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第69話 竜、願いと魔力を込める

「私達も宿に置かせてもらっている私物を回収しないとね」

「明日までだっけ、借りているの」

『お買い物って小さいころ行ったきりだから楽しみ! わたしはなにも必要ないけど、リヒト君のものは選びたいよ』

「うふふ、ありがとうリーナちゃん」

『えへー』


 そんな会話をしながら屋敷を出ようとしたとき、それは起きた。


「ん? リーナ?」

『あ、あれ?』


 玄関から出たトワイトやガルフ達の後にリーナが着いて来なかったのだ。

 レイカが振り返ると、リーナが見えない壁にぶつかったように手を前に出していた。


「もしかしてそこから出られないのか……?」

『そうみたい……』

「ちょっと手を貸してみて」

『え? うん』

「……ひゃあ!?」


 そこでユリが手を掴んで引っ張ろうとしたが、ある地点で磁石が反発するかのようにユリが外側へ弾かれた。


「あらー……」

『うう……そういえばこの姿になって屋敷から出ようとしたことがないわ……』

「じゃあ、リーナは外に出られないってこと?」

「そうかもしれないわ。困ったわね」

「ゴーストが真昼間から外にいるイメージは確かにないが……」


 玄関前で項垂れるリーナを前に、トワイトが頬に手を当てて首を傾げ、ヒューシが難しい顔で腕組みをする。


「でも仕方がないわね……リーナ、悪いけどお留守番をお願い」

『う、うう……みんなと一緒がいいよう……』

「ほら、それならあたしが残ってあげるからさ」

『トーニャぁ……!』


 トーニャが苦笑しながら玄関に戻ると、リーナが飛んで抱き着こうとしてすり抜けた。


「なら交代で行くか? 俺も残っていいぜ」

「そうね」

「でも、みんなで行った方が楽しいと思うの」

「トワイトさんの気持ちもわかるけど、この状況じゃ手が無いわ」


 それぞれ意見を口にしてどうするか考える。一番いいのはトーニャと同じく、屋敷に残ることだろう。


「なんじゃ、玄関に集まって。行かぬのか?」

「あなた。聞いてくださいよ、リーナちゃんがここから動けないみたいなんです。みんなでお買い物をしたかったんですけど……」

「なんと。浮遊タイプではなく地縛タイプじゃったか」

「あ、そういうのあるんですね」

「うむ」


 ディランがゴーストにも二種類あると言い、どういうことなのかを説明した。

 主に旅先で亡くなった場合は浮遊タイプになり、その場所に執着があるとその地に縛られるゴーストになると告げた。


『確かに執着していたけど……うあああん! やっぱりわたしはここにいちゃいけないんだ……!!』

「うーん、そういうことも無いと思うんだけど……」


 リーナは四つん這いになって泣きながら地面を叩いていた。ユリはその暴れっぷりに困惑しつつ、そんなことは無いと言う。

 そこでディランが腕組みをしたまま口を開く。


「一説では一度天へ還ると生まれ変われるとされているぞ」

『生まれ変わったらわたしがわたしで無くなるから……』

「もっともな意見だ……」


 まだゴーストに慣れないヒューシが冷や汗を掻きながらそう呟いた。

 思い出やガルフ達と一緒に居るという『今』がリーナにとって大事なのだと。


「いつまでもゴーストってわけにもいかねえと思うけどな……」

「それはその内に考えるしかないでしょ? 今日のところは留守番で――」

「レイカちゃん、リヒトをお願い」

「え、あ、はい」

「ママ?」


 トーニャが留守番で我慢をしようと言いかけたところでトワイトが口をへの字にしてレイカにリヒトを渡すと腕まくりをする。


「なんとかならないか試しましょう。泣いている子をそのままにしていけません! あなた、手伝ってくださいな」

「ん? おお、やるか」

『トワイトお母さん……?』

「これならゴーストでも掴めるはずなのよ」

「うおお……!?」

「ちょ、まずいですよそれは……!?」


 トワイトが左腕をドラゴンへと変化させながら語る。

 ガルフとヒューシ、ユリが慌てて周囲を確認して人の目がないか確認した。


『あ、掴める……』

「お父さんはそっちの手を掴んであげて」

「ちょ、ちょっとママ、パパ! それはまずいって!?」

「これでええかの」

「二人で魔力を込めて引っ張ればこの見えない壁も壊れるかも……」

「魔力!? そんなことしたらリーナが――」


 トーニャが慌てて両親を止めようと二人の肩を掴む。しかし、そこは親子。彼女は魔力増幅(ブースター)となってしまい、さらに魔力が高まっていった。

 

