第84話 竜、人間を褒める
「リヒト君、いいなあいつもみんなと一緒に居られて」
「あーい♪」
「わほぉん」
早速町へ出たディラン達。
ダルの背にリヒトが乗り、ギルファが羨ましいと口にする。
お座りが出来るようになってから、手を繋いでいればアッシュウルフ達にまたぐことが出来るリヒト。今は隣を歩いているギルファと手を繋いでご満悦だ。
ちなみに手を繋がない場合、背中に寝そべる形になる。
三頭ともリヒトを乗せたがるため、順番を設けていて、今日はダルの番だった。
「ぴよー」
「ひよこ達はポケットの中なのね、これならはぐれないわ」
「ぴよ♪」
カーラはひよこ達がお気に入りで、昨日もリヒトやギルファ、ユリと遊んでいたりする。似たような年齢のユリとはかなり仲良くなった。
「道が広いから並んで歩けるのはいいですね」
「大人数での移動が容易になるようにお爺様が変えたって言っていたわ。昔は戦争もあって狭くしていたらしいけど平和になってから人通りが良くなるようにしたみたい」
「ウチはここまで広くないな。参考にしよう」
「ヴァールさんのところも平和みたいですしいいかもしれませんね」
「あ、飾りつけ可愛い~」
ユリとカーラ、そしてヴァールはそんな話をしながら町の景観を楽しんでいた。
国が違えば風習や考え方も変わるので、ヴァールは折角だからとカーラと並んでいる。
「あ、王女様に王子様!? ダメですよこんな日に出歩いちゃ!」
「お祭りだから出るべきでは?」
「変な奴等が居たら危ないでしょ!」
「ふふ、護衛がたくさんいるから大丈夫ですよ♪」
「またー!」
そこで途中で二人を知っている町民に小声で話しかけられていた。特に無礼であるといったこともなく、軽く返してカーラは主婦たちを呆れさせる。
手を振って離れるとヴァールが微笑みながら言う。
「ギリアム様もそうでしたけど、カーラさんとギルファ君も気さくに接するだね」
「まあ、ウチはお母さんが没落貴族だったから、平民に近い感じなのよ」
「そうなんだ?」
「うん」
カーラ曰く、ギリアムが町に視察という名の道楽をしに行っていたのが始まりとのこと。酒場で働く母親のことを好きになり、妻として迎えた。
「元々体は強くなかったのと色々あったから没落しただけで、貴族は貴族だったわ。だけど、王妃になってからもお父さんと町へ出てたから、私達はその流れよ! だから知っている人は知っているって感じね」
「僕はお母さん、全然覚えてないんだけどね……」
「あ、ごめんそういうつもりじゃないのよギルファ」
「うん。わかってる!」
ギルファを産んですぐ亡くなったため、彼は顔を知らない。少し寂しそうな顔をしていたが、すぐに笑顔になる。そこでディランが口を開いた。
「そういえば亡くなっていると言っておったのう」
「はい……僕を産んだばかりに……」
「ふむ。それだけお主が大事だったのじゃろう。自分の命よりもお主を選んだ。産まれてきて欲しいと思った」
「そうですね。あなたのお母さんは立派な方だわ」
「……!」
ギルファが沈んだ顔を見せるがディランは微笑みながら彼の頭を撫でていた。トワイトも目を細めて賞賛する。
「この子は、リヒトは私達の子じゃなくて、生まれてからすぐに捨てられていたのよ」
「え!?」
「そ、そんな……」
「あーう?」
トワイトはダルの背に乗っているリヒトを撫でると、少し悲し気な顔で生い立ちを語った。ギルファとカーラはそのことに驚愕する。
「そういう酷い親もおる。お主は望まれて生まれて来たのじゃ。お母さんのためにも胸を張っておけ。母の代わりにちゃんと元気でやっているとな」
「うん……! そうだね、お母さんが僕をこの世界に居て欲しいって思ったんだ……ディランおじちゃんありがとう! 僕頑張るよ!」
「うぉふ♪」
「ギルファ……」
今まで見たことがないくらい元気な笑顔でギルファがディランへお礼を言いカーラが少し涙ぐむ。ヤクトも仲良しさんが笑顔で嬉しそうだ。
「負い目があったけど、私達の言葉じゃ響かなかったのに……でも、これからお母さんのことがギルファの自信になれば嬉しいわ」
「ディランさんとトワイトさんはいつもこんな感じなんですよ。僕達も助けられましたし」
「私の父も恩人で友人と言っていますね」
「面白いご夫婦ね……平民、じゃないの?」
「ま、まあ、色々あったよねホント。私達がモルゲンロート様やヴァール様と話せているのはあの二人のおかげなんです」
ヒューシとヴァール、それとユリが二人のことを話して苦笑する。正体をまだ知らないカーラは不思議な人達ねと首を傾げていた。
