第十四話『打開案』
祈りの森最深部付近。そこに岩でできた玉座があり、その上に悪魔の王……ケーニッヒが座っていた。
そのケーニッヒの周りに、数匹の悪魔達が姿勢を崩して座っている。最初は姿勢を正して座らせようとしていたケーニッヒも、あまり束縛しては反発が強くなることを覚えてからは、そのくらいは大目に見ることにしていた。
このことからも分かるように、ケーニッヒはうまく悪魔達を統制できているわけではない。ただケーニッヒはどの悪魔よりも強い。その一点のみで、悪魔達を従えているにすぎないのだ。
そんなケーニッヒが居る玉座の間に、一匹の悪魔がやってきた。
「報告します。三層に侵入した者達を、ご命令通り魔物達に追撃させました。しかし、侵入者達を一匹も殺すことができないまま、二層に逃がしてしまったようです。魔物達は侵入者が二層に逃れると同時に引き返してきました」
「ふむ。手負いの獲物を一匹も仕留められないまま逃がすとは、やはり低能な魔物共は役に立たんな。しかし、奴らは必ず三層に帰ってくる」
ケーニッヒはくすりと笑ってある方向を見る。
「三層に入ってきたということは、奴らの狙いはあの宝石を手に入れることだろう。我々の存在を恐れ、悪魔や魔物はけっして触れることのできないように作られた欲望の塊。それを求める以上、奴らは必ず三層を……私の国を通らなければならない。もう一度森にやってきたときが奴らの最後だ」
ケーニッヒは、報告しにやってきた悪魔を見下ろす。
「悪魔達に伝えろ! これからあの者達を見つかるまで、警戒を強化しろとな!」
「……見つかるまで永遠に? 我々に恐れをなし、三層に踏み入ることを諦めていたらどうします?」
「その場合も一年間は警戒を続けろ。こちらの警戒が解けるまで森の中で待っている可能性もあるからな」
ケーニッヒは悪魔にしては慎重だ。その慎重さゆえに、他の悪魔をすべて凌ぐだけの力を身につけることもできたのだ。しかし、周りの悪魔達はそれが気に入らなかった。
「臆病者の、井の中の蛙め……」
報告に来た悪魔が下を向いたまま、誰にも聞こえないくらい小さな声でそう呟いた。
ケーニッヒは実に慎重に、数百年の時間をかけて今の力を手に入れた。情けなく逃げ回ったことも、死を恐れて姿を隠したこともある。そのことは他の悪魔達は全員知っていることだ。
そしてそのことを言えば例外なく殺されてしまう。そのことを指摘されて堂々としているならまだいい。それによって自分達より強い力を手に入れたのだから、他の悪魔がなにを言っても負け犬の遠吠えにしかならないだろう。
しかし、それをした本人が、一番そのことを恥ずかしいことだと考え、そのことを語ることを禁じているのだ。それが他の悪魔からは非常に情けなく見え、心から従う気をなくさせている。
「それでは指示通りにさせていただきます」
そう言って報告に来た悪魔が下がろうとする。
「ああ、ちょっと待て」
「? 何か?」
下がろうとした悪魔を、ケーニッヒが呼びとめる。
「私は非常に耳が良い。さっきの呟き……はっきりと聞こえていたぞ?」
玉座の間に一瞬冷たい風が吹いた気がした。
「……そうかよ臆病者。そろそろお前の面を見るのも飽き飽きしてたところだ。せめて俺の血でお前の体を汚してやるぜ」
悪魔の口調は急に変わり、玉座に座るケーニッヒに襲いかかった。
「王への侮辱は死罪だ」
ケーニッヒがそう言い放つと同時に、悪魔が一匹処刑された。
* * *
三層と二層目の境目。そこにクルト達は居た。
クルト達は皆体力の消耗が激しい。悪魔や魔物を倒しながら三層の中を進み、ケーニッヒと戦った。撤退する途中で、魔物達を振りきる際に皆軽い傷を負っている。
