Chapter3-4
「――ん。ここは……?」
樹が目を覚ましたとき、いくつかの違和感を覚えた。まず天井が普段から見上げているそれではなかった。そして背中。いつも寝ているベッドよりも随分柔らかい。
未だ目が覚めきらない状態のまま体を起こす。そこで飛び込んできた景色は自身の部屋とは全く違うものだった。
「……そうか、リビングで寝たんだっけ」
少しして、漸く昨日のことを思い出す。部屋が占領されていた為に、こうしてリビングへと避難していたのだった。
時間を確認してみると、現在11時を少し回ったところだった。
(少し寝すぎたかな?)
まだ少し眠い目を擦りながらも、リビングを後にする。
ドアを開けると、遥歌が一人本を読んでいるところだった。
「あ、神代君、おはよう。本借りてるよ」
「ああ、それはいいけど……こんなとこで何してんのさ?」
まず樹が向かったのは、昨日遥歌が寝ていた客間だった。
持ち出したタオルケットを片付けに寄ったのだが、時間が時間なだけに、人が居るとは思っていなかった。
「わざわざこんなとこで読まなくても部屋に居とけばいいだろうに……」
「そうなんだけどね」
苦笑しながら、曖昧に答える遥歌。この様子に部屋の様子はある程度の予想がついてしまうのだった。
同時に、遥歌が随分と早い内に起きていた事も予想が付く。
(ったく、起こせばいいのに)
そんなことを思いながらも、彼女の性格上まずしないであろうこともわかってしまう。なので、これ以上のこの話を引っ張ることはしない。
樹は自身の持っているタオルケットを片付けるために、押入れの扉を開ける。
「布団そこに入れておいたけどよかった?」
遥歌の言葉で、中に視線を向けると、そこには昨日に出したはずの布団が丁寧に畳まれて片付けられていた。
部屋に入った時から違和感はあったものの、これを見て漸くその正体が判明する。
「ああ、悪いな」
ありがたく思う反面、気を使わせているようで申し訳なく思う樹。かと言って、放っておけとも言うわけにもいかず、礼を言うだけに留めておく。
「とりあえず部屋に行くか」
「え、でも……」
「いいから」
樹の提案に渋る様子の遥歌。だが、それもお構いなしというかの様に先に部屋を後にする樹。
その様子を見ても尚、動く様子のない遥歌。彼女もまた、樹のしようとしていることがわかるのだろう。なので。動くに動けないといった様子だ。
「置いてくぞ」
動く様子のない遥歌を急かすかの様にいう樹。
その言葉で、諦めたように遥歌も漸く重い腰を上げるのだった。
樹が自身の部屋のドアを開けると、そこには昨夜部屋を出たときと変わらぬ光景が広がっていた。
五人もの人間が所狭しと寝ている様はある意味壮観にさえ見える。
決して狭くはない部屋だが、これほどの人間が寝ていると足の踏み場すらない。樹は部屋に入るのを早々に諦めると、近場にいる者から順次起こしに掛かる。
「いい加減起きろ!」
「……」
声を掛ける程度では到底置きそうにはない。肩をゆすり、頬を叩き、それで漸く反応を見せる。それを何度か繰り返し、一人、また一人と起きていく。
「やっと起きたか……」
「みんなおはよう」
呆れた様子の樹の隣で、遥歌がにこやかに挨拶をする。尤も、未だ眠気眼の五人から返答が返ってくる事はないのだが。
少し間を空け、目が覚めてきたのか昨日までの賑やかさが戻ってくる。
「起きたならとりあえず着替えて来い。楠木、客間に案内してやって」
有無を言わせないためにも遥歌にそう指示を出し、女性陣を部屋の外へと出す。先ほどまでは所狭しと人が居たせいか、樹とアルタスの二人だけになると随分と広く感じる。
「そういえば、昼飯はどうすんの?」
手早く着替えを済ませ、すっかりくつろいでいるところにアルタスが口を開く。この日の予定は遊びに行くことと夕食は外食という事以外は特にはなにも決まっていないのだった。
「そうだな……。どうせ出て行くんだしその時にどっか適当に入ればいいんじゃないか?」
「それもそうだな」
特に反対意見がある訳でもなく、そのまま決定する。
そう話している内に、客間へと移動していた面々が戻ってくる。
