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祈りの森に眠る宝石  作者: 鳥無し
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第十八話『再戦』

 早朝。まだ太陽が昇りきらず、あたりは少し薄暗かった。

 いつもならまだ寝ている時間。だが、クルト達は少し前に起きて出発の準備を整えていた。この時間帯が一番悪魔達の力が鈍いのだ。

 鈍いと言っても大差はない。だが、リスクは少なければ少ない方がいい。クルト達はこれから悪魔達の真っただ中に入って行くことになるのだから……。


「……行こう」

 クルト達が全員ラルフの背中に乗ったのを確認して、クルトが静かにそう言った。しかしラルフは走り出そうとしない。クルトがどうしたのだろうと首を傾げると、ラルフが一言呟いた。

「クルト……俺はお前に嘘をついてしまった」

「え? 僕嘘なんてつかれたっけ?」

 クルトはラルフに嘘を言われた覚えなどない。しかしラルフの態度は神妙だった。

「お前が『あとどのくらいで宝石まで辿り着けそうか?』という質問したのに対して、俺は『三日』と答えた。しかしそれは叶えられず、一カ月以上もお前を待たせることになってしまった」

「ラルフ……」

 それはラルフの責任ではない。皆力不足だったのだ。なかでも一番足手まといになったのはクルト自身だろう。

 クルトがラルフに声をかけようとすると、ラルフが顔だけ振り返って再び言った。

「二日だ。二日後には宝石の元まで送り届けてやる」

「……ラルフ!」

 クルトはラルフの首元に抱きついた。

「あんただけにカッコ付けられちゃ堪らないんだけど?」

 クルトの肩に乗っているフィルがそう呟く。

「私も全力で力になります。今度こそ宝石までたどり着きましょう!」

 クルトを守るように後ろに乗っている珠がそう言って微笑む。

 クルトは昨夜一人で旅立とうとしていた。しかしもし一人だったとしたら宝石まで確実にたどり着けなかっただろう。クルトは皆の笑顔を知ってしまっていたから。

「うん! たどり着こう! 今度こそ!」

 クルトの掛け声と共に、ラルフは三層に向かって駆け出した。


   *    *    *


「ケーニッヒ様ー!」

 三層玉座の間に、偵察担当の悪魔が飛び込んできた。この悪魔は割とケーニッヒに忠誠を示している。

「どうした?」

「前回の人間達がやってきました」

 その報告に、玉座の間の悪魔達がどよめく。ケーニッヒ以外の悪魔達は、人間達が再び三層に入ってくることはないと考えていたのだ。しかも一カ月もたってからなど想像もしていなかった。……『どうでも良かった』というのが本音だが。

 しかしケーニッヒはその報告を聞いてにやりと笑う。『どうだ? 私の言った通りになっただろう?』と自慢げに部屋の中の悪魔を見回す。


「それで奴らは今どのあたりだ? 確か四匹居たな……一、二匹は始末できた頃か?」

「それが、すでにかなり深く入り込まれてしまっていまして……」

「な、なんだと!?」

 ケーニッヒは動揺して玉座から立ち上がる。念のために三層と二層の境には悪魔や魔物をぎっしりと配置していたはず。それを突破したというのか?

「役立たずのサボり悪魔共め……。なぜ深くまで入り込むまで報告が遅れた?」

「報告が遅れたわけではありません。狼の足が非常に速いのです。ほとんどの悪魔が攻撃を仕掛ける前に横を素通りされてしまっています。後ろから追いかけようにもとても追いつける速さでは……」

「………」

 その報告にケーニッヒは違和感を覚えた。前回狼のスピードはこの目で見た。あのスピードで突破され続けるのはおかしい。それに、悪魔の中には速さ自慢の者もいる。後ろから追いかけて追いつけない? そんな馬鹿なッ!

「奴らはどこに向かっている?」

「それが狼はジグザグに走っていて……」

「もういい! お前達全員迎撃に迎え! 奴らを仕留めた者には褒美を出す!」

 悪魔達はため息を漏らして重い腰をあげる。褒美などまるで期待していないからだ。本当に欲しいものはどうせくれるはずが無い。

 のそのそと出て行く悪魔達を見送りながら、ケーニッヒは不安になっていた。

(心臓は今あそこにあるはず……。奴らまさかそれに気が付いて……?)

