Chapter3-3
時刻は夕方五時を少し回ったぐらいだろうか。夏のこの時間では夕方というにはまだ早く、日はまだ高く、傾く様子もなかった。
樹達、空の円舞曲一行は、僅かに潮の香りを漂わせながら神代家の前へと集まっていた。
「遠慮なくあがってくれ」
玄関の鍵を開け、後ろのメンバーにも開放する。
夕方五時といえば、高校生が帰宅するには些か早い時間だろう。特に泊り掛けである事が前提では尚更だ。だが、それには勿論理由はある。
普段ならこの時間か、あと一時間もすれば母親は帰ってくるだろう。父親も仕事次第では帰ってくる可能性も有り得る。だが、そうなっては、事前に夕食は神代家でと決めていた為、両親と針合わせになってしまう。人数的に厳しいというのもあるが、なにより、友人達にHNで呼ばれるところは極力聞かれたくないということで、こうして早目に帰宅したのだった。
更に、両親には事前に事情は説明しておき、この日は二人で外食ということになっていた。その為、もうしばらくは両親が帰ってくる心配はないのだった。
「流石にちょっと狭いな……」
現状を見て、少し苦笑する樹。
とりあえずは一行を自身の部屋に通したものの、これほどの人数が来ては、狭さを感じずにはいられなかった。
「まぁ、二人ほど居てないだけマシか……」
「ハルカとソレルにはちょっと悪いけどね」
諦めた様に呟く樹に、リシュリーがフォローする。
二人の言うように、今、遥歌と咲希の二人はこの場に居ない。荷物を置きに帰ったついでに、買出しへと出ているのだった。
「直に風呂も沸くだろうし、それまで適当にしててくれ」
そう言う樹だったが、すぐに無用な一言だったと気付く。ネット上だけとはいえ、付き合いはなかなかに長いせいか遠慮というものは余り無い様だ。樹が言うよりも早く、それぞれが思い思いにすごしているのだった。
「これ買おうか迷ってたんだ。ちょっとやっていいか?」
「いいけど、データは消すなよ」
アルタスは早速ゲームを始め――
「ラシル君、ちょっとパソコン借りるね」
「ああ、いいよ」
ウィシュナはパソコンを使い始める。
「本棚にエロ本はなしか……」
「ベッドの下にもないよ〜」
「あんたら二人はなにやってんだよ……」
エルナとリシュリーの二人はお約束ともいうべき、成人向け雑誌の探索に勤しんでいた。尤も、購入したことはないので見つかるはずはないのだが。
そんな様子に呆れながら、壁にもたれかかり改めて皆の様子を見てみる。それぞれが思い思いに過ごしている事に変わりは無い。その様子を見て、自身も必要以上に気を使う必要がないとわかると、一気に眠気が襲ってくる。炎天下の下での待ち合わせや海で泳いだ事で想像以上に疲れが溜まっていたのだった。
最早、抵抗しようと思う間も無く、そのまま眠りへと落ちていくのだった。
「・・・・ル。お・・ろ・・・ル」
暗闇の中、声が聞こえる。誰の声だろうか?判別をつける事はできないが、聞き馴染みの声である事は間違いなかった。だが、そんなことはどうでも良かった。
完全な闇の中にありながら、居心地いいこの空間にまだ居たい。そう思う樹だが、そんな思いとは裏腹に、意識は自然と声の方へと向かっていく。
意識が声へと近付く度に、真っ暗だった空間は徐々に白く明るみを帯びていく。
「起きろ、ラシル!」
声がはっきりと聞こえた瞬間、それまでの闇はなくなり、景色はいつもよりは人の多い自分の部屋になっていた。そして、目の前にはエルナの顔。
「やっと起きたか」
「あれ……もしかして寝てた?」
寝ぼけ眼でそう言いながら、時間を確認してみる。どうやら三十分ほど寝ていたらしい。
周囲を見てみると、先ほどまでと特に変わった様子はない。どうやら、なにかあったのではなく、樹が寝ている事に気付いたエルナがそれを起こした様だった。
何かをしなければ・・・そう思う樹だが、まだ頭が回らないのか、どうも思い出す事が出来ない。
「そういえば、お風呂大丈夫なの?」
「――風呂……?」
ウィシュナがなんの事を言っているのかわからず、考えてみる。帰って来たときに風呂を沸かしていたのを思い出す。
