第4話「転生者の覚醒」
これは、前世の記憶なのか?
その問いに、答えが出た。
三年前のあの日。
全てが、始まった。
◇
十五歳の誕生日。
春分の日。
私は、向日葵畑にいた。
まだ芽吹いたばかりの、小さな緑の葉たち。
夏になれば、ここは一面の黄色に染まる。
でも、今はまだ春。
芽が出たばかりの、向日葵畑。
私は、その真ん中に座っていた。
膝を組んで、目を閉じて。
瞑想。
侍女のマルタが教えてくれた。心を落ち着けるには、瞑想がいいと。
最近、変な夢ばかり見る。
知らない場所。知らない人々。知らない言葉。
でも、なぜか懐かしい。
なぜか、涙が出る。
八歳の時もあった。
ここ、この向日葵畑で。
満開の花を見て、突然思った。
「この花、知ってる」
既視感。
でも、すぐに忘れた。
十三歳の時もあった。
父上の書斎で、歴史書を読んでいた時。
ある戦争の記述を見て、思った。
「この戦争、前にも見た」
違和感。
まるで、別の世界で経験したような。
でも、それも忘れた。
そして今、十五歳。
また、あの感覚が来ている。
だから、瞑想。
心を、空にする。
呼吸を、整える。
風が、吹いた。
暖かい風。
春の風。
そして、香りが運ばれてきた。
向日葵の香り。
まだ花は咲いていないのに。
去年の向日葵が残した、土の香り。
種の香り。
懐かしい香り。
その瞬間。
頭の中に、光が差し込んだ。
眩しい。
熱い。
何か、来る。
何かが、押し寄せてくる。
映像。
大量の映像。
止められない。
病院のベッド。
赤ん坊の泣き声。
「おめでとうございます、元気な女の子ですよ」
誰かが笑っている。
女性の声。優しい声。
母親?
でも、私の母親は、私が生まれてすぐ亡くなったはず。
これは、誰?
映像が、流れる。
止まらない。
幼稚園。ランドセル。教科書。
「田中陽子、ちゃんと宿題やってきた?」
田中陽子。
その名前が、頭に響く。
それは、私。
でも、私はアリア。
アリア・フォン・アイゼンブルク。
違う。
これは、夢。
ただの夢。
でも、映像は止まらない。
加速していく。
小学校。中学校。高校。
勉強。部活。友達。
受験。大学。就職。
そして、NGO。
サンフラワープロジェクト。
向日葵の、プロジェクト。
途上国の子どもたちに、教育を。
アフリカ。東南アジア。
笑顔の子どもたち。
学校を建てる。教師を育てる。
それが、私の使命。
田中陽子の、使命。
でも、疲れていた。
毎日、遅くまで働く。
休みもない。
過労。
体が、悲鳴を上げている。
でも、止められない。
子どもたちが、待っている。
プロジェクトを、完成させなければ。
オフィス。
夜の十時。
パソコンの画面を見つめる。
頭が、痛い。
胸が、苦しい。
めまい。
倒れる。
床が、冷たい。
誰かが、叫んでいる。
「田中さん!」
視界が、暗くなる。
ああ、これは。
死。
私は、死ぬ。
三十歳で。
プロジェクトを、完成させられないまま。
ごめんなさい。
子どもたち、ごめんなさい。
暗闇。
でも、光が見えた。
眩しい光。
そして、声。
「あなたの想いは、無駄にならない」
誰?
「別の世界で、プロジェクトを完成させて」
別の、世界?
「向日葵を、咲かせて」
向日葵。
そう、向日葵。
私の、使命。
「行きなさい。新しい人生で」
光が、私を包んだ。
そして。
赤ん坊の泣き声。
また、生まれた。
別の世界で。
アリアとして。
◇
「ああああああああっ!」
私は、叫んでいた。
向日葵畑で、頭を抱えて、叫んでいた。
記憶が、止まらない。
三十年分の記憶が、一気に流れ込んでくる。
田中陽子の記憶。
日本。東京。21世紀。
パソコン。スマートフォン。電車。
学校。会社。NGO。
友達。同僚。上司。
全部、全部。
鮮明に。
まるで昨日のことのように。
いや、違う。
これは、前世。
私は、転生した。
田中陽子として三十年生きて、死んで。
アリア・フォン・アイゼンブルクとして、生まれ変わった。
「嘘、嘘よ」
私は、頭を振った。
「そんなこと、あるわけない」
でも、記憶は消えない。
あまりにも鮮明すぎる。
ただの夢では、ありえない。
これは、本物。
本当の記憶。
私は、二つの人生を持っている。
田中陽子の三十年。
アリアの十五年。
合わせて、四十五年分の記憶。
「私は、誰?」
わからない。
田中陽子なのか。
アリアなのか。
どっちが、本当の私?
