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Chapter4-1

 薄暗いダンジョンの中。ラシルは一人、モンスターと対峙していた。数は三匹。だが、そんな状況にも関わらず、ラシルは迷う事無く切り掛かる。

 モンスターの攻撃を避け、隙を見つけては攻撃する。

 いつしか当たり前となったこの動きを、いつもの様に繰り返す。ラシルにとって多対一の戦闘は最早日常と言っても過言ではない。それはパーティーを組んだ現在でも言えることだ。

「ふぅ、まず一匹」

 数度の攻防を繰り返し、ついにはモンスターを一匹倒す。だが、それと同時に背後から今にも攻撃が繰り出されようとしている。回避――そう考えるが、すぐにそれも無理だと気付く。

 勿論、一撃でやられてしまう様な状態ではない。回避を諦めると、次にどう動くか考え始める。

その時だった。

 モンスターの後方から矢が飛んでくる。そして、それは次々とモンスターに命中していき、そのまま撃破となる。

 残るモンスターは一匹。こうなればあとは問題なかった。これまでに蓄積したダメージもあり、簡単に最後の一匹も倒してしまう。

 戦闘が終わると同時に、二人のプレイヤーが駆け寄ってくる。先ほど矢を射た張本人のハルカとその仲間のソレル。二人ともラシルのパーティーメンバーだ。

「珍しくダメージ受けかけてたじゃない。最近ソロじゃないから腕落ちたんじゃないの?」

「毎回毎回無傷で済むわけ無いだろ。たまたまだよ」

 一見すると、嫌味でも言われているかのような光景だが、ソレルとラシルのやりとりは大抵がこの様なものだ。今更誰も気にすることはない。

「それにしても、マスターも無茶言うよな」

 ラシルが思わず愚痴をこぼす。

 それは前日のことだった。


「ボスでも狩りに行くか」

 ライラックのとある建物の中。ギルド“空の円舞曲ワルツ”の溜まり場となっているこの場所で、いつもの様にメンバー達は集いのんびりと過ごしていた。そんな中、唐突にエルナが言ったこの一言が全ての始まりだった。

「マスターいきなり何言い出すんだよ」

 ラシルが呆れてそう返す。だが、この反応は無理も無い。

 オンラインゲームにおけるボスモンスターとは、高レベルのパーティーが倒しに行くような、特別に強いモンスターのことを指す。

 空の円舞曲がレベル上げを重視した、高レベルプレイヤーの集まりのギルドなら誰もこの様な反応は示さないだろう。だが、実際にはその間逆。自身のペースでのんびりと楽しく過ごす事を主としたギルドだ。とてもではないが、戦いたいから行こうと言って行けるようなものではない。