「そういや、沸かしてたな。もう湧いてるだろうし案内するよ」
大きな欠伸をしながら立ち上がり、部屋を出ようとする。だが、その後に誰も続く様子がなく、そのまま立ち止まる。
「……ってだれか来いよ」
「いや……アンタが最初なんじゃないかって」
エルナの言葉にそこに居た全員が頷く。
「いや、オレ最後でいいんだけど……」
「目覚ましがてらに入ってきたら?」
リシュリーの言葉に再び全員が頷く。
樹としては、遠慮などではなく、初めから最後のつもりだったのだが、この様子を見る限りでは誰も動く様子はない。
「わかったよ……。じゃぁ、お先にってことで」
ここで揉めていても仕方がないので、素直に折れるのだった。
――二十分ほどして。
樹が戻ってきた時には、それまでとは状況が随分と変わっていた。
樹が出て行った頃には、それぞれが思い思いに行動していたはずが、今では全員がテレビに向かって――いや、正確にはテレビゲームで盛り上がっているのだった。
先ほどからアルタスがしていたゲームだろうか?とも考える樹だが、彼がしていたのはごく普通のRPGだ。この場にいる全員がこうして夢中になるとは思えない。なにより、コントローラーが二つ使用されている。ますますそれは考え辛い。
「次誰か――ってなにしてんの?」
そう言いながら、樹も画面を除いてみる。そこに写っていたのが随分前に買ったテニスゲームだった。どうやら二人対戦で盛り上がっている様である。
「おかえり〜。今次に入る人決めてるの」
ウィシュナの言葉に思わず口を閉ざしてしまう樹。なぜわざわざそんな時間の掛かるもので決めるのか?そんなことを考えてしまう。
最新の物に拘らなければ格闘ゲームからレースゲームまで一応は揃っている。それらなら、もっと短時間で決められるはずだ。尤も、極力公平さを期した結果であることは予想出来たので、その辺りの事は敢えて口にはしない。
「それで、トーナメントでもやってんだ」
「ううん、リーグ戦」
「時間掛けすぎだろう」
呆れたように呟くと、ベッドの一画を陣取り大人しく観戦することにする。遥歌と咲希もまだ来る様子もない為、そう慌てる事も無いと考えてのことだ。
現在、試合をしているのはアルタスとエルナ。スコアの上ではアルタスが圧倒的に有利な状況だが、漸く慣れてきたのか、エルナが粘りを見せ試合は長引いている様だった。
一方アルタスは、上手くボールを打ち分け、攻めの姿勢を崩さない。随分と慣れている様子だ。
しばらくラリーが続くが、やがてその均衡も崩れてくる。これまで粘りを見せていたエルナだったが、次第にアルタスの打つボールに追いつけなくなってくる。そして、ついには得点を許してしまう。それが切っ掛けとなったかのように、この後も次々とアルタスは得点を決めて行き、エルナの巻き返しはないままゲームセットとなった。
「まだあるのか?」
「いや、これで終わりだよ」
エルナが答える。どうやら、この試合がリーグ戦最後の試合だった様だ。
「確か……ウィシュナだっけ?」
「……さいですか」
言いたい事はあったが、最早そんな気力もなく、それだけに留める樹。
「それじゃ、案内するよ。あと、そのまま晩メシの準備してくるからみんなは適当にしててくれ」
「覗くなよ」
「覗くか!」
ウィシュナを風呂まで案内すると、樹は一人、台所でへと向かう。
「さて、どうしたもんかな・・・?」
夕食の支度に来たのはいいが、いざ始めようとすると早速作業に詰まってしまう。それもそのはずだ。なにせ、材料は遥歌と咲希が仕入れてくる事になっている。二人が帰ってこないのでは本格的な準備など出来るはずも無い。
「サラダぐらいならなんとかなるかな?」
冷蔵庫を覗きながらそう呟く。メニューはあらかじめ決まっているので、勝手にいくつかメニューを増やしたところで問題はない。
「折角の焼肉だし、タレも作るか。あとスープもいけるな」
作るものは決まると、次々と材料を取り出していき調理していく。
趣味とまではいかないまでも、日頃から料理をする機会は多いため、手際よくこなしていく。