涙が溢れた。
怖い。
自分が、わからない。
何のために、生きているのか。
何のために、生まれてきたのか。
全部、わからない。
「アリア様!」
遠くから、マルタの声。
でも、答えられない。
ただ、向日葵畑で、丸くなって、震えていた。
◇
三日間、部屋から出なかった。
ベッドで、ただ丸くなって。
記憶が、頭の中を駆け巡る。
田中陽子の記憶と、アリアの記憶が、混ざり合う。
どっちが、どっちだかわからなくなる。
日本語が、頭の中で響く。
でも、口から出るのは、この世界の言葉。
混乱する。
私は、誰?
どこにいる?
何をしている?
マルタが、心配して何度も扉を叩いた。
父上も、来た。
「アリア、大丈夫か」
優しい声。
でも、答えられない。
私は、あなたの娘なのか。
それとも、別の世界から来た、よそ者なのか。
わからない。
何も、わからない。
四日目の朝。
私は、ようやくベッドから起き上がった。
窓を開ける。
朝日が、差し込んできた。
暖かい。
外を見る。
向日葵畑が見える。
あの日、記憶が蘇った場所。
私は、そこへ向かった。
使用人たちが、驚いた顔で見ている。
気にせず、歩く。
城を出て、向日葵畑へ。
まだ芽吹いたばかりの、緑の葉。
私は、その真ん中に立った。
そして、空を見上げた。
青い空。白い雲。
太陽が、輝いている。
風が、吹く。
土の香り。種の香り。
向日葵の香り。
私は、目を閉じた。
深呼吸。
そして、考えた。
私は、誰なのか。
田中陽子か。
アリアか。
答えは、すぐに出た。
両方だ。
私は、田中陽子でもあり、アリアでもある。
二つの人生を持つ、存在。
それが、私。
田中陽子として、三十年生きた。
サンフラワープロジェクトに、人生を捧げた。
でも、完成させられなかった。
過労死した。
その想いを、神様が見ていてくれた。
だから、もう一度チャンスをくれた。
別の世界で。
アリアとして。
ここで、向日葵を咲かせろと。
子どもたちに、希望を届けろと。
それが、私の使命。
前世から引き継いだ、使命。
そして、今世で果たすべき、使命。
私は、目を開けた。
涙が、流れていた。
でも、悲しい涙じゃない。
決意の涙。
私は、諦めない。
田中陽子が果たせなかった夢を、アリアが叶える。
向日葵を、咲かせる。
子どもたちに、教育を届ける。
平和な世界を、作る。
それが、私の使命。
二つの人生を持つ者の、使命。
「私は、転生者だ」
初めて、声に出して言った。
風が、答えるように吹いた。
向日葵の芽が、揺れる。
いつか、ここは黄色に染まる。
一面の、向日葵畑になる。
そして、いつか。
この国全体を、向日葵で埋め尽くす。
希望の花で。
私は、それを成し遂げる。
前世の知識を、使って。
田中陽子の経験を、活かして。
NGOで学んだこと。
組織運営。交渉術。教育理論。
歴史の知識。民主主義。科学技術。
全部、この世界で役立つ。
私には、武器がある。
三十年分の、知識という武器が。
それを使えば。
「この知識で、国を救えるかもしれない」
その言葉が、自然と口から出た。
そう。
救える。
いつか、必ず。
今は、まだ十五歳。
でも、いつか。
機会が来たら。
私は、動く。
この国を、守るために。
民を、救うために。
向日葵を、咲かせるために。
私は、向日葵畑を後にした。
足取りは、軽かった。
心は、晴れていた。
迷いは、消えた。
私は、私。
アリアであり、陽子でもある。
転生者。
二つの人生を持つ者。
そして、使命を背負う者。
城へ戻る。
マルタが、驚いた顔で迎えた。
「アリア様、大丈夫ですか」
「ええ、大丈夫よ」
私は、笑った。
「もう、大丈夫」
マルタは、涙ぐんだ。
「良かった。本当に、良かった」
私は、マルタを抱きしめた。
優しい人。
いつも、私を心配してくれる。
この人も、守りたい。
この城の人々も。
この国の民も。
全員、守りたい。
そのために、私は生まれてきた。
田中陽子の想いを継いで。
アリアとして。
父上の部屋へ向かう。
扉をノックする。
「入れ」
父上の声。
私は、扉を開けた。
父上が、執務机から顔を上げた。
「アリア」
「父上」
私は、深く頭を下げた。
「ご心配をおかけしました」
「体調は、もういいのか」
「はい」
私は、顔を上げた。
「もう、大丈夫です」
父上は、私を見つめた。
その目が、少し驚いているように見えた。
「お前、何か変わったな」
「え?」
「目が、違う」
父上は、立ち上がった。
「以前より、強い目をしている」
私は、少し驚いた。
気づかれた?