「オレらが行ったってあっさりと返り討ちに合うのがオチだぞ」

 ラシルの言葉に周囲も頷く。これだけでも、いかに無茶な提案かが窺える。

「ボスってそんなに強いの?」

 ハルカだ。

 この中で、ゲームを始めて間もないハルカとソレルが話しについて来る事が出来ないで居た。ボスモンスターと戦う経験などないので、それも無理は無い。

「仮にここに居る全員のレベルがマスターぐらいになれば相手次第じゃ希望が見えてくるってぐらいだな」

「それって今の私達はかなり無謀なんじゃ……?」

 ラシルの大まかな説明で二人もエルナの提案がどれほど無茶か通じた様である。

「無茶なのはわかってるよ」

 どうやら、本人にも自覚はある様だ。だからと言って、大人しく中止する様な性格でもないのだが。エルナはそのまま言葉を続ける。

「でもさ、私らそろそろ休止だし最後にちょっと無茶もしてみたいって思ってね」

 こう言われてしまうと、だれも反論出来ない。

「しょうがないわね、たまにはエルナの無茶に付き合いましょうか」

 初めに口を開いたのはリシュリーだ。渋々ながらも了解する。それに合わせ、他の者も賛成するのだった。

「それじゃ、明後日の夜に集合ね」

「明後日?すぐに行くんじゃないのか?」

 思わずラシルが聞き返す。だがそれは、ラシルだけでなく、全員が思っていたことだった。

 行くのなら今晩か、遅くても明日ぐらいだと思っていた。一日空ける事に何か意味でもあるのかとも思うがそれらしい事も思い浮かばない。

「さっきラシルも言ってたろ?」

 エルナがそう答える。

 自分は何か言っただろうか?ラシルは思い返してみるが、思い当たる節はなにもない。

「レベルが足りないって言ってたろ?だから、みんな明後日の夜までにしっかりレベルを上げておく事」

「ほとんど意味ねぇだろ、それ……」

 MMORPGに分類されるオンラインゲームのほとんどはオフラインでのゲームの様に、簡単にレベルが上がるということはない。勿論ファンタジアナイツも同様だ。

 低レベルならまだしも、ある程度レベルが上がってくると、一日費やしてモンスターと戦っても数えるほどしかレベルは上がらない。いや、数えるほども上がるならまだいいだろう。更に高レベルになれば一日に一つ。果てには数日、数週間で一つとなってくる。

 それほど掛けてレベルを上げても得られる恩恵はそれほど大きくは無い。

「どうせ他にもパーティーは居るだろうしなんとかなるだろ」

 当のエルナは随分と楽観的だ。だが、彼女の言葉はなかなかに的を射ているのも確かだ。結局そのまま決定となり、今に至っているのであった。

「しかし、流石に疲れたな」

 樹は伸びをしながらそう呟く。

 ボスモンスターとの戦闘を明日に控え、昨日からずっと三人でダンジョンに篭りっぱなしなのだ。

 今日も、ログインをして三時間ほどだが、ログイン時に街に居た事を除けばこのダンジョン以外の場所には行っていないのだった。

「ちょっと休憩しない?」

「賛成。折角だしちょっと出ようよ」

「いいな。ちょっと気分転換するか」

 ハルカの提案に二人とも賛成する。

 戻ってきたときの事を考え、その場でログアウトする。樹は、他の二人がログアウトしたのを確認すると、自身もログアウトし、そのままパソコンの電源も落とす。

 手早く準備を済ませると、早速外へと出かけるのだった。


 樹が向かった先は、全国チェーンのバーガーショップだった。

「意外と時間食っちまったな」

 樹はここに来る途中に、ついでにと買い物をしていた。その為、少し遅めの到着となっていた。特に時間を決めていたわけではないが、咲希が文句を言っている光景が目に浮かぶのだった。

 店内に入ると、平日にも関わらず、随分と席が埋まっていた。学校で見たことがある顔が疎らに見えることからほとんどが学生なのだろう。安く済み、長時間居られ、暑さも凌げるということで、こうして集まってきているのだろう。

(みんな考えることは一緒か)

 思わずそんな感想が出てくるのだった。

 注文に行く前に、辺りを見回してみる。間もなくして目的の人物を見つけそのまま近寄る。

「よ、お待たせ」

「あ、神代君」

「随分遅いけど何やってたのよ?」

 声を掛けると、予想通りの反応が返ってくる。

「悪い悪い。お詫びに何か一つなら奢るからそれで勘弁してくれ」

 あらかじめ考えておいた答えを言う樹。

「ホント?じゃぁね――」

 樹の予想通り一気に期限のよくなる咲希。

(すっかり慣れたな、オレも)

 少し前まではほとんど交流も無かったというのに、今ではすっかりこの調子だ。改めてそう考えると、内心驚くのだった。

「神代君、前のオフ会でも随分使ってたけど大丈夫?」

「多少は余裕あるからな。楠木も遠慮するな」

 咲希とは対象的な反応を示す遥歌。こんな光景もすっかり見慣れたものになっていた。

「そういや、別々に行動してみてどうだった?」

 注文を済ませ、戻ってきた樹が問い掛ける。内容は先ほどのダンジョンでのことだった。

 普段なら三人で共に行動をしているのだが、今回は樹がソロ、遥歌と咲希がコンビという形でレベル上げに励んでいたのだった。

「いや〜、やっぱいっぱいいっぱいだわ」

「なんとか合流出来たって感じだったもんね」

 二人の返答から、苦労していた事が窺える。それもそのはずだ。すっかり恒例となっているが、樹とダンジョンに行く場合は適正レベルよりも高いレベルのダンジョンにいく場合がほとんどだ。特に今回はボスモンスターとの戦闘準備も兼ねているだけあり、普段よりも厳しい所に行っていたのだった。

