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第90話 竜、名残惜しまれる

 祭り一日目が終わった翌日。

 ディラン達は朝食に招かれていた。ギリアムやヴァール、カーラにギルファとほぼ全員が顔を合わせて昨日のことを振り返る。


「まあ、モルゲンロートに似てるよお前は」

「いやあ、多少強引なところは母に似ているとも言われますね」

「確かにそういうところはあるかもな」

「王妃様もお優しいみたいですし、会って見たいですね」

「その内、お前達を連れて行くか。で、なんかあいつ、昨日は大人しかったぞ。反省しているのか知らんが適当に使ってやりゃあいいだろ。で、ディラン殿は今日帰るんだって?」

「え!? そ、そうなの?」


 ヴァールの件でギリアムが父親に似ていると評価した後、二人を連れてクリニヒト王国へ連れて行くと言う。続けて一家の話になり、ギルファが目を見開いて驚いていた。


「うむ。事件を解決しに来たわけではないが、犯人は捕まえた。祭りも楽しかったし、長居するわけにもいかん」

「まだお祭りはあるよ! リヒト君やヤクト達ともっと遊びたい……」

「ごめんねギルファ君」

「あーい」

「お母さん、リヒト君……」


 トワイトが申し訳ないという表情をし、リヒトが声を上げた。ギルファは寂しそうな表情をして二人を見つめる。


「ま、決めたことなら仕方ねえさ。ギルファ、また会えばいいじゃねえか」

「うん……ごちそうさま」

「ギルファ……」


 食事もそこそこにギルファは席を外して食堂を後にする。カーラが心配そうな顔で見送ると、ギリアムがパンを飲み込んでから口を開いた。


「後で俺もフォローしとく。カーラも頼んだ」

「もちろんよ。でも、折角仲良くなったからまた元気が無くなっちゃうかなあ……」

「うーむ」

「小さい子は繊細だからね。後でギルファ君に会ってみるよ」


 ディランが唸り、ヴァールも話をしてみると言う。

 ギリアムはその内、帰るのは分かっているから先か後かの話だし仕方ないから気にするなと告げた。


「私とリヒトも話しますね。ちゃんとわかった上でお別れをしたいですもの」

「任せるぜ。ここは同じ王子のヴァールと女性陣に任せるか」

「あーう」

「うふふ、リヒトも行くって言ってますね♪」

「おう、頼むぜ!」

「あー♪」


 そうして朝食を終えた後、ヒューシとバーリオを除く者でギルファのところへ行くことにした。


「ギルファ、居る?」

「……うん」

「入っていいかしら?」

「あー」

「大丈夫だよ……」


 カーラが入室を尋ねると、弱々しい感じで返事があった。リヒトが首を傾げている中、ぞろぞろと入っていく。


「あーい♪」

「リヒト君……」

「お邪魔するわね♪」

「お母さんにディランおじちゃんにユリお姉ちゃんも? ヴァールさんも居る……どうしたの?」


 さすがに多いと面食らい目を丸くするギルファ。

 カーラがベッドに座っている彼に近づくと、頭に手を乗せて言う。


「ほら、あんたが落ち込んでいるからみんなが来てくれたわよ」

「そうそう! ほら、一緒にお祭りに行ったしちゃんと挨拶をしたいしね♪ 楽しかったですよギルファ様!」

「ユリお姉ちゃん……うん」


 まずはユリが片膝をついて笑いかけた。

 祭りでアッシュウルフ達と一緒に構ってくれたのは彼女である。続けてヴァールが口を開く。


「私もギルファの気持ちはわかるよ。城に居たら友人もできないし、城仕えの人たちは気遣ってくれるけど友人じゃないからね」


 父親は忙しく、母のローザが一番構ってくれたとヴァールは言う。急に親しい者達ができたので高揚していると告げた。


「それはあるわね。ごめん、私もあんまりかまってあげられなくて」

「ううん。みんな忙しいのは分かっているつもりだよ」


 姉のカーラも学院へ通っていたころはギルファ構えなかったと謝罪を口にした。

 するとトワイトが近づいリヒトをベッドに降ろす。さらにヤクト達も足元へやってきた。


「偉いわ。ちゃんと王子様が出来てるのね」

「あーい♪」

「わあ!? 抱っこしていいの?」

「あい!」

「ぴよー!」

「あはは、トコト達も出て来た」


 リヒトがはいはいでギルファのところへ行き、膝の上へ行く。抱っこするとひよこ達がポケットから顔を出した。


「うぉふ」

「ヤクト……やっぱり居なくなると寂しいよ……」

「そうね。私も寂しいわ」

「ほんと……?」


 ヤクトが前足を乗せて一声鳴くと、泣きそうな顔になる。トワイトも困った顔で寂しいと言うとギルファが尋ねる。


「ええ。でもね、お別れというのは必ずあるの。長く生きている私やお父さんも多かったわ。もう会えない方も居るの」

「それは……寂しいね」

「ええ。でも、ギルファ君にはまた会えるでしょ? だから次に会えるのを楽しみにできるのよ」

「……!」


 長く生きているという意味は本当にそのとおりなのだが、ギルファには分からない。しかし、亡くなった母親と違い、ここに居る人達とはまた会うことができるということは理解できる。


