第73話 竜、ペット達に構う
「戻ったぞー」
「こけー」
「ただいま♪」
すっかり陽が暮れたころ、ディラン達はようやく自宅に帰り着いた。玄関先で声をかけると中からどすんばたんという激しい音が鳴った後、ダル達が出て来た。
「わほぉん……」
「うぉふ!」
「わんわん!」
「あーい♪」
一家を出迎えてくれたアッシュウルフ達は勢ぞろいしてお座りして並ぶ。リヒトが嬉しそうな声を上げた。
頭をぶつけたのか身体がダルとルミナスより少しだけ小さいヤクトの頭にたんこぶができていた。
リヒトが笑ったその瞬間、三頭のお腹から大きな音が鳴る。
「おお、派手な音をさせたのう。腹が減っておるか。遅くなったからのう。昼過ぎには帰れると思ったのじゃが、すまんすまん」
「わほぉん」
「ごめんなさいね」
「あーう」
「わん♪」
「うぉふ♪」
ディランがしゃがんでダルを撫で、トワイトも腰をかがめてリヒトと一緒にヤクトとルミナスに構う。問題ないといった感じで声を上げる三頭。
そこでカバンからジェニファーが飛び出し、ひよこ達もポケットから顔を出した。
「こけー!」
「ぴよー!」
「うぉふ!」
「わん!」
「わほぉん」
それぞれ地上に降り立つと、アッシュウルフ達の前に歩いて行った。
そしてひよこ達は首に巻かれたリボンを三頭へ見せつけてきた。
「ぴよー♪」
「わん♪」
トコトとルミナスがお揃いのようだとお互い笑い合う。ヤクトもふんふんとレイタとソオンの匂いを嗅いでいた。
「はいはい、お披露目は家に入ってからにしましょ♪」
「わほぉん」
「ぴよ」
「あーい」
ダルはソオンを咥えてリヒトに手渡す。トワイトの言葉で家に向かう。靴を脱いでリビングに入ると、リヒトをソファに座らせトワイトが食材を手にキッチンへと移動した。
「遊び道具も買って来たが気に入るじゃろうか」
ディランは暖炉に火をつけながら箱を床に置いていた。
色々と買って来たが、購入時はリヒトもペット達も居なかったので気にいるか分からないという。
「あなた、遊ぶのは後にしましょう。先にお風呂を沸かしておいてくださいな。みんなにご飯をあげている間に入ってから私達も食べましょう」
「任されたぞい。少しだけリヒトを頼むぞ。その代わり今日は美味い肉じゃ」
「「「わふ」」」
「こけー!」
「「「ぴよっ!」」」
「あーい♪」
ディランがソファに座らせたリヒトの面倒を頼むと、ペット達は一斉に返事をしてリヒトを取り囲んでいた。
満足気に頷くと、ディランは風呂の用意と使わない食材を冷凍倉庫へ持って行った。
「ぴよー♪」
「うぉふ」
「ぴよぴー♪」
「あー♪」
「わほぉん……」
残されたペット達はまた各々遊び出す。
ひよこ達はリボンを見せてくるりと回り、アッシュウルフ達は称賛の声を上げていた。
そして放っておくとリヒトは勝手に動き回ることを知っているため、ダルがリヒトの膝に頭を置いてお座りを固定していた。
もちろんそんなことをすれば撫でられたり、毛や髭を引っ張られるのだがダルはリヒトが動かないようにするのを死守していた。
「わんわん?」
「こけ?」
そこでルミナスが座っているジェニファーに声をかけた。何事かと首を伸ばすと、ヤクトも鳴く。
「うぉふ」
「……! こけ!?」
内容は『ジェニファーは首になにも貰わなかったの?』というもので、ジェニファーはハッとくちばしを開けて今更ながらに気が付いた。
「こけー!」
「うぉふ……」
するとジェニファーはキッチンへ駆けて行った。ヤクトはそれを見て『一羽しか居ないしなあ』と呟いていた。
元々似たような姿であるアッシュウルフ達とひよこ達だからユリが用意した経緯があるため、ヤクトの呟き通りジェニファーはジェニファーとして認識できるため気にしておらず用意しなかったのだ。
「あーう?」
「ぴよっ」
「わほぉん……」
「あー♪」
そんな中、お披露目が終わったひよこ達はご飯まで待つことになり、リヒトの周りに集まった。
相変わらずダルの髭をびよんびよんして音を鳴らして遊んでいると、リヒトが嬉しそうに手を叩いていた。
「はーい♪ ダルちゃん、ルミナスちゃん、ヤクトちゃん、今日はお肉よー♪」
「わほぉん♪」
「うぅふ♪」
