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第86話 竜、祭りを楽しむ

 ディラン達が魔石を回収しているころ、トワイト達はお祭りを楽しんでいた。


「お姉ちゃん、あれも食べてみたい!」

「もう! 毒見役がお腹いっぱいだから無理よ!」

「なら私がしましょうか?」

「あー♪」


 右腕にリヒト、左腕にギルファを抱っこしながら祭りを楽しんでいた。

 ディランの言葉で生来の明るさを取り戻したギルファがリヒトと共にはしゃぐ。

 屋台をみるたびに何か食べたいと口にするため、姉のカーラが腰に手を当てて口を尖らせていた。

 そこでトワイトが毒見役を引き受けると言いだし、カーラが困った顔をして言う。


「今もギルファを抱っこしていて申し訳ないですしそこまでしてもらうわけには……」

「大丈夫ですよ♪ ギルファ君、私に食べさせてくれるかしら?」

「うん!」

「ではこちらを」


 ロイヤード国の騎士が屋台でホッツケーキという食べ物を買い、ギルファへ渡す。

 それをちぎってトワイトの口へ運んだ。


「うん、美味しいわ♪ 毒なんて入っていないから大丈夫よ」

「はーい! リヒト君も」

「あう♪」

「あ、ダメよギルファ! リヒト君はまだ食べられないの!」


 ホッツケーキを食べたトワイトが顔を綻ばせると、次にギルファはリヒトに食べさせようとした。しかし、カーラが慌てて止める。

 

