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第94話 竜、お土産をもらう

「わん」

「こけー」

「あらあら、ダメよ」

「あーう」


 馬を荷台から外してその場で休ませ、商人のザミールはそのままディランに担がれて宿泊棟へと連れていかれた。

 ベッドに寝かされている彼にルミナスが肉球をお腹に乗せ、ジェニファーが枕元で鳴く。

 トワイトが窘めるとその場を離れていった。


「ん、ここは……」

「あら、目が覚めた? 家の前でぐったりしていたから運んだの」

「あ、そ、そうだ! 留守だったから少し休もうと思ってそのまま……」

「お、目が覚めたか」


 一人ぶつぶつと状況を思い出しているザミール。そこでディランが水を持ってやってきた。


「ああ、ディランさん! すみませんどうも。今朝、こちらへ帰って来たのですが、力尽きてしまいました」

「そのようじゃのう。日が暮れるまでぐっすりじゃったからな」

「え!?」


 ディランがコップを渡し、水を飲んだザミールはすでに日没であることを聞いて目を見開いて驚いた。


「まったく目を覚まさないから少しだけ心配になったが良かったわい。飯は食えるか?」

「え、ええ」

「それじゃ移動しましょうか」

「あーい♪」


 トワイトが微笑みながらそう言い、ひとまず自宅の方へ移動することになった。

 外へ出て玄関へ回ると、休ませていた馬の周りにダルとヤクト、それとひよこ達が居た。


「ぶるふー」

「わほぉん」

「うぉふ」

「ぴよー」

「なんだか楽しそうだなあ……」


 すっかり暗くなった空を見上げた後、なにやら言葉を交わしている様子のペット達を見て、ザミールは苦笑していた。


「あやつには餌と水を与えておるから心配せんでええぞ」

「ありがとうございます」

「みんな、入るわよ」

「わほぉん」

「ぴよぴー」


 トワイトが呼び、ペット達の足を拭いてから家の中へ。ザミールは靴を脱ぐタイプの家になったことを知り、感心していた。


「ああ、リヒト君がハイハイできるようになったんですね!」

「あーい♪」

「ぴよー」


 リヒトはリビングに降り立つを、片手を上げてトコトと一緒にザミールへいらっしゃいの声をかけていた。


「それじゃ準備をしてきますね」

「ああ頼むぞい。それで、今日はどうしたのじゃ? 随分とくたびれておったが」

「あ、はい。実はお二人の話を聞き東の方へ遠征をしてきたのです」

「なんと。東へか? 随分姿を見ないと思っておったが、そういうことじゃったか。かなり遠かったろう」


 ディランが珍しく驚いていると、ザミールは水を飲んだ後に困ったように笑い、話を続けた。


「いやあ……はは、実は向こうまではいけていないんですよ。準備不足だったため、途中で引き返して来たのです。ご存知だと思いますが、人間われわれはあちらの大陸へは船を使わないと行けないでしょう? そこで船が出る時期を誤っていて……」

