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老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる  作者: 八神 凪


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第92話 竜、久しぶりに家でゆっくりする

「オルドライデ様がいらしゃいました」

「お、通してくれ」


 ディラン達とすれ違った後、オルドライデは登城しギリアムの下へ訪れた。

 報告を聞いたギリアムは早速、応接室に彼を招く。


「ようこそロイヤード国へ。王子のお前さんが来るとはね」

「ギリアム陛下、お久しぶりです。まあ、両親はああいう人間なので……平民と祭りを楽しむといった行事には出たがらないのですよ」

「相変わらずだが、ドルコント国は平常って感じもするぜ」

「お恥ずかしい限りで」

「おっと、騎士達には聞かせない方が良かったかねえ」


 ギリアムが呆れた顔でそう言うと、オルドライデは肩を竦めて苦笑していた。

 半分、批判とも取れる発言なのでギリアムがくっくと笑いながら返すと、オルドライデは首を振って言う。


「問題ありません。ここに居る者は私の直属で、両親とは関係ない組織で作り上げている騎士団なので。平民も騎士雇用を採用しているので」

「へえ。そりゃ怒っている顔が目に浮かぶね」

「ははは、その通りですよ」


 隣国なのでそれなりに知っているギリアムの言葉へ気さくに返すオルドライデ。

 ギリアムはとりあえずと話を続ける。


「本当ならクリニヒト王国のヴァール王子も居たんだが、ちょっとゴタゴタがあってな。早々に帰っちまった」

「ああ、ここへ来る途中会いました」

「そっか。もう懸念は無いはずだからゆっくり祭りを見ていってくれ。それと――」

「お父さーん! ディランおじちゃんが木彫りの熊さんをプレゼントしてくれたよ!」


 そこでディランが贈った木彫りのデッドリーベアを持ってギルファが突撃してきた。ギリアムとオルドライデは目を丸くして驚く。


「おう、ギルファ。ちょっとパパはお話をしているからノックをするんだぜ?」

「あ、ご、ごめんなさい……」

「ああ、構わないよ。いい木彫りだ」

「うん! 背中に子どもが乗っているんだ、これはお父さんかなあ?」

「お父さん……」


 ギルファが熊の木彫りを掲げて自慢げに言うと、オルドライデはずぅんと暗い顔になった。


「どうした?」

「いえ……子供、いいですね。ギルファ君はなんだか逞しくなったような気がするけど?」

「お前もその内、結婚するだろ? ま、今回のゴタゴタついでに色々あったんだよ。ヴァールに会ったなら近くに子ども連れの夫婦と動物も居たろ? 彼等に助けてもらった形だな」

