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第71話 竜、家へ帰る

 雑貨の店を出たディラン達は食材の店へと足を運び、買い物を続けていた。


「まだ坊ちゃんは歯が生えていないならミルクだけになるな。もう少し大きくなったらトウモロコシスープならいけるんじゃないかな」

「トウモロコシは家で生育しておるのう。ウチで育てていない野菜を買おうか」

「毎度! このニンジンなんてどうだい?」

「早く大きくなって色々食べられるといいねえ」

「あー♪」


 野菜屋では自宅で育成していない野菜を購入。

 話題はリヒトで、こういうのもその内食べると良い、といったような話をしていた。

 ヒューシは王都に腰を据えて活動しているため、だいたい顔見知りのためディラン達はすぐに馴染むことが出来ている。


「また来てくれよ!」

「リヒト君、また連れて来てねー」

「その内にな」

「それでは」


 野菜屋の夫婦はほっこりした顔で見送ってくれた。特に奥さんの方はもう子供も大きくなっているためリヒトが可愛かったようだ。


「どこでも人気だなリヒト」

「あーい?」

「あら、指を咥えてはダメよ? 恐らく大人しいのもあるんでしょうね。ちゅー♪」

「あー♪」


 ヒューシがトワイトに抱っこされているリヒトに顔を近づけて、人気者だと笑う。リヒトはそんな彼を見て人差し指を咥えて首を傾げていた。

 トワイトはリヒトの指を口から外してキスをする。


「こうやって笑っているのを見ると、拾ってくれたのがお二人で良かったと思いますね」

「お父さんの耳が良かったから助かったわ」

「赤ん坊が捨てられているなどダメじゃからのう」


 ヒューシは次のお店へ向かう途中、小声でそう口にしていた。

 夫婦は助かる者を助けただけだと言う。

 そのまま魚屋へと立ち寄り、数匹を購入。そしてメインであるお肉の店へと到着した。


「お、ヒューシじゃないか。高い肉、食えるようになったかー? って、ガルフ達は?」

「別行動だ。今日はこっちのご夫婦が買いに来た」

「お? おお、そうなのか。いらっしゃい! 牛や豚、鶏に魔物と取り揃えているよ!」

「こけ?」


 そこでジェニファーがカバンから顔を出した。店主がそれを見て、おや? と漏らす。


「そのニワトリを預けてくれるんですかい?」

「こやつはウチのペットじゃ。食うてはならん」

「こけー!?」


 なんだか嫌な予感がしたジェニファーが、叫びながら慌てて首を引っ込めた。

 その叫び声でリヒトのポケットにいたひよこ達が目を覚ました。


「ぴよ……?」

「ぴよー?」

「あーい♪」

「ぴよぴー♪」


 リヒトが目を覚ました。ひよこ達を撫でると、彼等は嬉しそうに鳴いた。


「おお、そんなところにひよこも……ペットだったら食えねえな、そりゃあ」

「そういうことです。あと、お家にわんちゃんも三頭居るんですけど、いいお肉あります?」

「へえ、ニワトリと犬を一緒に」

「あ、いや……ちょっといいかい」


 トワイトの言ったことに店主が感心していると、ヒューシが少し考えてから店主だけを引っ張って話しかけた。


「なんでい?」

「犬じゃないんだ。あの人達の家に居るのは」

「なんだ?」

「……アッシュウルフだ」

「……!? 魔物じゃねえか……」

「まだ大きくなっていない個体だけど」


 それなりに凶悪な魔物の名前が出て冷や汗をどっと噴出させる店主。成狼ではないとヒューシが言うと、さらに続ける。


「よく飼いならしているな……よほど強靭な鎖でもつけているのか? あの二人は貴族か?」

「いや、山で放し飼いなんだ」

「嘘つくなよおめえ!?」

「信じられないかもしれないが本当だ。僕達も可愛がっている。だからアッシュウルフが好きそうな肉を頼みたい」