まずはタレを作り、空いている容器にそれを移す。次にサラダ。これはラップをして冷蔵庫に入れておく。
「ラシル君、なにか手伝おうか?」
最後のスープに取り掛かり、味見をしていた所でウィシュナに声を掛けられる。
「いや、丁度終わったとこ」
満足出来る味だったのだろう。鍋に蓋をしながらそう答える。
とりあえずの準備も済ませ、ここに居る意味もあまりない。残っている事といえば、後片付けぐらいだ。なので、ウィシュナを先に部屋に戻そうかとも思ったが、折角手伝おうと来てくれているのをそのまま戻すのも、追い返したようで少し気が引けた。何か話でも――そう思ったところであることに気付く。
(そういえば、ウィシュナと二人って初めてな気が・・・)
いつもは、大抵はアルタスや他のギルドのメンバーが一緒に居る。その為、彼女と二人で居るという事はまずなかった。
それに気付くと、いざ話そうにも話題が見つからない。ファンタジアナイツなら確実に話せるだろうが、折角こうしてリアルで会っているのに、普段共にしているゲームの話題というのも気が引けた。
「そういえば、ラシル君って結構料理したりするの?」
何を話そうかと考えている内に、ウィシュナから話題が提供された。少し困っていただけにありがたいことだったが、いざとなるとあまり話す事のない自分に、樹は内心苦笑するのだった。
「う〜ん、週一回ってとこかな・・・」
神代家がいくら共働きとはいえ、きちんと三食とも準備はされている。その為、樹が料理をする機会といえば、半日だけ学校がある土曜の昼食ぐらいなのだ。
「まぁ、腕は大したことないんだけどな」
冗談っぽくそう付け加えておく。
「え〜、ホントに?」
「ホントだって。なんならちょっと飲んでみるか?」
樹はそう言って立ち上がると、味見に使った更にすこしスープを入れ、ウィシュナへと渡す。
皿を受け取ったウィシュナは、楽しみといった様子だ。少しスープを見つめた後、少しずつ口へと含んで行き、熱さに慣れると残りを一気に飲み干す。
「……ラシル君」
一呼吸置き、ウィシュナが口を開く。
樹が自身の料理を人に食べさせるのは今回が初めてだ。どういった反応が返ってくるのか不安がある反面、それ以上に楽しみでもあった。
「すごく美味しいよこれ。これだけ作れれば十分だよ」
「そ……そうか?」
流石に不味いという感想が出てくるとは思ってなかったが、こういった反応が返ってくるとも思ってなかった樹。初めて人に食べさせた料理は思ったよりも好評だったようで嬉しい反面、はずかしくもあった。
その後も、料理の話で盛り上がる二人。初めこそどうしたものかと考えていたが、こうして共通の話題が見つかると、時間はあっという間に過ぎていく。友人の新たな一面を発見し、その事を素直に喜ばしく思う樹だった。
しばらくして、家にチャイムの音が鳴り響く。どうやら来客の様だ。
「いいよ、私出てくるね」
「あ、おい……」
立ち上がろうとする樹を止め、ウィシュナがそのまま玄関へと向かう。静止する間もなく行ってしまった少女の背中を見送り、小さく溜息を吐きながら再び腰を下ろす。
追いかけようかとも考えたが、来客者は誰であるのかは予想出来た。なので、言葉に甘え、応対はウィシュナに任すことにする。
間もなくして、樹の予想が正しかったことを証明するかの様に、声が聞こえてくる。次第に声はこちらに近付き、その主達が台所へと姿を現す。
「お待たせ〜」
「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃった」
咲希と遥歌の二人だ。
樹が買出しも頼んでいた為、二人の手にはスーパーの袋がある。
「しかし、流石にすごい量だな」
テーブルに置かれた荷物を見て、そう漏らす樹。
買ってくる材料は、基本的には買出しの二人に任せていたが、分量や樹が個人的に欲しいと思う材料は指定していた。人数が人数なので、少し多目に伝えてはいたのだが、それを考慮しても相当な量となっていた。
「お疲れ。重かっただろ?」
「それはいいんだけど……」
樹の言葉に、遥歌が言葉を濁すように答える。