人が集まり、再び賑やかになる樹の部屋。他愛も無い話で盛り上がり、いつしか時刻は昼になっていた。
「そろそろ出るか」
話も一段落着いた所で樹が切り出す。移動する事と昼食を取る事を考えれば、丁度いい時間だろう。
「昼はどうするの?」
「外で適当にってさっきアルタスと話してたんだけど、それでいいか?」
ここでも反対意見が出る事もなく、そのまま決定となる。
住宅地を抜け、商店街へと出る一行。食事をするにしても遊ぶにしても、ここならば一通りの施設は揃っている。この日一日を過ごすには丁度いい場所だろう。
「とりあえずは荷物だな」
樹達、地元組み以外のメンバーの手にはそれぞれ荷物が抱えられていた。解散前に一度取りに戻るという案もあったのだが、二度手間という事もあり、こうして持ってきているのだった。
荷物とは言っても、一晩泊まるための着替えが入っている程度なので、大きさだけをいえばそれほど大きな物という訳でもない。邪魔というわけではないにしろ、わざわざ持ち歩くものでないことも確かだ。
「駅のロッカーとかでいいんじゃない?」
「そうだね」
「私達はこの辺はわからないからね。案内頼むよ」
一行は、駅を目指し再び移動を開始する。
駅は商店街を抜けた先にある。この辺りでは大きい部類の駅であり、路線もいくつか交わっているため、解散の時にも丁度いい。これもまた、この辺りで遊ぶ理由の一つである。
商店街を歩きながら、飲食店を覗く樹。昼時だというのに、どこもそれほど混んではいなかった。
「意外と空いてるな」
それが樹の感想だった。
どこも人は入ってはいるものの、すぐに座れるか、待ったとしても一組か二組といったところだった。どこももっと混んでいると思っていただけに、この状態は嬉しい誤算といえた。
「今日は平日だしね。こんなもんじゃないの?」
咲希の言葉で今日が平日であることを思い出す樹。
樹達学生は現在休みでも、大人たちからすれば今日はただの平日でしかない。なので、この様な状態でも無理からぬことだ。
毎日が休みのせいか。日付は意識していても、曜日の感覚はほとんどなくなっていた。
そう話している内に、商店街を抜け駅へと辿り着く。構内へと入って行き、早々に目的のロッカーを発見する。
「さて、荷物も入れたしあとはどこでメシ食うかだな」
「ファーストフード系の店でいいんじゃない?」
「そうだな。どうせ夜にがっつり食うんだし」
これから遊びに行くことを考えると、昼食にそれほど時間を取られたくないのはだれもが同じだったのだろう。行き先は簡単に決定する。
「それじゃ、行くか」
一行は、来た道を戻っていくのだった。
樹達は全国チェーンのバーガーショップに来ていた。
注文を済ませ店の奥にある大きな席を陣取る。
「ご飯食べたらどこに行く?」
「ボーリングとカラオケとゲーセンが候補だったっけ?」
あらかじめ出ていた候補を確認する。
「見事なまでに時間のかかるものばっかだねえぇ……」
候補の内容に、若干呆れ気味に呟くエルナ。
本来は、もう少し案もあったのだが、わざわざオフ会ですることでも無いようなことや、そもそも出来ないという理由から候補から外れていったのだった。その結果、残ったのは最も無難と思われるこの三つだった。
「普段ゲーム内で会ってるんだしとりあえずゲーセンは無しでいいんじゃねぇの?」
まずは樹の提案。
どれに決定するかというよりも、まずはどれかを候補から消そうとしての提案だ。
「みんなバラバラになっちゃいそうだし私は賛成かな」
遥歌も樹の意見に肯定的な態度を見せる。
「でも時間の調整はしやすいし候補に残しといていいんじゃないか?」
「ゲームって言ってもいつもやってるのとは別物だしね」
逆に、アルタスと咲希は否定的な態度だ。
残りの三人はというと、どちらの意見にも賛同出来る為、中立的な立場を取っている。
「それなら、カラオケなりボーリングなり行って時間があればゲーセンって形でいいんじゃない?」
中立を保っていたエルナがそう提案する。候補から消すわけでもなく、かといってメインで遊ぶわけでもない。妥協案――そういってしまえば響きは悪いが、両者の意見を取り入れた形であることは確かだ。