「クルトさん。具合の方は大丈夫ですか?」
珠がクルトにそう声をかける。
「うん。三層から離れたらだいぶ良くなったよ。心配かけてごめんね」
そう言ってクルトは微笑んだが、無理に笑おうとしているのが見え見えでかえって痛々しかった。
「さて、これからどうする?」
ラルフがそう言った。
「俺はできるだけ戦わず、悪魔達から逃げるように走れば、十分宝石までたどり着けると考えていた。しかし、悪魔達のリーダーが現れたとなれば、話は変わってくる」
三層の悪魔は、悪魔同士で戦うのに忙しい。だから、本来戦う意思が無い者に構っている暇などないのだ。しかし、ケーニッヒが現れたことにより、三層は一つの国の様な存在になり、そこに侵入すれば容赦なく攻撃されるようになった。
「それに、もう一つ想定外のこともあったしな」
「……僕のことだよね?」
クルトが何かを察したようにそう言った。
「隠してもしょうがないわよね。あんたも薄々気づいているみたいだけど、あんたは三層の魔力に対して耐性がない。そんな奴にとって、三層の魔力は毒みたいなもの。しかも、三層の様子を見る限り、その魔力は奥に進むにつれて濃くなって行く。このままじゃあんたは宝石にたどり着くことができない」
フィルが淡々とクルトに説明する。その頭の中は、これからのことで頭がいっぱいだった。
三層は今や悪魔の巣窟ではなく、悪魔の国となってしまった。ケーニッヒという王の命令により、国の魔物や悪魔はたがいに戦うことをやめた。そして、国中で侵入者が居ないかどうか見張っている。クルト達を取り逃がしたことにより、これまで以上に警戒を強くしているはずだ。三層に入るというなら、戦闘は避けられない。
倒せるなら構わない。ケーニッヒを倒せれば、司令塔を失った悪魔達は一気に瓦解し、宝石まで進むことができるようになるだろう。しかし、自分達はケーニッヒを倒すことができなかった。
致命傷を与えられたはずだった。しかし、珠が心臓まで切り裂いたはずなのに、その傷は瞬時に再生し、何でも無いかのように反撃してきた。ケーニッヒを倒す方法が分からなければどうしようもない……。
その上、クルトの問題もある。最後に進んだ三層の場所がどのあたりなのか分からないが、あの場所の時点でクルトはかなり苦しそうだった。あれ以上進めば、命にかかわるかもしれない。何か対策を考えなければ……。
「……考えなくちゃいけないことが多すぎて頭がパンクしそうだわ。いっそ空から宝石が降ってきてくれないかしらと思ってしまうほどに」
フィルはそう呟いて横になった。とりあえず命は助かった。それならば考える時間はいくらでもある。今は体力を回復させることに集中するべきだ。
「……あの、一つ提案があるのですが」
珠が手をあげてそう言った。
「何よ。三層を抜ける方法でも考えついたわけ?」
「少し違いますが……。あの、五千年狐様に相談するのはどうでしょう?」
その提案に、他の全員が驚く。
「はぁ? 五千年狐ぇ? 何で一度殺されかけた相手に相談しなくちゃいけないのよ?」
「五千年狐は森の中でも最高位の力を持つ存在だ。そんな奴と喧嘩をするくらいなら、無策であの悪魔に戦いを挑んだ方がまだ勝算がある」
フィルとラルフが話にならないというように珠の意見を切り捨てる。しかし、珠は食い下がった。
「しかし私達だけで思いつく作戦などたかが知れています。五千年狐様は誰よりも長い間、森の中で暮らしてきた妖狐です。五千年狐様とうまく交渉ができれば、あの悪魔を倒す方法を教えてくれるかもしれません」
「百歩譲って!」
フィルが珠を睨みつける。
