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第51話 竜、穏やかな一日がスタートしない

「こけっこっこー」

「ぴよぴっよー!」

「ぴよぴー!」

「ぴよー!」


 モルゲンロートやガルフ達が出発したころ、ジェニファーが起きた。

 ひよこ達もすでに起きており、ジェニファーの真似をする。

 だが、基本的に鳴くのは雄なので、雌のジェニファーとトコトが鳴くのはちょっと違うのだが。

 それはともかくその鳴き声でアッシュウルフ達も目をパチリと開けて玄関の前でお座りをしていた。


「うぉふ」

「あーう!」

「む、散歩がしたいのか? 婆さん、リヒトを連れて、ヤクト達と少し出てくるわい」

「分かりました。ご飯とミルクは作っておきますからゆっくり行ってらして。あ、お布団を干してきてくださいな」

「ああ。飯を食ったら村へ行くかのう」


 リヒトをベッドから抱え上げてリビングに来たディランがアッシュウルフ達を見て散歩かと頷いた。

 それをキッチンへ行こうとしたトワイトに告げると微笑みながら食事は作ると言って送り出してくれる。

 ついでにお布団を干して欲しいとお願いされたので、寝室へ戻ってから布団を回収し、籠に入れた。


「おお、いい天気じゃなリヒト」

「あー♪」

「わん!」


 外に出ると雲が少なく、山の端から太陽が昇ってくるのが見えた。

 アッシュウルフ達は背伸びをして身体を振るわせる。

 そこでジェニファーやひよこ達も小屋から出てきた。


「こけー!」

「なんじゃお前達も行くのか?」

「あー♪」

「ぴよー」


 ひよこ達はリヒトのところへ行くと言っているようにディランの足をくちばしでつつく。歩いた方が鍛えられると思いつつも、ディランはひよこ三羽を胸ポケットに入れてやった。


