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プロローグ

「さて、どうするかな・・・」

 パソコンモニターの前に座り、少年は独り呟く。モニターに映し出されているのは、オンラインゲーム『ファンタジアナイツ』のゲーム画面だ。そこには彼―――神代 樹の操作キャラクターが、街の入口付近のフィールドに、一人座っていた。キャラクターの下には『ラシル』の文字。これが樹のキャラクターネームだ。樹は少し途方に暮れていた。とは言っても、何をしていいかがわからないなどといったことではない。樹がこのゲームを始めて、かれこれ一年近くは経つ。古参とまでは行かなくても、そこそこ古株のプレイヤーだ。やりたいことは色々とあるものの、することがないということはなかった。それでは、一体何が原因となっているのか?それは彼の今の環境にあった。

 数日前のことだ。樹は彼の所属するギルドのメンバー達と、ちょっとした騒ぎを起こしたのだった。これにより、周りに結構な迷惑を掛けることとなり、それまで使っていたキャラクター、及びギルドの活動を自主規制することとなったのだった。本来ならば、ギルドの解散や、キャラクターの削除となっても不思議はないのだが―――実際周囲ではそれぐらいの騒ぎになっていたのだが―――樹達は、自分たちの一方的な過失ではないとし、しばらくの間、自主規制となったのだ。もっとも、樹からすれば自主規制すらする気はないのだが、流石にこれ以上反抗すると、ゲームマスターまで出てくるような事態に発展しかねない。そうなると面倒なのは目に見えているので、渋々ではあるものの、メンバー達の意見に賛成したのだった。そんな訳で、現在では以前に作成して、しばらく放置していた、2ndキャラクターのラシルを使用してゲームをプレイしているのだった。そして、この現状が樹を途方に暮れさせる原因でもあるのだった。キャラクターに不満はほとんどない。育成関係に面倒臭さを感じはするものの、苦になるほどではないし、装備だって充実はしているほうだ。むしろ困っているのはソロプレイということだ。元々、樹は社交的な方ではない。そのため、ソロプレイがメインと言ったほうがいいだろう。だが、それもギルド内でのチャットをしながらという前提の下でだ。それもなくなった今となっては、物足りなさを感じてしまい、ダンジョンに行ってはすぐに戻ってくるということを繰り返していた。ギルドのメンバーを呼ぼうにも、自粛ということで一旦ゲームから離れている者たちを呼ぶわけにもいかず、かといって、自分もゲームから離れようとするも、お金を払っている以上、アカウントの有効期限が残っている現状ではそんな気にもなれず、こうして、毎日途方に暮れながらゲームをプレイしているのだった。因みに、オンラインゲームである以上、知らない者達とパーティーを組んで冒険ということも、勿論可能だ。むしろそれこそが醍醐味と言ってもいいだろう。―――MMORPGに分類されるこのゲームなら尚更だ―――だが、樹はお世辞にも社交性が高いとは言えず、人見知りもするため、そういったパーティーには数えるほどしか参加したことがなかった。そのため、現状を少しでも改善するために、そういったパーティーに参加するという選択肢が存在しないのは言うまでもない。

「やっぱオレも少し離れるかな・・・」

 やはり、モニターを前に独り呟く。結局のところアカウントだなんだと言っても、今ひとつやる気が起きないのは、やはり友人の存在だ。彼らが居ないのなら、自分も離れてみるのもいいかもしれない。そう思い始めたころ、一人のプレイヤーがラシルの側を通りかかる。ここは街の入り口付近だ。それ自体は珍しいことではない。だが・・・

「あんた、最近いつもこの辺に一人でいるね。もしかして、ギルドも入ってないとか?」

 いきなり声を掛けられる。もっとも、ラシルに樹というプレイヤーがいるように、このキャラクターにも、当然プレイヤーはいる。だからこんなことが起こっても不思議ではないのだが。