 三人で居るからこそ――正確に言えばラシルが居るからこそだが――なんとかなっている状態で、二人だけで放り出されてはこうなるのは当然と言えた。

「そもそも、なんで私らがあんなとこで放り出されなくちゃいけないのよ?」

 理由も告げられず二人にされたのだ。咲希の怒りも当然と言えるだろう。

「オレが居たら二人とも立ち回りとか覚えられないだろ」

「神代君、出来ればもうちょっと詳しく……」

 咲希の様子を気にすることもなく答える樹だが、あまりに簡潔すぎるそれは二人には一切伝わる様子もない。

「えっと、まずギルドで一番レベルが低いのはオレらだ。これはわかるな?」

 樹と組む事で、初心者の二人も随分レベルは上がっている。だが、基本的にはゆっくりとしたペースでゲームをしているため、アルタスやウィシュナほどのレベルには未だ届いていないのだった。

 この樹の問いに頷く二人。それを確認すると、樹は話を続ける。

「そんなオレらが多少レベルを上げたところではっきり言って無駄な訳だ」

「レベルを上げにダンジョンに篭ってたんじゃないの?」

 遥歌の疑問はもっともだろう。レベルを上げるために普段よりも厳しいダンジョンに行っていたのだ。レベルを上げるのが無駄だというのなら、これまで通りの場所でも問題は無いように思える。

「そりゃ完全に無駄って訳でもないけどな。でも、オレ達が多少レベルを上げたところで即戦力って訳でもないだろ?」

 樹の言葉に頷く二人。ボスモンスターの強さはわからない二人だが、樹の言おうとすることは理解出来る。

「そんな足手まといのオレらが必要以上に足を引っ張らない為には、強い敵との立ち回り方を覚えた方法がいいと思ってな」

 若干皮肉混じりにそう言う樹。だが、それは同時に本心でもある。

 レベルも低く、装備品も心許ない状態の樹達では仲間の盾となり相手の攻撃を引き付ける事も、確実にダメージを与えて行く様なアタッカーとなる事も厳しい――いや、無理と言っても過言ではないだろう。

「まぁ、オレらに出来る事なんてのは死なない事ぐらいだしな」

 そう言ってこの話を打ち切る。代わりに別の話題を切り出し、解散となったのは二時間も後のことだった。

 そして夜。夕食と風呂を終えた樹は早速パソコンの前へと座る。

 ――足手まとい。

 昼に皮肉を込めて言ったセリフが蘇る。遥歌にも咲希にも、そして自分自身にも――誰に言ったわけでもないセリフだが、思い出す度にそれが事実だと思い知る。同時にそれはどうしようもない事だとも理解する。だからと言って、何もしないといことが出来るかといえば、答えは否だ。

「もうちょっと足掻いてみるとしますかね」

 目いっぱいの皮肉と自嘲を込めてそう呟くと、ハルカとソレルの二人を伴いダンジョンへと向かうのだった。


「それでボス狩り?無茶するね〜」

 一日経ってボス狩り当日。時刻は午後一時を過ぎた頃。神代家に遊びに来ていた湊斗の率直な感想がこれだった。

「珍しく昼間っからログインしてダンジョンに篭ってるから何事かと思ったよ」

 基本的に樹のプレイする時間帯は夕方から夜に掛けてがほとんどだ。それは休日でも変わらない。だが、湊斗が来たときにはそれとは間逆の、朝からログインし、レベル上げに勤しむ樹の姿があった。事情を聞き、漸く納得をした湊斗なのだった。