「ふむ」


 ザミールは東の国へ行くつもりで旅に出ていたらしい。

 ロイヤード国方面が東になるが、途中で北へ進路をとるとテンパールという海沿いに面している国へ到着するのだが、そこの船に乗れなかったとのこと。


「どうしてまた東へ?」


 そこで料理を持って来たトワイトが話を聞いて首を傾げていた。それに対してザミールは言葉を返す。


「ここでの料理をごちそうになった際にトワイトさんが調味料のことを口にしておりましたでしょう? それを探しに行こうと思っていたのです……!」

「まあ、私のせいだったのね」

「いえいえ、そこはむしろ私の商人魂に火をつけてくれたことに感謝をしております!」


 トワイトは料理をテーブルに置きながら驚くが、ザミールはむしろ商材を教えてくれたことを感謝していた。

 揃ったところで三人は食事を始め、ザミールは満面の笑みでお米と焼き魚をガツガツと頬張っていた。


「いやあ、やはり美味しいですね!」

「ふふ、いつものお父さんのお米と川魚ですけどね」

「おっと! そうだ! 少しお待ちを」

「ん?」


 ザミールは半分ほど食べたところでポンと手を打ち、いそいそと外に出ていく。

 何事かと二人が顔を見合わせていると、ザミールはすぐに戻って来た。

 手にはガラスの瓶を二つ持ち、一つは黒い液体が入っており、もう一つは茶色の物体が入っていた。


「む、こいつはもしや」

「さすがはディランさん。気づきましたか。そうです、これはショウユですよ」

「まあ、どこでこれを? こっちはお味噌ね」

「はい! 東には行けませんでしたが、港町まではいきました。そこでは交易が盛んでしてね、調査したところあった、というわけです」


 ザミールは誇らしげに笑うと、早速焼き魚に醤油をかけていた。ディラン達も借りて食べる。


「んおお……! これは凄い……! 向こうでも食べていたのですが、使い方があまり良く分かっていないようでした。トワイトさんの焼き方が絶妙ですね!」

「長いこと生きていますからね♪ おばあちゃんですもの。大根をすりおろしたものにも合うのよ」

「いまだに信じられませんがね……ほう、これは不思議な美味さがありますね……」


 トワイトとディランが二千を越える年齢ということにいまだ慣れないと肩を竦めながら話を続ける。


「荷台にまだまだあります。是非使って料理を作っていただきたいのですが……」

「え? 売るのではなくて?」

「ええ。実際、向こうではかなり安く買えたんですよ。交易品としてはまあまあ良いという感じでしょうか」


 醤油と味噌を使った料理を作って欲しいとザミールは目を輝かせていた。

 仕入れ自体は樽いっぱいでもそれほどかからなかったという。

 東の方ではポピュラーな調味料なので、入ってくる量も多いのだとか。それほど腐らないのが拍車をかけているのだそうである。


「なら今日は泊っていくか? 宿もあるし、明日一日ウチで食べるとか? どうじゃ婆さん」

「私はいいですよ。久しぶりにお味噌汁を作ろうかしら」

「是非……!!」


 むしろタダで醤油と味噌を置いていき、食べたいときになにか作って欲しいとまで言う。

 前に言っていた料理が食べられるならとそれだけのために東へ行こうとしていたのだ。


「お主も変わっておるのう。ワシらが飛べれば早いのじゃが、そういうわけにもいかんからな

「なあに、そこは商人の私にお任せください! 欲しいものがあればどこにでも行きますよ!」

「頼もしいですね! それじゃあお味噌汁とお漬物と目玉焼き、ソーセージを朝にして……夜は肉じゃがを作りましょうか」

「これはまた気になる料理。よろしくお願いします!」


 そんな調子で話は進み、ザミールは泊ることになった。

 風呂に入り、髭を剃り、さっぱりした彼はリビングで冷たいミルクを飲む。


「ぷはー! いやあ、ここは静かでいいですねえ」

「あーい!」

「わんわん!」


 リビングのソファに座っていると、ルミナスに乗ったリヒトが来て手を上げて挨拶をしていた。


「ははは! 今日はお邪魔させてもらっているよ! ……っていうかリヒト君、お座りができるようになっている!?」

「最近できるようになったの。そろそろお休みの時間ね」

「ふぁ……」

「ぴよー」


 トワイトがそういうと、リヒトがあくびをする。今日も遊戯室で遊んでいたので疲れたようだ。

 ベッドへ連れていくと、ひよこ達も解散とばかりに小屋へと戻って行った。


「そういえばディランさんは?」

「お馬さんの厩舎を作るって出ていますよ。外のままよりいいでしょうって」

「ううむ……どんどん大きくなっていきますね……」


 そこからすぐに厩舎は完成し、馬は藁の上でゆっくり休めることになった。

 ディラン達の気配が残っているので魔物は近づいて来ないのだが、屋根はあった方がいいだろうという気遣いである。


 そして――


「肉じゃが、美味すぎる……! あんなに安く買えるジャガイモがこんなにホクホクになりますかね!?」

「お口にあって良かったわ♪ お味噌汁はどうかしら?」

「これもまたおコメに合いますね……!! これと漬物だけでもいけます……」

「婆さんの肉じゃがは里でも人気じゃったからな」


 味噌汁をずずず……と吸いながら、ふふんと笑いながらディランが妻の自慢をしていた。

 そして翌日、ザミールは元気を取り戻して町へ戻っていった。

 馬もゆっくり休んで、醤油と味噌が無くなり快適な足取りだった。


 そして、久しぶりにガルフやモルゲンロートに会い、そのことを話すと――

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