第98話 竜、異国の料理で胃袋を掴む
「お、トーニャにガルフ達か」
「あーい♪」
「「「ぴよー♪」」」
「やっほーお姉ちゃんだよー♪」
「こんばんはディランさん」
パーティールームでリヒト達と待っていたディランのところに、トーニャ達も案内されてやってきた。
ヤクトのお腹を撫でていたリヒトに、早速トーニャが構いだす。
集まってルミナスやダルの毛をついばんでいたひよこ達もレイカ達に向き直る。
『ディランおじさんこんばんは! リヒト君も!』
「元気そうじゃなリーナ」
「あい!」
「へへ、リヒトはもうすっかりお座りできるんだなあ」
「あ、私が抱っこしたいのに!」
地べたに座っているディランの背中にリーナが飛び込むと、トーニャに撫でられるリヒトへ手を振る。
リヒトが挨拶を返していると、ガルフが抱っこして抱え上げた。レイカが先に抱っこしたかったと口を尖らせていた。
「減るもんじゃないしいいだろ?」
「あーい♪」
「んー! やっぱり可愛いー私も子供が出来たらリヒト君みたいな子がいいなあ」
「レイカ達はすぐじゃない?」
『そうなの?』
「おま……そういうことをリーナの前で言うなよ?」
「まったく……」
「あいた!? なによー」
『???』
トーニャが余計なことを言い、レイカに叩かれていた。その光景を見ながらユリがダルを撫でながら言う。
「まあ、今のはトーニャが悪いよねー。リーナにはまだ早いし。ねー、ダル?」
「わほぉん……」
「あくびをしているな。というかペットがここに居ていいのだろうか……」
「こけー」
ヒューシは寝そべっているアッシュウルフ達やひよこを見て、パーティールームに居ていいのかとため息を吐く。
するとジェニファーが足元に来てヒューシの足をぺしぺしと羽で叩いていた。
「揃っているな」
「皆さん、いらっしゃい!」
そこへキッチンから戻って来たモルゲンロートとローザがパーティールームへ入って来た。すぐにガルフ達は姿勢を正して膝をつく。
「「「「ご招待いただきありがとうございます。陛下」」」」
「あ、そういうの必要よね」
『わ、わたしも……』
トーニャとリーナもパーティの一員なのでガルフ達に倣って膝をつく。
「あう♪」
「あらまあまあ、可愛らしい♪」
そこへはいはいをしてトーニャの隣に来たリヒトが真似をいて頭を下げた。ローザがそんなリヒトを見て頬を緩ませる。
「トワイトだけ残してきたのじゃな」
「ですな。我々が出来ることはないし、楽しみをとっておくべきだと」
「確かにそうかもしれん。そういえばザミールはどうしたのじゃ? あやつも一緒じゃと思ったのだが」
「ああ、彼には依頼をしていて、ショウユとミソの樽をいくつかこちらへ手配するようにな。交易品を持たせているからザミールの儲けにもなるだろう」
「なるほどのう。しかし料理が口に合うかわからんぞい」
どうやらザミールは先行して食べたことを責められ、再び旅立ったようだ。
ディランは調味料が増えることはいいが、口に合うか分からないと問う。
するとリヒトを抱っこしたローザが微笑みながら口を開いた。
「フフ、その時はその時ですわ。調味料はお二人に引き取ってもらっても構いませんし。でも、不味いはずはないと確信しております」
「凄い信頼度だな……」
「王妃様、トワイトさんを気に入っているものね」
「まあ、食事の準備ができるまでくつろいでいてくれ。……ふむ、たまには動物に触れてみようか……?」
リヒトをあやしはじめたローザにリーナとトーニャ、それとレイカがついた。モルゲンロートは手持ち無沙汰になり、ディランと一緒に動物を構いながら会話をしようとする。
「あ、陛下それならダルがおススメですよ!」
「わほぉん?」
「陛下なら眠そうな顔をしているダルよりルミナスだろう」
「わん?」
「ヤクトもなにか無いものかのう。お前は普通じゃな」
「うぉふ!?」
「ははは、順番に撫でさせてもらうよ」
「こけ」
「ぴよー」
「お前達も!?」
ジェニファーとひよこ達も自己主張をしてきて、モルゲンロートが目を丸くしていた。