 ケーニッヒは玉座に座りながら最悪の想像を必死に掻き消していた。


   *    *    *


 三層の森の中を、巨大な狼が高速で駆け抜ける。力の無い悪魔はそれに()かれることを恐れて離れ、ある程度力のある悪魔も、それに襲いかかろうとしても追いつけない。

 ラルフは常に周りに目を凝らしながら走り続ける。三層は昼間でもどこか薄暗い。そんな中でも、周りの悪魔や魔物の場所を把握し、確実に合間を縫って走る。今は戦闘が目的ではなく、進むことが目的だからだ。

 ラルフは目的地までの最短距離を走ることを……直線で走ることをしない。無論まっすぐ走った方が早く付く。だが、それでは簡単に回り込まれてしまう。だからラルフは敵にルートを絞らせないように走った。

 右に振る、左に振る、時には大きくカーブして敵を撒く。ほぼ直角の崖を登りながらやっていたことだ。平面の森の中でできないはずがない。


「………!」

 そんな風に走り続けていたラルフの足が急に止まった。悪魔に囲まれてしまったからだ。ここで少し蹴散らす必要がある。

 そのことを理解したクルトと珠が、こくりと頷いて武器を取り出そうとする。

「はぁああああ!」

 クルトと珠が飛び出すより早く、フィルが両手に持った二本の鞭を使って、周りの悪魔達を吹き飛ばす。ラルフが通れるくらいの隙間は簡単にできた。

「ありがとうフィル! さあ乗ってッ! ……フィル?」

 クルトがそう叫んで腕を伸ばしても、フィルはクルトの腕の中に飛び込もうとしなかった。

「先に行きなさい」

 フィルはぽつりとそう言った。

「……え、今なんて?」

「森の中にはうじゃうじゃと悪魔や魔物がいるのよ。どこかで詰まった時、一気に詰めかけられるより、ある程度分割させた方が安心でしょ?」

「そんな……フィルを置いて行くことなんてできないよッ!」

「そうですよッ! 私達の戦力は分けるべきじゃないですよ!」

 フィルは、そう叫ぶクルトと珠を振り返った。そして、特に珠の顔を見つめた。

「珠……約束」

「約束? ……あ」

 珠は思い出した。前回三層には行った時、クルトのために『自分を見捨てることもできるな?』と問われて、頷いたことを……。


「大丈夫、死んだりしないわよ。戦力は分散させた方がいいって言ってるだけ。必ずあんたの元に帰ってくるから」

「フィル……」

 フィルは諭すような笑顔をしながら、今度はクルトを見た。その表情は昨夜フィルに諭された時と同じ顔だった。その表情でそう言われたら了承せざるを得ない。

「行くぞ」

 ラルフはそう呟いて、敵の真っ只中にフィルを残したまま走り出した。


「なんだ、羽虫一匹だけ残されてるぞ?」

 フィルに吹き飛ばされた悪魔達が、フィルの姿を見つけて取り囲むように近づいてくる。

「……その羽虫に蹴散らされた奴はどこのどいつ? この臆病悪魔!」

「おくびょ……なんだとこの糞羽虫がッ!」

 フィルの言葉に激怒した悪魔が、殺気を発しながら睨みつけてくる。

「あんた達が臆病者でなくてなんだというの? 悪魔は群れないものなんでしょ? なら、なぜあの悪魔の王を自称してる悪魔に反抗しないの?」

 それを言われて悪魔達は押し黙る。本当なら従いたくなどない。だが、今は反抗するだけの力が無いのだ。だから機を窺っているのであって……。

「チャンスが回ってくるまで待つだなんて、悪魔はずいぶんと我慢強くなったものね。でもそれは死を恐れているということだわ。以前の悪魔どもなら、死など恐れず好き勝手に暴れ回ったはず。臆病風に吹かれてチャンスを待とうだなんて考えもしなかったでしょうよ」

 フィルは馬鹿にした口調で続ける。その言葉がぐさりと悪魔達の何かを刺した。

「悪魔が変わったわけじゃないと思うわ。死を恐れない、本来の悪魔達はすでに反抗したことによって殺されただけ。後に残ったのは、クソほどの価値もないプライドを守るために、不真面目に働いてわずかな反抗をして見せるだけの臆病者達」

 ぐさりと刺されたものの正体が分かった。目の前の妖精が教えてくれた。刺された物はプライドだ。悪魔としての誇り。本来の性質。死すらも超越した闘争本能。その錆びついた本能が、今静かに燃えあがろうとしていた。