「それぐらいならいいかもな」
「異議な〜し!」
樹達も納得した様で、エルナの提案で決定となる。
樹からしてみれば、狙ったようにはいかなかったものの、結果的に選択肢を減らす事には成功したのでこれはこれで問題なかった。
「あとはどっちにするかだね」
時間を考えると両方というのは厳しいだろう。
「そういえば、私神代が歌ってるとこって見たことないな〜」
まず口を開いたのは咲希だ。暗にカラオケに行きたいと言っているようだ。
「そういえば、いつも来ないよね。来ても歌わないし……」
そんな咲希の様子に気付いているのか、遥歌も彼女の話を広げる発言をする。
二人の言う様に、樹がカラオケに行くということはまず無い。誘ったところで、大抵の場合は断られてしまうのが常だ。時折付き合いで来る事もあるが、文字通り居るだけなのである。そのせいか、最早友人達の間では樹をカラオケに誘うのは一種のタブーとされており、最近では誘われる事すらほとんどなくなっていた。
そんな経緯もあり、二人より付き合いの長い湊斗は勿論、両親に至るまで樹の歌声を聞いたという者は居ない。その為、尚更興味があるのだろう。
「じゃぁ、ボーリングで決定ってことで」
カラオケと言われて素直に頷くはずも無く、樹が強引にボーリングに決定しようとする。
「決定な訳あるか!相変わらずカラオケ限定でノリ悪いわねぇ」
勿論、そのまま決定されるはずもなく、咲希に却下されてしまう。
「どうしてもダメか?」
「ダメ」
無駄だとわかりつつも食い下がってみる樹だが、即答で却下される。
なにかいい方法はないかと考えてみる。
尤も、そこまでカラオケを拒否する理由は特には無い。ただ、選べるのならどうせなら自身も遊べる方を選びたい。ただそれだけの事だ。
「じゃぁ、こうしよう」
なにかいい方法が思い浮かんだのだろう。話を切り出す樹。
「とりあえずボーリングで1ゲームのスコアで勝負する。で、オレが勝ったらそのままボーリング。負けたらカラオケ。ついでにボーリング代はオレが出してやるよ」
「面白そうだね。いいんじゃないの?」
樹の提案にエルナも賛成の様子を見せる。エルナだけではない。他のメンバーもどうやら異議はなさそうだった。
「勝負はいいけど、ラシルとソレルの二人でやるの?」
「ボーリング派とカラオケ派のチーム戦でいいんじゃないかな?」
「チームの平均のスコアなら人数が多少偏っても問題ないし、それでいいんじゃない?」
細かなルールも次第に決まっていき、今後の予定はこれでほぼ確定となった。
人と話すには少し困難なほどの音量で音楽が流れる。決して広いとは言い難い部屋の一角で樹は落ち込んでいた。
「せめて最後にストライク――いや、スペアでも出してれば……」
ここはカラオケ屋の一室。
樹の提案により開催されたボーリング対決は、僅か3ピン差という接線の末、咲希率いるカラオケ派チームが勝利し、今に至っている。
「アンタも意外と引っ張るねぇ」
樹の様子を見て、エルナが呆れたように話しかける。
「そりゃ、あれだけ惜しければな……」
勝負の内容を思い出し、軽く溜息を吐く。
「でも、ラシル君ってホントにカラオケ苦手なんだね」
「まだ歌ってないのラシルだけだもんね」
ウィシュナとリシュリーから感心するかの様な感想が出てくる。
カラオケに来て早一時間。既に全員が一曲は歌い、多い者はもう三曲は歌っている。それに引き換え樹は未だ一曲も歌わず、ずっと聞き手に回っているのだった。
「実は昨日の海水でやられたのか喉の調子が……」
「さっきからめっちゃ普通じゃねぇか」
「オレの聴くジャンルってカラオケにはまず入ってないし」
「最近はそうでもないみたいだよ」
「某ガキ大将並の歌唱力しかなくて」
「むしろそれは聞いてみたいかも」
「前に歌ったら出禁になって……」
「んな訳あるか!」
歌う事を回避する為に色々と言い訳をしてみるが、どれも反論されてしまう。こんな時、大抵は味方で居てくれる遥歌も擁護する様子もない。尤も最後の方は最早ボケとツッコミにしかなっていなかったが。