「すげえな……」


 肉を扱うということはどういう個体なのかも知っているのが肉屋である。

 それならと、肉を冷やす魔法がかかった箱を開けて物色する。


「グレードオックスはアリか…アッシュウルフって硬いすじ肉も好きだったよな確か――」

「ダルやルミナスが喜ぶといいですね」

「待たせておるから、いいものを食わせてやりたいわい。ジェニファーとひよこ達はウチの米が一番贅沢な食い物じゃからおやつの木の実とか買うか」

「ぴよー♪」

「よし、これならどうだ! ギッドブルのモモとヒレ、それとマッドガゼルのあばら付き骨肉だ! 人間が食っても美味いやつだ!」

「ほう、こいつは中々じゃ。買おう」


 立派な肉をドン! と、目の前に出してきてディランの眉が上がった。匂いと色で間違いない一品というのを確信して買っていた。

 

「毎度ー!」

「それで良かったですか? ちょっと高くなりましたね、すみません」

「まあ金は使ってなんぼみたいじゃし、良かろう。また稼ぐわい。あとは服の生地か」

「そうですね! 行きましょう」

「あー♪」


 意気込んだトワイトが生地の店へ行くも、あまり気になるものは無かったとのことで普通のタオル生地のようなものだけ買った。


「残念……」

「ま、そういうこともあるわい」

「デーモンスキュラの糸とかさすがにありませんよ……」


 がっかりしているトワイトだが、口にしたのは強さも素材もレアな魔物のものばかりで女主人は知識が凄いと褒めつつ、レア中のレアだから簡単には入らないことを告げられた。


「里の近くにいるのだけど、倒しておけば良かったわ」

「うん、トワイトさんなら倒せると思うけど僕達からしたらSランク近い魔物だよ。そろそろ戻りますか?」


 ヒューシが呆れながら返して、屋敷へ戻るか確認した。夫婦は頷き、再び屋敷へと戻っていった。


「もどったぞ」

「お、ヒューシか! ディランのおっちゃん達も! 買い物は?」

「バッチリじゃ」


 屋敷へ戻るとすでにガルフ達も帰ってきており、馬車から荷物を運びこんでいた。

 買い物が終わったことを確認すると、親指を立てて笑う。


「こっちも布団やら着替えなんかを買ってきたぜ。懐が寂しくなったけど、陛下からもらった報酬だしいいよな?」

「ああ。助かる。他のみんなは?」

「中に居るぜ。なんかお揃いの食器を買ったとかで盛り上がっているから、俺が荷台から出してるってわけ」

「ワシも手伝おう。トワイトとリヒトは庭で遊んでおるとええ」

「こけー」

「ぴよっ!」


 女子は仲良く買い物をした品の品評会をしているとガルフが肩を竦めていた。

 ディランは、まあ折角だし好きにさせておけとガルフの手伝いをすることにした。


◆ ◇ ◆


「……!」

「うぉふ?」

「わん?」


 自宅にて、アッシュウルフ達がリビングでくつろいでいるとダルが太い尻尾を立てて身体を起こす。

 なんだなんだとヤクトとルミナスも顔を上げると、ダルは一声鳴いた。


「わほぉん」

「うぉふ!」

「わん♪」


 なんとなくいいことがありそうな気がするとダルが語り、二頭は色めき立つ。

 そこで外から草が揺れる音がした。


「わほぉん!」


 ダルは早速、ディランの作った出入り口を使って外に出た。きっと主人達が帰って来たに違いない、と。

 

 すると――


「わほぉん……」

「うぉふ」

「わん」


 ――そこには誰も居らず、風でガサガサと草が揺れているだけであった。


 ヤクトとルミナスもディラン達が帰って来たと、いそしんで外へ出た。しかしすぐにとぼとぼと家に戻って寝そべった。

 早く帰ってこないかなと三頭はリビングでゴロゴロするのだった――

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