「来なさいよ錆びついた刃達。私が()ぎ直してあげるわ。もっとも、研いでる途中に折れちゃうでしょうけどね。 ……あははははははッ!」

 最後にフィルが悪魔達を嘲り笑い。戦闘が始まった。


   *    *    *


 フィルと離れてからも、ラルフは確実に森の中を進んだ。

 しかし、ラルフの足が再び止まる。また囲まれてしまったのだ。

「―――ハッ!」

 今度は珠が飛び出す。左の腕で炎、右の腕で風を操り、悪魔の安部にラルフ一匹分の穴をあける。

「珠ッ!」

「行ってください!」

 クルトの呼び掛けに、珠はそう叫んで答え、近くに落ちていた木の枝を刀に変えて構える。珠もフィルと同じようにここで敵を引き付けるつもりなのだ。

「……また会えるよね?」

「すぐにお傍にまいります。……安心してください、死んだりしません」

 珠のその言葉を聞いて、ラルフは駈け出した。珠の周りにはわらわらと悪魔が集まってくる。


「トカゲのしっぽ切りか? あの人間もなかなかえぐいことをするなァ?」

「さっきは心配している表情をしていたが、腹の中じゃ笑ってるんだぜェ? 『馬鹿で扱いやすい女だ』って感じでよッ!」

 悪魔はそう言って笑いながら距離を詰めてくる。対して珠は静かだった。

「……クルトさんには多くの恩があります」

「ハァ?」

 珠の脈絡ない一人ごとに、悪魔達は呆けてその場で止まる。

「最初の恩は川で溺れた時に助けていただいた時です。これは妖狐の国から抜け出す時に恩を返せたと思います」

 結局あの時、珠一人の力でクルトを助け切ることはできなかった。しかし、珠がいなければ確実にクルトは殺されていた。だからあの時一つ恩返しをすることができた。

「二つ目の恩は、私に刀の稽古を付けてくれたことです。あれのおかげで私は修行する気力が湧きました。この恩は、五千年狐様に助力を乞うことを提案し、橋渡しをしたことで恩を返せたと思います」

 ケーニッヒの弱点を教え、クルトに魔力の耐性を付けてくれたのは五千年狐だ。しかし、あそこで珠が提案しなければそれは無かったし、珠がいなければ妖狐の国に行くこともできなかった。だから、これで恩を一つ返している。

「その他にも小さな恩がたくさんあります。その恩はこれまで、悪魔や魔物と戦ってきたことできっと返せたと思います。……でも!」

 珠の眼光が鋭くなり、刀を悪魔達に向けて叫んだ。

「私に愛を教えてくれた! クルトさんのことを好きにさせてくれた恩はまだ返せていませんッ! そしてその恩は他のどの恩よりも大きく尊いもの……生涯をかけてクルトさんの傍に付き添い、返して行かなければならないものです! だから私は死にませんッ! クルトさんに再び会うまでわ!」

 悪魔達は、珠に気圧(けお)されて一歩下がった。


   *    *    *


 ラルフはさらに森の中を進む。

 すると、周りに目を凝らしていたクルトが、何かを見つけて指さす。

「ラルフあれ! あれが五千年狐の行っていた石像じゃないかな?」

 クルトの指の先には巨大なケーニッヒを模した石像があった。

(もうすぐだ!) クルトがそう思った瞬間ラルフが急に立ち止り、クルトは前のめりになってしまった。

「うわっとと……。どうしたの?」

「お客さんだ」

 ラルフがそう呟いて顎をしゃくった。前を見ると、凶悪そうな魔物が何匹も森の中から現れた。

「かなり力を持った魔物だ。石像を守護する最後の砦という奴だろう」

 クルトは緊張して剣に手を伸ばす。だが、その手が剣に触れる前にラルフは言った。

「つまり、ここで俺がこいつらを引き付けておけば、石像の周りには誰もいないということだ」

「……ラルフ?」

「行け」

 ラルフはそう言ってクルトを背中から降ろす。

「でもラルフが……」

「ここからならお前の足でもすぐにあそこまでたどり着ける。 ……そう不安そうな顔をするな。死んだりはしないさ。お前がギャーギャー泣くところを見たくはないからな」

「……気を付けて」

 クルトは最後にそう言って、魔物の間をかいくぐって先に進んだ。魔物達はそのクルトの後を追うとする。


「待て! お前達の相手はこの俺だ」

 魔物達の前にラルフが立ちふさがり、魔物達を威嚇する。魔物達は呻り声をあげながらラルフとの距離をじりじりと詰める。

「……俺の今日の役割は運ぶことだ。だから、極力戦闘は避けるように……戦いたくても戦わないように我慢してきた。だが、力を持った者の隣をただ通り過ぎるのは、ストレスがたまる」

 強さを求めるラルフにとって、それは耐えがたいストレスだった。分かってはいても納得できないこともある。

「まじめに戦っている妖精や狐には悪いが……楽しませてもらうぞ」

 ラルフは遠吠えをして、魔物達の群れに食らいついて行った。


   *    *    *


「ハァハァ……」

 クルトは息を切らせながら森の中を走る。コンパスなど確認しなくとも、目の前に巨大な石像が見えているのだ。迷うことはない。

 クルトは魔物や悪魔と出会うことはなかった。うまく分散できたというこの名のかもしれない。

「……ついた」

 森を抜けると、少し整備された様に開けた場所に出た。その中央に石像は立っている。

 五千年狐によれば、石像の胸の部分に心臓が埋め込まれているらしい。石像の胸の部分はかなり高い場所にあるが、途中捕まる場所がいくつかある。そこをジャンプして飛び移りながら登れば……。