「んな大袈裟な……」

 呆れたように返す樹。

 だが、言われてみると朝からこうしてレベル上げに没頭しているというのも確かに珍しく思えてくる。

「それで、勝算はあるの?」

「ギルドの状況見たろ?まず無理。他のパーティー頼みだよ」

「他人次第なんて神代にしては珍しいね」

「オレ達だけじゃどうにもならんからな。こうもなるさ」

 そんなやり取りが続く。

「それで、今日は宿題だっけ?」

「うん。一応答え合わせも兼ねて見直しておこうと思ってね」

 しばらくファンタジナナイツの話題が続いたところで、漸く本題へと入る。

 二人は現在夏休みということで、例に漏れず大量の宿題を出されている。尤も、二人とも既に宿題自体は終わらせている。後は、学校が始まった時に提出をするだけだ。だが、適当に答えを書いていたのでは再提出となる。その為、樹と湊斗はこうして答え合わせも兼ねた最終チェックをしているのだった。

「これやると、もう休みも終わりって感じだよな〜」

 自身と湊斗の問題集を見比べながら、そう呟く樹。

 今回に限らず、長期休暇の終盤にはこうして二人で答えあわせをしているのが常だった。その為、この作業を始めると、どうしても休みの終わりを実感してしまうのだった。

 作業は夜まで続き、解散となったのは、日が完全に落ちてしまってからだった。

「予想以上に時間食ったな……。これじゃレベル上げって時間はなさそうだな」

 湊斗を見送るため、外に出ていた樹は、湊斗の姿が見えなくなると一人そう呟く。

 当初の予定では、夕方ぐらいには作業を済ませギリギリまでレベル上げをするつもりだった。だが、予想以上に時間が掛かってしまい、最早その時間は残されていないのだった。

「まぁ、なんとかなるか」

 そう言って、僅かに星の見える空を眺めると部屋へと戻っていく。

 そして、集合時間を迎えるのだった。


ラシル(以下ラ)「お待たせしました。ついに四話目に突入です」

ハルカ(以下ハ)「今回は引っ張れなかったのでいつもより短めです」

ラ「今回の話はボス戦!」

ハ「作中で随分無茶だって言ってたけど、ネットゲームのボス戦ってそんなに厳しいんですか?」

ラ「まぁ、モノによるとは思うけどな。少なくとも、作者のやってたネットゲームはかなりキツイぞ」

ハ「因みにどれぐらい?」

ラ「当然相手にもよるけど、最高レベル99でレベル80ぐらいなら普通に足手まといだな。まぁ、作者の場合装備品とかも揃ってないから余計にそう感じてるだけかもしれんがな」

ハ「随分厳しいんですね……」(汗

ラ「参考程度にはしてるけど、全く一緒って訳じゃないから雰囲気だけでもわかってもらえればって感じだな」

ハ「それじゃ、そろそろキャラ紹介にいきましょうか。今回は橘 湊斗君です」

ラ「オレ達のリアル側の友人だな。オレは作中の一年前――高校一年からの付き合いだ」

ハ「私達は数ヶ月前ってぐらいだね」

ラ「オレがファンタジアナイツを始める切っ掛けになったヤツで、前に居たギルドのサブマスターでもある」

ハ「今はは休止中だからゲーム内で会う事はないけどね」

ラ「性格は割りと温厚って感じだな」

ハ「でも意外にもみんなの纏め役だったりもします」

ラ「結構言いたいことははっきりと言うタイプだからな」

ハ「大体こんな感じかな?」

ラ「だな」

ハ「そういえば、紙芝居クリエーターはどうなったんですか?」

ラ「最近は何も触ってないな」

ハ「意外ですね。前回のハマり具合からするとずっと触ってそうだったのに」

ラ「素材が無いしな。今作っても、後から全部画像を差し替えていかないといけないし」

ハ「それは結構な手間になりますね……」

ラ「どうせMUGEN関係も揃えないといけないしな」

ハ「完成はまだまだ先になりそうですねぇ」

ラ「こっちは忘れた頃にって感じだな」

ハ「それじゃぁ、今回はこの辺で」

ラ「次回もよろしく〜」


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