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第74話 竜、遊び方を考える

「こけーこっこー!」

「ふあ……?」

「ぴよー」

「ぴ」

「ぴよぴー?」


 翌朝。

 ジェニファーが小屋で元気に朝を告げ、リヒトが目を覚ます。それと同時に、リヒトが落ちないように囲っているヤクトやルミナスの懐からひよこ達がひょこっと顔を出した

 昨晩はダルを枕にして寝ていたのでいつもとちがうふかふかした感触でぐっすり眠れた。

 ちなみにひよこ達は最初、彼等の背中で寝ていたが転げ落ちてしまったので二頭が前足で引き寄せて懐に入れたのである。


「あー?」

「わほぉん……」

「あーい♪」


 リヒトがもぞもぞと動いてうつぶせになり、ダルのお腹をポンポンと叩いて感触を確かめる。

 ふかふかの毛皮が揺れると、ダルも目を覚まして大きなあくびをした。リヒトがそれを見て口を大きく開けて真似をする。


「う?」

「うぉふ」

「わん」

 

 そこでヤクトとルミナスも起き出し、あくびをした後毛づくろいを始めた。

 ひよこ達もついでにの舌で舐めてやる。


「ふが?」

「あい♪」

「わほぉん!?」


 ソファの下にはディランとトワイトが布団を敷いて眠っていた。トワイトはすでに朝食の準備に取り掛かっており、ディランが大口を開けて寝ているだけである。

 リヒトはお父さんを見て顔を綻ばせ、ソファから降りようと動き出す。

 しかしそのままだと頭から落ちてしまうため、ダルが慌てて襟を咥えていた。


「うー?」


 手足が浮いて進めなくなったリヒトが首を傾げる。その間にダルがさっと下へ降ろしていた。


「わほぉん……」

「わん」


 無事に下へ降ろして安堵したダルはそのまま寝そべってモップみたいになった。

 そこへルミナスも降りてきて『よくやった』と頭で背中をぐりぐりこすり付けていた。


「あーい♪」

「ぴよー!」


 父と同じ高さになったリヒトがディランのお腹へとよじ登ろうと手をかけた。ひよこ達が自身のポケットに入っているのを見て覚えた動きだ。

 ひよこ達は岩のように硬いディランのお腹をすいすいと上っていった。

 しかし、まだ腕力の無いリヒトは登りきることができない。

 反動で背中から転がった。


「ぴー!?」

「う? ……あーい♪」


 ひよこ達が驚くが、転がったことが面白かったのかリヒトは笑顔だった。

 そして再びお腹への挑戦を始めたリヒト。

 あと一息というところでまた転がりそうになった。


「うぉふ」

「あい!」


 そこへヤクトがリヒトのお尻に回り、鼻先で押し上げた。そのままリヒトは勢いで駆けあがりディランのお腹の上へと登頂した。


「あいー♪」

「ぴよー♪」


 手を叩いて喜ぶリヒトに、ひよこ達も小躍りして賞賛する。ひとしきり暴れたところでリヒトはディランの胸を叩く。


「あーう」

「ぴーよ」


 いつもならリヒトよりも先に起きるのでこの光景は珍しい。起きないディランに首を傾げつつ、そのまま顔に近づいて顎髭を掴んだ。


 すると――


「黙っておったらこのいたずら息子め」

「あーい♪」


 ――ディランがかっと目を開き、リヒトを抱え上げた。目を覚ましたことで喜ぶリヒトとひよこ達。


「そんないたずらをする子にはこうじゃ」

「う? ……きゃー♪」


 ディランは起き上がってあぐらをかくと、そのまま抱え上げたリヒトをポーンと真上へ投げる。

 落ちてきたところをキャッチし、また投げる。


「きゃー♪」

「あなた、リヒト起きたのね?」

「うむ、起きたぞい」

「おはようございます♪ 落とさないでくださいよ?」

「大丈夫じゃ」


 そこでひょこっとトワイトがキッチンから顔を出した。リヒトが飛んでいるのを見て一応釘を刺していた。


「おしまいじゃ」

「うー!」

「こやつらにご飯をあげねばならんからのう。お前もミルクを飲む時間じゃ」

「ぴよ」

「あい」

「私が連れて行くわね」


 リヒトは並ぶひよこ達を見て『ご飯』という言葉に反応していた。

 トワイトが抱っこすると、大人しくキッチンへと連れていかれた。


「よし、ワシも行くか……ほれ、降りぬか」

「「「ぴよっ!」」」


 ディランの膝に乗ったひよこ達に声をかけると、勢いよく順番にジャンプして声を上げた。


「なに? リヒトと同じことをしろというのか?」

「ぴっ!」

「仕方ないのう」


 ディランはあぐらをかいたままひよこを手に乗せると一羽ずつポイポイと上へ投げた。


「ぴよー♪」


 舞い上がったレイタは小さな羽を動かしてなんとなく空中を飛んでいるように見えた。もちろん飛ぶことはできないのでゆっくりと床へ降り立つ。


「ぴよぴー!」