「ようこそ。ここにたどり着くとは意外だったよ」

 石像の裏側からケーニッヒが現れた。今回も人間の皮を被っている。前回とは違う人間の皮のようだ。

「ケーニッヒ……」

 クルトは剣を抜いてケーニッヒと対峙する。

「おや? 覚えてもらっていたとは意外だよ。君は確か三層の魔力のせいで意識が朦朧としていたはずだが?」

「皆が教えてくれたから全部分かるよ。君が人間の皮を被っているということも」

 ケーニッヒは見た目だけは人間の姿をしている。体から漏れ出る魔力を感じられるものでなければ、ケーニッヒのことを人間と間違えてしまうだろう。

 だが、その正体は文字通り人間の皮を被った悪魔。三層を統べる現在の悪魔の王。


「この人間の皮はどうやって手に入れたと思う? もちろん人間の皮を構成する物質を混ぜ合わせて作った偽物なんかじゃない。ちゃんと人間の体から剥ぎ取った本物だよ」

「そんな話聞きたくない」

 クルトはそう言って剣を持つ手に力を込める。これは挑発なのだろう。クルトが無策に飛び込んでくることを誘っている。

「まあ聞け。町まで出向いて、出来のいい皮を(さら)ってくるのも面白い。だが、子供の頃に攫い、隔離した場所で極上の皮として育て、時期を見て剥ぎ取るのも面白い。野菜を育てて収穫するのに似ているよ。そう言う時に聞く断末魔は耳に心地いい」

「聞きたくないと言っている」

 クルトはケーニッヒを睨んでそう告げる。だが、ケーニッヒはやめようとしない。

「皮を剥がれた人間がどういう風になるか知っているか? 全身の皮を剥がれ、体中から血がにじむように溢れてくる。皮をはいだまま放置していると、悲鳴を上げて、真っ赤な金魚のように地面を跳ねまわる。金魚と違う点は、水に入れてやってもさらにさらに大きな声で悲鳴を上げて、やがては死んでしまうことかな? ……フハハハ!」

 ケーニッヒはそう言って高笑いをする。その姿はまさに傲慢な王が、自分より下位の者を嘲笑う姿にそっくりだった。


「……クルト・グラウン」

「ん? なんだそれは?」

 ケーニッヒが笑うのをやめて、身体を震わせているクルトを見る。

「今まで君に殺されてきた人達を弔う者の名前だ。……僕は、君を殺すッ!」

 クルトのその言葉に、ケーニッヒは醜悪な笑みを浮かべて人間の皮を脱ぐ。そして次の瞬間には、ケーニッヒの周りに魔力でできた玉が浮かんでいた。

「お前の皮は小さすぎて着るには適さない。せいぜい良い悲鳴を聞かせる楽器になれ」

 それがケーニッヒとクルトの戦闘開始の合図だった。


   *    *    *


 クルトとケーニッヒの戦いが始まってから十数分が経過した。まだどちらにもダメージはない。

「ほらほら休みなァ? 打ち落としそびれればダメージを負ってしまうぞ?」

「クッ!」

 ケーニッヒは戦闘が始まってから、絶えず魔力弾を撃ち続けて弾幕を張っていた。発射するのに何のそぶりも必要ない。ただ立って念を込めるだけで空気中に魔力弾が発生し、クルトにめがけて飛んでいく。

 クルトはそれを剣で切り落としていた。自分の体に命中する弾に絞って撃ち落とす。

 クルトとケーニッヒの距離は全く縮まっていない。クルトが前に出ないからだ。

 近づこうと思えば、ある程度のダメージには目をつぶって飛び込むこともできそうだった。しかし、防御しながら近づく自分が態勢的に不利だ。

 ケーニッヒはまだ手の内を全然見せていない。それを無視して飛びこむより、魔力の無駄打ちを狙って耐えた方がいいと考えたのだ。

 しかし、魔力弾を撃ち続けるケーニッヒに焦りや疲れは見えなかった。想像以上の魔力を溜めこんでいるのだとしたら、体力的に追い込まれるのはクルトの方だ。判断ミスが命取りになる。

「なかなか器用に捌くじゃないか。前回のへばっていた姿からは想像もできなかった。驚いたぞ!」

 ケーニッヒはそう言ってにやりと笑う。

 実際驚いていた。ここまで進めたのはあの狼のおかげ。上に乗っている人間は大したことが無い。魔力弾を捌ききれずに死んでしまうだろうと高をくくっていた。

 しかし、その想像は裏切られ、人間は相変わらず鋭い眼をしたままこちらを睨みつけてくる。焦りはしないが、驚いたというのは正直な感想だった。


(剣が目障りだな。それを奪ってからなぶり殺しにするか……)

 クルトが今耐えているのは剣によるところが大きい。見たところ他に武器もないようだし、それを奪えば目の前の人間は無力化できる。

 ケーニッヒは魔力弾を撃つのをやめた。

「………?」

 フッと攻撃が止み、何か仕掛けてくるつもりかとクルトは緊張する。

「ククク……」

 ケーニッヒは怪しく笑いながら、クルトの周りを回るようにゆっくりと歩きはじめる。クルトの視線は当然ケーニッヒに集中する。だが、ケーニッヒは特別何も仕掛けてくる様子が無かった。

