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一話
T・K様の物語を作るため、仮名をつけました。千尋です。
「練習に付き合ってくれてありがとうございました」
「いや、構わないよ。俺もお前の歌が聴きたくてここにいるしな」
「ありがとうございました、自分でもびっくりするほど歌が上達したと思います、アナタのお陰です」
「そこまで言うと照れるぞ」
音楽室に隣接する楽器倉庫はくたびれている。そこは倉庫と言われるが、実態は故障した楽器の掃き溜めだ。
しかし例外的に、この二人の様な、部活動とは別の活動に使われる事がある。今回の場合は、少女、千尋が小さな市民ホールで行われる音楽祭に向けての練習だった。
「不思議ですね、アナタと練習をすれば、新しい音の境地に辿り着ける気がします」
「そうか? 俺には全くわからないけど」
「カリスマなのかもしれませんね」
男は照れ臭そうに表情を緩ませた。
「楽しみにしているからな、音楽祭」
「ありがとうございます、期待に添えるよう、頑張ります」