「五千年狐があの悪魔を倒す方法を知っているとしましょう。でも、五千年狐が襲ってきたらどうするの? クルトが殺されるようなことがあったとしたら、どう責任を取るつもり?」
「五千年狐様がああいう形で見逃してくださったのなら、容赦なく攻撃してくることはないと思います」
「……はッ! 信用できないわね」
フィルは考えるにも値しないという風に手を振り、再び横になる。珠はそんなフィルの様子を見て、珠は少し落ち込んだ様に俯いた。
「信じるよ」
「え?」
珠はクルトが言った言葉を聞いて振り返った。すると、クルトは優しく微笑んで珠のことを見ていた。
「僕は信じる。五千年狐に相談してみよう」
クルトの言葉に、フィルは頭を抱えて身体を起こす。
「あんたどこまで馬鹿なの? 五千年狐は一度あんた達を殺そうとした相手じゃない。そんな奴を信じようっていうの?」
「五千年狐を信じるんじゃないよ。僕は珠のことを信じるって言ってるんだ。珠が五千年狐に相談するのが良いっていうなら、きっと大丈夫だよ。少なくとも、僕達よりは五千年狐に詳しいでしょ?」
フィルはそのお気楽そうな顔を見て、クルトに対して怒鳴りつけようと口を開く。
「クルト、あんたねぇ……」
「いいんじゃないか?」
フィルが反対しようとすると、ラルフがクルトに賛同するようなことを言い始めた。
「ラルフ!?」
「そこの狐のいうことにも一理ある。俺達がいくら頭を抱えていても三層を抜ける方法など考えつかないだろう。それなら、わずかでも可能性がある道を選ぶべきかもしれん」
フィルは自分の周りにいる者達の顔を見た。誰も冗談を言っているような顔ではない。なぜだ? とても馬鹿馬鹿しい話をしているはずなのに、どうして皆そんなまじめな顔をしていられるんだ? 自分がおかしいのか? そんな危険を冒すべきではないと主張する自分がおかしいのか?
「もう、分かったわよ! どうせ決定権があるのはクルトなんだから!」
フィルが反論をあきらめて、今後の方針が決定した。
「でも、五千年狐に相談するのは明日よ。もう日が暮れそうだし、今日はここで野宿にしましょう」
それに対しては反対の意見は出なかった。クルト達は、夕飯の食材を探しに、森の中へ入って行く。
珠の耳元にフィルが近寄って、小さく呟いた。
「あんたが言いだしたことなんだからね。もしもの時は……」
珠はその言葉にくすりと笑ってフィルを見る。
「無論。クルトさんのことは命をかけてお守りします」
* * *
次の日。クルトと珠が森の中に二人で立っていた。妖狐の国に入るには、ある場所で扉を開いて貰わなくてはいけないらしい。
ラルフとフィルは物陰に隠れて、危なくなった時に飛び出す手はずになっていた。
「いいですか? クルトさん」
「うん、いつでもいいよ」
珠の言葉に、クルトは静かに頷く。
「それでは……あ」
珠が口を開いて何かを言おうとしたが、何も言わずに口を閉じた。どうしたのだろうとクルトが思っていると、珠がクルトを振り返って恥ずかしそうに言った。
「あの、少し耳を塞いでいてくれますか? 合言葉は狐の声で言わなくてはいけないので……」
ああ、そう言うことかとクルトは笑い、言われたとおりに耳を塞いだ。
それを確認してあらためて珠は口を開いてある方向に向かって狐の声で鳴いた。
そののち数秒が経つと、目の前に扉が現れ、中から半人化(狐の耳や尻尾がある状態)した妖狐が二匹現れた。
「誰かと思えば、落ちこぼれ妖狐の珠とその飼い主ではないか」
「まだ笑われ足りないと見えるな。わざわざ妖狐の国を尋ねて来るとは……」
あからさまな敵意を向けられ、珠は少したじろぐ。しかし、すぐに毅然とした表情を取り戻した。
「五千年狐様に会わせてもらえませんか?」
