すべての始まり
それは入学式、真新しい制服に包まれたエリカは胸に小さな野望を抱いていた。
―――高校生になったら彼氏を作る!!
それも優しい人と想い想われるような関係を。
中学生の時は友達と一緒に遊ぶ方が楽しかったし、興味が無かったけど、卒業式に気がつけば周りはカップルばかりで憧れてしまったのだ。
友達の幸せそうに笑う顔を見たエリカは、高校でそういった存在を作ると心に誓った。
しかしまずは友達作りもしっかりとしなくては楽しい学校生活は送れないだろう。
どちらにせよ初めが肝心だ。クラス発表を見たエリカは早速自分のクラスへ向かうと席を探しているのか周りを見渡す人を見つけた。
あぁ仲間だ。と嬉しく思いながら近づき声をかける。
「あなたもここのクラスなの?私もそうなんだ。山本エリカって言うんだけど、よろしくね」
緊張しながらもにっこりと笑ったが、相手の顔を見た瞬間固まってしまった。
な、なんて美少女!!可愛いっていうか、きれい!!
はっきり言ってしまえば一目惚れだ。絶対に友達になりたい!と心の底から叫ぶ。
「え?あぁ…」
少し驚いて動揺しているようだけれど何の問題はない。
「名前はなんていうの?」
「八広秋…」
わぁぁ、声は甘すぎず、ハスキーな感じが益々いいっ!
秋ちゃん…かっこかわいい名前だ…。
「あ、私七中なんだけど秋ちゃんは何中?」
「……はぁ!?」
「エリカ!あんたもCクラスだったんだ」
ドキドキと秋ちゃんの返答を待っている私に中学校の時からの友達朋子ちゃんことトモちゃんは話しかけてきた。
トモちゃんはわりとドライで、一緒に入学式行こう!と言ったら「あんたは初っ端からテンション高そうでウザいから一人で行って」と断られてしまった。
ちょっと泣きそうになったのは秘密だ。
そのトモちゃんとも同じクラスだなんてなんてツイているのだろう。
「トモちゃんトモちゃん!見てみて!八広秋ちゃん!!すっごい綺麗だよねっ」
ふふふ、一緒に来ていればトモちゃんもこの美貌の少女に早く会えていたはずなのに、私の誘いを断るから遅れをとってしまったのだよ。と鼻を高くしながら話していると何故かトモちゃんは呆れている。
というか横から冷気を感じる。
「エリカ…あんたよく見なよ?制服ズボンじゃん」
はぁとため息を一つ。
………。
素速く隣を見ると明らかなる男子制服にエリカは凍り付いた。
「ふぅん…“秋ちゃん”ね…これからよろしくな“エリカ”」
ギギギっと壊れた機械のように冷や汗をかきながら顔を上げると、にっこりと微笑まれた。が、何故か背筋がゾクゾクして顔面が蒼白になってしまう。
しかも八広に山本と同じ“や”同士なわけで、席ももちろん近いため私に逃げ場などあるはずもなく…気がつけば“秋ちゃん”こと秋に、ちょっかいを出される日々が続いたのである。
そしてそんなこんなで彼氏を作る暇もなく…声を掛けられたかと思えば一緒にいる秋にラブコールという構図が出来上がっていた。
……………。
これは叫ばずにいられようか、いや、いられない!!
何で女の私を差し置いてモテてるの!?(いや、綺麗なのは認めるがっ!!)
というか女のプライドはズタズタだ。
そうして休みに出会いを求めて出掛ければ必ず秋に遭い、(トモちゃんっ!あなた本当に友達ですか!?)秋がナンパされ、心にすきま風というスタイルになっていた。
………私の憧れの高校生活、カムバックッ!!




