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第89話 竜、花火を見ながら遊ぶ

「うわあ、凄いよリヒト君、お母さん!」

「あーい♪」

「あらあら、キレイねえ」

「うぉふ!」


 お祭りに戻っていたトワイト達は広場のベンチで花火を観覧していた。

 日も暮れ始めており、少しずつ空にキレイな大輪を咲かせていく。リヒトは大きな音に怯みもせず嬉しそうに手を上げている。


「魔石もこういう使い方をすればいいのにねえ」

「あーう?」

「わほぉん……」

「わん」

「うぉふ」


 花火は魔石に爆発魔法を封じて炸裂させている。そのためトワイトは回収した魔石の中身を知っているため残念そうな表情でそう口にした。

 魔石をかじるとおかしくなると聞いていたアッシュウルフ達は身震いをする。


「みんな戻ってくるかな……?」


 そこでトワイトと手を繋いでベンチに座っているギルファが姉や城に戻った者達を心配する。

 

「大丈夫ですよ王子。城からでも見えます」

「折角だし一緒にここで見たいなって思ったんだ……」

「ああ、左様でしたか」


 騎士が花火はどこからでも見えますよと口にするが、ギルファはここでみんなと一緒に見たかったと肩を落とす。

 そんな彼に申し訳ないと困った顔で頭を下げる騎士。


「ギルファ~」

「え? ……あ! お姉ちゃん!」


 そこへ姉のカーラの声が聞こえてきて、ギルファの顔がパッと明るくなる。

 続けて、ディランにユリがついてきておりトワイトの隣へ行く。


「戻って来たぞい」

「あなた、おかえりなさい。一緒にみられそうで良かったわ」

「あー♪」


 やはり一緒に花火を見れるかどうかを気にしていたトワイトがそう口にし、ディランは頷く。リヒトはそこでディランの膝へ移動しようと手を伸ばしたので抱っこをした。

 

「ぴよー♪」

「ぴよぴー!」

「ぴ!」

「これ、ポケットから出てはいかんぞ。まあ、今日くらいはええか」


 リヒトが移動するとひよこ達がポケットから飛び出してディランの肩や頭に乗ってくちばしでつついて労う。

 実際は花火を見るためなるべく高いところへ行きたかっただけだったりする。


「ただーいまー♪」

「わほぉん」

「わん♪」

「うぉふ!」


 ユリはトワイトの足元に寝そべったダルや、しっかりお座りをしているルミナスとヤクトを撫でまわしていた。


「それじゃあギルファ君はお婆ちゃんの膝に乗りましょうね」

「わー、ありがとう!」

「すみません弟が」

「いいのよ♪ リヒトと遊んでくれていますからね」

「見て見て! 大きいよ!」

「あーい♪」


 カーラがギルファの甘えっぷりに苦笑しながらトワイトへ謝罪をするも、トワイトは気にした風もなく返す。

 その時ひときわ大きなものが上がり、リヒトが興奮気味に大きな声を上げた。


「そろそろミルクの時間よリヒト」

「あい!」

「僕もお腹が空いたなあ」

「そう思ってふかしパンとスープ、グレートオックスの香草焼きを買って来たわ」

「あ、お姉ちゃんさすが!」


 そのままやいのやいのと、やれ毒見だなんだと騎士達も食事をしながら花火に目を向ける。


「あー♪」

「早く大きくならないかなー? 一緒にご飯食べたいよ」

「あい」


 ミルクを飲んでご満悦なリヒトを見てジュースを飲みながらギルファがそんなことを言う。

 

