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日常

「ヒドいトモちゃん!!」

 シクシクと机に突っ伏し泣きながら訴えるとこちらも見ないで鬱陶しそうに「何が」と言われた。

 本当にヒドい!! もう少し親身に聞こうよ!

「昨日のことだよ!秋に言ったでしょ!」

「あぁ、良かったじゃない」

「どこが!?」

「ケーキ食べに連れてってくれたんでしょ?」

「秋が来なければ行く必要もなく、彼氏も出来てたかもじゃない!」

「ないない。男に声かけられる前に警察に声かけられるわ。そういう時のあんたは挙動不審だし。本当感謝してほしいわ」

 “ない”とバッサリ言い切られ、しかもその声は明らかに『ウザイ』と言っていて泣きたい。しかし、これだけは言わせていただく!

 涙目になっているが致し方ない。

「今回は大丈夫な所にいたもん!!」

 しかし、もうされた後かと呆れられてしまった。

「トモちゃん!」

「うるさいわねぇ…いいじゃないあんなきれいな男と一緒にケーキ食べれたんだから、喜びなさいよ。」

 羨望の的よと言うが私は知っている。

 ちらりとトモちゃんの手に握られているパンを見る。

「それ、秋から賄賂でしょ」

「何言ってんのよ。情報料よ」

 私のささやかな願いはパン以下なの!?しかもあっさり認めますね!?

 真剣な顔をしたトモちゃんが私の肩に手を置いた。

「私はあんたのためを思って教えたのよ?よく知りもしない男についてったらって不安で…だから八広に教えたの。…決っして面白そうで様子を聞きたいとか、レアパンのためなんかじゃないのっ!」

 トモちゃん…。

 そんな風に思ってたのね…。

「ーーやっぱり面白がってるじゃんっ!そうやって二人で笑ってたのね!?」

 思いっきり肩に置かれた手を振り払って、私は教室を飛び出していった。

 もちろんトモちゃんへの悪口は忘れずに。

「トモちゃんのバカーっ!!」


****


 うぅぅっ。追っかけてもくれないトモちゃんは本当にドライだと思う。

 とぼとぼと賑わっている廊下を一人歩く。

 勿論トモちゃんが来ているか確認するために時々後ろを見ながら。

 それがいけなかった。

「うぎっ」

 横顔に思いっきり衝撃がくる。いや、そこまで思いっきりではないし、音としてはボスって感じなんだけど油断していた私としてはかなりの衝撃に思えた。

「…なんだよその奇声」

 すごく気持ち悪い物を見たというように秋が私を見下ろしている。

「…秋がぶつかってくるからでしょ」

 今一番会いたくない奴に会ってしまうとは本当に神様は意地悪だと思う。

 無言でおまえが前を見てなかったんだろうと言っているが、ここは空気を読めない振りをするに限る。

「…秋、そんなに私のこと嫌いなの?」

「は?」

「トモちゃんを買収してまで邪魔するなんて…」

「買収…?あぁ、あれは山田が勝手にパンを奪って言ってたんだよ…」

 少し呆れ気味に言っているその内容は、何故か目の前で繰り広げられたかのように想像がつく。トモちゃんなら確かにそうしそうだ…。

「…まぁ、入学式の一件のおかげで俺はずいぶん有名にしてくれたからなぁエリカ様は。見物くらいは許されるだろう」

 うぐっ。それを言われると返す言葉がない。

「お陰で男にまで告られるようになったし…」

「…それは私のせいじゃない」

 ぼそりと呟いたはずなのにスゴい威圧感を感じるほどに睨まれた。

 ひぃっ地獄耳っ!!

「いやっほら、男までも魅了してしまうかっこよさなんだよ!!」

 多分。とは口に出さずに心で呟く。なんて世渡り上手な私。(?)

 何故かそう言った後、奴はニヤリと笑って顔を近づけてくる。

「ふ~ん。やっと認めたか?俺様の良さに」

 ここで間違っても「はぁ!?」って言葉や顔をしてはいけない。私の経験上その後に奴のヘッドロックが待ちかまえているのだ。

「しょうがない…今回は私もレアパンで許してあげるわ。私、心が広いし」

 上手く話を流し、あわよくばレアパン!と思った私に奴は「本っっ当にお前は」とヘッドロックをかましてきた。

 何で!?今回声にも顔にも出さずにいたのに!

苦しさに、必死の抵抗をしている私と余裕顔の奴を周りは温かい目で、またやってるよ、とどうやら名物化しているという事も知らずに。

 それを見つめる熱のこもった視線にすら気付かずなかった。

 いや、でも本当にこれ苦しい!

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