「五千年狐様に? ふざけるなッ! なぜお前のような奴を五千年狐様に会わせなければならない?」
珠の言葉に、門番の妖狐が激怒する。
「どうしても相談したいことが……お願いしたいことがあるのです」
「ならばなおのこと会わせる訳にはいかん! 貴様たちは五千年狐様の慈悲により、見逃してもらった存在ではないか! その上相談事だとォ? 厚かましいにもほどがあるわ!」
珠は地面にひざと手を付き、頭を下げた。
「もちろんずうずうしい行為だということは十分わかっています。ですが、どうしてもお願いしたいことがあるのです。それを叶えてくださるのなら、私は何をされても構いません!」
「! 珠、何を言ってるんだ」
クルトの方が珠の言葉に驚き、土下座をしている珠の背中に手を乗せる。
門番の妖狐達はそんな珠の態度に戸惑ったが、それでも意見を変える気など起きなかった。
「いい加減に!」
「おもしろい」
門番の妖狐が珠のことを足でけり飛ばそうとすると、後ろの森の中から声が聞こえてきた。門番の妖狐達はその声の主に気付くと、その場に跪いた。
「五千年狐様!?」
珠が驚いて後ろを振り向く。そこには酒の入ったひょうたんを片手に歩いてくる、五千年狐が居た。
「門番を責めないでやれ。私に会わすために通そうとしても、肝心の私は国を留守にしていたのだ。門番達は、私に恥をかかせまいとしていたのだよ。ククク……」
その言葉に門番達はピクリと反応する。確かに五千年狐の不在は知っていたが、それを理由に通さなかった訳ではない。しかし五千年狐がそう言うのであっては反論もできない。
無論、五千年狐もそれは分かっている。分かっていてあえて門番を困らせるようなことを言い、門番の焦る様子を見てクスクスと笑うのだ。
「さて、私に話があるそうだな。要件を聞こう」
五千年狐は視線を珠に移す。
「は、はい。実は私達は森の三層まで行ったのです。言わずとも分かると思いますが、宝石を手に入れるために行きました。しかし、一匹の悪魔に道を阻まれ、引き返してきたのです」
「一匹の悪魔……ケーニッヒとかいう悪魔のことか?」
「! ご存知なのですか?」
「もちろん知っている。三層にはよく散歩に行くのでな」
その言葉に、クルトと珠はポカンとして唖然とする。あんな悪魔や魔物がうじゃうじゃといる三層に散歩に行くというのか? 驚いたというよりは、呆れてしまったという方が正しい。
「森の中で最も散歩していて飽きない場所が三層だ。三層に居るものは皆、血眼になって殺し相手を探している。相手が強かろうが、弱かろうが関係なく。見つけた者には容赦なく攻撃を始める。その様子は、愛に飢えた者が恋人を探すかの様で、私はすごく好きだ」
その場にいるものすべてが言葉を失った。たった今三層から逃げてきた珠とクルトはなおのことだ。あんな悪魔や魔物達を、愛に飢えた者と例えるのは無理がある。
「だが、今の三層は散歩していてもつまらぬ。皆大人しくなり、あのケーニッヒという悪魔に従っている」
五千年狐は本当につまらなそうな表情をして、三層の方向を見た。
「あの、五千年狐様? なぜ、ケーニッヒと言う悪魔が生まれたのでしょうか? 今まで三層が一匹の悪魔に統一されたというような話は聞いたことがありません」
珠がずっと思っていた疑問を、五千年狐におずおずと尋ねる。
「私達妖狐は、三層のことをよく蠱毒に例えるだろう? 蠱毒の目的はなんだ? それは壺の中で毒虫を互いに殺し合わせ、最後の一匹を残すことにある。三層には無限に悪魔や魔物が集まってくるが、非常に稀に、圧倒的な力を持った者が生まれることがある」