「あーい♪」
「あはは、リヒト君は元気だね」
「リヒトをよろしくねギルファ君♪」
「うわあ!? えへへ、うん!」
そんな中、トワイトはリヒトとギルファをそれぞれ抱えて頬にキスをする。お母さんというものを知らないギルファは少し照れながら笑っていた。
「なるほど、ギリアム様が父さんと仲がいいのも分かった気がするね」
「どうしてです?」
「……いや、貴族の子って割と平民を低く見ている者が多かったなと学院時代に感じていてね。カーラさんとギルファ君はそんなこともないからだよ」
「あー、お父さんは飯を食えるのはみんなのおかげだってよく言ってるわね」
「うん。威厳は必要だけど、貶すのは間違っている。やっぱりそうだと思ったよ」
ヴァールが笑顔でそう言うと、ヒューシが眉根を潜めて尋ねる。
「……学院時代にそういう人間が居たんですか?」
「うーん……残念だけど、そうだね。コレル・トダっていう名前だったかな? 同級生だったんだけど、あまりいい言動は無かったかな。私はよく止めに入っていたよ」
ヴァールは困った顔で返していた。そこへ呆れた顔でカーラが口を尖らせていた。
「あー、そういう貴族ってまだ居るのね」
「僕達の村にも似たような貴族が来たことあります」
「なんだって? ヒューシ君の村は我が国だ。話を聞いてみたい――」
「お祭りも見ましょうよー」
なんとなく貴族の動向に話が移り、ヴァールとカーラ、そしてヒューシが真面目な話をしだす。ユリが笑いながらせっかくのお祭りだよと拳を握る。
「人間は大変じゃのう。ん? ……こいつは、臭いのう」
「わほぉん」
「どうしました?」
「いや、なんでもない。すこーしだけダルとルミナスを借りてここを離れるぞい。ヤクトはトワイトとリヒト、ギルファを頼む」
「こけっ!」
ディランはトワイトとヤクトに頼みごとをしてこの場を離れることを告げた。
するとカバンに入っていたジェニファーがここに残ると声をあげる。
「む、ジェニファーも残るか」
「どうしたのおじさん?」
「ちとトイレを探しに行ってくるわい。ダルが我慢しておる。ジェニファーを預かってくれるか」
「わほぉん……」
もちろん演技だが、ダルは危ういといったような声を出す。ギルファは目を見開いて言う。
「あ、そうなんだ! あっちの方に広場があるからそこの陰とかかなあ……ジェニファー、僕と一緒に行こうか」
「こけ♪」
「では後でな」
「あ、これは……なるほど、はい任せてください♪」
トワイトに抱っこされたままのギルファにジェニファーの入ったカバンを渡す。
そのままダルとルミナスを連れて離れていく。
「あれ? ディランさんどこ行くの? ダルを連れていくなら私も行きたい!」
「む。そうじゃな、人間が居た方がいいかもしれん」
「?」
「気を付けてな。ディランさんに迷惑をかけるんじゃないぞ」
「べーだ! 分かってるわよ! 行こ、ダル、ルミナス!」
「わん!」
ユリはそう言って二頭のアッシュウルフ達と一緒に並んで歩き出す。
そのまま家屋の陰に入ると、ディランは目を細めて周囲を確認する。
「どうしたんですか? ダルのトイレじゃ?」
「わほぉん……」
「……ちと、野暮用じゃ。ダル、ルミナス近くにあるものを持ってきていいぞ。人間に見つからないようにな」
「「わふ」」
その瞬間、アッシュウルフ達はサッと路地へ入っていき移動をする。
ユリはなんだか分からないという感じで首を傾げるが、ディランが少し歩いたところで腰をかがめた。
「こいつじゃ。なにか魔力か魔法が込められておる」
ディランの手に拳ほどの石が載せられていた。しかし、ただの石ではなく魔力が入っていると言う。
「これ……カモフラージュされているけど魔石? なんでこんなのが落ちているんだろ。高いのに」
「わからん。じゃが、ワシの肌がぴりついた。嫌な予感がするから回収しておこうと思ってな」
「うーん、怪しい……」
ディランの説明を理解し、それと同時に不気味さを感じていた。
魔石は自然発生するものあるが、基本的には加工品で質がいいものはかなり値も張る。それをその辺に放置することはあり得ないからだ。
「わほぉん」
「わん」
そこで戻って来たダルとルミナスが魔石を一個ずつ咥えていた。ディランは小さく頷いてから魔石を受け取りジェニファーが入っていたものと違うリュックに入れる。
「む、戻ったか。やはり散っておるか。目的は分からんが、ごみ拾いをしようかのう」
「はーい! ダル、ルミナス頑張ろう!」
「わほぉん」
「わんわん!」
ディラン達はそうして町の中を徘徊しだすのだった。