いや、まさか。
転生したことなど、わかるはずがない。
「何かあったのか」
父上が聞いた。
私は、少し考えて、答えた。
「はい。自分の使命に、気づきました」
「使命?」
「向日葵を咲かせること。人々に希望を届けること」
私は、真っ直ぐ父上を見た。
「それが、私の使命だと」
父上は、しばらく黙っていた。
そして、優しく微笑んだ。
「そうか。お前は、本当に向日葵のようだな」
「父上」
「太陽を向いて、真っ直ぐに生きる。それがお前だ」
父上は、私の頭に手を置いた。
その向日葵色の瞳で、私を見つめた。
「その目。向日葵色の瞳」
「はい」
「王家の眼を持つお前なら、きっと何かを成し遂げるだろう」
父上の言葉が、胸に響いた。
「立派になったな、アリア」
その言葉が、胸に染みた。
私は、涙をこらえた。
父上。
あなたを、守りたい。
この国を、守りたい。
そのために、私は。
でも、まだ言えない。
前世の記憶があることも。
転生者であることも。
いつか、話す日が来るかもしれない。
でも、今じゃない。
今は、ただ。
この知識を、密かに磨く。
この力を、蓄える。
そして、その時が来たら。
私は、部屋に戻った。
机に向かう。
紙とペンを取り出す。
そして、書き始めた。
前世の知識。
覚えている限りの、全てを。
歴史。政治。経済。科学。
教育理論。組織運営。交渉術。
農業技術。医療知識。公衆衛生。
全部、書き留める。
忘れないように。
この知識が、いつか役立つ日のために。
ペンが、紙の上を走る。
時間を忘れて、書き続けた。
三権分立。選挙制度。義務教育。
見慣れない言葉が、紙の上に並ぶ。
この世界にはまだない、概念たち。
でも、いつか必要になる。
気づけば、夜になっていた。
窓の外は、暗い。
星が、輝いている。
私は、ペンを置いた。
手が、痛い。
でも、心地よい痛みだった。
机の上には、何枚もの紙。
前世の知識が、ぎっしりと書かれている。
これが、私の武器。
いつか、この国を救う、武器。
私は、窓の外を見た。
遠くに、向日葵畑が見える。
月明かりに照らされて、ぼんやりと。
まだ芽吹いたばかりの、小さな葉たち。
でも、いつか。
いつか必ず。
あそこは、一面の黄色に染まる。
向日葵が、咲き誇る。
そして、この国全体も。
いつか、向日葵で埋め尽くす。
希望の花で。
私は、決めた。
私は、転生者だ。
二つの人生を持つ者だ。
そして、使命を背負う者だ。
田中陽子の夢を、アリアが叶える。
向日葵を、咲かせる。
人々に、希望を届ける。
平和な世界を、作る。
それが、私の使命。
私は、ベッドに横になった。
疲れていたが、心は充実していた。
目を閉じる。
明日から、また新しい日々が始まる。
転生者として。
使命を背負う者として。
私の、本当の人生が。
今、始まる。
この知識で、国を救えるかもしれない。
その希望を胸に。
私は、眠りに落ちた。
全てが、始まった。
◇
十五歳の誕生日。
春分の日。
私は、向日葵畑にいた。
まだ芽吹いたばかりの、小さな緑の葉たち。
夏になれば、ここは一面の黄色に染まる。
でも、今はまだ春。
芽が出たばかりの、向日葵畑。
私は、その真ん中に座っていた。
膝を組んで、目を閉じて。
瞑想。
侍女のマルタが教えてくれた。心を落ち着けるには、瞑想がいいと。
最近、変な夢ばかり見る。
知らない場所。知らない人々。知らない言葉。
でも、なぜか懐かしい。
なぜか、涙が出る。
八歳の時もあった。
ここ、この向日葵畑で。
満開の花を見て、突然思った。
「この花、知ってる」
既視感。
でも、すぐに忘れた。