「ぴよー!」


 それぞれ床に着地すると、リヒトを追ってキッチンへと走っていった。


「ワシを置いていくとは薄情なひよこじゃわい。まあ子供はあんなもの――」

「……」

「……」


 ディランが立ち上がろうとしたところで視線を感じ、 振り返るとヤクトとルミナスが目を輝かせてお座りをしていた。


「……やって欲しいのか?」

「わん!」

「うぉふ!」


 大きく、元気な声を上げる二頭はどうやらそうらしい。

 ディランは目を輝かせている二頭の頭に手を置いてからフッと笑う。


「後でな」

「わん……」

「うぉふ……」


 先に飯を食うぞとやらなかった。今さっきの『高い高い』をしてもらいたかったのでシュンとしてしまう。


「くあ……」

「こけー?」


 モップみたいに伸びているダルはあくびをしながらその様子を見ていた。

 いつの間にかやってきたジェニファーは首を傾げていた。

 ひとまず待っていろと言ってディランは朝ごはんを用意してあげた。

 ひよこ達もリビングに戻って来て、一気に賑やかになるとペット達は一斉にご飯を食べ始める。


「ふむ」

「どうしました?」

「あー?」


 漬物をポリポリと食べながらディランはポツリと呟いた。トワイトと、膝に座らせているリヒトが反応するとディランは口を開く。


「いや、ペットも増えたしリビングも靴を使わなくて良くなった。じゃが、遊ぶ場所が少ないなと思っての」

「確かにそうかもですね。アッシュウルフ達はまだ子供といってもそれなりに大きいですしね」

「あーう」

「外で遊ぶのが一番じゃが、それはリヒトが大きくなってからになる」

「うんうん」


 トワイトがお茶を飲んでから頷く。こういう時はなにかをするつもりだと知っているためなにも言わずに次の言葉を待つ。


「少し家を拡張して遊べる部屋を作ろうかと思う」

「あら、いいじゃありませんか。こけても大丈夫なように絨毯も作りますよ」

「とりあえず今日は持って帰ったおもちゃで遊ぶとして、明日から着手するかの」

「わかりました♪」


 ディランはさっきのヤクトとルミナスを見てそう考えた。

 別に飛ばしてやっても良かったが、重さなどを考えると天井にぶつけてしまいそうだったからだ。


「では買ったおもちゃでも出すか」

「行きましょう!」

「あーい♪」


 食事が終わり食器を片付けてからリビングへと戻る。リヒトを抱えたトワイトも目を輝かせており今日は遊び倒す予定となった。


「よーし食ったか?」

「わんわん!」

「こけー!」

「ぴよ!」

「あーう!」

「はいはい、気を付けてね」

「あー♪」


 ペット達もすでに食べ終わっており、仲良く寛いでいた。ディランが食器を片付けているとリヒトが床に降ろして欲しいとトワイトの腕でもがいていた。

 すぐに降ろしてあげるとリヒトがはいはいしながらペット達へ突っ込んでいった。


「さて、とりあえずどれがいいかのう」

「この馬車のやつとかいいんじゃありません?」


 早速箱の中を物色し、トワイトが馬車の模型を選んだ。それをリヒトの前に持っていく。


「リヒトはこういうの好きかしら?」

「うー?」

「ぴよー?」

「うぉふ?」

「こうやるのよ♪」


 トワイトが馬車の馬部分を引っ張って動かしたり、荷台部分を持って車輪を転がしたりする。


「あー!」

「そうそう。上手よ」

「ぴよー」

「ぴよ!」

「ぴよっ!」

「こけ」


 リヒトはすぐに荷台を持って馬車を前後させて遊び始めた。ごろごろと転がす馬車をひよこ達がちょこちょこと追いかけていた。

 そんな中、ディランは革製のボールを取り出してヤクト達の前へ行く。


「お主達はこれじゃ」

「?」

「?」

「わほぉん……」


 お座りをしてディランを見上げる三頭。ダルは相変わらず興味がなさそうにあくびをしている。

 

「わん」

「うぉふ」


 するとヤクトとルミナスはそんなことよりとディランに前足を伸ばして高い高いをねだる。


「すまん。あれは天上にぶつけてしまいそうじゃからまた今度じゃ。これなら部屋でも遊べるじゃろ。それ」

「……! うぉふ!」

「わん!」


 ディランがボールを放り投げると、二頭は耳をピンと立てて本能のままに追った。

 

「わんわん!」

「うぉふ!」


 早速取り合いを始め、コロコロとボールはあちこちに弾かれていた。楽しそうに遊ぶ二頭に頷いた後、ディランは足元のモップと化したダルに話しかける。


「お主はいいのか?」

「わほぉん……」


 ダルは気だるげに鳴いていた。

 が、ディランは見逃さなかった。ダルの太い尻尾がボールが動くたびに揺れているのを。

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