初めての放課後
「仲良くしてください」
そう締めくくった彼女、成瀬海波はそそくさと自分の席に戻っていった。
声だけじゃなくて、見た目も落ち着いた感じで、本当に同じ年齢なのかを疑うくらい大人のような雰囲気をまとう彼女に一体何人の男子の目がいっただろう。
次の人の自己紹介は全く頭に入ってこなかった。
なぜか彼女、成瀬の声だけが頭に響く。
だが、それを遮ったのは馬鹿みたいな男子の声だった。
「やぁ、諸君!俺は西田恵太!多分このクラスで一番のお調子者でイケメンだと思う!よろしく!!」
さっきのアホ……自称イケメン男子君は大きな声で言った……いや、叫んだ。
「得意なことはスポーツ。苦手なことは勉強!以上!!」
わかりやすく言うと、ただのバカってことか……。
言い終えると恵太は満面の笑みで席に戻っていった。
成瀬さんへの俺の余韻を返してくれ。
それから何人もの自己紹介を聞き、友達になれそうな人、可愛い女子など目星を付けることだけに専念していた。
だが一番気になったのは成瀬さんだった。
キーンコーン…………
授業終了のチャイムが鳴る。
「えぇ、じゃあ一通り自己紹介は終わったみたいですね。えぇ、これから一年間、このメンバーで過ごしていきます。えぇ、なので、えぇ、喧嘩などくだらないことをするのではなく、えぇ、仲良く、えぇ、やっていくように。じゃあ、LHRを終わります。改めて入学おめでとう」
担任、ハゲルの長い締めが終わった。
そして各々変える支度を始める。俺も早めに支度をして隣まで染良を迎えに……。
そこまで考え、支度を進める手を止める。
迎えに?俺はいったい染良の何のつもりだ。今まではそうだったかもしれないが、これからは一緒に帰るのは俺じゃないのに。それに、染良だって新しい友達が……。
「初陽~、親睦を深めるついでに飯でも行かない?」
真剣に悩んでいるところを、後ろからの馬鹿な声で我に返る。
「え……?あ、あぁ、お前かよ」
振り返ると恵太がいた。
「なんだよお前って。俺と初陽の仲じゃないか」
「いつからそんなに仲良くなったんだよ」
「今!」
やっぱり馬鹿だ。
「まぁまぁ、何なら女子も誘ってご飯にでも……」
「あ!いたいた、初陽~!!」
馬鹿の話から俺を解放してくれたのは俺を呼ぶ声だった。
「染良」
声の主、染良はドアの近くで大きく手を振っていた。
「初陽くん、あの可愛い子はいったい」
急に隣の声が低くなる。返答次第で俺の明日は変わるのだろう。
「えっと、幼馴染」
「それだけ?」
「……それだけ」
軽い尋問を受ける。恵太は初陽の答えにやや納得していないみたいだったが、染良が教室に入ってきて初陽の隣に来たのでこれ以上質問するのをやめた。
「どーも、俺西田恵太って言います。よろしくね」
恵太は可愛い子を前に早速挨拶をする。仕事が早いな……。
「え!あ、泉染良です。初陽とは幼馴染です」
恵太に押されて染良も頭を下げて挨拶をした。
「これから初陽と仲を深めるためにご飯にでも行こうと思うんだけど、よかったら染良ちゃんもどう?」
これがあの馬鹿なのか疑ってしまうくらいイケメンの対応をする恵太。なんだこの女慣れした感じは!
それに俺は行くなんて一言も言っていない。
「そうなの?んー……じゃあ私も行こうかな」
よし決定だ俺も行こう。
単純だと笑ってくれて構わない。だが染良が行くのに俺が行かないわけにはいかない。
「だとするともう一人女子を誘った方がいいかな。あ、ちょっと俺トイレ!」
そういうと恵太は慌ただしく廊下へと走っていった。
「えーっと、今のは初陽の友達?」
恵太がいなくなったのを確認してから染良は確認してきた。さすがに馴れ馴れしくて染良も警戒していたのだろう。
「ん、友達というか、」
「いい人だね!よかった、初陽に友達ができて」
俺が返事をする前に染良はにこにこして言う。その笑顔は本当にうれしくて笑っているのだろう。
なぜか心が痛くて俺は「あぁ」と、短く答えるしかなかった。
しばらくして恵太が戻ってきた。
「お待たせ!えっと、ちょっと一駅隣のファミレスとかどうかな?」
かえって来て早々恵太はこれから行く場所を指定してきた。本当に仕事が早い。
「うん!いいと思う!」
染良が賛成する。
「俺の知り合いの女子……って言っても他校なんだけど、その子も誘っといたから!」
「おぉ!恵太君ってできる人だね!」
「いや~、それほどでも」
初陽をほっといて二人は初対面と思えないほど仲良くなっていた。
「よし、じゃあ行こうか」
恵太のその一言で初陽たちはクラスから出る。
LHRが終わってから一時間近くたっていた。