その様子に不思議に思う樹。先ほどのやり取りにおかしな部分があったとは思えない。だとすると、頼んだ品物だろうか?だが、そちらにも覚えはない。
心当たりは一切ない為、どう反応していいかわからず、二人の出方を待つ事にする。
「これを見ておかしな部分があることに気付かないかしらね?」
樹の様子を見て、咲希が携帯電話を差し出してくる。そこに写っていたのは、樹自身が送った買い物リストのメールだった。
画面に表示されている部分は勿論、画面をスクロールさせて他の部分を見てもおかしな部分はやはり見当たらない。
「普通だと思うぞ」
惚ける訳でもなく、そう答えながら携帯電話を返す樹。
「じゃぁ、この酒ってのはなにかしらね?」
そう言われて、漸く二人の言いたい事を理解する樹。確かに、メールを送るときに冗談半分で酒と書いたのを覚えている。
「……無礼講?」
「意味わかんないわよ」
適当な返答をする樹に対して、呆れた様に返す咲希。
「とりあえずお酒は無理だったよ」
いつまでも終わりそうにない二人を見かねてか、遥歌がそう答える。樹としても、本当に買ってくるとは思っていなかったので、特に気にしてはいない。
「じゃぁ、オレはもうちょっと準備してるからみんなは先に部屋に行っててくれ」
「そうするわ」
「手伝おうか?」
咲希と遥歌で全く逆の反応が返ってくる。
そんな二人の反応を見て、“らしい”と思う樹だが、ここまで正反対の性格でよくここまで気が合うものだと改めて感心する。
「いいよ、二人で動けるほど広くも無いしな。ウィシュナ、二人の案内よろしく」
そう言うと、早速袋の中の荷物を取り出し、作業を開始していく。その様子を見て、遥歌達もその場を後にするのだった。
――しばらくして、樹も準備を済ませ自身の部屋へと戻っていた。部屋では相変わらずゲーム大会が繰り広げられていた。
「アルタスもそろそろ出てくるかな……?」
時計を見ながら、樹がそう呟く。
アルタスが風呂に行って既に二十分ほど。そろそろ出てきてもいいぐらいの時間だ。
「それじゃ、オレは一足先に準備に行ってくるよ」
そう言って立ち上がる樹。
アルタスが最後の入浴者だ。彼が上がれば漸く食事となる。本を読むのも、人のゲームを見ているのも少し飽きてきていた所なので丁度いい。
「私も手伝うね」
樹に続くように遥歌も部屋を出る。
準備とは言っても、食器を出す程度だ。手伝いが必要なほどのことでもないのだが、先ほども断りを入れている。あまり邪険にするのも気が引けた。
「じゃぁ、頼むわ」
そう言って、今回は素直に受け入れるのだった。
「そこに食器が入ってるから必要そうなものは出しといて」
「はーい」
遥歌に指示を出し、自身も冷蔵庫から、先ほど準備をしたものを出そうとしてあることに気付く。
(ここじゃ全員座れないよな……)
台所にあるテーブルでは全員が座る事は無理だ。隣のリビングに目をやるがそれはあちらも同じ事。しばしの間考え、解決策を探してみる。
(持って来るしかないか……)
出来る事なら避けたい。そう思う樹だったが、他にいい解決方法も思いつかず、諦めるしかなかった。
「楠木、ここのこと頼むな」
そう声を掛けてから、台所を後にする。
二階の一番奥。そこに樹の目的地はあった。倉庫代わりとして使っている空き部屋だ。ドアを開けると、所狭しと物が置かれ、足の踏み場もない状態だ。一番奥にあるものなど取り出すのは不可能ではないかとさえ思えてくる。
そんな部屋の一番手前に樹の目的の物は立てかけられていた。現在、一階に置いてあるものよりも随分と大きめのテーブル。これが樹の目的の物だった。
「アレから物が増えてなくて助かった」
大きさ故に、重量も然ることながら、なにより動きにくいのだった。少しでも部屋の奥に行っていれば、出すだけでも一苦労といった所だっただろう。
尤も、運ぶ手間はなくならないのだが……。それを考えると、やはり他に方法がと考えられずにはいられない樹だった。
「諦めて持っていくか……」
溜息交じりでそう呟くと、テーブルを抱え、倉庫を後にした。
「随分デカイ荷物持ってるな」
「お、上がったか」
