字とおかしかった文章を修正しました。一応一通り読んで修正したので、大丈夫かとは思いますが、まだミスが残っているようなら報告お願いします」

ハ「でもまさかサブタイまで間違えてるとは思わなかったですね」

ラ「作者も全くきづいてなかったからな。最初見たときは本気でびっくりしてたぞ」

ハ「因みに、なんで前回と丸被りになってたんですか?」

ラ「作者は”Chapter”って綴りがわからないから、毎回コピペでサブタイ付けてるんだけど……」

ハ「今回はうっかり修正してなかったと?」

ラ「そういうこと」

ハ「英語が苦手とは自称してましたけどここまでとは」(汗

ラ「更にミスがあります」

ハ「え?まだあるんですか?」

ラ「そもそも、なんでここも加筆されてると思う?」

ハ「そういえば、おかしいですね。本文の修正だけのはずなのに」

ラ「最初アップしたときに、ネタがないってことで早々に終わったけど、キャラ紹介をすっかり忘れてました!」

ハ「そういえば確かにやってない!」

ラ「そんな訳で、キャラ紹介したいと思います」

ハ「今回はウィシュナちゃんです」

ラ「クラスは神官系中位のプリースト。アルタスのお守りでギルドの生命線だな」

ハ「ゲームを始めた時にたまたまマスターに拾われたという裏設定があったりします。でも試験はどうしたんだろ?」

ラ「細かい事は気にするな。性格はハルカとソレルの中間って感じだな」

ハ「そうだね。活発って訳じゃないけど、決して控えめって訳じゃないしね。でもこう言うと全然特徴のない子みたいだよ……」

ラ「気のせいだ」

ハ「因みにリアルは私達の一個下で高校一年生です」

ラ「これも表には全く出ない設定だけどな」

ハ「とりあえず、今回はこれぐらいですね」

ラ「だな。それでは今度こそ、また次回〜」

ハ「また見てくださいね」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