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第97話 竜、料理を作る

「え? パパとママがお城に来ているの?」

「ええ。モルゲンロート様が招待しました……とはいえ、こちらの我儘ではありますが」

「なにがどうなって……あ、みんな居るのかな?」


 ディラン達と分かれた騎士がガルフ達の屋敷を尋ねていた。

 迎え入れてから話を聞いたパーティは、ディラン達が来ているということをきょとんとした顔で聞く。


『ディランおじさんが来てるの? 会いたいなあ』

「多分、騎士さんがここに来たってことはそういうことだと思うけど……」

「そうですね、レイカさんの言う通りあなた達も城へ招かれることになっています」


 リーナが拳を握って会いたいと口にすると、レイカは騎士がここに来てその話をしたことを察していた。

 そしてレイカの予測通り、騎士は城への招待ということを告げる。


「やっぱりかー。ディランのおっちゃんが関わったらだいたいそうだよな。ヒューシは大丈夫か?」

「ヴァール様とのことか? 大丈夫だぞ」


 ガルフは問題ないことを口にし、ヒューシは例の件があるので顔合わせしてもいいか尋ねていた。

 ヒューシはきちんと話し合ってから一旦保留にしているから気にしなくていいと言う。


「では、支度ができたら教えてください。馬車を用意しているので」

「ありがとうございます! あ、ハリヤーもダル達に会いたいかな?」

「連れて行ってもいいですか?」

「はは、馬とも仲が良いのですね。構いませんよ」

『やった』


 空を飛べるリーナはハリヤーの背に乗るのが好きだったりする。一緒に行けるということでリーナはぐっと拳を握って喜んでいた。

 そんな調子で準備を整えてから外に出ると、そのまま馬車に乗り込み移動を始める。


「パパとママ、あんまり会えないかなーと思っていたんだけど、意外と会うわね」

「陛下が気に入っているから呼ばれることもあるとは思っていたが、多いな確かに」

「例の件があるし、つかず離れずってスタンスだと俺も思っていたなあ」


 トーニャが外を見ながら両親が意外と足が軽いことに驚いていた。

 ヒューシとガルフもドラゴンであるという点から王都に近づけず、自分から行くと思っていただけに意外そうだ。


「ディランさんは特に人ごみを避けたがるしね」

「まあ、パパは自分のことより身内や知り合いの頼みを優先しちゃうからねえ。寒いところは苦手なの、頼まれて氷竜さんのところへ家を作りに行ったことあるし。あれは大変だったなあ、パパが女の人に惚れられてママが本気で怒ったんだよねえ」