 ここ数日、ダンジョンに行っては、この場所に一人でしばらく座り、またダンジョンへの繰り返しだ。しかも、ダンジョンにいるよりはここで座っているほうが遥かに長かった。これなら、タイミング次第では延々と一人寂しく座っているだけのように見えなくもない。毎回帰ってくる場所を変えるべきだったか?軽く悔やみながらも相手の名前を確認する。どうやら、この女性型キャラクターは『エルナ』というらしい。だが、樹には見覚えはない。友人の内の、だれかの別キャラクターの可能性もあるが、十中八九初対面だろう。

「見てのとおりだけど」

 素っ気無く返す樹。このゲームは相手のキャラクターにカーソルを合わせることで、相手の名前とギルドに所属していれば、そのギルド名が表示されるようになっている。そんな意味も含めての返答だった。

「だったらウチのギルドに入らないか?」

「はぁ!?」

 突然の誘いに戸惑う。普通ギルドとは、仲のいい者達が集まったり、同じ目標を持った者達が集まるところだ。無作為に募集を掛けて、と言うことも勿論なくはないが、少なくとも、こんな唐突に誘われるものではないだろう。少なくとも樹にはそう思えた。

「いきなりわけわかんねぇ。それじゃ」

 相変わらず素っ気無く返し、これ以上用はないと言うように、キーを叩きラシルを立ち上がらせる。たしかに、ラシルはギルドには入っていない。彼女のギルドに入ることも可能だ。だが、それは今だけのことだ。しばらくして、他のメンバーが戻ってくれば、樹は元居たギルドに戻らねばならない。そういう意味でも、樹はこのギルドに入るわけにはいかなかった。

 樹はキーボードの横に置いてあったコントローラに手を伸ばす。そして、そのままラシルを移動させる。特に当てはなかったが、気晴らしにダンジョンにいくのもいいか、などと考える。それに、ここに戻ってこなければ会うこともほとんどなくなる。

「あ、ちょっと待った」

 そんなセリフの後に、ギルドの勧誘ウインドウが表示される。『空の円舞曲ワルツ』。それが彼女の所属するギルドの名前だった。

 あのなぁ・・・

 そうタイピングして、エンターキーを叩く。が、その寸前にあることに気づくがもう遅い。キーを押す指を止められるはずもなく、そのまま押し込まれる。そしてウインドウには『ギルド「空の円舞曲ワルツ」に加入しました』の文字。それと「あのなぁ・・・」と流れるチャットの文字。エンターキーで受諾出来ることを忘れていた訳ではない。これは樹の癖だった。そして、樹がよくするミスの1つでもあった。

「すまん、すぐに抜ける」

 そう言った直後、他のメンバーもラシルの加入に気づいたのか、

「お、新人入ったんだ」

「よろしく〜」

 などと、次々に声を掛けてくる。お世辞にも社交性は高いとは言えず、人見知りもする樹であったが、実は結構お人好しだったりもする。そのため、このまま間違いでしたで、抜けてしまうのも少し気が引けた。我ながら面倒な性格だ。そんなことを思いながら少し苦笑する。

「実は少し訳ありで、すぐに抜けないといけなくなる。だから、このギルドには入れない」

 事情を話して抜けることにした。いきなり抜けるよりはいいだろうと、樹なりの配慮だった。ただ、包み隠さず、というわけにはいかないが。そもそも、自粛中となっている身としては、ヘタに話して、話が広がり面倒事になるのだけは避けたかった。

「それならそれでかまわないさ。まぁ、細かい事情はあとで聞くとして。とりあえず、私はエルナ、このギルドのマスターだ。よろしく」

 だが、まるで後のことなど関係ないと言っている様だった。一瞬反論しようとする樹だったが、折角だし、このまま楽しんでみるのもありなのではと思う自分もいることに気づく。たしかに、抜けることなど、そのときになって考えればいい。これはゲームなのだ。楽しまなければ損だろう。そう考えると、意地でも抜けようとする自分はいなくなっていた。だから、

「ラシルだ、よろしく」

 そう答えていた。

 こうして、樹は空の円舞曲ワルツのラシルとして、ゲームを続けることになるのだった。


はじめまして、氷上 悠と申します。初投稿で、拙い文章なファンタジアナイツを読んでくださってありがとうございます。しばらく色々と書いていくつもりなので、オリジナルのオンラインゲームで展開する樹たちの話にしばらくお付き合いくださいませ。

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