「ああ……」


 オルドライデはそこで子供を泣かしてしまったことを思い出す。

 彼等はギリアムの恩人だったかと思いつつ、話を進める。


「では滞在中はよろしくお願いします。ギルファ君、木彫りの熊もいいね」

「うん!」

「……」


 ギルファが満足気に頷くと、オルドライデは少し寂しそうな顔で頷いていた。ギリアムはなにかあるかと悟ったがひとまず様子を見ることにした。


 その後は特にトラブルもなく祭りは終了し、オルドライデはカーラとギルファと交流を深めて自国へと帰っていった。


「手掛かりは無しだったか」

「一応、素性は隠して捨て子の情報とシエラ様が居ないか確認したのですが、ギルドなどにもそういった話は無いようでした」

「そうか……だが、遺体が出るまで私は諦めんぞ――」


◆ ◇ ◆


「いやあ、長かったねえ。ダル、またねー」

「わほぉん」

「またガルフ達と一緒に来ます。……少し、事情が変わるかもしれませんが」

「うぉふ?」

「こけー?」


 ロイヤード国からまた五日かけてクリニヒト王国へと戻って来たディラン達。

 一旦、近くの村まで一緒に帰りユリやヒューシ達と別れるところであった。

 ユリはドレスを着たかったようで、パーティまで居たかったと道中、口にしていた。ヒューシはまた別の機会があると宥めていたりする。

 そのヒューシがヴァールの方をチラリと見ながら「次は事情が変わるかも」と言う。

 ペット達が足元で首を傾げているが、それ以上は言わなかった。


「よくわからんが、またトーニャを連れて来ると良い。ワシらは行くぞい」

「あーう」

「また会いましょうね」

「はい!」


 ダルの頭を撫でながらユリが返事をしていると、続いてバーリオとヴァールが近づいて来た。


「陛下には今回の件、伝えておきます。あいつを捕まえた功労者は間違いなくディラン殿ですからな」

「まあ、ギリアム殿に土産をたくさんもらったから別にええがのう。これで平和になるなら儲けものじゃ」

「そうですね。ドルコント国の政策に感銘を受けたらしいので、それは少し違うと教えることからになりそうです」

「頑張ってほしいですね♪」

「あうー」

「ふん」


 トワイトとリヒトが横に並ぶコレルへ声をかけると、仏頂面で鼻を鳴らしていた。

 しかし手を伸ばしていたリヒトの小さな手を掴んで振っていたりもする。


「あれ? 意外」

「私は貴族至上主義だが、平民を虐げるとは言っていない。適切な立場を分からせねばならんのだ! それに捨て子だったそうじゃないか。そういうことはあってはならん」

「あーい♪」

「こら、よせ!? 平民の子が馴れ馴れしくするんじゃあない!?」

「オルドライデ様の時は泣いていたのにコレルは大丈夫なんだ」


 リヒトは笑顔でコレルの手をプラプラさせると、焦りながら慌てて離れる。そこでユリが悪いヤツだったのに平気なのかと口をついた。


「呼び捨てにするな娘!?」

「ユリよ。ま、あと少しだけよろしくねー」

「貴様の妹、心が強すぎんか……?」

「まあ、いつも通りですね。村人ってのはそうでないと暮らしていけないのですよ。あなたの言う『貴族』というのを相手にするとか」

「ぬう……」


 コレルは口を尖らせて呻くが、こればかりは育ちと性格の差だとヒューシは妹を庇った。


「では行きましょうか」

「頼むよ」


 バーリオがそろそろ移動しようと声をかけ、ヴァールがそれに応じる。それぞれ荷台に乗るとゆっくり馬車が移動し始めた。


「また会おうぞ」

「あーう!」

「わほぉん」

「「「ぴよー」」」

「またねー!」

「トーニャ達とまた来ます」


 ディラン達一家は村の前で見送り、遠くなっていく一行に手を振っていた。賑やかに見送った後、アッシュウルフ達が木彫りの前で遠吠えをする。


「「「わおーん」」」

「あーい♪」

「こけー!」


 リヒトが手を叩いた後、ジェニファーが真似をして大きく鳴いていた。そして満足したペット達を連れて久しぶりに家へ帰って来た。


「ふう、やはり自宅が一番いいな」

「あーう!」

「ぴよぴー!」


 玄関を開けて靴を脱ぐディランを尻目に、抱っこされていて汚れていないリヒトがひよこ達と共にリビングへ爆走した。

 旅行中はほぼ抱っこされており、自分で動いたのがギルファとベッドでじゃれあっていた時だけなのでここぞとばかりに動いているのだ。

 そのまま遊戯室へとハイハイで突っ込んで行く。


「うぉふ!」

「わん!」

「はいはい、あなた達は足を拭いてからね」


 リヒトを一人にできないとヤクトとルミナスがそわそわしながら前足を出す。

 トワイトが丁寧に前足と後ろ足を拭いてあげるとぴゅーと二頭はリヒトを追いかけて行った。


「せわしないのう。まあ、無事帰れたから良しとしようか」

「わほぉん……」

「こけー」


 ダルは急ぐことなく、お気に入りのクッションを咥えて遊戯室へと入っていき、ジェニファーは自身の小屋になにも無かったか確認しに行った。


「それじゃ私達もゆっくりしましょうか」

「婆さんはそうしてくれ。ワシは畑と米を見てくるわい。ひとまず茶を頼む」

「はいはい♪」


 早速、遊戯室でリヒトを見ながらお茶を飲み、しばらく休んだ後でディランは外へと足を運ぶ。

 トワイトは編み物をしながらみんなの様子を伺い、ゆっくりと過ごす。


「きゃー♪」

「ぴよ♪」

「うぉふうおぉふ!」

「気を付けてね」


 ボール遊びや馬車のおもちゃで和やかに遊んでいるのを横目に編み物を続けていく。ダルはクッションの上で丸まり、あくびをしていた。


 そしてふと、とても静かになっていることに気付く。トワイトが顔をあげると、遊び疲れて寝てしまったリヒトとペット達が居た。


「あー……」

「すぴー」


 ヤクトを枕にし、ルミナスの毛を掴んでいた。

 その足元にひよこ達が転がっていて、それに気づいたダルはクッションをリヒトの近くに持って行き、ひよこ達を一羽づつ咥えてクッションに乗せていった。


「いいの? ダルのお気に入りじゃない」

「わほぉん」


 別に構わないと一声鳴いてからその辺に寝そべっていた。トワイトはそんな彼等に毛布をかけながら微笑む。

 

「旅行をすると疲れるものね。お休み、みんな」


 そう言って静かにリビングへ戻るのだった。

 そして、昼寝をしたから元気かと思いきや、夜は夜でしっかり寝入るリヒトであったとさ。

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