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第62話 竜、家族ぐるみの付き合いになる

「謁見を飛ばすことになるとは……」

「王妃様がいいって言ってるからお任せしましょ」


 城内へ入るとヒューシが難しい顔でポツリと呟き、トーニャが背中を叩きながらラッキーだと思おうとあっさり口にする。

 そのままホールの中ほどまで進んだところでローザが立ち止まり、バーリオへ声をかけた。


「ではバーリオ、ひとまずお任せしますわね」

「承知いたしました。陛下に謁見が終わったら食堂へ来るようにお伝えいただけると」

「もちろんですわ。では皆様、後程!」


 ローザは微笑みながら会釈をし、メイドと騎士と一緒に階段を上っていく。

 残された一行はバーリオへ着いていくことになった。


「こちらへ。来客用の食堂……先日のギリアム様も使われた場所ですね」

「あー、あそこか」

「知っておるのか?」

「トーニャの件で呼ばれたんですよ。そこでお酒を飲みすぎて尻尾が出たんです」

「あ、あはは……」

「そういうことじゃったか」


 トーニャに呆れた視線を向けるディランに娘が目を逸らしていた。

 今更だからどっちでもいいと告げて再び歩き出す。

 

「あー」

「うん? これがどうかしたのかしら?」

「ぴよー?」


 その途中、立派なドラゴンの彫像が置かれているのを見て、リヒトが声をあげた。 

 トワイトが尋ねるとリヒトが隣を歩くディランに手を振る。


「うー?」

「む、これはワシじゃないぞリヒト」

「あー♪」

「お父さんだと思ったのね」

「それは昔からある彫像ですな。まさか本物と出会うとは、陛下も思っていなかったでしょう」


 どうもリヒトは変身後の父だと思ったようで別々に姿があることを不思議に感じていたようだった。ディランが頭を撫でると嬉しそうに笑っていた。


「だ、ダメですよディランさん。あんまりそういうこと言ったら」

「む?」

「ははは、今は大丈夫だよ。でも、そうだな……一応、言っておくべきか」


 一度そう告げた後、バーリオはそのまま歩いていき宴会場ともなる来客用の食堂へやってきた。扉を閉めて周囲に誰も居ないことを確認してから夫婦へ話しかけた。


「この国でお二人の正体を知る者はあの時に居合わせたモルゲンロート陛下、それと騎士達。そしてガルフ達のみです。絶対に知られてはいけないということもないのですが、できればバレないようにしていただけると幸いです」

「城の人間くらいは知っておると思ったが、先ほどの王妃殿も知らぬのか」

「ええ」

「どこで噂が広がるか分からないもの、仕方がないわ」

「あーい」

「ぴよっ」


 実際に正体を見た者のみしか知らないということを認識しておいてくれとバーリオが念押しをしてきた。

 もちろん迷惑をかけるようなことはしたくないためドラゴン一家は従うことにする。


「では、座ってお待ち下さい。厨房へ掛け合ってくるので、申し訳ないのですがしばらくお待ちください」

「すまんのう」

「いえ、ご夫婦を外で待たせたと知られたら我々が叱られてしまいます」


 バーリオは肩を竦めて出ていくと、ガルフが一息ついた。


「ふう……流石に城は何度来ても慣れねえな。緊張するぜ」

「まあねー。今日はディランさん達が居たからそうでもなかったけど、宴の日はどうしようかと思ったものね」

「こうやって縁が出来たのはありがたいことだがな」

「貴族を通り越して王族は……出来すぎな気もするけどさ。ダルみたいな動物を可愛がって村で暮すような存在だもん私達って」


 冒険者である自分達がこうしているのはそもそも場違いであるとため息を吐く。

 謁見くらいならまだ他の人間も申請すればできるが、食事に呼ばれるのは末端の貴族相手でもそうはない。

 ヒューシは仕事に繋がるかもしれないからと、汗をかきながら運が良かったという。

 