「お、おい、なんか輝いてんぞ!?」

「見ればわかるわよ!? トワイトさん、ディランさん、大丈夫ですか!?」


 瞬間、親子とリーナの身体が輝き出し、バチバチと雷のような音を上げ始めた


「ああああ!?」

『あ、なんか暖かい――』

「「いよいっしょぉ!」」


 トーニャが叫び、リーナが優しい顔になってポツリと呟く。そして夫婦が勢いよく引くと――


『わあ!?』

「お」

「まあ」

「……おっと!?」


 ひゅぽんという栓を抜いたような音と共にリーナが勢いよく射出された。

 あわや地面に、というところでトーニャががっちりキャッチして尻もちをつく。


『あ、ありがと……』

「どういたしまして! ……って、やっぱりこうなっちゃったか……」

「良かったわ、これで一緒にお買い物に行けるわ♪」

「い、いや、トワイトさんそれどころじゃない……あの、リーナ、透けてなくないですか……」

「ちょ、あれ? なんで……?」

『いひゃい』


 トーニャがしっかりと抱きしめているため、間違いなく実体化している。ユリがリーナの頬を引っ張ると、もちっとした肌が伸びた。

 ユリと目が合ったあと、リーナは少し間を置いてから微笑み、小さく頷いてから声を上げる。


『えええええええ!? なんでぇえ!? わたし生き返った!? さわれるし、ふれられるよ!?』

「落ち着け、それは同じ意味だ……!」

「「どうでもいいでしょ今は!」」

「ぐは……!?」

『ひぃ!?』


 激しく動揺しているリーナに、さらに混乱を重ねたヒューシがレイカとユリに怒られた。


『すぅ……はぁ……。息を吸えてる……』

 

 ヒューシがツッコミを受けたことで少し落ち着きを取り戻し、リーナは深呼吸をする。久しぶりの感覚だというような感じで胸に手を当てた後、夫婦に質問を投げかけた。


『えっと、これってどうなったの……? わたし、人間に戻った……?』

「確か違うのう。なんじゃったか」

精霊スピリットですよあなた。リーナちゃんはゴーストから精霊になったのよ」

『精霊……!? ……って、なにか違うの?』

「「「あらら……」」」


 びっくりして見せたがリーナは分かっておらず、ガルフ達がずっこけた。そこでトーニャがリーナを抱っこして立たせながら口を開く。


「ゴーストは生前の人間が残した思念で、精霊はそれよりも上の存在……って感じかしら。ゴーストのままだとイビルゴーストになるか天に還るという話はしたわよね? だけど精霊は人間とゴーストの中間の存在になるの」

「よく覚えておったのう」

「そりゃあ重要な話だもの……」

『精霊になると……どう、なるの?』


 しっかりと説明をするトーニャにディランが顎に手を当てて感心する。

 リーナは自身に起きたことは分かったがこれからどうなるのかおずおずと尋ねた。

 するとトワイトが真面目な顔で答える。


「ゴーストじゃなく、スピリットになったからイビルゴーストになることは無くなったわ」

「お、マジか」

「凄いわね……」

「ゴーストと同じ能力は使えます。そしてその地に縛られなくなったから自由に動くことができるわ」

「いいことしかない……?」


 ガルフ達は目を丸くして驚き、唖然としていた。トワイトは少し微笑みながら話を続ける。


「デメリットはあるわ。トーニャが言っていたけど、人間とゴースト半々なの。だから実体の時に事故なんかがあった場合、もう一度死ぬという経験をすることになるわ……」

「うむ。勝手なことをしてすまんかった……しかし、リーナの意思は強いと感じた。故に試した」

「そっか、リーナが自分が自分で無くなるってのを聞いたから」

「そうじゃな。まあ、意志が弱ければ失敗する。精霊になっても、慣れてくれば自らの意思で天へ還ることもできよう。『リーナ』が暮らすにはいいかと思ってな」

『ディランお父さん……』


 夫婦はリーナにそう告げた。

 このままゴーストで過ごさせるのは簡単だが、結局、自分だけが『違う』というギャップが多くなればリーナは置いて行かれた時となにも変わらない。

 むしろそのせいでイビル化が進む可能性が高い。

 そのため、屋敷から出られないと分かった時点でトワイトは精霊にすることを考えていた。


「基本的にゴースト体になっていなければ死ぬことはないし、お腹も空かないわ」

『病気は? わたし、病気で死んじゃったんだけど』

「病気にはならないわ♪ ゴーストが病気になったら変でしょう?」

「やっぱりいいことばかりじゃない!?」

「でも、これで外にもいけるし抱きしめられるからいいかも!」

『わあ!?』


 メリットの方が勝つため、レイカは大声で叫び、ユリは良かったと満面の笑みでリーナを抱きしめていた。

 

「良かったの?」

「ワシとトワイトはそれがいいと思ってやった。承諾を取らなかったのはやりすぎたがのう」

「力、久しぶりに使ったんじゃないパパ? ママはあそこまで考えていなかったでしょ」

「ま、たまには良かろう。いつ以来じゃったかな」

「まったく……ホント、ママには甘いんだから」

「そりゃワシが――」

「? なあに、パパ?」

「……なんでもないわい。入口で待っておるぞ」


 トーニャは喜ぶ母親とパーティメンバーを見ながらため息を吐く。ディランがなにかを言いかけたが中断した。

 トーニャは訝しんだが、ひとまずはいいかと肩を竦めて、手を叩いた。


「よーし! それじゃお買い物に行くわよ!」

『おー!』

「ふあ……? あー?」

「あら、目が覚めたのね?」


 そこでリヒトが騒ぎを聞いて目を覚ました。あくびをした後、レイカに顔を向けた。


『あ、起きた! 初めましてリヒト。わたしはリーナよ、よろしくね!』

「あーい♪」


 リーナは満面の笑みでリヒトの手をとって握手をした。

 何十年も触ることのできなかった手は、とても暖かく、リヒトは笑顔で手を振っていた。

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