「なにそれ気になる」


 トーニャがレイカの言葉にディランの性格を話す。気になるエピソードが出てきてレイカが食いついていた。


『あ、ダイアンさんだ』

「おー、今帰りか」

「リーナちゃんか。それにガルフ……って、お城の馬車……!?」

「ちょっと呼ばれてな。いい獲物狩ってきたなあ」


 しかし、リーナが道を移動するダイアンのパーティを見つけて手を振り、ガルフが話しかけた。

 こちらに気付いたダイアンがリーナに手を振り返していたが、乗っていた馬車に徽章があることに気付いて言葉を詰まらせた。


「……お前達、いったいなにをしでかしたんだ……」

「やましいことはねえよ!? んじゃ気を付けてな。またギルドで会ったらよろしくー」

「ああ」

『またー』

「ねえ、さっきの話、どうなったの――」


 ガルフもダイアンに挨拶をし、馬車は遠ざかっていく。

 その馬車を見送っていると、ダイアンのパーティの一人が声をかけてきた。


「あいつら、よくわからねえよな。冒険者は間違いないが、陛下によく呼ばれているよな。この前はユリとヒューシがロイヤード国へ行ったらしいし」

「あの山に行ってからだよな。あの夫婦、なにかあるんだろうぜ?」

「……あいつらは性格もいいから、信用もできるんだろう。あんなことをした俺に声をかけてくれるからな」

「はは、違いねえ。可愛い子が二人も加入しているし、羨ましい限りだ」

「リーナちゃんはダメだぞ。ウチの妹に似ているからな。……っと、さっさと引き渡して酒場にでも行こう」


 ダイアンは先日、ガルフとトーニャ、レイカとリーナという編成でギルドに行った際、出会っていた。妹に似ているというリーナを心配していたりするのだった。


◆ ◇ ◆


「ふうむ、これがショウユにミソか……」

「真っ黒い水ですわね……」

「身体に悪そうな感じが……」


 一方、ガルフ達が出発したころすでに到着しているディラン達はキッチンで顔を合わせていた。

 モルゲンロートにローザ、そしてコック長がそれぞれ感想を言い合っているところだ。


「お醤油は摂りすぎると体に良くないので合っていますね。小皿を貸していただけますか?」

「え? はい」


 コック長に小皿を借り、スプーンで少量をとって三人に口をつけてもらう。


「うむ、これはしょっぱいな……」

「辛いとも違う不思議な感じですわね」

「ふむ……これは確かに調味料だ。しかしこれだけのものを作るのは素材も期間も凄そうだ……」

「素材はお豆さんとお塩だけですよ。私も詳しくはないのだけれど、熟成期間はこの色になるまで二年とか?」

「二……!?」


 コック長はその長さに驚きを隠せなかった。

 例えば肉につけるソースづくりなどはそれこそその場で出来た肉汁を加工して作る場合が多いからだ。

 そして、熟成期間で味が変わるのも面白いですよと笑うトワイトに肩を竦めていた。


「オミソはどう使うんですの?」

「これは汁物ですね。直接、焼いたりもしますけど」

「オミソシルはザミールから聞きました。今日はそれを食べてみたいですわ! そして焼く……オミソを焼くのですか……」

「田楽がいいのですけど、お豆腐がないのでおにぎりに塗って焼きましょうか♪」

「また知らない食材が出て来たぞ……」


 トワイトが喋る度に三人の頭に「?」が浮かんでいた。

 それでも楽しそうに語るトワイトの料理は困惑よりもワクワク感の方が強かった。


「では取り掛かりますね」

「お願いします。食材はその冷蔵魔道具の中にあるので、お好きなものを」

「ありがとうございます♪ あら、たくさんありますね! お味噌汁はちょっと変えてみようかしら? でもザミールさんから聞いているならシンプルな方がいいかしらね」

「時間の許す限り作ってみるのは如何ですか? 私も手伝いますよ」

「ありがとうございます。ではキッチンをお借りしますね」

「では我々はディラン殿の所へ行っておきますので、出来たら食堂へ」

「ああ、楽しみですわね……!」


 そう言って国王夫妻はキッチンを後にし、トワイトとコック長、それと料理人だけが残された。


「陛下のお気に入りみたいだけど、そんな得体のしれないもので美味しい料理がつくれるのかねえ?」

「あら?」

「コック長、俺達は見学させてもらいます。その方の腕を知らないので、手伝うまでは出来かねます」

「お前達……! コメはこの方から教わったのだぞ」

「それと料理は別でしょう」


 モルゲンロート達が居なくなったところでコックたちから不満の声が上がった。自分達の庭に踏み込まれた感じがしていると口を尖らせる。

 誇りをもってやっているところに知らない女性が来たことが気に入らないらしい。

 コック長が窘めようとしたところで、トワイトが笑顔で頷く。


「大丈夫ですよ♪ 今回は頼まれたからごめんなさいね。すぐ終わらせますから――」

「……!?」


 トワイトは肩に下げていたカバンから庭で獲れた野菜を取り出し、さらに冷蔵魔道具から豚と思われる肉の塊を取り出した。


「まずはニンジンさんから行きましょうか。大人数だし、ちょっと急ぎますね」

「速い……!?」

「なんだ……!?」

「バカな……まったく食材の形にブレがない、だと」


 いつもより人数が多いのを気にして速度を増していた。手の動きがまるで見えず、かつ、切った食材は均一という驚くべき技術に冷や汗をかく面々。


「お肉も柔らかくていいですね♪」


 さらに豚肉の塊を家から持ってきた包丁『ドラゴントゥース』で薄切りにしていく。


「どういうことだ……!? 肉の塊があんなにきれいに斬れるものか!?」

「腕も凄いが、あの包丁……欲しい……!」

「うふふ、作り甲斐がありますね」

「いやはや、驚きですな。芋はこれくらいでいいでしょうか」

「ありがとうございます!」


 調理開始から数分でポカンとする料理人たち。

 コック長は上には上がいるのだと諭しながら、トワイトを手伝う。


 そして―― 

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