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第63話 竜、提案をされる

「なるほど、トーニャを冒険者にすると」

「うむ。今後もこの都で活動することになると思うからその報告じゃな。決まっておればギリアム殿が居る時にでも伝えたのじゃが」

「いえ、それは構わない。こうして訪ねてきてくれたのは素直に嬉しい」

「そう言ってもらえると幸いです」

「とりあえずトーニャの冒険者の件は承知した。ギルドに行ってカードを作ると良い」


 ディランが事情を説明したところ、快く了承してくれた。

 条件はなるべくバレないようにというものだけである。きちんと登録をしておけば強さに関しては誤魔化せるだろうとのこと。


「強者は居て困ることがないからな。ガルフ達も頼むぞ」

「は、はい! 恐縮です……」

「頑張りますね!」


 モルゲンロートが微笑みながら頷き、ガルフ達は背を伸ばしてから返事をした。

 トーニャは魔物退治を頑張ると口にし、用件はすんなり終了する。


「しかし、これくらいなら当人たちだけでも良かったのだが」

「いや、娘のことじゃしな。……例のこともある」

「……気遣いに感謝しますぞ」


 報告だけでも良かったというモルゲンロートに、ディランがトーニャとローザに視線を向けてから一言呟く。

 どっちにも取れる気遣いにモルゲンロートは苦笑しながら礼を口にしていた。


「食事、ありがとうございました! これで後は帰るだけかな?」

「そうね」

「あら、もう行ってしまうのですか? もう少しトワイトさんとお話がしたいですわ」

「ありがとうございます。でもこの後、ショッピングをしようと思って。娘の泊まる宿にもご挨拶をしておきたいですし」


 ローザが残念そうにトワイトへ言うと、困った顔で次の予定を話していた。

 昼も過ぎているためショッピングをしていたら夜になってしまうと告げる。


「なんだかんだでちょっと過保護なとこあるよなディランさんとトワイトさん……」

「こういうところはそうね。でもあたし達が甘えると厳しいことを言うわよ」

「達?」

「あれ、お兄ちゃんが居るの言ってなかったっけ」

「聞いたような聞いていないような……」


 トワイトとローザが会話をする中、ガルフ達は小声でそんなことを話す。

 兄のことを聞こうとしたが、そこでディランが顎に手を当てて口を開く。


「ショッピングといえば、モルゲンロート殿に一つ聞きたいことがあるのじゃが」

「なにかな?」

「実は宿に毎回泊まるのも金が勿体ないと考えておってな。この金で家を借りる、もしくは買うことができるじゃろうか?」

「あらかわいい」


 ディランが手を叩くとジェニファーが白金貨を咥えてにゅっと首を出す。

 その白金貨をテーブルに置くと、モルゲンロートは少し考えてから口を開いた。


「五人が住むにはそれでは足りないな。我が国の家相場はそれほど高くないが、それでも最低、白金貨二枚は必要だ」

「ふむ、そうか。借りた場合はどうじゃ? 宿より安くなるかのう」

「そうですね……」


 執務に関することなので概ね状況はモルゲンロートの頭に入っている。相場がどうだったかを試算してみた。


「あまり変わらないのが基本だな。借りるなら買った方がいいし、ベッドメイキングがあると思えば宿がいい。ただ、ガルフ君たちは承知しているだろうが、個人的な荷物などは置けないし、長い間宿を借りるのも難しい」

「そうですね」

「まあ、そこは仕方ないんじゃない? パパとママの家に置かせてもらうのがいいと思うわ」


 トーニャはそう言うが、ディランは腕組みをしてから鼻をならした。


「ならもう少しザミールに物を売って稼ぐとするか。やはり自宅があった方がええじゃろ」

「いや、だったらトーニャ一人の家ならいいんじゃねえか? 俺達は宿で慣れているし」


 ガルフは別にどっちでもいいと首を傾げるが、トワイトが眉を上げ、人差し指を建ててから返した。


「ダメよ、一緒に過ごすんだから同じようにしないと。あ、そうだわ。絨毯をいくつか作ってザミールさんに売ってもらいましょう」

「おお、いい案じゃ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 トワイトがいい金額で売れた絨毯を二、三枚作って売れば五人用の家くらいなんとかなるはずだと言い、ディランが笑顔になる。