 ケーニッヒがクルトの周りを半周ほどした時、クルトはあることに気が付いた。ケーニッヒが歩いた場所に、黒い何かが(うごめ)いているのだ。

「気付いたな。良く見ていろ、面白いぞ」

 ケーニッヒがそう言うと、黒く蠢いていた物から何かが出てきた。それは腕だった……ケーニッヒの腕が生えてきたのだ。

「な、これは……?」

 クルトが何もできずにいると、やがてケーニッヒの顔が現れ、胴体が出てきて、ケーニッヒに瓜二つの存在が現れた。

「これは私の影だ。影といっても、私の魔力を寝る込んであるから質量はある。本体を見つければ影は無視してもいいなんて考えない方がいいぞ」

 現れた影の足元を見ると、その影にもちゃんと影があり、確かに質量があるらしかった。これは幻術ではない、分身だ。生み出された影の数は九匹……。

「十対一だ。始めよう」


 十匹に増えたケーニッヒが、同時に攻撃を仕掛けてくる。クルトは後ろに後退しながら攻撃をしのいぐ。影は質量があると言っても非常に脆かった。剣で切り裂くと黒い灰となって消える。

 ただ、ケーニッヒの動きは素早く、複数の攻撃を受け流しながら反撃するのは難しい。

「うわっと! ……このッ! あ、しまッ!」

 攻撃を防いでいる途中で、地面の泥に足を取られて体勢を崩してしまった。ケーニッヒはそこを見逃さずにクルトの手首を蹴りあげる。

「うわッ!」

 剣はクルトの手を離れて遠くに飛んでいき、地面に突き刺さった。ケーニッヒは影の分身を消して、剣に向かって後退する。

「ハハハハ! これでお前は丸腰だ。素手でどうやって戦うのかなぁ? ……さて」

 ケーニッヒは、視線をクルトから地面に突き刺さった剣に移す。自らの剣に切られて死ぬという演出も一興だ。

「フフフ……これで……ん?」

 剣に伸ばしたケーニッヒの腕が、剣に触れる数センチ手前で止まる。何か嫌な予感がするのだ。

(なんだ? この感覚は? 俺の第六感がこの剣は危険だと告げている。こんなか細い普通の剣なのに?)

 ケーニッヒはこれまで、出来るだけ危険は避けるように行動してきた。それによって築いた地位が今のものだし、それによって手に入れたのがこの強力な魔力だ。

 三層を支配してからは、しばらくその感覚に襲われることはなかったが、今この剣に対してその感覚が働いている。


(触れない方がいいか? 何もこの剣を使わずともあの人間を殺すことは簡単にできる)