そこへさらにヴァールとコレル、そしてバーリオがやってきた。
「父上、こちらでしたか」
「……」
「食事まで適当にな。今日の仕事は終わらせているから問題ないだろう」
「はは、そうですね。おや、ヤクト君、ロイヤード国依頼だね。ギルファ君の時はとてもいい働きをしてくれた」
「ほう、そうなのか」
「そういえば一番好かれておったな」
「うぉふ!」
ヴァールは笑顔でヤクトを撫でながら父に告げる。自慢げに尻尾を立てたヤクトが一声鳴いていた。
そして相変わらずコレルはなにも言わず横についているだけであった。モルゲンロートが居る前での失言はまずいと自制しているようだ。
「尻尾の形が違うのだな」
「そうなんですよ! ダルはちょっと太い感じです」
「わほぉん……」
ユリに尻尾を撫でられてむず痒い顔でダルが鳴く。大人しいことに感心するモルゲンロート。
ひよこに囲まれて笑顔のリヒトにほっこりさせられたりと、ゆっくりとした時間が過ぎて行き、おおよそ二時間ほどが経過したころ、ガルフのお腹が鳴った。
『ガルフお腹空いた?』
「だな。まあ、もうすぐだろ」
「いやあ、異国の調味料で出来た料理……楽しみね」
レイカが笑顔でそう言うと、ちょうどメイドがやってきて声をかけた。
「……準備ができました」
「うむ、報告ご苦労だ。ん? なにか気になることでもあるのか?」
「い、いえ! その、見てもらった方が早いかと」
「?」
メイドは神妙な顔で返し、食堂まで先導を務めてくれた。モルゲンロートとローザは顔を見合わせてパーティールームを出る。
後に続いたディランが鼻を鳴らしてニヤリと笑う。
「ふむ、これはアレか。食材がかなりあったと見える」
「わかるのですか?」
「うむ。ワシの鼻はよく利くのじゃよヴァール殿」
「全然わからないぜ」
「……」
もちろんディラン以外に匂いを感知できた者はおらず、さすがだと肩を竦めていた。コレルはそんなディランをじっと見る。
「なんじゃ?」
「……!? い、いや、なんでもない」
「そうかの?」
「そういえばディランさんに止められたんだっけか? あの人にゃ勝てないから色々考えない方がいいぜ」
「うるさいぞ平民が――」
「コレル」
「ぐぬ……」
ガルフを睨みつけるがヴァールに窘められ黙り込む。ヒューシがくっくと笑い、ガルの背中を叩いていた。
そして、一行は食堂へ到着する。
「……!? おお……これは……」
「凄いですわ……!?」
「陛下、お待ちしておりました」
食堂へ入るとコック長が胸に手を当ててお辞儀をする。モルゲンロートとローザは手を上げて頭を上げるように示唆する。
「これは凄いな……」
「ええ、トワイトさんは本当に素晴らしい腕をお持ちです」
「彼女は?」
「あちらに」
コック長が視線を向けると、トワイトがコックたちに囲まれて指示を出していた。
「この皿はどちらに!」
「これはお肉のだから取り分ける時に使うわ。重ねておいて大丈夫ですよ」
「はい!」
「トワイト様、配膳準備が整いました!!」
「あらあら、ありがとうございます」
「こちらは我々に任せてください。最終調整を……」
「わかりました♪」
コックたちはテキパキと動き、トワイトの指示をこなしていく。それを見たディランが頷きながら口を開く。
「よく働く者達じゃ。トワイトも楽が出来たかもしれん」
「いえ、実はトワイトさんに対抗意識があったんですよ。しかし、彼女の腕前はそんなちゃちなプライドをあっさり打ち砕きましてね」
コック長は苦笑しながらそんなことを言う。
彼を尊敬してくれているので、ポッと出の女性がコック長を使うことが気に入らなかったのだろうと。
だが、実際トワイトの腕前はコック長を凌駕していた。そして『自分はあなた達のようなオシャレなのはできないわ』と謙遜していたのが効いたらしいとのこと。
「というわけでこんな感じです。……陛下、驚かないように。今回は私も唸ってしまいましたね」
「お主がそういうか」
「ま、出てくるのがアレならまず万人向けじゃな」
「ディランさんがドヤ顔……これは楽しみね!」
「わほぉん」
そして面々は席へ――