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第49話 竜、隠される

「うふふ、気持ちいい~♪」

「口から火が出た!? トーニャ、ストップ!」

「あ、尻尾でパンツが破れてる!?」


 ガルフ達は食事の席で大変なことになっていた。お酒を飲んだトーニャが暴走し、小さい火を吐きながら飲み続けているからだ。

 レイカとユリがお酒を取り上げて摑まえるが、まだ知らないとは言え、ドラゴンを止めるのは至難の業であった。


「あの、騒がしいですがどうかなさいましたか?」


 その時、騒ぎを聞きつけて来たメイドが扉の向こうから声をかけて来た。


「ひゃい!? だ、大丈夫です!」

「そうですか? 部屋を汚さないようにご注意くださいね」


 珍しくヒューシが変な声を上げて返事をすると、訝し気な声で注意された。

 ひとまず安心かと思ったが、ヒューシはひとつあることを思いついたので扉から顔だけ出す。


「あの! たっぷりの水とタオルをお願いできますか!」

「え? ええ、もちろん構いませんがまさかゲ――」

「じゃないです! ちょっと楽しんでお酒を飲みすぎた仲間に水をあげて落ち着かせようと思いまして」

「お酒の飲みすぎ……やはりゲ」

「大丈夫です! 早くお願いしますね!」


 訝しむメイドの言葉を遮り、ヒューシは扉を閉めた。彼が汗をぬぐっていると、背中に重みがかった。


「ヒューシ、なにひてるのー♪」

「うお!? こら、乗っかるんじゃない!」

「いいじゃないー、うへへへ! ちゅー!」

「おっさんみたいになったわ……」

「剝がしてくれ……!」

「はいはい、トーニャちゃんこっちよー」

「ユリ―♪」


 あっちへ行けばこっちへ行く。

 自由なトーニャをユリが呼んで抱きしめ合う。それを見ていたレイカが腕組みをして口を開く。

 

