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ラーニアのその後 ―紅い心に触れた人―

【本編はエピローグで完結済みです】


⚠ こちらは本編完結後の、ヒロインであるアーシャの異母姉である王女ラーニアの後日談を描いた外伝になります。

(※ ラーニア救済の余韻が残るお話です)


⚠ 本編のネタバレがありますので、ご注意ください。


* * *


✧ 初めての方へ ✧


【本編・全32話完結済み】

まずはこちらからお読みいただけます。


https://ncode.syosetu.com/n8927ky/2/


挿絵(By みてみん)





 ザフラーンの王宮は、昼間だというのに薄明かりのような静けさに包まれていた。


 白灰色の石壁に映える陽光はどこか冷たく、広々とした回廊には人影もまばら。ただ、花瓶に飾られた赤や薄紅色の花々だけが彩りを添えていた。


 そんな回廊の一角で、数名の侍女が囁き交わしていた。


「ねぇ、聞いた?  サフィールの王子殿下の花嫁は、金の髪に白い肌のとても美しい姫君なのですって!」

「まぁ……それは、もしかして……」

「ええ。名は“アーシャ”様と仰るそうよ! きっとアーシャ王女殿下だわ……サフィールで、幸せにお暮らしになると良いわね……」

「本当に……あの方ほど、報われてほしい方はいないものね」


 「でも、あのサフィールの王子様と結ばれるなんて素敵ね!」と頬を染め、瞳を輝かせる侍女たち。その無邪気な祝福の声を、背後から誰かが聞いていた。


 振り返った彼女たちは一瞬で顔を強張らせる。

 そこに立っていたのは、紅い衣を纏った第一王女──ラーニアであった。


「……ラーニア王女殿下……」


 怯えを孕んだ声を置き去りに、ラーニアは無言で背を向ける。

 紅い裾を翻し、足早に回廊を駆け抜け、人気のない一角に辿り着くと、立ち止まった。


 ラーニアの容姿を称賛し、笑顔で接してくれていた者たちは、気付けば皆、目を逸らすようになっていた。


 ──理由はわかっている。

 少し前に、婚約者(ファリード)を奪われた恨みで、妹姫(アーシャ)の命をラーニアが狙ったのだという噂が王宮中に広まったのだ。父王が激怒したため、口にするものはいなくなったが、王宮の者たちのラーニアを見る目はすっかり変わってしまった。


 母である王妃は、娘の心など見ていない。甘い言葉で抱き締めるだけで、涙にも寄り添ってはくれなかった。


 愛してくれていると信じていた父も、今は母ばかりを見つめ、顔を合わせるたびに「王妃の評判を落とすな」と叱責ばかりを口にする。

 幼い日に笑顔で抱きしめてくれた父の面影は、もうどこにもない。


 愛を囁いた男たちも結局は、第一王女という立場と、この顔と体に縋りついただけ……。

 誰一人として、私の心を見てはくれなかった。


 ──私は、誰からも愛されていなかった……。


 その瞬間、ラーニアの手が勢い良く振り抜かれた。

 「ガシャーン」と乾いた破裂音を響かせ、回廊に彩りを添えていた花瓶が砕け散る。


 砕け散った陶片に紛れ、水と共に散った花々が無惨に横たわっている。

 その彩りを見下ろすラーニアの背に、冷ややかな声がかけられる。


「……ラーニア王女殿下。そのようなお振舞いは、王女として如何なものかと」


 はっと顔を上げ、振り向いた瞬間、視線が絡む。

 そこに立っていたのは、見知らぬ男。異国風の衣を纏い、落ち着いた眼差しでこちらを見据えている。


「……何ですって?」


 喉が震えた。

 玉座の上から叱責ばかりする父も含め、今まで、誰一人としてこんな風に真正面から己を諫めた者はいなかった。


 ──誰も、こんな風には、叱ってくれなかったわ……今まで、誰も……。


 何も言えず、ただ唇を噛むラーニアの頬を、一筋の涙が伝った。


 男の瞳がわずかに揺れる。


「……失礼を。ですが……」


 言葉を探すように一瞬黙し、それでも彼は静かに歩み寄った。

 花瓶をはたき落としたラーニアの右手をそっと取る。


 気付けば、花瓶の破片で切ってしまったのか、ラーニアの手の甲に細い傷が走っていた。

 白い布が差し出される。そっと血に触れぬよう、布越しに彼の指がラーニアの手を押さえた。


「申し訳ありませんが……涙を拭う布は持ち合わせておりません。せめて傷だけでも……きちんと手当てをなさってください」


 淡々と告げられた言葉に、再び涙が込み上げる。

 今まで、誰も寄り添ってはくれなかった。

 この男の声は冷たく、言葉も優しいわけではない。それなのに、初めて人の手の温もりを知った気がした。


「……ありがとう……」


 掠れた声でそう洩らすと、男は目を伏せ、わずかに首を振った。


「王女殿下に不敬を致しました。どうかお許しを」


 深く頭を下げると、彼は背を向け、静かに回廊の奥へと去っていく。


 残されたラーニアは、その後ろ姿をただ茫然と見つめる。

 通りかかった文官を呼び止め、震える声で問うた。


「……あの方は、誰なの?」


 告げられた名を、ラーニアは胸の奥で反芻する。


「……ラフィーク」


 その名を静かに呟いたとき、凍えていた彼女の胸の奥に、ほんのりと温かなものが灯った気がした。


― 外伝・終 ―

✧ 外伝を読んでくださった方へ ✧


外伝を読んでいただき、本当にありがとうございました。

ラーニアは嫉妬深く意地悪な性格で、アーシャの命を狙う恐ろしい姉姫ではありましたが、彼女にも弱い部分があったということと、全てを失った彼女にとっての少しの希望を描きたくて、こうして外伝として残しました。


ぜひまた、別の作品でもお会いできると嬉しいです。


星谷明里

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