 ケーニッヒはそう結論付けて、クルトに振り返った。クルトはすでに立ち上がり、緊張した風にケーニッヒを見ている。

「剣を失ったお前が、再び弾幕をしのげるか……見ものだな」

 ケーニッヒはそう言って、再び魔力弾の弾幕を張る。

 しかしクルトは、剣を失ってもしぶとく攻撃を避けた。岩や木を盾にして、器用に攻撃をかわす。

「なかなかすばしっこいな。遠距離からでは攻撃を当てることは難しいか」

 ケーニッヒは一人ごとの様に呟き、自分の後ろの地面に突き刺さっている剣をちらりと見た。

 そして何か思いついたように笑い、右腕に魔力を集中させ始めた。

 それはやがて剣の形になり、禍々しい魔力を帯びた剣となった。

「………!」

 クルトは、ケーニッヒが近距離線に切り替えることを理解して構えを取る。

「ふん、やる気だな。だが、丸腰のお前に防ぐ手立てはないッ!」

 ケーニッヒはそう言ってクルトに向かって飛ぶ。右腕には魔力で作りだした剣が握られている。

 ケーニッヒは、クルトがまた避けると思った。しかし、クルトはその場から動かず、構えを取ったまま立ち尽くしている。

 覚悟を決めたか? ケーニッヒはそう解釈して剣をふりかぶった。

「死ねぇえッ!」

「―――ハッ!」

 ケーニッヒはクルトの頭を狙って振り下ろした。しかし、その剣はクルトの頭まで届くことはなかった。

「な……何ィ?」

 クルトは左手で剣を受け止めた。受け止められた剣は、バチバチと苦しそうな音を立てて完全に静止している。

「一体何が……? グワ!?」

 混乱しているケーニッヒの腹部に、クルトの右の拳が入った。力の入ったその右ストレートに、ケーニッヒの体は大きく飛ばされてしまう。

「ク、クソ! どうやって……?」

 殴られたダメージは大したことはない。だが、攻撃を防がれたショックはかなり大きかった。クルトの手を見ると、剣を受け止めたことによる傷は見当たらない。

「………」

 クルトは包帯の外れた無傷の自分の手を見つめて、五千年狐のことを想起する。


   *    *    *


「卒業試験だ」

 五千年狐はそう言って、クルトに向かって手をかざした。

「卒業試験? 何それ?」

「私はこれから、お主に向かって妖気弾を発射する。丈夫な鎧ごと人間の体を粉々に砕くことができるくらいのな」

「そ、そんな! 死んじゃうじゃないか!」

 五千年狐の言葉に、クルトは動揺してそう訴える。

「落ち着け。お主はこの一ヶ月の間、ここで何をしてきた?」

「それは……君のマッサージを……あ」

 クルトはすっかり忘れていたが、それは単に五千年狐のためにやってきたことではなかった。クルトに魔力の耐性を付けるためにやっていたのだ。五千年狐は最初の日に、『私の体に平気で触れるようになれば、魔法攻撃も受け止められるようになる』と言っていた。


「本当なら、お前の体全身にそれくらいの魔力耐性を付けてやるつもりだった。だが、私の体は、『思わず抱きつきたくなる』ほどの魅力はないようだからな」

 五千年狐は非難するようにクルトを見てそう言った。時々そうやってジト目で見られることがあるのだが、五千年狐が何に腹を立てているのか、クルトには理解できなかった。

「……受け止められなかったら?」

「死ぬな」

 五千年狐はあっさりとそう口にした。手を抜くつもりはないということだ。

「緊張せずとも良いぞ。私の見立てが悪くなければ、お前は無事に耐え抜く。あの白狐に恨まれるのも気が引けるしな」

「……五千年狐だったら、それも良しと考えそうだけど?」

「ククク……この一ヶ月で、私のことをなかなか理解したようだな。嬉しいぞ」

 五千年狐はそう言って可愛らしく微笑んだ。今、目の前の人間を殺してしまうかもしれないというのに。

「……僕は耐え抜くよ。皆が待ってるから……」

「よし。ではゆくぞ!」


 クルトはこの後、大きなやけどを負いつつも、五千年狐の攻撃を受け止めきった。


   *    *    *


(ありがとう。五千年狐)

 巻いていた包帯は特殊な物。巻いていれば傷を直す作用がある。傷が完全にふさがりきるまで、魔法を受け止めることは禁じられていたが、たった今傷は塞がった。

「さあ、あらためて始めようか」

 クルトはそう言って再び構えを取る。

 対してケーニッヒは動揺したままだった。

(なぜだ……。なぜあいつは無傷なのだ? ほんの一か月前まで魔力に苦しんでいたというのに?)

 ケーニッヒは疑心暗鬼に陥っていた。クルトが魔力を受け止められるのは両手のみ。だが、それを知らないケーニッヒは『クルトには魔力は通用しないのではないか?』という疑念に襲われてしまう。

 ケーニッヒの攻撃はすべて魔力によるものだ。もしクルトに魔力が通じないというなら、ケーニッヒも素手で戦わなくてはならなくなる。そんな消耗試合はしたくない。

「グ……」

 ケーニッヒはちらりと後ろの剣を見る。クルトの剣。これを使えばケーニッヒの方が有利になるのは間違いない。だが、何か危険な気配のするこの剣を掴まなければならないのは……。

「来ないなら……僕の方から行くぞ……」

「ク……クソッ!」

 クルトの言葉に焦り、ケーニッヒは思い切って剣を掴む。……なんともない。痛くもないし、身体に何の異変も無かった。危険な気配がしたのはただの気のせいだったのだ。

「フ……フフ! お前が不利な状況は変わらない。最後はお前の剣を使って殺してやる」

(とはいっても、無策で攻撃を仕掛けに行くのも不安だ)

 ケーニッヒは森の中に隠れさせていた偵察用の悪魔に手で合図する。

(援軍を寄越せ)

(……理解しました)

 偵察用の悪魔は手のサインでそう答えて、森の中に消えていった。


   *    *    *


 玉座の間。そこにはケーニッヒに念のために待機させられていた上位の悪魔達が座り込んでいた。

「伝令! ケーニッヒ様から伝令を預かってきた!」

 偵察用の悪魔が慌ただしく飛び込んできて、周りの悪魔を見渡す。

「ケーニッヒ様から援軍要請だ! 全員で支援しろとのことだ!」

 偵察悪魔のその言葉に、座り込んでいた悪魔達がざわめく。だが、誰も立ち上がろうとしない。

「? どうした? ケーニッヒ様が援軍を……」

「俺達は行かない」

 一匹の悪魔がそう言った。

「い、行かないだとッ! どういうことだ!?」

「俺達はあの糞悪魔から援軍要請の命令が来るのをずっと待っていたんだ。援軍を要請するということは、あいつが劣勢だということ。もし支援しなければあいつは死ぬ。最低でもかなり弱ることになる。そうなればこっちのものだ。今までの鬱憤(うっぷん)も含めて俺達が殺せばいいだけの話」