「いつ、どこでなにが起こるか分からんのが面白いんじゃ。リヒトを拾った時のようにな」

「確かにな。まさかドラゴンと一緒に冒険者をやることになるとは思わなかったけどよ!」

「ふふん、このあたしが引っ張ってあげるわ!」

「頑張ってねトーニャちゃん♪」

「うん!」


 トーニャは胸を突き出して鼻を鳴らし、トワイトが母親らしく労っていた。

 そこでリヒトがげっぷをする。


「けぷ……ふあ……」

「あら、おねむみたいね」

「あー……」

「ぴよ」

「あい……♪」


 おむつを替えてミルクを飲んで落ち着いたのか、リヒトの頭が揺れ出す。

 心配したひよこ達が顔を出してリヒトの頭を支えようと肩に乗って首に寄り掛かった。

 一瞬、ひよこ達の毛が触れたので目を覚ましたがすぐに目を閉じてしまい、トワイトの胸に頭を預けて寝息を立て始めた。


「あらら、寝ちゃった。ご飯を食べる時、私と交代でいいですよ」

「うふふ、ありがとうレイカちゃん。どこかで寝かせられるといいんだけどねえ」

「こけ」

「カバンは入らんわい」

「こけー……」


 ジェニファーが空いてますよと言わんばかりにカバンから顔を出した。しかし当然入るはずもなく、すぐに頭を引っ込めた。


「ジェニファーとひよこ達もダルやルミナスみたいに目印をつけようかなー。トコト」

「ぴ?」


 するとユリがそんなジェニファーを見て目印をつけようかと言う。さらにトコトを呼ぶと、ひょこっと顔を出した。


「名前で呼んだら分かるんだけどぱっと見は全然わからないんだよね」

「ぴよー?」


 名前を呼ばれたのでトコトはテーブルに飛び乗ってユリのところへと歩いて行く。

 ユリは手を伸ばしてトコトを撫でた。


「かわいいかわいい♪」

「ぴよっ♪」

「でも確かにバラバラになると分からないわね。でもひよこは小さいからなにかあるかしら?」

「まあ、後で商店街に行って考えようぜ。俺はリヒトのおもちゃとか買ってやろうかなあ」

「ふふ、お買い物は里でお野菜とかを物々交換をしたくらいだから楽しみね」

「あたしは結構人間の町に来たことがあるから案内するわよママ!」


 話はこの後にする予定であるショッピングのことに変わり、町に宿をとって住んでいるガルフ達が任せてくれと笑っていた。

 しばらく談笑していると、食堂の扉がノックされた。


「お食事をお持ちしました」

「ああ、入ってもらって構わんよ。ありがとう」


 お昼を持って来たメイドが外から声をかけてきた。それをディランが了承すると、扉が開かれて料理の乗ったカートが入って来た。


「では」


 指を鳴らしたメイドの後に、別の給仕をするメイドが散開し、それぞれ料理が配られていく。

 

「これはなんの肉かのう?」

「グレードオックスのステーキでございます。シェフが陛下のご友人ということで腕によりをかけたと申しておりました」

「マジか……」

「いいお肉なのかしら?」

「牛系の魔物だと上から三番目くらいの高級食材ですね……」


 ディランが質問を投げかけるとガルフとヒューシが難しい顔になっていた。食べられなくもない肉だが、依頼何回か分のお金は吹っ飛ぶと震えていた。


「お酒などは……?」

「ワシらはジュースでよいがあるかの?」

「もちろんです」

「あ、じゃあ私達も!」


 トーニャに飲ませるわけにはいかないとレイカが手を上げた。

 フルーツジュースが配られた後、指を鳴らしたメイドが微笑みながら口を開く。


「ごゆっくりどうぞ。陛下と王妃様は後ほど来られるそうです」

「ありがとうございます」

「ふふ、お子さん可愛いですね。ヴァール様が使っていたベッド倉庫にあったかもしれません、探してきます」

「あら、お構いなく♪ 大丈夫ですよ」


 トワイトがそう返すと、メイドはお辞儀をして食堂から出て行く。

 ひとまず食事にし、高いお肉に舌鼓を打ちながら少し遅めの昼食をとった。

 ディランが食べた後、リヒトを受け取ろうとしたが、そこでメイドがベッドを持ってきてくれて一緒に食べるできた。

 そして食事が終わり、食器などを片付けてくれたところでレイカが口を開く。


「お、美味しかった……ていうか陛下達が来られないわね」

「食べるのを待っているのかもしれない。流石に食べているところで入ってこられても困る……」

「それもそっか」


 ヒューシとユリがそんな話をしていると、話の人物である二人がやってきた。


「食事はどうだったかな? まさかこんなに早く再会するとは思わなかったよ」

「まったくじゃ。急な来訪、申し訳ない」

「構いませんよ。先に妻と出会ったのも僥倖だったというか……」


 モルゲンロートが席に着きながら笑い、ローザに目を向けると彼女はトワイトとベッドを囲んでいた。


「あら、ベッドを? メイヤが持って来たのね」

「あの方、メイヤさんと言うのですね。気持ちよく寝ています」

「そうですわね♪」

「ううむ、すっかりリヒト君にやられているなあ。さっきもずっと可愛いと言っていたよ。して、なにか話があって来られたと思うが聞かせてくれるだろうか」


 母親同士、仲良く話しているのはひとまず置いておき、モルゲンロートはディラン達に質問を投げかけるのだった。

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