 しかし、そこでモルゲンロートが慌てて止めた。


「なんじゃな?」

「いえ、あれはそんなに出回らない方がいいと思うのだ。価値が高いのが安くなるのはいいかもしれないが、それだとトワイトさんの腕も軽く見られてしまう」

「なるほどのう。……なら、これはどうじゃ? 持ってきた米と野菜をトーニャに渡して都度売ってもらうのは?」

「なんですと?」

「今日は土産としてモルゲンロート殿にやるがのう」

「まあ、立派なお野菜ですわね!」

「げ……!?」

「……!?」


 ディランがにこにこしながらカバンから米と野菜を取り出し、テーブルに並べた。

 目が輝くローザと違い、珍しくモルゲンロートが変な声を上げた。


「漬物もありますから是非奥様も♪」

「……おや、これは夫も食べたことが?」

「ウチで何度か」


 見たことがない食材が出てきてローザが怪訝な顔になる。トワイトに質問を投げかけると、やはりにっこりと返事があった。


「あなた……! いつもどこかへ行くと思っていたらご夫婦のところへ行っていたのね! なんだか美味しそうな食べ物をバーリオと騎士で食べてましたわね!」

「違わないが違うんだローザ! 食べに行ったわけではなく、用件の後にご馳走になっただけなんだ!」

「食べたのなら同じです!」

「まあ、陛下は悪くないよな……」


 自分だけ、とローザが怒り出す。

 ヒューシは事情を知っているためモルゲンロートが悪いわけではないと言う。


「ローザ殿、モルゲンロート殿はウチの娘をワシらのところへ案内してくれたのじゃ。その時に振舞った」

「ディランさん……そういうことなら仕方ありません。このコメという食べ物と漬物はわたくしとヴァールがいただきます」


 ローザは自分だけ食べられなかったことに憤慨し、米を息子と分けると言い出した。トワイトはその言葉を聞いてやんわりと話す。


「おコメはたくさんあるし、そうおっしゃらないで」

「またプレゼントするわい」

「ありがとうございますわ。でももらってばかりなのも……あら、そういえば今、おうちのことをお話していましたわね。あなた、どこか空いているお屋敷がないかしら?」

「ふむ、そうだな……」

「い、いや、流石にそれはもらえませんよ!?」

「パパとママからあたし経由だしいいんじゃない?」

「お前は……!?」


 あっさりと言うトーニャにヒューシが眉を上げて驚愕する。しかし、モルゲンロートも考えることがあったのか、顎に手を当てて考え始めた。

 しばらく待っていると、モルゲンロートはバーリオに視線を向けてから指示を出した。


「この後買い物に行くと言っていた。バーリオ、着いて行って家屋の店へ案内してくれ」

「ハッ! 予算は?」

「私のポケットマネーで払えるくらいで頼む」

「む? それは悪いぞい」


 とんでもない提案をするモルゲンロートにディランが軽く悪いと告げる。

 だが、そこはローザが腰に手を当ててハッキリと言う。


「少しくらいならわたくしも出します! どうせそれほど使い道がありませんからね。ではバーリオ、行きましょう」

「は!? いや、お前が行く必要はないだろう」

「なにを言っているのです。あなたも来るのですよ! 失礼、リヒトちゃんが起きてしまいますね」

「どうするんですか陛下?」

「仕方あるまい、出かけるぞ」

「マジかよ……」


 ガルフが絶望したように顔を青ざめる。さすがに王族と町を歩いていたら後で何を言われるかわからないからだ。


「ローザさん、お気遣いは大変嬉しいのですが王様や王妃様とご一緒だと町の人が驚いてしまいます。皆さんが後で困るかもしれないので、バーリオさんだけの方がいいかもしれません」

「あら……確かにそれはあるかもしれませんわね。残念ですわ」

「リヒトが寝ているから私が残ろうかと思っているんです。ローザさんお話しませんか?」

「……! いいですわね、お茶を用意させますわ!」


 そこでトワイトがローザに提案を言うと、そっちがいいようで受け入れてくれた。お茶を用意するためいそいそと食堂を出ていくローザを尻目に、ガルフ達へウインクをしていた。


「さすがトワイトさん」

「ママ、空気が読めるからね」

「では今のうちに行きましょうか。陛下、すみませんが出てきます」

「頼んだぞバーリオ」

「こりゃ遅くなるかもしれんのう。ダル達にいいご飯を買って帰ってやらねば」


 ディランが小さく頷きながら家で待つアッシュウルフ達のことを考えていた。


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