「ぐだぐだ言ってないでアンタも一曲ぐらい歌いなさいよ」
そう言ってリモコンを差し出す咲希。
樹としては聞いているだけで十分なのだが、これ以上断る事も出来そうに無く渋々とそれを受け取る。
気は進まないながらも、とりあえず曲を見てみる。
(ネットじゃ入ったなんてよく見かけるけどホントに入ってるもんなんだな)
曲のリストを見ながら思わず感心する。
樹の聴く音楽は自身が気に入ったものと他者から見れば随分曖昧なものだ。だが、そう公言している様に、気に入った曲ならば流行に関係なくCDを購入していたり、逆に巷で評判のいい曲でも気に入らなければ一切聴かないと、好みがはっきりとしているとも言える。
尤も、樹はそれほどテレビを見ているという訳でもない為、聴く音楽といえば、ゲームやアニメのタイアップや、動画サイトで使われている様な曲に偏っているのもまた確かなのだが。
そして、そういった曲はこういった場所ではほぼ無縁というイメージがあったのだが、最近はそうでもないらしいというのは、インターネット等で記事を読み知識としては知っていた。こうして見てみる事で、本当だったのだと改めて実感する。
ある程度見ると、隣に居るウィシュナにリモコンを渡す。そして、ウィシュナもまた隣のエルナへと――と次々と回していく。そうれと同時に曲も次々と追加されていく。
人数が多いためか、途切れる事無く曲は追加されていき、ついには終了時間近くとなる。
「そういえば、ラシル君って歌った?」
ウィシュナがぽつりと漏らす。
樹がリモコンに触っているということで、特に誰も気に留めては居なかったが、数時間居るにも関わらず樹は未だ一度も歌っていないのだった。
「神代、アンタ……!」
「ははは……気のせいじゃないか?」
そう言ってはみるものの、当然通じるはずもなく樹に冷たい視線が突き刺さる。
「それじゃぁ、最後はラシルの歌で締めてもらいましょう!」
咲希がマイクでそう宣言し、樹にマイクを突きつける。受け取らない訳にもいかず、マイクを受け取る樹。
樹が受け取ったのを確認すると、曲を選び送信する。
「ちょ……おまっ!」
「大丈夫よ、ちゃんとアンタが知ってる曲だから。一緒にCDも買いに行ったんだし知らないとは言わせないわよ?」
樹に反論の余地は残されていない様だった、
次第に、前奏が流れ始め、それと同時に周囲の期待も高まる。
(やりにくい……)
自身で招いた結果なだけに言葉にすることも出来ず、内心そう思うだけに留めておく。
やがて前奏も終わり、歌い始める瞬間が刻一刻と近付く。逃げる事も出来そうに無く、樹は覚悟を決めるのだった。
「……恥ずい」
カラオケでの精算を済ませ、夕食の為に移動をする一行。楽しそうに話に花が咲いている中で一人、樹は落ち込んでいるのであった。原因は言わずもがな、先ほどのカラオケだ。
「ラシル君、そんな落ち込まなくても……」
「十分上手だったと思うよ」
「歌いなれてるって感じはあったしね」
本人の落ち込み様とは逆に、周囲の評価は高かった。
樹が歌う事を頑なに拒むのは、本人も言うように恥ずかしい、ただこれだけのことだ。ただし、樹のそれは極端なまでに筋金入りだ。
大抵の場合は、抵抗はあれど歌うという行為そのものには問題はないだろう。だが、樹に限っては、この抵抗はかなり強い。その為、人前で歌うということはないとい現在の状態になっている。
更にいうなれば、歌は歌うものではなく聴くものという意識も持っている。なので、人前の有無に関わらず歌うということはほぼないのだ。
気に入った曲は一日中流している事もある為、ある程度メロディ等はわかるとしても、聞き手一辺倒の樹が高評価を得ていることは十分に誇れる事のはずなのだが、本人にとっては重要なことでもない為か落ち込みから立ち直る様子は無い。
「遥歌、今度また神代誘って行こうか」
「これ以上は可哀想な気もするけど……っていうか多分来ないと思うよ?」
「その時は首根っこ捕まえて引きずっていけばいいんだって」