「しっかりお勉強をして、健康に過ごしてくれたらお母さんは嬉しいわ。病気になると大変だから。そしたらまた遊びに来るし、来てもらってもいいのよ♪ ほら、涙を拭いて」

「うん……わかった! 今日はバイバイするけど、また会えるよね!」

「あーい♪」

「「「ぴよー♪」」」

「うぉふ」

「こけー!」

「わほぉん」

「うわん♪」

「うわあ!?」


 ギルファが決意すると、ペット達が一斉にギルファを飛び掛かり、リヒトと一緒にベッドへ転がった。


「あはははは! みんな酷いや!」

「あーう!」

「私も混ぜてー!」

「わあ、ユリお姉ちゃんも!?」


 もみくちゃにされた二人はそれでも楽しそうに笑っていた。カーラは腰に手を当てて呆れたように言う。


「ま、これで大丈夫かしらね?」

「お別れはいつでもあるから。特に一番上の存在……王様とかになると多くなるのよね。今の内に理解しているととても強い子になると思うわ」

「そうじゃな。出会いと別れ、生きていると必ずついて回るものじゃ。ずっと一緒にいるわけではないからのう」

「リヒトだっていつかはそうなりますからね。今と少し先の未来をどう過ごすかが大事なの」

「そうですね。私にもそれはよくわかります」


 ヴァールがじゃれ合う姿を見ながら微笑む。いつか来る別れに怯えないような強い心を持って欲しいと口にしながら。


 そして――


「短い間じゃったが世話になったのう」

「いやいや、呼びつけてあわよくば犯人を……とか考えていた俺のせいさ。土産、ありがたくいただくぜ」

「お米の炊き方は教えましたから多分大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。後でゆっくりいただきますね!」


 ――ディラン一家とヴァール達の帰る時間となった。

 城の入り口まででいいと集まっている。ディランのお土産は昨夜に渡しており、今日はギリアムからお土産を貰いディランが担いだり荷台に載せたりしていた。


「あーう?」

「またねリヒト君! 遊びに行くよ!」

「あい!」


 トワイトに抱っこされたリヒトはギルファと握手をしていた。

 まだ赤ちゃんなので、お父さんとお母さん、そしてペット達がいるため寂しいという感覚はないようだった。

 しかし握られた手をしっかり握り返していた。

 吹っ切れたギルファは微笑み返す。


「くそ……どうして私がヴァールなんかと……ぐえ!?」

「ヴァール『様』だ、コレル。一応同僚になるのか、よろしくな」

「ぐぬう……どいつもこいつも……覚えていろよ!」


 もちろん移送するコレルも荷台に居た。

 ひとまず国を越えるまで手枷を嵌められており喚いていた。それをバーリオに窘められ、苛立ちを露わにしていた。


「ははは、元気そうで安心したよ。それではギリアム陛下、また」

「ああ。今度はカーラを連れて行く。そんときゃデートでもしてやってくれ」

「お父さん!!」

「考えておきますね」

「ヴァールさんまで!? もう……お気をつけて」

「ありがとうカーラさん。是非クリニヒト王国へもおいで下さいね」

「ええ!」

「では――」


 ヴァールとカーラも握手をして笑い合うと、馬車はゆっくりと進みだす。周囲も騎士達の馬が随伴し、まるでパレードのようになっていた。


「またねー! トワイトお母さん! リヒトくーん! ディランおじさんもー!」

「またねー」

「あーい!」

「達者でな」


 背後から聞こえてくるギルファの声に振り返り、トワイトとリヒト、ディランも歩きながら振り返り手を振る。


「うぉふ!」

「ヤクトー!」

「「「ぴよ!」」」

「わほぉん」

「わんっ!」

「こけー!」

「みんなもまた絶対遊ぼうねー!」


 そのまま町の外へと進んでいき、ギルファ達は姿が見えなくなるまでディラン達を見送っていた。


「行っちゃったか……なんだか不思議な夫婦だったわ」

「ま、色々あるんだよ。……お、ギルファお前よくみんなの前で泣かなかったな」

「う……ぐす……」

「うん、頑張ったわねギルファ」


 カーラが不思議な一家だったと口にし、ギリアムが笑う。するとギルファの目から涙が溢れていた。


「お父さん、お姉ちゃん。僕、勉強とか頑張るよ! 次に会った時、みんなに頑張ったことを言うんだ!」

「おう! それでこそ俺の息子だぜ! ……悪かったな、構ってやれなくてよ」

「ううん! お父さんも大変だったんだし、今なら分かるよ。お手伝いできるようにするからね」

「ふふ、なんだか頼もしいわね! 私もがんばろっと!」

「よーし、祭りが終わったら剣の稽古でもするかー!」

「はーい!」


 ギリアムは息子と娘の頭に手を置いてからニカっと笑い、二人を撫でるのだった――


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