五千年狐が非常に稀にというくらいなのだから、それは数百年に一度くらいの頻度となる。そんな頻度なのだから、珠でなくともほとんどの者がそれを知っているわけが無い。
「その稀に力を持った者達のする行動も統一性が無い。人間に災いを振りまく者、戦うことに飽きて隠居する者、逆にさらに強い者を求めて魔界に行く者……実にさまざまだ。そして、森を支配して、王となろうとする者もこれまでに何匹かいた。しかしどれも長続きはしなかった」
五千年狐はそう言ってけらけらと笑う。昔のことを懐かしんでいるようにも見えた。
クルトはそんな五千年狐に質問した。
「あの、長続きはしなかったって、どのくらい続いたんですか?」
「それでも数十年は続けていた。ケーニッヒも後それくらいはなんとか持たすだろう」
それでは遅すぎる。エリザベートの体調は日に日に悪くなっているのだ。もう二カ月近く時間は経っている。
後数カ月と言うならなんとか辛抱できなくもないが、後数十年と言われては、病気にかかっていなくとも寿命で死んでしまう。そんな長い間待つ訳にはいかない。
「ふむ、お主達の要件が大体読めたぞ。その三層を支配している悪魔、ケーニッヒをなんとかして欲しいというのだな?」
「お察しの通りです。五千年狐様、なんとかならないでしょうか?」
珠がすがるように五千年狐を見上げる。
「ケーニッヒが居なくなれば、元の私好みの三層になるだろう。それを考えれば私にも益がある話。だが、私がケーニッヒを倒すような直接的な協力はできぬぞ。悪魔の王を語る者が自滅して行く様を見るのも愉快だからな」
その言葉に、珠はがっくりとする。五千年狐の力があれば、あの悪魔を倒すことなどきっと容易なはずだ。案外気まぐれに協力してくれるのではないかと考えていたため、珠は少し落ち込む。
一方クルトは、五千年狐の言い方に違和感を覚えた。
「直接的以外の協力はしてくれるということですか?」
その言葉に五千年狐がフッと笑う。
「今のお前達では絶対にケーニッヒは倒せまい。だが、弱点を知ることができれば、何とか倒すこともできるようになるやもしれぬ。それを遠くから鑑賞するのもまた一興だ」
「五千年狐様! ありがとうございます!」
珠はそう言って再び頭を下げる。
「しかし、無条件にと言う訳にはいかない。これから一ヶ月間、お主達には妖狐の国で働いて貰う。それが終わったらケーニッヒの弱点を教えてやるが、どうする?」
珠はそれを聞いて迷った。自分はともかくクルトは人間。妖狐の国で働くとなればどんな扱いを受けるか分からない。それに、一カ月も時間がかかるというなら、他の方法を探しても……。
「珠……」
迷う珠の肩に、クルトの手が載せられた。珠が後ろを振り向くと、そこには笑顔で頷くクルトがいた。
(クルトさん……分かりました)
「お願いします。五千年狐様」
「決まりだな。お前達、こやつらも通してやれ」
五千年狐はそう言って扉をくぐった。門番の妖狐達は、しぶしぶクルト達にも道を譲る。
「行きましょうクルトさん」
「うん」
珠とクルトも、妖狐の国の扉をくぐって姿を消した。
* * *
「なんとかうまく行ったらしいな」
物陰に隠れていたラルフが、フィルに向かってそう呟いた。
「五千年狐が現れた時にはどうしようかと思ったけどね。……さてと」
フィルはクルトと珠が扉をくぐったのを確認すると、後ろを向いて飛びあがった。
「どうするんだ?」
「一カ月時間があるんでしょ? 私は私で好きに過ごさせてもらうわ」
フィルはそう呟いて、森の中へ消えていった。
後にはラルフだけが残され、しばらく狭い空を見上げながら考え込む。
「……それしかないか」
やがてラルフは一つの結論を出し、自分もまたフィルとは違う方向へ消えていった。