ごめんあそばせ召しませ執事?(千文字小説)
有栖川亜梨沙は大富豪の令嬢です。
まだ十七歳ですが、お金持ちの上に美少女なので、通学しているインターナショナルハイスクールではモテモテです。
しかし、亜梨沙は同級生のどれほどのイケメンの告白にも落ちませんし、耳も貸しません。
討ち死にした男共は全校男子の過半数に達し、法案だったら可決成立しています。
彼女の目には、同級生の男は「子供」にしか見えないのです。
何故なら亜梨沙は、事もあろうに自分の邸で働いている執事に恋をしているからです。
執事の名前は、英国人のトーマス・バトラー。世界執事協会所属の凄腕執事です。
しかも、金髪碧眼で物腰は柔らかく、語学も堪能で、日本語も流暢に話します。
亜梨沙が夢中になるのも頷けるのです。
けれども、学校では女王様気取りで男共をあしらう亜梨沙ですから、トーマスに自分の気持ちを素直に打ち明ける事ができません。
本当はトーマスの事が大好きで、いろいろ話が聞きたいのに、
「トム、喉が渇いたわ。本場イラン産の石榴のジュースを頂戴。今すぐ」
などと、無理難題を言ってしまいます。
しかしトーマスは、そんな亜梨沙の裏腹な気持ちを知ってか知らずか、
「畏まりました、お嬢様」
と慇懃にお辞儀をすると、どこから入手したのか不思議なほどの早さで、程よく冷えた石榴のジュースを洒落た形のグラスにストローを付けて、亜梨沙の元に持って来ます。
「お待たせ致しました」
庭先に設えたパラソルの下のテーブルで待つ亜梨沙の前に、実に優雅な動きで現れるトーマス。
(ああん、素敵)
心の中では、今すぐにでもトーマスの胸に飛び込みたいと思う亜梨沙ですが、
「本当よ。待ちくたびれたわ」
と言ってしまいます。
「申し訳ございません、お嬢様」
トーマスは深々と頭を下げて亜梨沙に詫びました。
そんなトーマスの姿を目の当たりにすると亜梨沙の心は罪悪感に苛まれます。
(こんな事ばかりしていたら、嫌われてしまう)
そして、思い切って立ち去るトーマスを呼び止めます。
「トム」
「はい、お嬢様」
トーマスは華麗なステップを踏んだかのようにクルッと向き直ります。
「お腹が空いたわ。何か美味しいお菓子を頂戴。今すぐに」
トーマスの顔を見るとそんな事しか言えない亜梨沙です。
「畏まりました、お嬢様」
トーマスは優雅にお辞儀をします。
またそれにウットリする亜梨沙です。
つづく……。