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第68話 竜、引き止められる

「ヴァールが小さかったころは本当に可愛かったのですよ」

「それじゃあ今は可愛くないみたじゃないですか母上……」

「うふふ、仲がよろしいですね!」


 ディラン達が屋敷での騒動を終えたころ、トワイトとローザはお茶をしながら話を続けていた。

 モルゲンロートは少し所用ができたということで代わりにヴァールが呼び出されていたりする。

 ちなみに貰ったお米や漬物、野菜といった土産を自身で直接コックへ渡しに行っているのだ。

 母親同士の会話は尽きることなく、特にローザは王族ということもあり気軽に接してくれる者が居ない。

 しかしトワイトは物腰が柔らかいが、恐れ多いという態度では無いため話しやすく、ローザはとてもトワイトを気にいっていた。


「ありがとうトワイトさん。夫達と知り合ったのは少し前なのでしょう? まったく、わたくしとヴァールにも会わせてくれればよろしいのに」

「色々と事情があると思いますし、私達も山から出るのも近くの村までですから。娘が来なかったらここに来ることも無かったんですよ」

「キリマール山の管理をしていただいていると聞いています。しかし、どうしてあの山に?」

「住みやすいからですね!」

「「そうかな!?」」


 トワイトはヴァールの質問にドヤ顔で答え、二人が驚愕していた。そのまま彼女は続ける。


「ひとつ言えるのは、私達は田舎暮らしだったんですよ。そのため都に住むのを夫が難色を示したのもありますね」

「そういうことでしたか……いつでも王都に住んでもらって構いませんからね?」

「ありがとうございます♪」


 ローザは残念だと思いつつもいつでも来て欲しいと言う。そこで援護とばかりにヴァールも口を開いた。


「ええ。リヒト君も大きくなったら山暮らしより、町の方がいいと思います。学校とかも行った方がいいですし」

「学校……ですか」

「はい! 私の通っていた学園など手配しますよ」

「そういえば考えていなかったですね」


 トワイトは顎に指を置いて神妙な顔になる。成長した時、息子と娘には自分達の知識を与えて育てたからだ。

 学校という場所は知っているが、山に住んでいるためそれは考えていなかった。

 しかし、人間はそういう場所で過ごすのでこの提案はありがたいと瞬時に判断する。


「この子が大きくなったら相談させていただきますね!」


 トワイトは計算高かった。

 二人の善意に甘えるのはリヒトにとってデメリットがほぼないからである。

 山から通えないならトーニャやガルフ達の家の部屋を貸してもらうのも考慮した。


「よろしくですわ、リヒト君♪」

「すー……」

「ぴよー……」

「ぴよぴー……」

「ぴー……」


 ローザがトワイトの役に立てそうだと嬉しそうにリヒトのベッドを覗き込みながらそう口にする。

 一緒に寝ているひよこに囲まれたリヒトが寝返りをうった。そこで首の後ろが見えた。


「あら? リヒト君、首の付け根に痣があるのですね?」

「気づかれました? 拾った時からあるんですよ。あまり大きくないから目立たなくて良かったと思っていますね」


 ローザがそっとリヒトの首に指をなぞる。そこには大人の親指ほどの痣があった。

 ヴァールもどれどれと確認すると、目を細めた。


「確かに……というかこの痣、なにかの形をしているような感じがありますね」

「そうね、どこかで見たような気もしますわ」

「ふふ、痣がどうあれこの子はウチの子ですから。なにか事情があったのでしょうが、本当の親御さんよりいっぱい幸せにしてあげるつもりです」

「そうですわね。ご立派ですわ」

「なかなか出来ることではありませんからね」


 トワイトが優しいまなざしでリヒトの髪を撫でると、ローザとヴァールが賞賛していた。


「まだ起きないでしょうし、お茶のおかわりを用意させましょう」

「あら、まだありますよ。お構いなく」

「歓談中、失礼します」

「あら、バーリオ? どうぞ」


 そこで扉をノックする音とバーリオの声が聞こえて来た。

 ディラン達と出て行ってそれほど時間が経っていないのにとローザは思う。


「失礼します」

「あら、ガルフさんとヒューシさんも居るのね」


 入って来たのはバーリオだけでなく、後から屋敷を出たガルフ達も追いついて一緒に居た。


「へへ、ただいまトワイトさん!」

「迎えにきました」

「あらあら」

「どうしたのバーリオ?」


 ガルフとヒューシがそれぞれトワイトへ駆け寄っていく。その間にローザが

 尋ねると、頭を下げながらバーリオが説明をする。


「目的であった彼等の住処が決まりました。なので当初の目的であったショッピングをするとのことです」