廊下を進んでいるとアルタスが丁度通りかかる。どうやら、丁度風呂から上がったところのようだ。
「手伝ったほうがいいか?」
「いや、大丈夫。それよりみんなを呼んできてくれ」
「わかった。気をつけろよ」
短いやり取りで別れる二人。アルタスを見送ると、樹も再び台所へと向かうのだった。
重量があるとはいえ、樹もやはり男。運ぶのが厄介というほどのものではない。幅と高さにさえ気をつければそれほど問題はない。
大きな問題が発生する事もなく、テーブルを運び終える。
次に、リビングのテーブルやソファを部屋の端へと寄せ、持って来たテーブルを設置する。
「食器は全部こっちに頼むな」
「はーい」
遥歌にそう指示を出し、自身も準備を進めていく。
丁度準備が終わったところで、残りの面々も台所に姿を現す。
「適当に座ってくれ」
そう言って、全員が来てからと冷蔵庫に入れておいた肉と野菜を運び、樹も腰を下ろす。
「随分すごいね〜」
食卓に並ぶ食材を見つめ思わずそう漏らすリシュリー。彼女は――いや、厳密にはここにいる全員、それこそ準備をした樹ですら、予定を話していた時点では肉と野菜がある程度だと思っていた。
それが、いざリビングに来てみれば、サラダとスープの追加。肉も生のままの物と、タレに漬け込んだ物の二種類。タレですら樹の自作の物と市販の物と、家庭で焼肉をするには十分過ぎるほど手が込んでいる。リシュリーでなくとも、この様な感想を持ってしまうだろう。
「こりゃ、バーベキューを辞めて正解だったかもね」
当初の予定では、夕方まで泳ぎそのままバーベキューとなる予定だった。だが、食材を含め、荷物を運ぶのが無理という理由で断念していたのだった。
「それじゃぁ、焼いていくか」
そう言って、材料をホットプレートへと乗せていく。
「この辺はもういけるかな……?」
そう言って、焼けた物を端へと寄せ、更に新しい食材を乗せていく。
こうして、ずっと焼き番に徹する樹。家族を除けば他者に料理を振舞った経験などない。先ほどウィシュナから好評を得たものの、やはり人からの評価というものはどうしても気になってしまう。このままでは落ち着いて食事どころではなさそうだ。その為、こうして周囲の反応を待っているのだった。
次第に、焼けた具財に箸が伸びる。こんなとき、誰にも遠慮がないというのはありがたかった。もし全員が始めに箸を伸ばすのを躊躇うようならば、ずっと食材を焼いている樹が不自然に見えるからだ。
口に運ばれる様子を見て、思わず緊張する。先ほど、ウィシュナからはいい評価を得たものの、やはりこうした経験がないせいかこうなってしまう。
緊張を誤魔化すためか、自身でも味を確かめてみる。味見をしたとき同様、悪い感想が出そうなものではない。
「意外とイケるね」
「料理するとは聞いた事あったけど本当だったんだね」
エルナとリシュリーは高評価の様だ。
「なんか仕込んでるかと思ったけど、意外とちゃんと食える物だ……」
「さっきも少し貰ったけど、やっぱり美味しいね」
「普段のアンタからは想像出来ないわね」
「今度レシピ教えてほしいな」
「お前らに普段どんな風に見られてんのかよくわかったよ……」
ここに居る者達からはいい評価が得られると同時に、その感想の内容に呆れる樹。だが、言葉とは裏腹に、この評価に安堵しているのもまた、確かだった。
そのまま食事も進み、やがて食事も終わる。多すぎたかと思われた食材も、結局はそのほとんどが平らげられてしまっていた。
片付けをしようと立ち上がろうとしたときだった。
「神代君、ゆっくりしててよ。片付けはやっておくから」
遥歌から静止の声が掛かった。
「いいよ。楠木こそゆっくりしてろって」
「ラシル君はずっと準備してたんだし、片付けぐらい任せてよ。ハルカ、私も手伝うね」
遥歌の申し入れを断り、動こうとする樹だったが、ウィシュナにまで止められてしまう。準備の時点から動きっぱなしなのは、それほど気にしてはいないのだが、彼女達の申し入れをあまり無下にするのも気が引けるのだった。
「……わかったよ。それじゃ頼む」
そう言って、上げた腰を再び下ろすのだった。
