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第57話 竜、赤ちゃんに翻弄される

「あーい♪」

「ぴよー♪」

「ぴよぴー♪」

「ぴー♪」

「おすわりも出来るようになったわね♪」


 モルゲンロート達が帰った後、お祝いをするためディラン達は村へと向かった。

 その間、自宅にトワイトとトーニャが残り片づけなどを進めていた。

 ひとまずトワイトはリヒトをトーニャとジェニファー、ひよこ達に任せて宿の片づけに行っている。

 寝返りが出来るようになったリヒトは気づけばトーニャの膝でおすわりもできるようになっていた。

 ひよこ達はリヒトの肩に乗ったり、ひざに飛び移ったりとせわしなく動く。だが、リヒトはそれが楽しいようでずっと笑顔を見せている。

 

「あーい♪」

「ぴーよ♪」


 そこでリヒトが顔を上にあげて、手に持ったソオンを差し出す。


「なに? あたしにくれるの? んふふー可愛いー♪ ちゅー」

「きゃっきゃ♪」


 リヒトからソオンを受け取り、肩に載せた。

 リヒトにはおでこにキスをしてやりくすぐったそうにしている。


「ぴよっ!」

「え? あんたもちゅーして欲しいの? んー」

「ぴよー♪」


 それを見ていたひよこ達が『自分にも』とリヒトの頭によじ登って鳴いた。

 困惑しながらもトーニャが一羽ずつキスをしてあげると、嬉しそうに声をあげる。


「こけー」

「ええー……」


 さらにジェニファーも羽を広げて自己主張をする。トーニャが呆れ笑いをしながらとさかにキスをしてあげた。


「こけー♪」

「あーい♪」


 なにかが通じ合ったようで、ジェニファーがリヒトの前に行くと、リヒトはジェニファーをぎゅっと抱きしめた。

 その様子にトーニャはニヤニヤと目を細める。


「赤ちゃんと動物って可愛すぎてずるいわねえ」


 リヒトはひよこを大事そうにポケットに入れ、ジェニファーの背中を撫でる。

 そんな彼を撫でるトーニャ。

 しばらく好きに遊ばせていると、外からトワイトの声が聞こえて来た。


「トーニャちゃん、ちょっと来てくれるかしらー?」

「ママ? はーい!」

「うー?」

「あ、ごめんね。すぐ戻ってくるから」

「あー♪」


 トーニャはソファを背にしてリヒトを座らせてから立ち上がり、頭を撫でてから外へと出た。

 一人残されたリヒトはジェニファーを撫でたりひよこをポケットから出すなどして遊ぶ。


「きゃー♪」

「こけー♪」

「ぴよー♪」


 楽しくなりすぎて興奮気味になったリヒトが腕をバタバタさせた。その直後、おすわりしていた体勢からころりと転がってしまい寝転がった。


「ぴよー?」

「うー?」


 目線がひよこと合い、お互い首を傾げてポツリと呟く。だが、すぐにリヒトは笑顔になり手足をバタバタとさせた。


「あはははは!」

「ぴよぴよぴよー!」


 ひよこ達もぴょんぴょん飛び跳ねながらぴよぴよする。だが、そこでまずいことが起きてしまう。


「あうー?」

「こけ!?」


 リヒトがソファから落ちそうになったのだ。

 驚いたのはジェニファーで、クッションになろうとリヒトの下へと潜り込む。


「こけっ!」

「あーい♪」

「ぴよー!」


 赤ちゃんとはいえ重量はそれなりにあるのでニワトリでは潰れてしまう。しかしそこは眷属となったジェニファー。

 力を入れてリヒトをやんわり受け止めることができた。

 そのまま床に転がると、笑いながらジェニファーに抱き着く。

 ホッとしたジェニファーの前に、ひよこ達も飛び降りて来る。ソファには戻せないのでこのまま下で遊ぶと考えていたジェニファーだが、まさかの事態になる。


「ぴよー!」

「ぴよぴ!」

「あー? うー♪」

「こけ!?」


 ひよこ達が少し離れたところに移動してぴょぴよしていると、リヒトが自分の手を床について移動しだしたのだ。

 いわゆるハイハイで、ゆっくりだが確実に一歩ずつ進む。


「ぴよ♪」

「あー♪」


 レイタが並走しながら可愛く鳴いた。

 ジェニファーはあんぐりと口を開けて見ていたのだが、先にあるものを見てまた慌てだす。


「こ、こけ!?」


 その先には暖炉があり、今も薪が燃えている。

 ディランがひよこ達のために網のように隙間の小さい柵を備えているが、熱を持つので触ってしまうと火傷をしてしまう。


「うー?」

「こけー!」


 そこでジェニファーは移動するリヒトの足をくちばしで引っ張る。少なくともこれで注意が引けると力いっぱい引く。

 