十三歳の時もあった。
父上の書斎で、歴史書を読んでいた時。
ある戦争の記述を見て、思った。
「この戦争、前にも見た」
違和感。
まるで、別の世界で経験したような。
でも、それも忘れた。
そして今、十五歳。
また、あの感覚が来ている。
だから、瞑想。
心を、空にする。
呼吸を、整える。
風が、吹いた。
暖かい風。
春の風。
そして、香りが運ばれてきた。
向日葵の香り。
まだ花は咲いていないのに。
去年の向日葵が残した、土の香り。
種の香り。
懐かしい香り。
その瞬間。
頭の中に、光が差し込んだ。
眩しい。
熱い。
何か、来る。
何かが、押し寄せてくる。
映像。
大量の映像。
止められない。
病院のベッド。
赤ん坊の泣き声。
「おめでとうございます、元気な女の子ですよ」
誰かが笑っている。
女性の声。優しい声。
母親?
でも、私の母親は、私が生まれてすぐ亡くなったはず。
これは、誰?
映像が、流れる。
止まらない。
幼稚園。ランドセル。教科書。
「田中陽子、ちゃんと宿題やってきた?」
田中陽子。
その名前が、頭に響く。
それは、私。
でも、私はアリア。
アリア・フォン・アイゼンブルク。
違う。
これは、夢。
ただの夢。
でも、映像は止まらない。
加速していく。
小学校。中学校。高校。
勉強。部活。友達。
受験。大学。就職。
そして、NGO。
サンフラワープロジェクト。
向日葵の、プロジェクト。
途上国の子どもたちに、教育を。
アフリカ。東南アジア。
笑顔の子どもたち。
学校を建てる。教師を育てる。
それが、私の使命。
田中陽子の、使命。
でも、疲れていた。
毎日、遅くまで働く。
休みもない。
過労。
体が、悲鳴を上げている。
でも、止められない。
子どもたちが、待っている。
プロジェクトを、完成させなければ。
オフィス。
夜の十時。
パソコンの画面を見つめる。
頭が、痛い。
胸が、苦しい。
めまい。
倒れる。
床が、冷たい。
誰かが、叫んでいる。
「田中さん!」
視界が、暗くなる。
ああ、これは。
死。
私は、死ぬ。
三十歳で。
プロジェクトを、完成させられないまま。
ごめんなさい。
子どもたち、ごめんなさい。
暗闇。
でも、光が見えた。
眩しい光。
そして、声。
「あなたの想いは、無駄にならない」
誰?
「別の世界で、プロジェクトを完成させて」
別の、世界?
「向日葵を、咲かせて」
向日葵。
そう、向日葵。
私の、使命。
「行きなさい。新しい人生で」
光が、私を包んだ。
そして。
赤ん坊の泣き声。
また、生まれた。
別の世界で。
アリアとして。
◇
「ああああああああっ!」
私は、叫んでいた。
向日葵畑で、頭を抱えて、叫んでいた。
記憶が、止まらない。
三十年分の記憶が、一気に流れ込んでくる。
田中陽子の記憶。
日本。東京。21世紀。
パソコン。スマートフォン。電車。
学校。会社。NGO。
友達。同僚。上司。
全部、全部。
鮮明に。
まるで昨日のことのように。
いや、違う。
これは、前世。
私は、転生した。
田中陽子として三十年生きて、死んで。
アリア・フォン・アイゼンブルクとして、生まれ変わった。
「嘘、嘘よ」
私は、頭を振った。
「そんなこと、あるわけない」
でも、記憶は消えない。
あまりにも鮮明すぎる。
ただの夢では、ありえない。
これは、本物。
本当の記憶。
私は、二つの人生を持っている。
田中陽子の三十年。
アリアの十五年。
合わせて、四十五年分の記憶。
「私は、誰?」
わからない。
田中陽子なのか。
アリアなのか。
どっちが、本当の私?