「わんわん!」
そこでトワイトが夕飯を持って来た。
王都で買った焼肉と家のお米である。いつも気だるい感じのダルもこの時ばかりは空腹もアリ色めき立つ。
ひよこ達には茹でたトウモロコシが出される。
「ぴよ♪」
「ぴよぴよ♪」
「ぴー♪」
「風呂は入れるぞい」
そこで奥からディランが出て来て風呂に入れると声をかけてきた。
トワイトがダルの顎に足をしかれているリヒトを抱っこすると、ダルがサッと用意されたご飯の方へ行く。
「それじゃあリヒト、お風呂に行こうか。ありがとうね、みんな。食べていいわよ」
「わほぉん」
「ぴよー!」
早速ご飯に口をつけるペット達。
そこでヤクトがふとキッチンの方へ視線を向けた。トワイトがこっちへ来たのにジェニファーが来なかったからだ。
「うぉふ?」
「ジェニファーを探しているの? あの子はもう少ししたら来ると思うわ。それじゃ行ってくるわね」
「あい」
「わん」
「ぴよ」
ご飯を食べながらいってらっしゃいとそれぞれ口にし、トワイトとリヒトを見送った。
トワイトが姿を消すと代わりにリビングへディランが戻って来た。
「とりあえずトワイトが出たらワシが入るとして、その間にミルクでも温めておくかのう。む、美味そうに食っておるな。どうじゃ?」
「わんわん♪」
ルミナスが嬉しそうに鳴いたのを見てディランは満足気に笑みを浮かべてキッチンへ向かう。
「さて、ミルクは……」
「こけー♪」
「おう!? びっくりさせるのではない。どうしたのじゃ? トコト達は飯を食っておるぞ」
「こけ!」
キッチンの真ん中でなんだか嬉しそうに鳴いていたジェニファーにびっくりした。
しゃがんでなにをしているのか話しかけると、ジェニファーはキリっとした顔でなにかを咥えて見せた。
「ふむ、エプロン? かのう」
「こけ」
頷く。
どうやらあっていたらしいと顎に手を当ててディランも小さく頷く。
「ああ、そうか。お主だけ飾りものが無いからトワイトに頼んだのじゃな」
「こけー♪」
今回もあっていたようで羽を広げて喜んでいた。
ジェニファーはトワイトのところへ行き、身振り手振りで主張した結果、料理の合間にサッとエプロンを作ってあげたというわけだ。
しかし、先に餌を出す方を優先したため首にはかけてもらえていなかったのだ。
だからお披露目をしたくてキッチンへ引きこもっていた。
「ほれ、これでええか」
「こけ♪ ……こけー!」
ディランが首にエプロンをかけてやると、ジェニファーは喜び勇んでリビングへ行った。
「わんわん♪」
「うぉふ!」
「ぴよ♪」
「ぴよぴー♪」
「ぴよっ!」
「わほぉん」
早速、他の仲間たちに称賛を受けていた。そっとディランがリビングを覗くと、見せつけるようにポーズをとっていた。
「……魔物に近いニワトリじゃからのう」
ディランはそう呟いた後、ミルクを温めた。
その後、風呂に入り、リヒトにミルクを飲ませてから二人で食事を終えると自由時間になる。
「私はリヒトの服を作っていますよ」
「ふむ、ワシはリヒトの様子でも見ようか。……おや」
「すぴー……」
ミルクを飲ませた後ペット達と遊んでいたリヒトはダルを枕にし、ルミナスとヤクトの毛を掴んでぐっすりと寝ていた。
ひよこ達もそれぞれアッシュウルフ達の毛に紛れて眠っているようだった。
「あら、可愛い♪」
「昼寝をしたのにもう寝ておるか。出かけていたから疲れているのじゃろうな」
そう言ってディランがリヒトをベッドに連れて行こうと手を出すと、目を瞑っていたダルが前足をディランの手に乗せた。
「うん? なんじゃ?」
「あなた、多分そのまま寝かせてあげてって言っているのよ」
「しかし動けないのきついじゃろ。ルミナスとヤクトも」
「「「わふ」」」
ディランがそう言うと、三頭は問題ないとばかりに小さく鳴いた。
彼が困惑する中、トワイトは掛け布団を持ってきてリヒトにかける。
そのままみんな目を瞑って眠りについた。
「仕方ない、明日遊ぶか」
「あなたが遊びたかったんですね♪」
「そういうわけではないぞい」
ボールを持ったディランにトワイトがクスクスと笑う。それを聞いたディランは口を尖らせて違うとボールを箱に入れるのだった。