「トーニャにお酒を飲ませちゃダメね……というか、尻尾……リザードマンとかかしら?」

「それだと男だからリザードレディとかじゃね?」

「どっちでもいいだろ……! というかギリアム様はピンクのドラゴンを見たと言っていた。もしかしてトーニャはドラゴンなんじゃないか?」

「あー! そうかも!」


 ユリと飛び跳ねて遊んでいるトーニャの尻尾がびたんびたんと床を叩く。髪の毛ほど色は濃くないがピンクであることは確かだった。


「とりあえず落ち着せてからバーリオ様に伝達だな。そのあと陛下に指示を仰ごう」

「だな」

「お水とタオルをお持ちしました」

「ありがとうございます」


 そこでメイドさんが所望したものを持ってきてくれ、ヒューシが対応した。

 『もしゲロならお手伝いしますよ』と打診してくれたが、やんわりと断った。


「ほら、水だトーニャ」

「んー? ……ごくごく、ぷはー! もう一杯! ぐう……」

「おっと。笑いながら寝ちゃった」


 倒れ込んだトーニャをユリが支え、そんなことを言う。

 しかしその通りで、彼女はびっくりするほど幸せそうな顔で寝入っていた。


「なんて騒がしい奴なんだ……」

「まあ、暴れたりしないからまだマシだ。さて、それじゃ俺がバーリオ様に話をしてくるよ。しばらく起きないだろうけど、運ぶときに尻尾が見えないように気をつけよう」

「うん」


 ガルフが注意深く廊下に首を出して誰も居ないことを確認してから、レイカ達へトーニャの尻尾を隠す手段を考えておいてくれと頼んでいた。

 そのままメイドさん経由でバーリオを呼んでもらい、部屋に来てもらった。


「……これは……」

「どうもこの子、ドラゴンっぽいんですよ。ピンク色のドラゴンなんじゃないかって考えています」

「そうだな。これは緊急事態……だが、ギリアム様が居る間は外に出ない方がいいだろう。すまないが、明日まで城に居てくれ」

「わかりました。とりあえず着替えたいんですけど……」


 バーリオはドラゴンをギリアムの前へ出すわけにはいかないと部屋で待機を命じていた。

 移動の際、トーニャの下半身をマントで隠すことにした。理由はドレスが破れたといったものでいいだろうと告げた。


「着替えはトーニャを部屋に連れて行ったあと、レイカかユリが取りに行ってくれ。その時はメイドを寄越す」

「ありがとうございます!」

「よし、ギリアム様達はまだ宴の最中が、急ごう」


 部屋まで遠くないので、バーリオを先頭に注意深く廊下を進んでいく。トーニャはレイカが背負い、ユリがマントでスカートを隠している。

 その両脇はガルフとヒューシという布陣なので、圧が凄い。


「バーリオ様、どうされましたか?」


 そこで料理を運んできた人とは別のメイドと鉢合う。一瞬怯むガルフだが、バーリオは特に気にした風もなく答えた。


「すまない、冒険者達の食事は終わりだ。一人酔いつぶれてしまってな」

「うふふ、パパ大好き……」

「この子、両親を亡くしているらしくて。いい夢を見ているみたいだから起こさないようお願いしますね」

「まあ、そうなのですね……では、ごゆっくりお休みください」


 メイドは礼をして道を開けてくれた。

 ヒューシは眼鏡をくいっと上げながら通り過ぎ、角を曲がったところで口を開く。


「バーリオ様、流石です。怯みもしないとは」

「戦いとは違う緊張を味わったがな」

「とはいってもトーニャを運んでいるだけなんだけどね……」


 凄くカッコいいやり取りに見えるが、実際にはトーニャを運んでいるだけである。

 ただ、彼女はドラゴンの可能性があるので最重要と言うのは間違いないのだが。

 そんな調子で無事部屋まで辿り着き、即座にベッドへ寝かせるとレイカとユリはバーリオと共に着替えを取りに更衣室へと向かった。


「全員分ね」

「うん。カバンとかは鍵をかけた宿の部屋に置いてきたし、もうないはずよ」

「それじゃ、送ってから私は陛下のところへ戻るよ」


 そう言って再び部屋を目指して歩き出す。トーニャが居ないので幾分楽な道中だが、そこで予想外の人物に出会った。


「ん? おや、さっきの冒険者じゃないか。バーリオも居るのか」

「ギリアム様。どちらへ?」

「ご、御機嫌よう……」


 それはギリアムだった。

 お付きの騎士を連れてフラフラと廊下を歩いているところに出くわす。

 バーリオが尋ねると、ギリアムは親指で後ろを指して言う。


「お手洗いってやつよ。というかおいおい、隅に置けないなあ女の子二人とどこへ行くんだ?」

「はは、彼等はもうお開きということで着替えを取りに行っていたのですよ。男性二人は一人酔いつぶれてしまった者を介抱しております」


 いやらしく笑うギリアムへ、バーリオは大人の対応で躱す。

 粗相があってはまずいと、レイカとユリは黙って頷くのみだった。


「ふん、面白くない。お嬢さん、俺の部屋に来るかい? 金は弾むぞ」

「奥様に叱られますよ。この二人は陛下にも覚えがいいので下手なことはしない方がよろしいかと」

「ったく、硬いよなあ。はいはい、帰るよ。じゃあな」

「それでは」


 三人が礼をしている間をすり抜けていくギリアム。完全に通り抜けた後、移動を始める。すると、背後に居るギリアムがふと声をかけてきた。


「そういえばドラゴンの仇って言っているお嬢さんはいつくらいに襲われたんだ?」

「私は知らぬことです」

「そっちの二人は?」

「えっと、最近一緒になったのでそこまでは……それがどうかなさいましたか?」

「いや、仇を取れるといいなと思ってな。モルゲンロートにどやされそうだ、早いとこ戻ろう」


 ギリアムは止めて悪かったと言ってギリアムは片手を上げて立ち去っていき、騎士達も無言だが一礼をして着いていった。


「なんだったのかしら?」

「さあ? とりあえず着替えましょ」


 部屋の近くまで急いでいくとバーリオが立ち止まって周囲を確認する。


「もう部屋は近い。私は陛下のところへ行くとしよう。後で陛下を連れていくのでよろしくな」

「あ、はい! ……というか私達、陛下に会い過ぎじゃない……?」

「ま、まあ、こっちから会いに行っているわけじゃないしさ」


 去っていくバーリオを見ながらレイカが眉を顰めて言う。ユリはそう思っているが、会いに行っているわけでもないから仕方ないと肩を竦めていた。


◆ ◇ ◆


「ふむ」

「ギリアム様?」

「どうされましたか?」


 モルゲンロートのところへ戻っているギリアムは、鼻を鳴らす。騎士達が首を傾げていた。


「あのパーティ、なにかあるなって。親の仇を討つにしてはあの嬢ちゃん、若い気がするんだ。何年前にそれがあったのか? どの国で? ってな。まあ、会うこともないだろうけど、ちょっと怪しいと思ったんだ」

「なるほど……」

「流石は陛下。慧眼をお持ちで。陛下の見たドラゴンと仇のドラゴンは知り合いかもしれませんね」

「ドラゴンなんてお目にかかれないからなあ。残念だ。だけどモルゲンロートはなにかを知っている……と思うんだよなあ」


 ギリアムはそういって手を広げて苦笑する。

 当たらずとも遠からず……ギリアムは勝負は明日以降かと目を細めるのだった。


◆ ◇ ◆


 一方そのころ――


「あー♪」

「わん」

「あーい」

「わん」

「ほう、お手をしておるのか。リヒト、やるのう」


 ――ディラン達はくつろいでいた。


「ルミナスが遊んでくれるんですよ♪」

「ヤクトはどうした?」

「ひよこの寝床になっていますよ」


 トワイトが視線を向けると、ソファの上に寝そべっており、頭の上にひよこが乗って寝ていた。ヤクトも仕方なく眼を閉じて寝ているようだ。


「夜も更けてきたからのう。巣に連れていくか」

「うぉふ」

「なんじゃ、そのままでいいのか」

「うぉふ」


 起こさないでいいといった感じで鳴き、また目を閉じた。それならとディランは肩を竦めて、トワイトの膝に乗っているリヒトのところへ戻るのだった。

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