「あ、そっか……」

「あーう?」

「ごめんねリヒト、あなたはまだミルクだけなの」

「うー」


 食べられなかったことに不満気なリヒトをトワイトが頬をすり寄せて宥めていた。

 するとリヒトはハッとなり、ひよこ達をポケットから出した。


「ぴよー?」

「あーい♪」

「あ、ひよこ達なら食べられるわね。ギルファ君、みんなに食べさせてあげて?」

「分かったよお母さん! ……あ、ご、ごめんなさい!」


 ひよこ達にホッツケーキをあげてとリヒトが笑い、トワイトもギルファに頼む。すすとギルファは間違えてトワイトをお母さんと呼んだ。


「あらあら、こんなおばあちゃんがお母さんだと嫌でしょうに」

「そんなことないよ! 僕、お母さんを知らないけど、トワイトさんはお母さんみたい。リヒト君のお母さんだからかな?」

「うふふ、ありがとう♪ じゃあ、今日は二人のお母さんね」

「……! うん!」

「あーい♪」

「「「ぴよ♪」」」


 そんな会話をトワイト達がしていると、背後を歩いているカーラが呆れて口を開く。


「もう、迷惑をかけて……」

「でもギルファ君が楽しそうでいいと思いますよ。トワイトさん、実際にお母さんだし」

「そうなんですけどね。お別れする時に大変なことになりそうで……」

「ギルファ様は賢いですし、大丈夫ではないかと」


 心配するカーラに対し、ヴァールとバーリオもひとまず楽しそうなので水を差さずに見守る方向がいいだろうと口にした。


「はい、カーラさんジュースでも飲んで落ち着こう」

「ヴァールさん……ありがとうございます」


 毒見をしたジュースをカーラに渡しながらヴァールが微笑む。その笑顔に照れながら口を尖らせつつカップを受け取った。

 そこでロイヤード国の騎士が周囲を見ながら口を開く。


「あちらの広場で芸をする人がいますね、見に行きませんか?」

「ああ、いいですな。ヴァール様、カーラ様どうですか?」

「面白そうですね! トワイトさん、あちらに行きませんか?」

「ええ」

「……って、可愛いわね……」

「お姉ちゃん?」

「ぴよー?」

「私もやる!」


 カーラがトワイトの下へ行って並ぶと広場を指さして移動を促す。

 そこでギルファがひよこ達にホッツケーキを与えている光景が目に入り、カーラはほんわかしていた。

 カーラもひよこ達にホッツケーキを食べさせながら歩いていると、ヤクトが串焼きの屋台に釘付けになっているのをギルファが発見した。


「ヤクトはあれが食べたいの?」

「うぉふ!?」

「あらあら」


 慌てて目を逸らすヤクトはダルとルミナスはやはり兄姉だなと思わせる。

 ギルファはお付きの騎士へ頼んでみんなの串焼きを買ってもらい広場へと移動した。


「さあさ、見てってください! お代は楽しかったらで構わないよー!」

「わあ!」

「あーい!」

「こけー!」

「うぉふ!」


 広場で芸人が仕事を始めるのを観ることにした。

 みんなで芝生に座り、ボールをお手玉にしたりするのを見て子供たちとペットは感嘆の声を上げていた。


「そういえばトイレに行くと言っていたディランさんが戻ってきませんね」


 そこでヴァールが周囲を見てディランとユリが戻ってこないことに気づきポツリと呟く。

 するとリヒトを膝に乗せているトワイトが振り返り口を開く。


「あの人はしばらく戻らないので、気にしないで大丈夫ですよ♪ ユリちゃんの食べ物だけ買って待っていましょう」

「そうなんですか?」

「ええ。あ、ちょうどユリちゃんが戻ってきましたよ」

「ああ、本当だ。ユリさん、こっちだよ!」


 そこでユリがダルとルミナスを連れて広場へ来た。ヴァールが声をかけると、すぐに気づき、手を振りながら駆け出してくる。


「戻りましたー!」

「わほぉん」

「わんわん!」

「うぉふ!」 


 ダルとルミナスに気づいたヤクトが尻尾を振りながら二頭を出迎える。

 そこで串焼きをスッと兄と姉である二頭に差し出していた。


「わほぉん」

「わん」

「うぉふ……!」

「なんて言っているのかしら」


 ダルとルミナスに差し出した串焼きは二頭の前足でまたヤクトの下へ戻された。

 自分たちは先に食べているとでも言ったのか、ヤクトは安心して串焼きを食べ始め、カーラは戻って来たダルとルミナスを撫でながら苦笑していた。


「ディランさんは?」

「えっと、ちょっと城へ行って来るって言ってました! すぐ戻ってくるから遊んでいてくれとのことです」

「ふうん……? ギリアム様のところへ行ったのかな?」

「そうそう」


 ユリはヒューシが顎に手を当てて不思議がっているのを適当に相槌を打つ。

 ちなみにユリとディランはトワイトの位置を把握しており、出会わないように逆方向へ向かって移動しながら魔石を回収していた。

 そのまま全てを回収ができたので、ユリだけ戻って来たのだ。


「ほら、お前のジュースだ」

「あーう♪」

「ありがとうヒューシ! ただいまーリヒト君! ダル達を借りてごめんね」

「あい!」

「わほぉん……」

「わん」

「あ、おかえりみんな!」

「あー♪」


 ヒューシがユリにジュースを渡す中、ダルとルミナスは仕事を終えたとリヒトの近くに寝そべる。


「さて、と。みなさん少しこちらへ――」


 そこでユリがヒューシとヴァール、そしてカーラとバーリオをその場から少しだけ離すよう促した。


「どうしました?」

「実は――」


 呼ばれたカーラが首を傾げてユリに尋ねると、ことの経緯を話し始める――


◆ ◇ ◆


「あの娘、平民の割に顔が良かったな。この計画後に私のものにするか。召使として使ってやろう。さて、パレードまであと少し。ここから発動して阿鼻叫喚を……ん?」


 教会の鐘塔から見下ろしながらコレルが笑みを浮かべて一人呟いていた。

 パレードが始まれば魔石のコンフュージョナーを発動させて祭りを台無しにするつもりだった。

 そこで広場にヴァールが居るのを発見した。


「パレードに出ていないのか? ヴァールめ、どういう経緯で来たか知らんが怪我のひとつでもして後悔するといい。……あ!」


 そしてその瞬間、ユリがヴァールの下へ駆けつけるのが見えて目を見開く。

 そして冷静だった表情を歪めて身体を震わせた。


「あの娘もヴァールのモノだったのか……! くそ、なんであんな王族ということしか取り柄が無い奴が! ……いや、パレードに居ないなら今がチャンスだな……芸を見ている人間も多い、これは荒れるぞ」


 コレルはそう呟きながら嫌らしい笑みを浮かべる。

 そして懐から水晶のような形をした魔石を取り出して魔力を込め始めた。


「魔力を込めて掲げればあっという間にばら撒いた魔石に繋がりネットワークを介して町中に魔法が散布される……魔物に使っても良かったがそれだと制御が利かなくなるのは実証済みだからな。流石に平民といえど死人が出ると枕を高くできんからな」


 ぶつぶつと自分のやっていることは正しいといったようなことを呟きながら魔力を込め続ける。


 だが――


「……? おかしいぞ? どうしてなにも起こらない? 魔力が低いなんてことはないはず……!!」


 ――いくら魔力を込めても騒ぎが起こることはなく、平和な祭りが続いていた。

 

「馬鹿な、失敗だというのか……!? くそ、一度魔石を回収して今度はロクニクス王国で――」

「それは無理な相談じゃのう」

「……!? だ、誰だ!」

「ワシじゃ」

「誰だよ!?」


 コレルが振り返ると、いつの間にかそこに腕組みをしたディランが立っていた。

 もちろん覚えているわけもなくコレルが激昂する。

 それと同時にディランの足元にある袋を見てハッとなった。


「それは私のばら撒いた魔石……!?」

「そうじゃのう。悪いが回収させてもらったぞい。その水晶で発動か? まあまあ、良くできた魔法形式じゃわい」

「くっ……平民のジジイが私に生意気な口を利くな! 近くにあるならちょうどいい、ここで発動させてやる! まずはお前からおかしくなれ!」

「無理じゃよ。魔法は全て消去し、ただの魔石になっておる」

「は……?」


 激昂しながら魔法を発動させるがディランには効果が無く、あっさりと魔石の魔法を削除したと話し、コレルが間の抜けた声を上げた。


「魔石に封じた魔法を消す……だと……? そんなことできるはずが……」

「できる人間もおるよ? エルフだと割と簡単にするわい」

「な、なんなんだ……お前は……!?」

「お主の言う通り、ただのジジイじゃ。さて、それはともかく皆が楽しくやっておる時に水を差すとは許しておけんのう。とりあえずヴァール殿と因縁があるようじゃし、そこで弁明してもらおう」

「ハッ……! お前はあの時、私の魔法にかからなかった――」

「この馬鹿者め! 他人を使って混乱を起こそうとは恥を知れ! 喧嘩は自分の手でやらんか!!」

「ぐあ!?」


 そういえばとコレルが思った瞬間、彼の頭にディランの拳骨が落ちていた。

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