ふと時計を見ると、既に午後八時を過ぎていた。樹の予想では、そろそろ両親が帰宅してくるのではと考えていたのだが、未だその様子はない。
(どこに行ってるんだか……)
そんな感想を抱きつつ、夕食時からつけていたテレビへと目を向けるのだった。
時刻は午後十時。一行は再び樹の部屋へと戻り話に花を咲かせながらも、各々がそれぞれの方法でこの場を満喫していた。
そんな中、遥歌の様子は少し違っていた。まばたきを数回繰り返したかと思うと、そのまま目蓋が閉じられる。そのまま舟をこぎ始めたかと思うと、一瞬大きく揺れその反動で驚き、目を見開く。そんなことを数回繰り返していた。最早半分寝ている状態だ。
「疲れたんだろ。もう寝てきたら?」
そんな様子に気付いた樹が声を掛ける。
「ううん、大丈夫だよ」
そう答える遥歌だが、目蓋は閉じかけ、いかにも眠そうといった表情だ。彼女の言葉に説得力は一切感じられない。
「説得力ないって。ほら、案内するから着いて来な」
遥歌の言葉を無視し、部屋から連れ出す。
遥歌もそれ以上反論することもなく、樹に続く。大丈夫とは言いつつも、やはり起きているのは限界だったのだろう。
樹は、後ろを気にしながらも先導し、一階の客間へと遥歌を連れて行く。
「ここ。好きなとこで寝てていいから」
そう言ってドアを開ける。
中は樹の部屋よりも少し広い程度の部屋だ。だが、家具の類はほとんどないため、随分広く感じる。そこに、布団が敷き詰められていた。
流石に、同じ部屋に男女一緒に寝るのはよろしくないということで――そもそも樹の部屋にそんなスペースはないのだが――あらかじめ用意していたのだった。
「うん、ごめんね」
「謝る事なんかしてないだろ。それじゃ、おやすみ」
「おやすみ……」
遥歌が布団に入るのを確認すると、そっとドアを閉め、樹も自身の部屋へと戻るのだった。
その後も、会話で盛り上がりながらも、インターネットで面白いサイトを見つけては笑いあい、ファンタジアナイツのアイテムを賭けて対戦しと、相変わらずの様子を見せる一行。
だが、時間が経つにつれ、一人、また一人と次第に眠っていく。時刻は午前三時。気付けば起きているのは樹一人だけだった。
「だれも起きねぇし……」
現状を見て呟く樹。呼び掛けても肩を揺すっても誰も起きる様子はない。皆が所狭しと横たわっている。最早空いているスペースは樹の座っていた場所ぐらいだ。
「……もうこのままでいいか」
何をしても無駄だと悟ったのか、樹は彼女達を起こすのを諦める。そして、そのまま部屋を後にする。
「流石にここはマズイよな……」
部屋を出た樹が向かったのは、先ほど遥歌を案内した客間だった。自身の部屋では寝るスペースがない為、ここで寝ようかとも一瞬考えたが、それはすぐに却下する。
人数分のタオルケットを取ると、遥歌を起こさないよう気を配りながら、再び部屋へと戻る。
部屋で寝ている面々にタオルケットを掛けると、次は自身の寝場所を探す事にする。
(ここしかないよな……)
寝ることが出来そうな場所を考え、出た結論はリビングだった。ここのソファなら寝るには十分だろう。
もう寝ようかと思う樹だったが、海から帰って少し寝ていたせいか、それほど眠気は無い。
(ちょっと外にでも行くかな)
持っていたタオルケットをソファに放り投げ、そのまま厳寒へと向かうのだった。
外は静かなものだった。時間が時間なだけに、人通りなどあるはずもなく、聞こえてくるのは僅かな虫の音のみ。時折吹く生温い風も、薄っすらと汗ばんだ肌には心地よかった。
樹は道路に出ると、塀にもたれ掛る様に座り込む。そして、空を見上げた・
(やっぱわかんねぇな……)
僅かに見える星を見て、まず出てきた感想がこれだった。
元々星を見るという趣味は持っていない。そして、何度か星座の説明を聞いた事はあるのだが、今至ってもやはり理解は出来ていない。それでも尚、星座を探してみるがすぐに諦める。
何も考えずただただ空を見上げる。特に何があるという訳でもないが、この静かな時間は気に入っていた。
そうして、少し経った頃、後ろから人の気配がする。誰かが起きてきたのだろう。