 その言葉に、周りの悪魔達も同調して頷く。

「な、なんということをッ! 生かされている恩も忘れてッ!」

「恩? 国民を持たない王が何処に居る? 王を自称するあいつにとって、俺達は必要な存在。生かされていることに何の恩があるというんだ? さっさと失せろッ! お前も殺すぞッ!」

 自分より大きな力を持った悪魔にすごまれ、偵察悪魔は玉座の間を飛び出す。


「……ケーニッヒが死んで、三層は正常に戻る」

 悪魔達は、ゆらりと立ち上がってどこかへ消えていった。


   *    *    *


「この……糞人間がッ!」

 ケーニッヒは、時間を稼ぐために再び弾幕を張っていた。最もシンプルなこの攻撃が、一番魔力を消耗しなくて済む。しかしクルトは、涼しげな表情をしてその攻撃を受け流していた。

(両手ですべて掻き消されている……。やはりこいつに魔力は通用しない)

 ケーニッヒの中ですでにそれは確信に変わっていた。ならば無駄に魔力を使うことはない。援軍が来たら、一気に襲いかかって殺してやる。

 すると、偵察悪魔が帰ってきた。しかし、援軍の悪魔達の姿はどこにもない。

「貴様……援軍はどうした?」

 クルトには聞こえないような声で偵察悪魔に訊ねる。

「それが、俺達は支援に行かないと言って……」

 その報告に、ケーニッヒは気が遠くなった。裏切られたのだ。なんだかんだいっても、悪魔達は支配しきれていると考えていた。しかし、奴らは裏切るタイミングを狙っていたのだ……。

(いや……待てよ)

 ケーニッヒはあることを思いつき、怪しく笑いながらクルトに向き直る。


「クルトと言ったか? 残念なお知らせだ。たった今この悪魔が教えてくれたのだが、君の仲間はすべて殺されてしまったらしい」

「……え?」

 クルトは気が抜けたような声を出す。

 ケーニッヒはクルトを動揺させる作戦に出たのだ。仲間が殺されたとはったりを聞かせれば、それを確かめるすべの無いクルトは動揺するはず。その隙をついて剣で切り殺せばいい。

「寂しくなんかないぞ。お前もすぐに殺してやるからな」

 ケーニッヒは醜悪な笑みを浮かべながら剣を構える。クルトの泣き顔が見えた瞬間に……。

「そんな嘘をつくなんて。もしかしてかなり焦っているのかな?」

 クルトは余裕な表情でケーニッヒを見返してきた。強がっている風ではない。ケーニッヒの言ったことは嘘だと確信している顔だった。

「嘘だと? 何を根拠に……」

「だって、フィル達が殺されたというなら、どうして死体を見せないの? そっちの方が確実に僕の動揺を誘えるはずだよ? ラルフが戦っているのはほんの一キロしか離れていないはずだし」

 クルトはラルフと離れた後、走ってここまでやってきた。人間が走ってすぐに付ける距離くらいなら、ラルフの死体だけでも運べるはずだ。

「それに、皆が死んだというなら、皆と戦っていた魔物や悪魔が援軍に来るはずでしょ? それが全く来ない。だから君の言っていることは嘘だ」


 最後にクルトは、にやりと笑ってケーニッヒを指さす。

「これは僕の予想だよ。何の根拠もないただの妄想。でも、多分当たってると思う。その悪魔が持ってきた報告を聞いた瞬間の、焦った君の表情から察するに……」

 ケーニッヒは歯ぎしりをしてクルトを睨む。

「君、仲間に見捨てられたね?」

「――! だ、黙れこの糞餓鬼がーッ!」

 ケーニッヒは剣を振り上げてクルトに突撃する。しかし、クルトとの距離が縮まった瞬間に、自分は挑発に乗ってしまったことに気付いた。分身を生み出しもせず、錯乱させようともせずに飛び出してしまった。

 しかし、もう引き返せない。どうせ相手は丸腰なんだ。剣を思いっきり振り下ろせば防ぐ方法はない。

「死ねぇえええ!」

 ケーニッヒは力いっぱいクルトに向かって剣を振り下ろした。

(勝ったッ!)