本人の居ないところで次のことを決めていく一行。樹本人の耳にも届いていたが、拒否をする元気もないのか、今更割って入ることはしないのだった。
「そういや、どこまで行くんだ?」
いつの間にか一行は商店街の端まで来ていた。
夕食に関しては、遥歌と咲希の二人に任せてある。その為、樹もどこに行くかは聞いてはいない。だが樹には、この辺りに食事が出来るような場所がある記憶はない。
「もうちょっと行った所」
そう言って咲希が入って行った場所は普段馴染みの少ない通りだった。
先ほどまで居た大通りとは打って変わって、全くといっていいほど人気の無い通りを進む一行。店らしい建物もほとんど無い。咲希を信用しない訳ではないが、この様な場所に食事が出来る店があるとは到底思えなかった。
「あ、あった」
一行に不安が募り始めた頃、漸く目的地へと到着する。
「ラーメン屋……?よくこんなとこ知ってたな」
「美味しいラーメン屋があるって噂で聞いたのよ」
「おいおい……大丈夫なのかよ?」
「前に咲希と食べに来たけど美味しかったよ」
咲希の言葉で、一気に不安になるが遥歌の言葉でそれも杞憂に思えてくる。噂だけならなんとも頼りないが、実際に食べた事があるのなら問題ないだろう。そう思う事にして、それ以上は深く追求しない事にする。
「これ食べ終わったらオフももう終わりか〜」
注文を済ませ、一息ついたところで咲希が残念そうに言うのだった。
「あっという間だったね」
咲希も同感なのだろう。やはり寂しそうに口を開く。
「私らなんか帰ったらまた勉強漬けだよ。あ〜、帰りたくないな〜」
「ホントね。はぁ、思い出しただけでも憂鬱だわ……」
項垂れる受験生二人。
いくら余裕のある二人とはいえ、なにもしなくても大丈夫とはいかない。僅か二日の事とはいえ、ここでの体験は帰ってからのことを考えると憂鬱になるには十分だった。
「でも、ホント楽しかったよね」
「このまま解散ってのも惜しいよな」
これは年下組み。感想の内容とは裏腹に、やはりその表情は曇り気味だ。
「今から湿っぽくなってどうすんだよ。それに……」
ラーメンを啜りながら、樹が口を開く。
「楽しかったならまた集まればいい。そうだろ?」
少し間を空けて言う。
その言葉で辺りがしんと静まり返る。予想外の反応に、何かおかしなことでも言ったのかと不安になる。
やがて、この静寂に耐え切れなかったのか、笑い声が漏れてくる。次第にそれは広まっていき、樹を除く全員から聞こえてくる。
「アンタにそんなセリフに会わなすぎ」
「ご……ごめん、でも確かに神代君らしくないかも」
咲希と遥歌の言葉に全員が頷く。どうやら全員が同じことを思っていた様だ。
「ったく……やっぱお前ら最悪だ」
そう言って再びラーメンを啜る樹。
俯き表情は見えなかったが、口元は笑っていた。
「もうそろそろかな……?」
時計を確認しながらリシュリーが呟く。
夕食を終え、今は駅構内の改札口に集まっていた。電車までの時間があったため、ここで待っているのだった。
「そっか。それじゃ、私らはお先にってことで」
「ああ、気をつけてな」
あっさりとした挨拶で済ませ背を向けるエルナ。樹も同じ様に答える。互いが感傷的なのは似合わないと思っているせいか、これぐらいが丁度いいと思えるのだった。
「みんな、色々とありがとね」
リシュリーも先に改札に向かったエルナを追いかける。
一度振り向き、軽く手を振るとそのまま駅の奥へと消えていく。
「で、そっちはまだいいの?」
樹がウィシュナとアルタスに問い掛ける。
二人はエルナ達とは方向が違うこともあり、まだこうしてここにいるのだった。
「私達もそろそろかな」
時計を確認しながらウィシュナが答える。方向は違えど時間の違いはそれほどは無い様だ。
「あーあ、もう終わりか。なんかつまんねぇの」
「次回に期待だな」
「またゲームでね」
ふて腐れながらもどこか楽しそうなアルタス。そして、一足先に改札へと向かう。
「それじゃぁ、私も行くね」
「また来なよ」
「いつでも歓迎するよ」
三人に見送られ、ウィシュナとアルタスの二人も駅の奥へと消えていく。これで残ったのは、地元の三人だけとなった。