「うぉふうぉふ」

「先を歩いてくれるのか。任せるぞい」

「あーう♪」


 ご主人にいいところを見せようとヤクトが張り切って前に出た。そこへルミナスも並んでいく。


「わほぉん……」

「お主はマイペースじゃのう」


 しかしダルだけはブレずにディランの足元に付き添って並んでいた。いつも寝そべっているが散歩はきちんと出るあたり、怠けているだけではないようである。


「さて、頂上まで軽く行くかのう。リヒト、しっかり掴まっておるのじゃ」

「きゃー♪」

「髭を握ってはいかんぞ」


 相変わらずディランの髭が好きなようで、顎髭が引っ張られていた。怒ることはせず、シャツの襟を掴むように手を添えてやった。


「ぴよー?」

「抱っこしている間はワシも手がふさがる。落ちたくなければ動くんじゃないぞい」

「ぴ」


 ディランの言葉に、三羽は顔だけ覗かせて返事をする。そのまま山頂を目指し歩いて行く。


「わんわん!」

「うぉふ!」

「グリーンワームか。婆さんがなにか作るときの素材になるから狩っておこう」

「あーう!」

「ぴよっ!」


 途中、魔物と出くわしアッシュウルフ達と連携して狩りも行う。布団を干すまで荷物になるため、一旦その辺に置いておき山頂を目指す。

 軽やかに前を進むヤクトとルミナスが魔物の意識を散らし、ディランが接敵して一撃で葬る。

 ディランだけでも良いが、リヒトを抱っこしているため自分に向かって来ないよう、アッシュウルフ達が気を引いてくれる方が助かるのだ。

 ヤクトやルミナスの活躍にリヒトとひよこが讃えていた。

 そんな調子でさくさく登っていき、頂上へ到着すると、籠を降ろして布団を片腕で干していく。


「今日はほっこりした布団で寝れそうじゃな」

「あーい♪」

「わほぉん」


 雲の上もよく照っており、リヒトを日差しから守りながらディランが言う。

 すると足元に居たダルがフラフラと物干し竿の近くに歩いて行き、寝そべった。


「ダル、日向ぼっこをしたいのはわかるが、少ししたら戻るぞ」

「わほぉん……」

「うぉふ」

「わん」


 情けない声を上げるダルに、ヤクトとルミナスが肉球で背中をぺしぺしと叩いていた。

 まあ、少しだけならと岩陰に腰を下ろしてリヒト頭を撫でる。


「自分の足でここまで歩けるようになるのが楽しみじゃな。そういえば空気が薄いが平気なのか?」

「あー?」

「こけ?」


 そこで山の空気は薄いことを思い出してリヒトの顔を覗き込む。リヒトは父の顔を見て首を傾げていた。ジェニファーも真似をして首を傾げる。


「まあ、大丈夫ならええんじゃが、少し気をつけねばならんのう」


 ドラゴンと人間は違うため、自分達や、自分の子供が平気だったとしても人間には過酷な環境というのはよくあることだ。

 今までそこを考慮していなかったことを反省した。


「婆さんにも伝えておかねばな。可愛がっておるが故に見落とすこともある」

「うー?」

「ぴよー?」


 首が座れば赤ちゃんは一気に動き回るようになるため、気をつけねばと呟く。

 十五分ほど休憩したあと、ディランが立ち上がりアッシュウルフ達を呼ぶ。


「おーい、帰るぞ」

「わん!」

「うぉふ!」

「……」

「あー?」


 声をかけるとすぐにルミナスとヤクトがやってきた。しかし、ダルの返事は無かった。不思議がるリヒトと共に見に行くと、ダルは鼻ちょうちんを出して寝ていた。


「すぐ寝るのうこやつは。まあ、籠になにも入っていないし入れていくか」

「こけー」


 ディランはダルを籠に入れると、そのまま籠を背負って下山を始めた。

 気持ちよさそうに寝ているダルに、ヤクトとルミナスが『ずるい』といった感じでわふわふしていた。

 帰りにグリーンワームを回収してそのまま家路へと着いた。


「おかえりなさい」

「わん」

「あー!」

「ふう、いい天気じゃ」

「あら、ダルは寝ているんですか? ちょっとご飯を取ってきますね」

「うむ。リヒト、少しソファで寝ておってくれ。ダルを使うか」

「あう」


 家に入るとエプロンをつけたトワイトが出迎えてくれ、一旦リヒトとダルをソファに寝かせて手を洗いに行くディラン。落ちないようにダルを支えにした形だ。


「あなた達もご飯ですよ」

「うぉふ♪」

「こけー♪」


 トワイトが水と餌を持ってリビングに置くと、リヒトを抱き上げて椅子に座り、ミルクを飲ませる。


「んぐ……んぐ……」

「今日も元気でいいわねリヒト♪」

「そろそろ首も座るころじゃろう。さっき山頂でハッとしたのだが、リヒトは人間じゃ。ワシらの常識ではリヒトが死んでしまうかもしれん。注意せねばと」

「あ、確かにそうですね。可愛いだけじゃいけませんね」


 ディランが先に食事を済ますため箸を持ちながらトワイトへ告げる。彼女も確かにと同意した。


「一層注意しましょう。あなたたちもお願いね」

「こけ!」

「「「ぴよ!」」」


 ジェニファーやひよこ、ヤクトとルミナスが返事をした。ダルは相変わらずである。


 そんな調子で一日が始まる……かと思っていたが、ゆっくりと食休みを取り、出かける準備をしている時にそれは起きた。


「……! わほぉん」

「ダル、どうした?」

「わほぉん、わほぉん!」

「開けるからちょっと待っておれ。ふむ、狼達の出入り口も作るべきか。侵入者対策をしっかりして……」


 ソファでだらけていたダルが急に起き上がり、玄関をかりかりと引っ掻き出した。

 鐘は鳴っていないがなにか来たのだろうかとディランが玄関を開けると、そこにガルフ達が居て鐘を鳴らすところだった。


「わほぉん」

「あー! ダルー! 元気だった?」


 ダルが走って行き、ユリの下へ行くとお座りをして撫でられていた。ディランもすぐに話しかける。


「おや、ガルフではないか」

「お! ディランのおっちゃんおはよう!」

「うむ。今日はどうした? 採集か狩りか? ただ、ちと村へ行かねばならんから、待っていてもらうことになるぞい」

「あー、申し訳ない。少し話したい事があってな。時間を貰えないだろうか」

「なんとモルゲンロート殿もおるのか」

「ディラン……?」


 ガルフに事情を説明していたが、そこへモルゲンロートも現れディランは目を見開く。朝から大勢でどうしたのかと思っていると、トワイトも家から出てきた。


「あら、皆さんお揃いですね! おはようございます!」

「あ、トワイトさんおはようございます! 実はちょっと事情があって――」

「トワイト……! まさか!」

「あ、トーニャ!」

「「ん?」」


 トワイトの挨拶にレイカが返していると、その後ろからトーニャが飛び出して来た。『トーニャ』という言葉に夫婦が反応した瞬間、目の前にそのトーニャが立つ。


「やっぱりパパとママだ!!」

「「「「え!?」」」」

「トーニャではないか……!?」

「あらあら、トーニャちゃんが一緒にいるなんてどうしたのかしら?」

「あー?」


 ディランは驚き、トワイトは頬に手を当てて目をぱちくりしていた。

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