「ああ、それで迎えに来たと」


 ヴァールが手を打って理解した。

 そこでトワイトが席を立ってリヒトを抱っこする。


「では、そろそろお暇させていただきますね♪ ローザさん、楽しかったです」

「ああ……もう行ってしまうの? 折角気の合う方とお知り合いになれたのに。一泊くらいしていきませんこと?」

「とても嬉しい申し出なのですけど、お家にペットを待たせているの。お腹を空かせてしまうから帰りますね」

「ヤクト達だな」

「なんか適当に獲物をとってきそうだけどな」


◆ ◇ ◆


「ぶえくほぉん!」

「わん……!?」

「うぉふ」

「わほぉん……」


 三頭がまとまってごろ寝しているところで不意にダルがくしゃみをし、ルミナスが飛び上がって驚いていた。

 ヤクトは折角寝ていたのにとダルの尻尾を甘噛みしていた。

 彼等は安全なリビングで大人しく帰りを待っていた――


◆ ◇ ◆


「すぴー……」

「寝ているけど起こさないかしら……?」

「その時はその時ですから。あまり泣かない子なので」

「そうですの?」

「母上、話したいのはわかるけどまたにしなよ」


 ダル達はさておき、トワイトはガルフ達と一緒に屋敷へ向かうことにした。

 ローザは名残惜しそうだが、ヴァールは引き止めるのも悪いと母親を説得していた。


「娘が城下町でお世話になっているからまた来ますよ」

「ええ、お待ちしておりますわ!」

「では行きましょうか」

「ぴよー……」


 ひよこを抱えたヒューシにそう言われて頷くトワイト。 

 ポケットに入れておこうかとも思ったが、万が一落としてはまずいとヒューシとガルフで手分けして手に持ったのだ。


「それでは、また♪」

「失礼しました!」


 トワイトとガルフが頭を下げて食堂を出ていき、静かに扉が閉まる。

 笑顔で手を振っていたローザは姿が見えなくなるとため息を吐いて首を振った。


「次はいつになるかしら……トワイトさん、とても頭が良くてお話していてもまったく苦にならないのよ」

「左様ですか。ご友人が出来て良かったですな」

「そう! 貴族のご婦人たちはお茶会を開いても世辞ばかりであまり楽しくないのです」

「お世辞というか本音もありますでしょうね。私も学園では距離を取る者の方が多かったですし」

「そうでしょうか? ……ふむ、バーリオ、彼女達の家は知っていますね?」

「ダメですぞ。せめて陛下にはお話ししないと」


 ローザに尋ねられたバーリオは驚くことなくすぐに返した。ローザは口を尖らせて黙ってしまうのだった。


「……ふう、そういえばあの人が帰ってきませんね」

「キッチンにお土産を持って行ったっきり……ハッ!? まさか!」

「どうしたのですヴァール?」

「母上、一緒に来てください!」

「なにかしら?」

「……なんとなく私も読めましたね」


 首を傾げるローザにバーリオは苦笑するのであった。


◆ ◇ ◆


「あら、いいお家!」

「あ、ママ! 名義はあたしにしてあるけど、ガルフ達も住むわ!」


 帰りはハリヤーと一緒に帰ったのですぐに屋敷まで到着した。屋敷に足を踏み入れたトワイトが目を輝かせていると、気づいたトーニャが二階の踊り場から飛び降りてホールへとやってきた。


「ディランのおっちゃんとトワイトさんと出会ってからラッキーばかりだよ。まさかここで屋敷に住めるとは思わなかった」

「まったくだ。宿代を節約できるのは大きいな」

「ま、その分他で使うことになりそうだけどよ」


 親子が話している傍ではガルフとヒューシはしみじみとそんな話をしていた。

 そこへ残ったメンバーも降りてくる。


「あ、お帰りなさい!」

「あの人がディランさんの奥さんで、トーニャのお母さんよ」

『は、初めまして……』

「あら? ゴーストさん? 初めましてトワイトよ♪」


 おずおずとユリの後ろに隠れていたリーナをユリが前に出してトワイトを紹介した。ゴーストだと分かっても気にせずぺこりとお辞儀をしてトワイトが挨拶をすると、リーナも慌ててお辞儀をした。


『う、うん、リーナです。……あ、赤ちゃんだ』

「この子はリヒトっていうの。今は寝ているけどよろしくね♪」

「くー……」

『うわあ、可愛い……!』

 

 リーナはふわりと浮いて上からリヒトの顔を覗き込み目を輝かせていた。

 ぐるぐると回っている中、ガルフが口を開く。


「あれ? そういやディランのおっちゃんは?」

「パパは庭に行ったわよ。それじゃショッピングに行きましょうか!」

「おー♪」

『いいなー抱っこしたいよー』


 そうして一行は屋敷の外に出ようと移動する。

 しかし、そこでアクシデントが起きた――

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