「それじゃ、帰るか」
この一言を切っ掛けにこの場を離れ、そのまま解散となる。空の円舞曲の初のオフ会はこれで終了となった。
「例のサイト、まだ見てる?」
「ああ、今まさに見てるとこ」
オフ会が終わってから数日。樹はいつもの様に自宅で過ごしていた。パソコンに写っているのは、以前に教えられた自身のギルドのことで盛り上がる掲示板。
オフ会からはすっかり忘れていたのだが、ふと思い出しサイトを開いたところで、友人の橘 湊斗から電話が掛かってきたのだった。
「意外な人物が出てきたね」
「ったく、あのお節介ヤローめ」
樹が見ていなかった数日の間に、すこし動きがあったのだった。
それまでは、樹達のギルドに対する排斥的な書き込みしかなかったものの、たった一つの書き込みによってぴたりと止まってしまっていたのだった。
書き込みの内容は至って単純なもので、“いつまでもくだらねぇ事で盛り上がってんじゃねぇ!”と書かれていただけだった。普通ならこのまま荒れそうなものだが、投稿者を見てそれも納得する。
「まさか荊棘の森が出てくるとはね」
湊斗にとってもこれは予想外だったのだろう。驚きというよりも、どこか興奮すら感じられる。
「流石、三大ギルドは違うな」
驚いているのは樹も同様だ。だが、口から出てくるのは皮肉なのだった。
「これで、ウチらと荊棘の森が繋がってると勘違いしてくれるヤツが出てくればいいんだけどな」
これは本心だった。
三大ギルド。そう呼ばれるほどのギルドとの繋がりがあるとなれば、自分達が復帰したときも、それほど大きな問題が発生する事はほとんどないだろうと考えていた。
ともかく、これで樹の肩の荷が少し軽くなったのは間違いないのだった。
ラシル(以下ラ)「大変だー!」
ハルカ(以下ハ)「どうしたんですかいきなり」
ラ「作者が紙芝居クリエイターにハマりやがった」
ハ「なんですかそれ?」
ラ「ADV系の画面で進行する動画を作るツールだ」
ハ「でも作者のパソコンにそんな動画はなかった様な……」
ラ「素材がないから使い方を覚えるために色々触ってるって程度だからな」
ハ「もしかしてファンタジアナイツが動画化予定のフラグなのでは……?」
ラ「作者は絵が描けないからな。100%ありえん!」
ハ「そういえばそうだった……」
ハ「それじゃ、なんでそんなツールを触ってるんですか?」
ラ「MUGENストーリー動画を作るらしい……」
ラ「まぁ、素材がないからまだ作り始めてはいないが、シナリオとかは考えてるみたいだな」
ハ「因みに、こっちと同時進行って……」
ラ「出来るわけが無い!」
ハ「デスヨネー」
ラ「更に、今月出るグ□―ランサーも買うみたいだし、ペースが上がる要素が一切ないという……orz」
ハ「四角じゃ伏字の意味ないですよ」(汗
ラ「作者が、とにかく顔グラが足りないから、アイコン、もしくはイラストがあるサイトがあれば是非教えて欲しいって言ってた」
ラ「……ってなんでオレがそんな告知をしなければならないんだ」
ハ「やりたい放題ですね」
ハ「とりあえず今日のキャラ紹介にいきましょう」
ラ「今回はソレルこと綾瀬 咲希」
ハ「ゲームでは空の円舞曲の新人で、私とラシル君のパーティーメンバーでもあります」
ラ「リアルではオレらのクラスメイトだ。もともとそんなに付き合いはなかったんだけど、ファンタジアナイツを始めた事を切っ掛けにいつの間にかツルむ様になってたな」
ハ「私は中学時代からの友達なんだけどね」
ラ「性格は正反対って感じだけど不思議と二人とも気は会うみたいだな」
ハ「紹介はこれぐらいかな?」
ラ「だな。そーいや、今回本編に触れてないしちょっと触れとくか」
ハ「今回も酷いグダグダだったぐらいしかない気が……」(汗
ラ「戦闘とかないから余計にな」(汗
ハ「楽しそうな様子が全然伝わってこないし」
ラ「まぁ、次回からはネットでのことがメインになるから今回よりはマシになる様な気がしなくもない」
ハ「素直にいつも通りって言いましょうよ。まぁ、そんな事言ったら人が減りそうですけど……」(汗
ラ「そんな感じの次回もよろしく〜」