涙が溢れた。
怖い。
自分が、わからない。
何のために、生きているのか。
何のために、生まれてきたのか。
全部、わからない。
「アリア様!」
遠くから、マルタの声。
でも、答えられない。
ただ、向日葵畑で、丸くなって、震えていた。
◇
三日間、部屋から出なかった。
ベッドで、ただ丸くなって。
記憶が、頭の中を駆け巡る。
田中陽子の記憶と、アリアの記憶が、混ざり合う。
どっちが、どっちだかわからなくなる。
日本語が、頭の中で響く。
でも、口から出るのは、この世界の言葉。
混乱する。
私は、誰?
どこにいる?
何をしている?
マルタが、心配して何度も扉を叩いた。
父上も、来た。
「アリア、大丈夫か」
優しい声。
でも、答えられない。
私は、あなたの娘なのか。
それとも、別の世界から来た、よそ者なのか。
わからない。
何も、わからない。
四日目の朝。
私は、ようやくベッドから起き上がった。
窓を開ける。
朝日が、差し込んできた。
暖かい。
外を見る。
向日葵畑が見える。
あの日、記憶が蘇った場所。
私は、そこへ向かった。
使用人たちが、驚いた顔で見ている。
気にせず、歩く。
城を出て、向日葵畑へ。
まだ芽吹いたばかりの、緑の葉。
私は、その真ん中に立った。
そして、空を見上げた。
青い空。白い雲。
太陽が、輝いている。
風が、吹く。
土の香り。種の香り。
向日葵の香り。
私は、目を閉じた。
深呼吸。
そして、考えた。
私は、誰なのか。
田中陽子か。
アリアか。
答えは、すぐに出た。
両方だ。
私は、田中陽子でもあり、アリアでもある。
二つの人生を持つ、存在。
それが、私。
田中陽子として、三十年生きた。
サンフラワープロジェクトに、人生を捧げた。
でも、完成させられなかった。
過労死した。
その想いを、神様が見ていてくれた。
だから、もう一度チャンスをくれた。
別の世界で。
アリアとして。
ここで、向日葵を咲かせろと。
子どもたちに、希望を届けろと。
それが、私の使命。
前世から引き継いだ、使命。
そして、今世で果たすべき、使命。
私は、目を開けた。
涙が、流れていた。
でも、悲しい涙じゃない。
決意の涙。
私は、諦めない。
田中陽子が果たせなかった夢を、アリアが叶える。
向日葵を、咲かせる。
子どもたちに、教育を届ける。
平和な世界を、作る。
それが、私の使命。
二つの人生を持つ者の、使命。
「私は、転生者だ」
初めて、声に出して言った。
風が、答えるように吹いた。
向日葵の芽が、揺れる。
いつか、ここは黄色に染まる。
一面の、向日葵畑になる。
そして、いつか。
この国全体を、向日葵で埋め尽くす。
希望の花で。
私は、それを成し遂げる。
前世の知識を、使って。
田中陽子の経験を、活かして。
NGOで学んだこと。
組織運営。交渉術。教育理論。
歴史の知識。民主主義。科学技術。
全部、この世界で役立つ。
私には、武器がある。
三十年分の、知識という武器が。
それを使えば。
「この知識で、国を救えるかもしれない」
その言葉が、自然と口から出た。
そう。
救える。
いつか、必ず。
今は、まだ十五歳。
でも、いつか。
機会が来たら。
私は、動く。
この国を、守るために。
民を、救うために。
向日葵を、咲かせるために。
私は、向日葵畑を後にした。
足取りは、軽かった。
心は、晴れていた。
迷いは、消えた。
私は、私。
アリアであり、陽子でもある。
転生者。
二つの人生を持つ者。
そして、使命を背負う者。
城へ戻る。
マルタが、驚いた顔で迎えた。
「アリア様、大丈夫ですか」
「ええ、大丈夫よ」
私は、笑った。
「もう、大丈夫」
マルタは、涙ぐんだ。
「良かった。本当に、良かった」
私は、マルタを抱きしめた。
優しい人。
いつも、私を心配してくれる。
この人も、守りたい。
この城の人々も。
この国の民も。
全員、守りたい。
そのために、私は生まれてきた。
田中陽子の想いを継いで。
アリアとして。
父上の部屋へ向かう。
扉をノックする。
「入れ」
父上の声。
私は、扉を開けた。
父上が、執務机から顔を上げた。
「アリア」
「父上」
私は、深く頭を下げた。
「ご心配をおかけしました」
「体調は、もういいのか」
「はい」
私は、顔を上げた。
「もう、大丈夫です」
父上は、私を見つめた。
その目が、少し驚いているように見えた。
「お前、何か変わったな」
「え?」
「目が、違う」
父上は、立ち上がった。
「以前より、強い目をしている」
私は、少し驚いた。
気づかれた?