 ケーニッヒはそう思った。しかし、その剣はまたしてもクルトを切り裂くことはなかった。

「な、なんだと!」

 クルトはケーニッヒが振り落とした剣を、白刃取りしていた。

「……ハッ!」

 手首をひねりながらケーニッヒの腕に蹴りを入れて、剣を手放させる。

 すかさず剣を持ち直し、体勢を崩しているケーニッヒの腹に剣を突き刺した。


「……だからどうした?」

 身体に剣を突き刺されたケーニッヒは、静かにそう言った。

「私の体をいくら切っても私は倒せない。私の心臓は別にあるからな。こんな傷すぐに塞がって……グッ!?」

 ケーニッヒは、腹部に強烈な痛みを感じ、体中の力が抜けてその場にしゃがみこんでしまう。見ると、剣で刺された傷口は全く塞がらず、大量の血が溢れだしてきていた。

「な、なぜ?」

「君の体に溜めこんだ魔力を、この剣が吸収したんだ」

 クルトはそう言って剣をかざす。

「何? ま、まさかその剣は……」

魔道具(・・・)だよ。切ったものの魔力を吸収する力がある。……僕が魔物退治になることができるように、お婆ちゃんが作ってくれたものだ」


『これをお前にやろう。老いぼれた私にはもうこれくらいの魔道具しか作れない。私がお前にやることのできる最後の……そして最高の剣だ』


 クルトはゆっくりと石像に向かって歩き出す。この剣でいくらケーニッヒを切っても倒すことはできない。ケーニッヒを殺すには、石像に埋め込まれた心臓を砕く必要がある。

「! ま、待てッ! そうはさせんぞ」

 ケーニッヒはクルトに向かって手をかざし、魔力弾で攻撃しようとする。

 しかし、その手は地面から生えてきた根っこがからみついて、別の方向に向いてしまった。

「木の根? なんだこれはッ!」

「往生際が悪いわねぇ。心臓を別の場所に隠すなんて臆病なことをするから、こんな無様な格好を晒すことになるんじゃない」

 ケーニッヒの顔の前に、フィルが現れて下を出して馬鹿にする。悪魔達との戦闘を終えたフィルが駆けつけ、木の根を操ったのだ。

「フィル! 無事だったんだ!」

 フィルの声を聞き、クルトは嬉しそうに後ろを振り向く。

「当り前でしょ。さっさと終わらせなさいよ」

 フィルに言われて、クルトは石像に向かって駆け出した。するとその行く手に、魔物達が現れて道を塞いだ。

「良いぞお前達! そのままその人間を食い殺せ!」

 ケーニッヒがそう命令を飛ばすと、魔物達がクルトに向かって迫る。しかし、その魔物達は森の中から発生した、強力な炎に一気に焼かれてしまった。

「こんな低級魔物に(すが)らなくてはいけないとは、憐れですね」

 森の中から珠が現れてそう言った。

「珠! 珠も無事だったんだ!」

「乗れクルト。俺があそこまで運んでやる」

 クルトが横を向くと、ラルフが居た。皆戦闘を終えて駆けつけてきたのだ。

「ラルフ! ありがとう」

 クルトはラルフに飛び乗った。ラルフは一気に飛躍し、石像の胸までクルトを運ぶ。

「やめろぉおおおおッ!」

「これで……最後だッ!」

 クルトはそう叫んで石像に剣を突き刺す。すると、何かを貫いた感覚と同時に、石像が崩れ始めた。

「うぐッ! ぐわぁああああ!」

 ケーニッヒの体は、心臓が貫かれると同時に石像と同じように崩れ始め、やがて消えてしまった。


   *    *    *


「みんな、本当にありがとう!」

 クルトがそう叫んで仲間達に抱きつく。クルトもそうだが、他のメンバーも戦いで負ったとみられる傷と泥で汚れていた。

「あんまり強く抱きしめないでよ、苦しいでしょ! それにしてもクルト、その剣が魔道具だなんて初耳なんだけど?」

 フィルは必死にクルトを引きはがしてそう言った。

「あれ? 僕初めてフィルに会った日に言ったでしょ?」

「……ハァ?」

 フィルは言われて、その日のことを思い出す。


『……あんた色々魔道具を持ってるけど、他にどんなのがあるの?』

 少年の鞄にはまだいくつか物が入っているのが見えた。その全部が魔道具で、悪魔や魔物を倒すような物が入っているなら、確かに宝石までたどり着けるかもしれない。

『これで全部だよ?』

『は?』

『【後は腰にかけてる剣くらいかな?】 時間が無かったから……』


「紛らわしいのよ! アンタはッ!」

「う、うわぁ! 何で怒ってるんだよー!」

 クルトはフィルに頭をぽかぽかと殴られれてその場にしゃがみこむ。珠とラルフは、そんな様子を見て笑っていた。


「な、何はともかく! これでケーニッヒは倒したんだから、宝石まであと少しだね! 少し休んでから行こうか」

 クルトのその言葉に、他のメンバーが顔を見合わせる。

「ホント……おめでたいわね」

 フィルが呆れ顔でそう呟いた。

「え、何が?」

「気付きませんか? クルトさん」

 珠までがクスクスと笑ってクルトを見る。

「気付かないのかって……何が?」

「すまんクルト。俺はまたお前に嘘をついてしまったらしい」

 ラルフが笑いを押し殺しながらそう言った。

「嘘……? 何のこと?」

「俺はあと二日で連れて行くと言ったが、三層は予想以上に狭かったらしい」

 ラルフはクルトの後方を見つめて呟いた。

「ここが宝石の眠る神殿だ」

 ラルフに言われて後ろを振り向くと、そこには石像の陰に隠れていた、宝石の眠る神殿があった。

なんとか一話にまとめようとしたら、こんな字数になってしまった。

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