表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/243

第67話 竜、家を買う

「本当に良いのか?」

『うん。お兄ちゃんもお姉ちゃんもいい人だし、わたしの為を想ってくれているのがわかったから』

「これは……驚いたな……」

「ああ……バーリオ、こいつら何者なんだ……?」


 ユリとリーナがひとしきり泣いた後、全員でホールへ移動してベーンを呼ぶ。

 その間、ガルフがバーリオを探しに行き揃ったところで再度リーナに確認を促していた。


「まさかゴーストを説得するたあな……今までどんな奴が来ても駄目だったのに」

『あ、いつも家を掃除してくれるおじさんだ』

「知ってんのかよ……!?」

『住むつもりが無いから何もしなかったけど見てたよ?』


 そう告げるリーナに、冷や汗を掻きながらベーンが肩を竦めた。

 だが、気を取り直して彼は話を続ける。


「一応、この家はもう売りに出されている。嬢ちゃんのものではない」

『うん……』

「でも、一緒に住むというのであれば俺は別に何も言わねえ。ただ、万が一こいつらが売りに出した場合はどうなるかわからない」

『大丈夫。その時はきっと諦めがつくから』


 話が出来るということでベーンは面と向かって厳しいことを口にした。持ち主だと主張してもゴーストに権利は無く、これは売りに出されたものだと。

 悲し気な顔で諦めがつくと言うリーナに、ベーンも罪悪感を覚えるがこればかりは仕方ないと黙って頷いた。


「俺達が生きている間は大丈夫だって! こんないい家、手放すわけないだろ?」

「そうよ、だから安心して暮らしてね」

「お家を守ってくれると嬉しいわ」

「……そうだな」

『みんな……うん、もちろんよ、任せて! トーニャの荷物以外はね!』

「えー、脅かしたのは悪かったってばー」


 ガルフ達は売りに出すことは絶対にないと言い、リーナを安心させていた。

 しかし、トーニャには頬を膨らませて意地悪をする。

 トーニャは苦笑しながら謝罪をして追いかけると、リーナは慌ててディランの頭の上に移動した。


「あ、また、パパのところに」

『べーだ! お父さんも一緒だもん』

「む? いや、ワシはここには住まないぞ?」

『え? そうなんだ……』


 リーナの問いに悪気なく返すディラン。すると明らかにがっかりした顔でポツリと呟いた。


「ワシと婆さんは山で暮しておる。まあ、トーニャはここに住むし、たまに遊びに来ると思うがのう」

『本当……! 良かったぁ』

「ふふふ、あたしに感謝するのね!」

『なによ!』

「仲良くやっていけそうね」


 肩車状態のリーナに、トーニャが手を伸ばし、しっしと払う仕草をする。それを見てレイカは肩を竦めながら笑っていた。

 そんなやり取りの中、ベーンは手を上げて口を開く。


「じゃあ、売買といこう。金はバーリオが出すんだっけか?」

「そうなる」

「ワシも少し出すぞい」

「そうですか? では陛下にもお伝えしますよ。家の代表は誰にしますかな」

「やはりリーダーのガルフか?」


 ディランが視線をガルフに向けると、きょとんとした顔の後で手を振る。


「いやあ、トーニャがいいんじゃないか? もしくはディランのおっちゃんだ。この中だと一番長生きするだろ?」

「あー」

「なるほどのう」

「確かにそうだな。やるじゃないかガルフ」


 ベーンが居るのではっきりとは言わなかったが、自分達よりも長く管理ができるのはドラゴンの方がいいと暗に伝えたわけである。

 ユリがポンと手を打ち、ヒューシもガルフの肩に手を置いてフッと笑った。


「分かった。それじゃ契約書を持ってくるから少し待っていてくれ」

「はーい!」

「それじゃあ僕達は換気をしようか」

「あ、いいわね!」

「よーし、リーナ一緒に行こうぜ!」

『うん!』


 ベーンは一旦、店に戻ると言い屋敷を後にし、ガルフ達はリーナと共に屋敷の窓を開けに移動を始める。

 そのためホールに残ったのはディランとバーリオだけとなった。


「やれやれ、どうなることかと思ったがすんなり決まり良かった」

「じゃな。ゴーストは力で駆除はできん。本人が満足するか、イビルゴーストとなって他の集合体と一緒になってしまうかのどちらかじゃからな」

