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第6話 竜、家族が増える

「なになに……」

「あーうー」

「よしよし、大丈夫ですよー」


 赤ちゃんをあやすトワイトをよそに、雨の中、その場でディランが手紙を確認する。

 

「『忌み子として扱われるこの子を殺せと言われたけど、私にはできませんでした。魔物の居る山に捨てるということで納得してもらいましたが、どうか人に見つかってくれますように……この手紙を読んでいる方、もし子が生きていたら育ててもらえると――』」

「……捨て子ですか。可哀想に……」

「きゃっきゃ」


 内容を聞いたトワイトが赤ん坊に頬ずりをすると、大層喜んでいた。

 

「ふうむ、忌み子とはどういうことじゃろうのう」

「知りません! あなた、これもなにかの縁。この子は手紙の主のお願い通りウチで育てます!」

「お、おお……ひよこを貰って来たばかりじゃけど……」

「いいじゃありませんか。どうせやることもそんなにないんですし!」


 自分達で育てようと言い出したトワイトに一応の口を挟むがこうなった彼女を止める手段はない。

 珍しくぷりぷりと怒って詰め寄ってくる妻に冷や汗をかきながら、ディランは両手で抑えつつ口を開いた。


「ひとまず家へ帰ろうではないか。赤ん坊が風邪を引いてしまうわい。人間は弱いからのう」

「そうですね! 暖かいところへいこうねー」

「あうー」


 トワイトは背中から羽を出し、それを傘の代わりにして自宅へと歩き出す。

 とんでもない拾い物だったが、トワイトが嬉しそうなのでディランはまあいいかと後を追う。

 自宅へ入るとニワトリたちが出迎えてくれた。


「こけー!」

「ぴよー!」

「ちょっと待っててね、この子を寝かさないと」

「ぴ?」


 早速トワイトに構ってもらおうと集まって来たが、今はそれどころではないとソファの上に赤ん坊の入った籠を置いた。


「あーうー」

「ぴよっ」

「きゃきゃ♪」

「あら、遊んでくれるの?」


 興味をもったひよこ達がソファに飛び乗り、籠にダイブして赤ん坊のお腹に乗ったり、頬に身体をすり寄せていた。

 ふわふわした毛がいいのか、赤ん坊はひよこ達にご機嫌の様子である。


「こけ」

「お前はでかいから駄目じゃ」

「こっけー!」

「突いてもダメじゃて」


 ニワトリのジェニファーが自分もと籠に入ろうとしていたのでそれはディランが抱きかかえて止めた。怒りのくちばしを繰り出すがドラゴンの皮膚に効くはずもなく、しばらくすると大人しくなった。

 

「ミルクを持って来たわ。人間の子は育てたことがないからこれで大丈夫かしら……」

「まあ、牛の乳なら人間も飲んでおるしのう」

「ぴい!」

「うふふ、取りあげるわけじゃないから心配しないでね」


 トワイトが抱っこしてあげるとひよこ達が『どうするの!』といった感じで騒ぎ出した。

 優しく言い聞かせてやりながら赤ん坊を抱っこしてソファに座り直すと、興味津々といった感じでひよこ達が集まって来た。


「今日からこの子もあなた達の家族になるからよろしくね」

「「「ぴよっ」」」

「ふぉっふぉ、仲が良い奴等じゃ」


 トワイトがひよこへ赤ん坊のことを伝えると、三羽はびしっと並んで威勢よく鳴いた。それを見ていたディランは思わず噴き出していた。

 

「それにしても本当に可哀想に……手紙の主は母親ね、きっと。なにがあったか分からないけど悔しい思いをしていたと思うわ」

「こけー」

「ふふ、ジェニファーも『わかる』って言ってるわね。あ、元気に飲んでいるわ、良かったですね」

「そういや雌鶏じゃったっけ。まあ、死んでくれた方がいいと思われている人間の子じゃから育てるのは構わんじゃろう」

「ええ。これから大変になりますよあなた! 名前をつけて上げないといけないわね」


 ミルクを元気よく飲んでいく赤ん坊に目を細めて微笑むトワイトが名前をつけると言う。


「となると、男の子か女の子か確認せねばならんのう」

「多分、男の子ですよ。あ、もういいのね」

「うー。げふ」


 赤ん坊がミルクを嫌がったので食事は終わりだとトワイトが言い、抱きかかえて背中をトントンするとげっぷをする。


「あなた、お布団を」

「お、おう」


 そのままうとうとし始めたので彼女は柔らかい布団を持ってきてと頼む。ディランが慌てて持ってくるとソファに敷いて赤ん坊をそっと寝かせた。

 静かにその場を離れて二人はテーブルに着く。


「赤ちゃん用のベッドが必要ですね」

「ならさくっとワシが作るわい。どうせこの雨だと出かけられん。裏の洞窟で作業をするぞ」


 こうなったらちゃんと育てないといかんとディランも乗り気で力こぶを見せる。トワイト微笑みながら頷いて答えた。


「お願いしますね。私はおむつやお着替えを作りましょうか」

「うむ。結構いい素材の服を着ているようじゃが、貴族というやつだったのかのう」

「……かもしれませんね。生まれてきて良かったと思えるようにしてあげたいです」

「ふふ、お前は本当に子供が好きじゃのう」

「もう一人くらい欲しかったですからね」


 子供は二人とも文字通り巣立ったため、後は余生を過ごすだけだった。そこで人間とはいえ子を授かったトワイトは目的が出来て嬉しそうに笑う。

 

「今日は寝る時、私が一緒に寝て上げますね。あのままだとソファから落ちそうですし。……あら」

「ふむ、大丈夫かもしれんのう」

「こけー……」

「すぴー」

「ぴよー……」

「ぴよぴよー……」


 動くと落ちると思っていたトワイトだが、赤ん坊に視線を合わせるとニワトリのジェニファーが支えになっていた。ひよこ達もそれぞれ赤ん坊の傍に寄り添い、みんなで眠っていた。


「これから楽しみですね♪」

「まあ、落ちんようにしっかり見てやろう。ベッド、今から作ろうかのう」

「なら早いですけどお昼にしましょうか。その後、お互い作業を」

「うむ」


 二人は顔を見合わせて笑い、赤ん坊の様子を見ながらお昼をとることにするのだった。

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