「あ、神代君。まだ起きてたんだ」
「海から帰って寝たせいかあんま眠くなくてな」
そこに現れたのは遥歌だった。
短いやり取りを済ませると、遥歌も樹の横へと腰を下ろす。
「もしかして起こしたか?」
「ううん。目が覚めたら物音がしてたからそれで出てきただけ」
「そっか」
再び訪れる沈黙。
出会って間もない頃こそ、この沈黙が気まずく感じたものだが、今ではこの様な状況も相まって、心地よく感じる。
「でも意外だったよ」
先に沈黙を破ったのは遥歌だった。
「神代君って星見るのすきだったんだね」
「いや、特別好きって訳でもないよ。それこそ星座とかもさっぱりだし」
樹は冗談っぽく言うと、そのまま立ち上がる。
「さてと、オレはそろそろ寝るけど楠木はどうする?」
「私も寝るね」
二人で家へと戻る。暗い廊下を進み、リビングの入り口に着いたところで足が止まる。
「それじゃ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
そう、挨拶だけして別れる。遥歌を見送ると樹もソファへと倒れこむ。
申し訳程度にタオルケットを掛け、そのまま目を瞑る。家の中では外に居た時の様な虫の音すら聞こえず、静寂だけがそこにあった。
眠気はほとんど無かったはずなのだが、意外と疲れはあったのだろう。あっという間に樹の意識は闇の中へと溶け込んでいくのだった。
ラシル(以下ラ)「加速するグダグダ!」
ハルカ(以下ハ)「のっけから何言ってるんですか?」
ラ「いや、今回いつもにも増して酷かったからついな……」
ハ「ああ〜、確かに」
ラ「しかも引っ張りすぎだし」
ハ「確かにもっと簡略出来そうですよね」
ラ「引っ張りすぎた結果がこれだよ!」
ハ(今回は随分飛ばしてるな〜)
ハ「それで、今回のってどれぐらい引っ張ったんですか?」
ラ「とりあえず予定ではオフ会は終了する予定だったらしい」
ハ「オフ会どころか一日が終わっただけですね」
ラ「なんでもここで終わらせると次回のネタがなかったそうだ」
ハ「グダグダな上にネタがないとか……」(汗
ラ「やめときゃよかったのにな……」(汗
ハ「そういえば、一週間ほど遅れるって言ってたのに結局一週間どころじゃないですね」
ラ「予想以上に進まなかったらしい。グダグダな話にするから」
ラ「ゆっくりした結果がこれだよ!」
ハ「そう言うと作者が随分サボってたみたいに聞こえますね」
ラ「遅くなってホントすんませんです」
ハ「それじゃぁ、そろそろキャラ紹介に行きましょうか」
ラ「今回はマスターだな」
ハ「名前はエルナで、マスターの愛称で親しまれています」
ラ「愛称からわかる様に、オレ達の所属ギルド『空の円舞曲』のマスターだな」
ハ「姉御キャラってことらしいので、それっぽくなるように意識はしてるみたいですね」
ラ「セリフだけ見ればオレかアルタスが喋ってる様にしか見えないのが難点だな」
ハ「リアルでは受験を控える高校三年生です」
ラ「あの性格に似合わず結構優秀らしくて、夏休みに入っても遊んでられるぐらいの余裕があるんだから驚きだな」
ハ「そんなこというと失礼ですよ」(汗
ラ「あと、すっかりヒロインっぽくなってきてるな」
ハ「ヒロイン私なのに……」
ラ「作者曰く、もうこっちがヒロインでよくね?らしい」
ハ「ちょっ……!」
ラ「とりあえず今回の紹介はこんなもんかな」
ハ「あ、すっかり忘れてたけど、遅れる原因になったHDDレコーダーはどうなったんですか?」
ラ「ああ、なんでも30タイトルぐらい見れればいいほうと思ってたら、100タイトルぐらい商家出来たらしく、残り30タイトルぐらいになったらしいぞ」
ハ「随分減ったね〜」
ラ「まぁ、あれから放置して、また60タイトルぐらいにまで増えてんだけどな……」
ハ「その内また今回と同じことしそうですね……」
ラ「それじゃぁ、今回はこの辺で」
ハ「次回もいつもにも増してグダグダになりそうですが、また見てくれると嬉しいです」
ラ「グダグダは続くよどこまでも……」
ハ「そういうこと言って来る人減っても知りませんよ……?」(汗
二人「それでは、また次回〜」