「ぴよ?」

「ぴよぴー♪」

「ぴよー♪」


 ひよこ達は新しい遊びだと思い、ジェニファーの真似をしてリヒトの足をくちばしで掴んで引っ張り出した。


「あーい♪」


 リヒトの注意がジェニファー達に変わりひとまず安心するが――


◆ ◇ ◆


「どしたのママ?」

「ちょっとこれを自宅に……って、リヒトはどうしたの?」


 宿のある場所に行くと、自宅にキッチン周りの道具を持ってほしいと、トワイトが言う。しかし、手ぶらで来たためリヒトはどうしたのかと聞く。


「え? ソファに置いてきたけど?」

「……!?」

「ぶへ!?」


 あっけらかんとした顔でリヒトを家に置いてきたと言うトーニャに、トワイトのチョップが炸裂し、うめき声を上げた。


「まだリヒトは1歳にならない赤ちゃんなんですよ! ソファから落ちて頭を打ったりするかもしれないわ! 暖炉だってあるし、椅子にぶつかって倒れて来て潰されるかも……ああ、戻らないと!」

「いったぁ……ご、ごめんなさい……。あ、待ってよママ!」


 青い顔で、疾風のようにその場から移動するトワイト。トーニャは調理器具を持ってその後を追う。


「リヒト!」

「あれ、居ない……?!」


 玄関を開けたところがリビングだが、そこにリヒトの姿は無かった。ソファにおらず、リヒトは動けるはずがないと思っていたトーニャがここで初めて焦りを見せた。


「トーニャは寝室を。私はキッチンに行きますっ!」

「う、うん! リヒト、どこー! 嘘でしょ……」


 目を離したのはほんの数分。

 玄関を出て、トワイトにチョップを食らってここに戻ってくるまでの間だ。

 しかしトーニャは分かっていなかった。子供というのは気づけば振り返った程度で視界から消えるということを。


「外には出られないだろうから家の中に居るのは間違いない……暖炉は柵があるから大丈夫か。奥はどうかしら」


 トーニャは寝室をくまなく探し、ベッドの下を覗き込むなどしっかり探す。奥の倉庫も開けて確認するがさすがにここには入ってこれないかとすぐに閉めた。


「居ないわ……!」

「リビングから移動できないのになんで!?」


 キッチンから出て来たトワイトが半泣きでトーニャの肩を掴んで揺らす。

 アッシュウルフ達の出入り口はまだ作っていないため外に出ることは出来ないはず。

 そう思っていたが、トーニャは一つ気になることがあった。


「そういえばニワトリとひよこも居ない……」

「本当だわ……まさか……!」


 そこでトワイトは外に駆け出す。

 トーニャも後に着いて行くと、そこはニワトリ小屋だった。


「ここ? でも外には出られないんじゃ?」

「家からジェニファー達が通れる穴があるのよ。リヒトはまだそれほど大きくないしもしかしたら通ったのかも……」

「……」


 家にはもう隠れる場所が無いため確かにそれはあるかと頷く。

 鍵を開けて中に入ると、そこには――


「あー♪」

「こけ、こけー!?」

「ぴよー♪」

「ぴよぴー♪」

「ぴー!」


 ――予測通り、リヒトが居た。


 藁の中心でお座りをし、藁を投げたりして遊んでいた。寝床は別にあるが、荒らされ始めたことにジェニファーが困惑する。

 ひよこ達は楽しそうにパタパタと走り回る。


「リヒト!」

「うー? あーい♪」

「ふう……元気そうね」


 トワイトが駆け寄って抱っこすると、リヒトはトワイトの胸に顔をうずめた。

 トーニャは汗を拭うが、不意に出されたトワイトの尻尾で尻を叩かれた。


「あいた!?」

「もう! リヒトが泥だらけになってしまいましたよ! 私はお風呂に入れるから、トーニャちゃんは代わりにお片付けをしなさい」

「むう、はぁい」


 確かに目を離したのは自分だしと、トーニャは渋々返事をする。するとリヒトはトーニャに手を伸ばす。


「あーう」

「どうしたのリヒト?」

「あら、いいわねトーニャちゃん♪」


 リヒトはトーニャの頬を撫でていた。怒っている顔に見えたのかもしれない。


「はあ、まったく急にできた弟は大変ねえ」

「うふふ、可愛いからいいじゃないの」


 トーニャは笑いながらリヒトの頭に手を乗せ、トワイトは顔を綻ばせるのだった。

 一番強いのはリヒトだったりするのかもしれない。

 

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