「すっかり気にいっちゃったわね」

「弟みたいな感じ!」


 カーラが呆れながらも、元気になって良かったと小さく呟いていた。

 ユリも地べたに座ってアッシュウルフ達と仲良く食事をする。

 そこでトワイトがディランへ話しかけた。


「終わったのですか、あなた?」

「そうじゃな。まあ人間の決まり事は人間に任せるしかないからなんもしておらんけどな」

「それもそうですね♪ 花火、トーニャちゃん達にも見せて上げたかったわ」

「うむ。後は祭りを楽しむとしよう」

「あーい♪」

「少し高いところから見るか?」


 ディランはリヒトを肩車して立ち上がる。一気に視界がいつもと違う高さになり、リヒトは怖がるどころか目を輝かせていた。


「あーう♪」

「あ、リヒト君いいなあ」

「ならギルファはワシが担いでやろうか」

「え? わあ……!?」


 ギルファはジュース片手にリヒトを羨む。

 するとディランはしゃがみ込み、片腕をディランのお尻に回すと、そのまま持ち上げた。


「あはははは! 凄い凄い!」

「ディランさん凄い……!? 確かにギルファって軽いけど、そんなに軽々と持ち上げるなんて」

「お安い御用じゃて」

「あー♪」

「楽しいなあ。僕、こんなに楽しいの久しぶりだよ!」


 ギルファがリヒトと一緒に花火を見ながら年相応の笑顔でそんなことを言う。

 しばらく花火を見ていると、足元に気配を感じたディランが下を見ると、目を輝かせたルミナスとヤクトがお座りをしていた。


「む? なんじゃ?」

「わふ!」


 すると突然ヤクトがルミナスの背中に飛び乗った後、 そこからさらにジャンプして着した。


「おお、高い高いをして欲しいのか?」

「「わふ!」」

「ああ、ここなら天上がありませんしいいかもしれませんね」

「高い高いって赤ちゃんにするやつ? ヤクト達もしたいんだ?」


 正解をしたので二頭は前足をディランの足に乗せて高く鳴く。仕方ないとギルファを降ろしてルミナスを掴む。


「行くぞ? ……それ!」

「「「え!?」」」

「わぉぉぉん♪」

「あーい! きゃー♪」


 掛け声が上がった瞬間、ルミナスはとんでもなく高いところまで飛んでいく。

 頂点に達したその時、ドーンと花火が背景になった。


「あら、キレイね!」

「なんだか絵画みたいでしたね!」

「あんなに飛ぶものなの、か?」

「わん!」


 トワイトとカーラが拍手をし、賞賛する中、騎士達は呆気に取られていた。おおよそ人間が飛ばせるだろうかという高さだったからだ。

 そしてルミナスはくるりと一回転して着地し、シャキーンと背筋を伸ばして鼻を鳴らしていた。

 

「次はヤクト?」

「うぉふ!」


 ギルファに言葉に応えるように鳴いて前足をふりふりとするヤクト。

 ディランが舞い上げると、またタイミングよく花火が散った。


「おおー! ヤクト凄いや!」

「うぉふん♪」

「あー♪」


 姉のルミナスと同じく一回転して着地をし、ドヤ顔を決めた。 リヒトとギルファは拍手を何度もする。


「おや、ダルはどうしたのじゃ?」

「あー……あはは」

「あらあら」


 そしてダルはというと、空に舞いあげられるのが嫌だと、ユリの膝の上でクッションのように丸くなっているのだった。

 それからひよこ達とリヒトを飛ばし、ギルファもやって欲しいとせがんで騎士達を驚かせていた。

 やがて花火が終わり、リヒトとギルファが眠ってしまったので城へ戻ることになった。


「すみません何から何まで」

「いいのよ。お母さんが居なくて寂しかったみたいだから私に懐いたのね。これからはもう大丈夫そうだわ」

「お父さん……お姉ちゃん……」

「そう、ですね」

「あうー……」

「ふふ、可愛い」


 ディランがリヒトを抱っこし、トワイトがギルファをおんぶしててくてくと歩きながらそんな話をする。


「こけー」

「はいはい、カバンにずっと入っていて食べ損ねた分は今あげているじゃない」


 近くではジェニファーのカバンを持ったユリが餌を食べさせていた。どうも出るタイミングを失い、寝入っていたようである。

 それぞれ部屋に戻り、お風呂をいただいた後はゆっくり休むことに。

 部屋にはユリと話を終えたヒューシがディラン達のところへ赴いていた。


「――というわけで僕達は明日、帰ることにします」

「そうか。ならワシらも帰るとするか」

「まだ居ても大丈夫ですよ? 明日は城のパーティがあるらしいですし」

「今日で十分リヒトも楽しんだし、帰ってもいいと思うわね」


 ヒューシの話ではヴァールとバーリオはクリニヒト王国へ戻るとのこと。

 祭りは数日あるが、早いところ移送とコレルに仕事をさせたいとヴァールが言ったらしい。

 護衛扱いであるユリとヒューシも、申し訳ないが一緒に帰って欲しいとのこと。

 ディラン達も戻ると言うが、ヒューシは楽しんでもいいのではと口にしていた。


「そうじゃのう……」

「ギルファ君とのお別れも大変になりそうだし、やっぱり帰るわね」

「あ……」


 そこでトワイトが困った顔でそういうとカーラが彼女の背中に居るギルファを見て寂しそうな顔をする。


「うぉふ」

「ヤクト……」


 するとヤクトがカーラの足に前足をトントンと叩いてから真っすぐ見ていた。

 また来るというようなニュアンスのようだ。


「うん……そうね。みなさん、また来てくださいね」

「あーい……」

「あら」

「ふふ、リヒト君はそのつもりみたいね」

「まったく。わんぱくじゃのう」


 カーラが笑顔でまた来て欲しいと言うと、リヒトが寝ながら答え、皆がクスクスと微笑むのだった。

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