「……そのままにしておけばどちらにしても彼女の自我はなくなる。その時は――」

「力技しかあるまい。だが、ガルフ達と一緒に居ればイビル化はせんじゃろう」


 二人はそんな話をしながらベーンやトーニャ達を見送っていた。

 そこでバーリオは少し考えた後、ディランへ質問を投げかける。


「教会は積極的にゴーストを滅する聖水や魔法を持っていますが、リーナに効くでしょうか?」

「……奴等か。止めておくのじゃ。リーナをこれ以上苦しめる必要はあるまい」

「そう……そうですな」


 深刻な顔でバーリオは失言でしたと告げた。

 ディランはこの世に留まらせるのが不憫だという意味での発言であることは分かっているため気にするなとだけ言った。

 その後、しばらく二人で話をしていると程なくしてベーンが戻ってくる。

 そこでトーニャを呼び戻して屋敷と土地権利書を受け取り、支払い証明書にサインをした。


「で、こいつが代金だな」

「ワシの金貨五十枚と合わせてちょうどじゃな」

「毎度! いやあ、実際売れなかったから朽ち果てるまでこのままかと思ってたぜ!」

『ごめんなさい』

「まあ、事情が事情だし気にすんな。元気でっての変だが、元気でやってくれ」

『うん!』


 ベーンが金を受け取るとリーナにそう言って笑いかけた。続いてバーリオも一歩前へ出てディラン達へ言う。


「では私もベーンを送ってから報告に戻るとしよう。門番は顔を覚えているから、城へ戻ってきたら通すように言っておきますよ」

「承知した」


 バーリオはベーンについていくと言い、そのまま城へ報告するとのこと。

 二人は屋敷の外へ出るため歩き出す。

 

「別に送らなくていいっての」

「大金を手にしていることを忘れていないか?」

「ふん、しかたねえ送らせてやる」

「そうさせてもらうと言っている」


 悪態をつきながら笑顔で去っていく。そんな二人を見てユリが口を開いた。


「仲がいいわねー。私たちも歳をとってからも仲良くいきたいわね」

「だな」

「ま、私達は今更だけどね。喧嘩もよくしてたし」

『そうなんだ。お話聞きたいわ』

「あたしも最近友達になったからガルフ達のこと知りたいわね」

『トーニャもそうなんだ? ……そっか、友達、友達なんだよね。わたし、六歳くらいからあんまり起き上がれなくてそういうの居なかったから嬉しい、かも』


 リーナはトーニャが友達だと言ったことに目を輝かせていた。

 そんな彼女に微笑ましい視線を向ける一行。

 そこでガルフが頷きながら喋り出した。

 

「まあまあ、時間はあるし俺達のことも二人のこともゆっくり話せるって! とりあえず今日からここが拠点になるのはいいとして……買い物に行くんじゃなかったっけ?」

「あ、そういえばリヒト君のおもちゃとか買うんだよね」

『お買い物? わたし行ったことないから行きたい!』

「ふむ……ゴーストが一緒か……」

「なによヒューシ。別にいいでしょーまだ怖いの?」

「こ、怖くはない……!!」


 ディランの当初の目的を再確認し、買い物に行こうかとガルフは言う。

 すると買い物と聞いたリーナは行きたいと主張し、ヒューシが難色を示していた。

 

「トワイトも連れて行きたいから迎えに行くべきかのう」

「そうねえ。後から言うとママ怒るかも?」

「じゃよなあ」


 ヒューシ達のやりとりを見ながらトーニャとトワイトについてすり合わせていた。しかし、戻ってから出かけるのも大変かと腕組みをする。


「じゃあ、買い物はトワイトさんと合流してからかな? どっちにしてもハリヤーを連れてこないといけないし」

「そんじゃ、俺とヒューシでトワイトさんに話をして、ハリヤーと一緒に戻ってくるよ。その間、レイカとユリ、トーニャは部屋を決めたりしてくれ」

「オッケー」

「では頼んでいいか?」

「もちろんです。今ならバーリオさんに追いつけると思いますし、サッと行って帰ってきますよ」

「よろしくねー!」

「ではワシは庭でも見てくるかのう」


 そんな調子で屋敷を手に入れたガルフ達は満面の笑みを浮かべつつ、ひとまず二手に分かれて行動となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