いや、まさか。
転生したことなど、わかるはずがない。
「何かあったのか」
父上が聞いた。
私は、少し考えて、答えた。
「はい。自分の使命に、気づきました」
「使命?」
「向日葵を咲かせること。人々に希望を届けること」
私は、真っ直ぐ父上を見た。
「それが、私の使命だと」
父上は、しばらく黙っていた。
そして、優しく微笑んだ。
「そうか。お前は、本当に向日葵のようだな」
「父上」
「太陽を向いて、真っ直ぐに生きる。それがお前だ」
父上は、私の頭に手を置いた。
その向日葵色の瞳で、私を見つめた。
「その目。向日葵色の瞳」
「はい」
「王家の眼を持つお前なら、きっと何かを成し遂げるだろう」
父上の言葉が、胸に響いた。
「立派になったな、アリア」
その言葉が、胸に染みた。
私は、涙をこらえた。
父上。
あなたを、守りたい。
この国を、守りたい。
そのために、私は。
でも、まだ言えない。
前世の記憶があることも。
転生者であることも。
いつか、話す日が来るかもしれない。
でも、今じゃない。
今は、ただ。
この知識を、密かに磨く。
この力を、蓄える。
そして、その時が来たら。
私は、部屋に戻った。
机に向かう。
紙とペンを取り出す。
そして、書き始めた。
前世の知識。
覚えている限りの、全てを。
歴史。政治。経済。科学。
教育理論。組織運営。交渉術。
農業技術。医療知識。公衆衛生。
全部、書き留める。
忘れないように。
この知識が、いつか役立つ日のために。
ペンが、紙の上を走る。
時間を忘れて、書き続けた。
三権分立。選挙制度。義務教育。
見慣れない言葉が、紙の上に並ぶ。
この世界にはまだない、概念たち。
でも、いつか必要になる。
気づけば、夜になっていた。
窓の外は、暗い。
星が、輝いている。
私は、ペンを置いた。
手が、痛い。
でも、心地よい痛みだった。
机の上には、何枚もの紙。
前世の知識が、ぎっしりと書かれている。
これが、私の武器。
いつか、この国を救う、武器。
私は、窓の外を見た。
遠くに、向日葵畑が見える。
月明かりに照らされて、ぼんやりと。
まだ芽吹いたばかりの、小さな葉たち。
でも、いつか。
いつか必ず。
あそこは、一面の黄色に染まる。
向日葵が、咲き誇る。
そして、この国全体も。
いつか、向日葵で埋め尽くす。
希望の花で。
私は、決めた。
私は、転生者だ。
二つの人生を持つ者だ。
そして、使命を背負う者だ。
田中陽子の夢を、アリアが叶える。
向日葵を、咲かせる。
人々に、希望を届ける。
平和な世界を、作る。
それが、私の使命。
私は、ベッドに横になった。
疲れていたが、心は充実していた。
目を閉じる。
明日から、また新しい日々が始まる。
転生者として。
使命を背負う者として。
私の、本当の人生が。
今、始まる。
この知識で、国を救えるかもしれない。
その希望を胸に。
私は、眠りに落ちた。




